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【巻頭言】 |
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コンピテンシーの均衡を破る
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鈴木 康司 |
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江田 郁代 |
我々コンサルタントは、企業において昇格や昇進時の審査のお手伝いをさせていただく機会も多いのだが、ここ数年、限られた時間内でのインタビューを通じてその人の行動を聞いただけでも、その他の場面におけるその人の行動がだいたい想像がついてしまうようなタイプの社員が増えてきたように感じている。すべてにおいてオーソドックスで、小粒な優等生とでもいおうか。没個性的であり、その人ならでは、といえる特徴がはっきり見えず、物足りなさを感じさせる人材とも言い換えることができよう。一言で言うならば、現状の範囲内で均衡している(小さくまとまっている)人材ともいえる。
確かに、上司から見れば、使いやすく、安心感のあるいい社員といえるのだろうが、個人の成長を考えた場合、果たしてそれがよいことといえるかどうか。
このような人材の小粒化現象は、「成果主義」の失敗等の事例が現れてきた、まさにこの数年に、顕著になってきたように思う。なぜ、このような現象が起こってきたのだろうか。
一つの理由としては、「メリハリだけをつけようとする成果主義」の導入による弊害が挙げられる。長期的な視点のない成果主義が導入された企業において、社員は、「実力に見合ったメリハリある処遇」という名の下に、絶え間なく心理的ムチを振るわれている状況にあるのではないか。そこではわずかな失敗が命取りとなる(あるいは、命取りとなると思われている)ため、社員は失敗を恐れて自己の行動を規制し、やりたいことを諦め、ひたすら確実で安全な方法を追い求めざるを得ない。また別のケースとしては、方針が見えない中において、自由と自己責任の名の下に、「自由」が与えられたものの、結局のところ、進むべき方向が見えないため、挑戦を避け、「無難な道」を選択してしまっていることもあるのかもしれない。
もう一つの理由としては、「コンピテンシーのモデル化」を通じての、行動の規制が考えられるのではなかろうか。職種・職務ごとに期待されるコンピテンシーを明確化し、社員の育成につなげていこうとするあまり、結果として、社員の自由な行動を規制することになってしまった。その帰結として、ステレオタイプの行動しか取ろうとしない、「小粒人材」が増産されているのかもしれない。
そこで、本稿では、いかにして人材の小粒化(低い次元での均衡状態)を防ぎ、真の意味での個人の成長を促進するか、という点をコンピテンシーの観点から考察する。同時に、企業がそこにどのように関与していくべきかのヒントも提示したいと思う。
小粒人材は、コンピテンシーの視点で見れば、「そこそこの人」といえよう。過去の経験を活かして、与えられたミッションを粘り強く完遂する、担当業務の範囲内で改善、あるいは、業務の効率化を自分なりに考えながら進めているような人である。総じて、一定の成果を達成しているため、上司の受けはよいものと想像される。しかし、この「そこそこの人」は、実は食わせ者で、「そこそこどまり」になる可能性が高い人でもある。つまり、このようなタイプは、過去の小さな成功体験という範囲の中で、コンピテンシーの均衡状態に陥っているので、このまま放置すると、そこに安住してしまい次のステップに進めなくなる危険性がある。
| 図1/コンピテンシーの均衡の突破 |
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ここで必要なことは、個人に対して、明確な“気づき”を与えることではなかろうか。気づきといっても、弱い部分を指摘するのではなく、自分自身の「強み」に関する気づきが重要になってくる。
本来、コンピテンシーの視点は、「多様性の重視」であり、各人の強みを見いだし、それを伸ばしていこうというものである。コンピテンシーのモデル化をいくら精緻に行っても、「強み」に関する気づきを与えることはできないであろう。
「強みを見いだし、それを伸ばしていこう」というと、「すべての部下の強みを活かせるような仕事が自分の部署にあるとは限らない」という反発もあるかもしれない。しかし、これまでの考え方は、どちらかというと、あくまでも「仕事」がまず先にあって、それに対する社員個々人の弱みを指摘し、それを改善させようとする傾向が強かったのではなかろうか。弱みにばかり固執し、その改善ばかりに注力しても、マイナスをゼロにすることはできても、その労力にふさわしい効果が期待できるとは一般的には言い難い。
強みを活かし、伸ばすには、パラダイムの転換が必要になる。それは、「仕事に人を合わせる」発想から、「人に仕事を合わせる」発想への転換である。
つまり、今の部署のまま、現在の担当業務のままであっても、強みを活かすことは十分可能なのである。すなわち、担当業務のプロセスを担当者の強みに合わせ、ガラッと組み直せばいいのである。もちろん、これを全社規模で行い、個々人の強みに最もマッチした場を与えていくような仕組みを作ることができれば、より効果的であることは言うまでもない。
そして、まずは、強みを活かしながら、成功体験を積ませ、現状の均衡状態からブレークスルーすることが、小粒人材からの脱却のポイントになるのではないか。
さて、「そこそこの人」が“気づき”によって第一の均衡状態を抜け出し、自分自身の明確なコア・コンピテンシー(強み)を形成できたとしよう。企業の一般的なケースでいえば、このあたりが管理職へ昇格できるか否かの分かれ目になるともいえる。しかし、強みを活かしたとしても、ある程度までいくと、また、停滞期が訪れるのだ。第二の均衡状態である。
この状態とは、これまでの成功体験の中で、独力で何事もやらないと気がすまなくなる、といったワンマンプレイヤーに顕著に現れている。仮に管理職として部下のマネジメントが求められるような場合であっても、担当業務の配分等だけを行い、基本的には自分一人で仕切ろうとする人材が陥りやすい「均衡状態」であるともいえる。独力ですべてをやってしまおうとする結果、どうしても、達成できる成果に限界が生じてしまうのである。
この段階で企業が犯しがちな過ちは、第一の段階と同様に、「弱みに焦点を当て、それを克服させる」というやり方を選択することである。多くの企業で、管理職に昇格した後に、一律に「戦略策定研修」等の、マネジメント能力を高めるためのトレーニングを導入しているケースが多い。しかし、弱いところを多大な時間と費用をかけて克服させたとしても、せいぜいマイナスがゼロになるくらいである。組織としての効果性や効率を考えたら、やはり、強みへの集中に分があるといわざるを得ない。ここで、第二の均衡状態を突破するための強みへの集中はいかなる方法をとるかを考えてみたい。
キーワードは“目利き”である。つまり、この段階にいる人は、自分自身の強みともいえる、パーソナル・コア・コンピテンシーを形成しており、同時に自分の弱みがどこにあるのかも明確に把握しているはずだ。この人が次に考えなければならないのは、自分の武器をより効果的に使うために、他者(必ずしも部下だけをささず、社内外の関係者も含む)とのあいだで、いかにして自分のコンピテンシーを補い、さらにシナジーを発揮できる人材を見極め、もってきて、育てるか。そして、それを仕事単位でいかにスピーディにやっていくか、ということである。つまり、他者に対する“目利き”ができなければ、第二の均衡を突破することはできない。
第二段階の均衡を突破するには、目利きを行った上で、他者とのシナジー効果をねらい、個人では到底できないことを、組織力をフルに活用して推進していくことが鍵となるのではなかろうか。
では、いかにそれを実現したらよいのか。
個人のレベルで考えれば、まずは、目利きをした上で、他者に対して、「任せる」勇気を持たなければならないだろう。「任せる」のは非常に勇気のいる行為である。無責任な管理職はともかく、『自分がやれば、効率性・アウトプットにしても、他者よりもよくできるだろう』と考えている人ほど、「任せる」ことには勇気と決断を必要とする。しかし、個人には限界があるため、より高い成果を目指すには、他者との協働が不可欠になるのは自明である。
しかし、単に人に「任せる」だけではシナジー効果は一過性に過ぎず、そのままで放置しては、いずれ、再び均衡状態に陥る危険性がある。要するに、「任せる」とともに、「場を創り続ける」ことが必要になる。「場を創り続ける」とは、自分自身を現状の既存領域だけに留めず、常に新しい領域に踏み出すことによって、自分・他者に対する「場」を創り続けることではないだろうか。自分自身が新たな領域に踏み出すことによって、自分・他者が新たなフィールドで成長し続けることが可能となるのである。
さらに、このような目利きによるシナジー効果を、組織全体としてねらうには、一個人の権限で実施するには限界があるかもしれない。やはり、全社規模でダイナミックにサポート・支援していく基盤があるほうが望ましい。フォーマルであれ、インフォーマルな形であれ、「人と人」の自由なつながりなり、結びつきを、奨励する価値観を社内に醸成するのも一つの手段であろう。また、社内の意識の問題だけでなく、組織運営面において、人材マネジメントシステムひとつとっても、ローテーションにおける自由な裁量権(人材の指名権あるいはFA権)、仕事単位で編成替えするアメーバ組織、プロジェクト型チームに合う業績評価の考え方、時間管理、処遇の仕組み、などの対応も有効な方法となろう。
「強みを活かす」というと、優しく穏やかな印象を与えるかもしれないが、その言葉とは逆に、真に徹底して、社員の強みを重視するということを追求していくと、組織のインフラそのものを覆すくらいの改革につながっている、それくらい、企業のあり方を根本から変えていくことに結びつくものであると考えている。
皆さんもお感じだと思うが、実は、「第二の均衡状態」を突破している段階で、すでに、世間でいう、ハイパフォーマーである。しかし、ハイパフォーマーであるがゆえに陥りやすい均衡状態が実際には存在する。それでは、これらのハイパフォーマーが突破すべき最後の関門について考えてみよう。
組織改革のコンサルティングをしていると、経営層に対してもコンピテンシーベースのインタビューを実施する機会に恵まれることがある。そこで、最近感じていることは、活力があり、伸びている企業のトップには、企業規模にかかわらず、共通する特徴があるのではないかという点だ。すなわち、
−新しいことへの興味とエネルギー
毎年同じことをしていてはつまらない。何か新しいことをやりたいという
強烈な意思やエネルギーを持っている。
−自らのミッションに対する使命感
自らのミッションが社会に与える影響を十分に認識した上で、社会や
顧客に対する強い使命感を持っている。
−過去に固執しない
それまで存在していなかった、新たな仕組みや装置を自分自身で作り
上げた経験があるものの、(現にそれは今も有効に機能しているにも
かかわらず)もっといいものを求めて、またもう一度ゼロからやり直す
ことに対して何の抵抗もない(自分が作り上げた絶大な成果であって
も、それに固執しない)。
−自己変革できる柔軟性
むしろ、もっといいものを創るためには、自分自身の仕事のスタイル
そのものを変革するだけの柔軟性がある。
というような点である。つまり、成功体験や自己のスタイル、既存の価値観をいったんは否定し、破壊することによってしか、さらなる創造はありえないことを悟っていて、実際に過去の自分のスタイルを変革することによって、前進するエネルギーに転換している人たちなのだ。
ここに、ハイパフォーマーたちの苦悩が生じる。既存の仕組みを改革してきたエースが、経営層になったとたん、自分が成し遂げてきたことに安住し、守りに入ったというような例は皆さんの周囲にはないだろうか。真のハイパフォーマーには安住の地などない。むしろ安住に心地好さを感じないメンタリティーを持ち、革新の矛先を外にも内にも向け続けることの出来る人だけが、究極のハイパフォーマーといえるのではないか。悩めるハイパフォーマーが最後の均衡を突破するために必要なもの、それは“悟り”である。さらなる高みに登ろうとするのであれば、自己を革新する勇気と情熱と膨大なエネルギーが必要なのである。この段階で、会社がハイパフォーマーに対処できることはあまりない。そのひと個人にあれこれというのではなく、トップとなったハイパフォーマーが安住を指向し始めたら、速やかに交代を促す審判機能をいかに健全に担保するか、という点が非常に重要になってくるのである。
| 図2/均衡突破の不等式 |
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以上、企業の中で個人が成長し続けるために突破すべき3つの均衡状態をコンピテンシーの開発という観点から述べてみた。
もちろん、成果創出のためには、ある程度、バランスのとれたコンピテンシーの発揮が必要になる(そもそも極端にバランスが悪い場合は、むしろ問題行動を起こしかねない)。しかし、均衡状態を突破し、個人が成長し続けるためには、あえてバランスを崩すことが必要になる。バランスをとりながらも、バランスを崩し続ける、あくなき挑戦こそが成長の「鍵」になるのではなかろうか。