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【巻頭言】 |
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巻頭言
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ワトソンワイアット(株) |
このままの日本では、「失われた10年」がさらに15年、20年へと引き延ばされ、最終的に日本の存在価値さえも「失われ」かねない。まさしく、「悪い均衡」から抜け出せない。この悪い均衡の正体とは何だろうか。どうしたら、「良い均衡」へのステップを踏み出せるのだろうか。
今回のワトソンワイアットレビューでは、現状の企業、経営システム、人材、年金などの問題を構造的な悪い「均衡状態」と捉え、そこから脱出し、良い均衡状態へと到達する方法を考えたい。
今の日本の状況が世界からどう見えるか。CNNのニュースには「アルゼンチン・日本問題」という表現が頻繁に出てくる。海外から見れば、「最後の最後まで何もしない国」という主旨で、日本とアルゼンチンを同一視している。
先日、アメリカのシリコンバレーとニューヨークを訪問した。そこで、現地で活動している日本人ビジネスパーソンとの懇談の機会を得た。その中で、特に私がショックを受けたのは、ビジネススクールで日本の話題が教授から語られると、学生のあいだから「失笑」がもれてくるとの話であった。
私がアメリカに滞在していた80年代前半とは、天と地ほども違う日本の存在感である。ビジネススクールに在籍する日本人も極めて少数になり、今は中国人留学生が目立つという。米国で日本に関するニュースを見る限り、日本人にさえも、本当に日本がアルゼンチンと同じに見えてしまうらしい。愕然とする事実である。日本が世界から「憐憫」の情を受けている「耐えられない姿」である。
それでは、このような極めて重傷な「悪い均衡」状態がなぜ作り出されたのだろうか。一言でいえば、「成功しすぎた罠」である。戦後の復興期から80年代後半までの40年余りの間、歴史上例のない、国家発展の一大成功モデルとなったのが日本であった。
ほとんどゼロ、あるいはマイナスの状態から、世界トップクラスの富を持つ国へと一気に駆け上がった。
国、企業、個人が互いに共鳴し、連動する安定的な「成長モデル」を作り出した。あまりに全体的に整合性が取れた、バランスのよいモデルであったために、その「破壊」がなかなか進まない。過去の成功モデルへの「郷愁」が改革の邪魔をする。その輝かしい過去のイメージが、世界からの日本の現状への落胆の深さとなって現れる。
例えば、終身雇用制度。過去の日本型経営モデルの根幹に位置する基本コンセプトである。強さの源泉と称えられた思想である。明らかに「弱み」に転じた考え方であるにもかかわらず、これを明確に否定する経営者はほとんどいない。
実は終身雇用は優れた仕組みである。もしも、厳しく成果を互いに問い合う緊張感が組織にあり、各個人が成長することが強烈に求められており、なおかつ終身雇用を達成しようとするならば、という条件がつく。
つまり、終身雇用は、@企業が魅力的な成長の場を提供し続け、A各個人が企業の発展を牽引する形で成長する、この二つの条件が満たされないと本当は実現できないからである。要するに、企業と個人が互いに選び選ばれるなかで、両者とも勝ち残った場合にのみ実現できるのである。現状の多くの日本企業に見られるような、企業と個人が互いに依存しあうような「終身雇用制度」は、幻想である。なぜなら、そのような企業は変化の時代に生き残れないからである。
このように、過去の均衡モデルの構成要素をいったんすべて否定して、もう一度再定義・再構築してみる必要がある。単にアングロサクソンのモデルに追随しても、日本の文化的蓄積が持つ強みを生かせない。我々独自の新たな「良い均衡」モデルが必要である。
我々は、過去の郷愁をきっぱりと捨てて、新たな一歩を踏み出す必要に迫られている。そんな決意を固める読者の皆さまに、この小冊子が何らかのヒントになればと願っている。