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【巻頭言】 |
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パブリックセクター・ガバナンスの新展開
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杉浦 恵志 | ![]() |
キャメル・ヤマモト |
パブリックセクターの機能不全や不祥事をめぐる批判が高まるにつれ、それをどのように外部から監視するか、どのように内部管理体制を強化するかといった議論が活発化している。ガバナンスや検証メカニズムの再構築を求める声は、今や無視できなくなっている。
しかし、従来のガバナンスや検証メカニズムでは、何がうまく機能していないのかを判断できても、何をしなければいけないのかというビジョンには、いつまでたってもたどり着かないのではないか。
悪い均衡からの脱却を議論した前号で、杉浦は、「政策立案部門の人材を動機づける評価基準として、公益に対する行政機関独自の定義づけ」を促した。また、ヤマモトは、「現在のゲームをやめる必要はない。新しいゲームをやりたい人が、新しいゲームを、古いゲームの傍らで勝手に始めてしまえばいい」と、変革プレイヤーの自律性を強調した。
本稿では、ガバナンス論や検証メカニズム論の限界を改めて指摘し、本当に求められるのはマネジメントの仕組み作りであること、またあるべき人材マネジメントでは、職員が役所に染みついたしがらみにとらわれず企画力を存分に発揮する、いわば「武者修行」の場が大事な役割を果たすことを論じる。
「パブリックセクターは誰のものか」と聞かれたら、常識的な回答は、やはり「有権者のもの」ではないだろうか。しかし、従来の三権分立・選挙を通じたガバナンスでは、有権者主権が形骸化しつつある。
代表民主制下のガバナンスは、「有権者の代理人で構成される合議体が、組織の運営方針・戦略について意思決定するとともに、組織長による組織の運営を監督する行為」と言っていいだろう。コーポレート・ガバナンスなら、有権者は株主、合議体は取締役会、組織長は社長である。行政機関であれば、有権者は言葉通りで、合議体は議会、組織長は首長である。
パブリックセクターでは、国内の一般的な民間企業と違い、議会(取締役会)や首長(社長)は、職員(社員)代表ではなく有権者(株主)代表として直接・間接に選出される。したがって、本来首長は高みから見たリーダーシップを発揮でき、議会はその枠組み(基本方針や予算)を設計できるはずである。その結果、有権者は、議会や首長を通して、行政機関に対する影響力を確保する。
ところが、実際にはそうなっていない。議会は、既得権益を代表する議員が多数を占め、将来的なビジョンに欠けている。そのため、基本方針の策定が行政任せとなり、予算も前年対比で決められる。また、経営指標など検証ツールが不十分なため、首長も判断材料が足りず官僚組織をコントロールできない。そもそも行政機関の事務事業内容は、同規模の民間企業に比べはるかに多様性に富んでおり、局・部長クラスのマネジメントが重要だ。この階層で官僚的な機能不全に陥ると、何も変わらなくなってしまう。
このように、行政機関・首長・議会の機能実態は、理念型から程遠い。近年財政悪化や相次ぐ不祥事により、行政機関の信頼は損われ、有権者は役所に対する直接的な批判を強めている。しかし、行政の質がわかりにくいためなかなか争点にならず、マスコミ情報の氾濫する首長・議員候補者の人格が判断基準となっている。閉塞感の打破を期待して、マッチョなリーダーを待望する声が日増しに強くなっているように感じられる。
要するに、従来型ガバナンスは、組織内部に検証メカニズムがあり、成果が有権者に向かってわかりやすい形で公表されており、不備があれば修正・変革するマネジメントの仕組みが確立していないと、役に立たないのではないか。
そこで、昨今注目されているのが、行政評価の導入である。パブリックセクター内部に客観的な検証メカニズムを確立し、事業や施策の検証結果を有権者に公表して透明性を高め、説明責任を果たす。このこと自体は、主権を有権者に取り戻す試みの第一歩として評価したい。
検証ツールとして比較的簡単なのは、公共サービスの受益者たる有権者の声に耳を傾けたり、業務のインプット・アウトプットを計測して効率・品質指標を取ることである。これらの指標が指し示す方向性は明快であり、有権者に公開されていなくとも、また特段マネジメントの仕組みが整備されていなくとも、現場のイニシアティブで改善運動が継続的に進展することが少なくない。
次に、プロジェクトごとの評価として、専門家を交え環境アセスメントや費用便益分析を行う事前評価や、職員自身が担当業務の成果を自己点検する事業評価が挙げられる。これらの評価は、指標やパラメーターに恣意的な判断が加わる余地があるため、その結果を公表し、有権者との間に価値観や感覚のズレが生じていないかチェックすることが不可欠だ。
有権者にとって、各事業の成否以上に気になるのは、結果的に自分たちの重視する価値(アウトカム)が、創造されているかどうかである。先進自治体の中には、有権者が自分たちで行政のパフォーマンスを判断できるアウトカム指標を決め、他の行政組織と比較したり、自主的な達成水準を設定することによって、職員のエネルギーを有権者の満足へと明確に方向づける、ベンチマーキングの試みも見られるようになってきた。
ところで、通常アウトカムには、大規模プロジェクトを別とすれば、複数の事業が絡みあって影響を及ぼしている。したがって、評価の対象は、同一のアウトカムに貢献すると考えられる事業をひとまとめにした「施策」でなければならない。
しかし、施策の成果を向上させる手段は、担当職員による個別事業(施策の部品)の改善に留まらない。むしろ抜本的な効果をもたらすのは、限られた予算と人材の中で、より良い部品を取捨選択したり、画期的な部品を開発採用することではないか。
既存事業の入れ替えや新規事業の企画実施には、必要なカネやヒトを柔軟に手当てすることが重要である。それには、内輪でどんなに検証メカニズムを磨き上げてもダメで、戦略的なリソースの再配分が求められる。でないと、現場の改善が一巡した段階で、財政再建を優先した事業の見直し一色となり、パブリックセクターは、有権者の新しいニーズに対応できなくなってしまうだろう。戦略なき指標作りや検証は、早晩行き詰まるはずだ。
自治体の中には、民間企業の経営・勤務経験がある方をはじめ、変革指向の首長が当選し、独自のミッションをトップダウンで演繹することにより、戦略的な事業再構築を志しているところもある。だが、その道のりは予想以上に険しい。なぜなら、カネやヒトをマネッジするインフラとしての制度や慣行と、こうした変革の動きとの間で、整合性が取れていないからである。
カネについては、予算配分が省庁間・部局間であまりに硬直的である。実は、IT、環境、研究開発、ベンチャー、高齢化・少子化対策など、戦略的な課題のありかは、かなり以前から示されている。ところが、その対策となるとタコツボ思考に入ってしまい、斬新な企画が出てこない。その結果、光ケーブルの普及が下水道事業に化けたり、インキュベータが巨大な見本市会場の片隅に併設されたりする。自治体では、魅力的な補助金を目当てに、事業内容が本来の目的から大きく乖離する場合が多い。
このような硬直的予算制度から脱却するためには、予算配分原理を組織別・前年対比から、施策目的別・業績主義に変えていかなければならない。そうすることで、目指すべき価値を実現するのに最適な方法が、その方法の企画実施に適した組織・チームによって導入されることになる。予算の使い道も、ムダが少なくなる。
ヒトについては、配属・昇進が、原則年功序列と玉突きローテーションによって支配されている。そこでは、専門人材が育ちにくいばかりでなく、新しい試みに伴うリスクを避ける体質が長年にわたって染みついている。時折その体質に染まっていない職員から革新的なアイデアが出されても、何層もの承認をくぐり抜け、他部門と調整するうちに、角が取れてしまう。このような人材も、エースとして総務企画畑を歩むうちに、部長になる頃には見事な調整型人材へと変貌していることがある。
パブリックセクターの改革には、予算や人材を最適配分するマネジメント(ニュー・パブリック・マネジメント)の仕組みが欠かせない。検証メカニズムは、いくら精緻化しても、検証の対象として、良い事業企画が出てこないと意味がない。首長が頑張って戦略の笛を吹いても、職員は簡単には踊れない(踊らない?)のである。
以下、話題を人材マネジメントに絞って、企画型人材に実力発揮を促す動機づけや、検証メカニズムに及ぼす含意について検討し、人事制度の望ましい方向性を提案したい。
私どもワトソンワイアットがこれまでお会いした行政マンには、真摯に公益を考えている方々や、非常に勉強・研究熱心な方々が実に多い。企画の地アタマを持っている公務員は、いくらでもいるのではないか。しかし、彼らは、慣行や規制、形式的要件、縦割り行政といった職場環境の中で、その能力を十分発揮することなく、いたずらに磨耗・減衰させている。
企画型人材を動機づけるには、前号でも述べたように、権限委譲と公益への貢献度評価が王道である。ただ、長年にわたり染みついてきた年功序列・玉突きローテーションの仕組みを、一撃で崩すのははっきり言って難しい。
それでは、何か突破口になるメカニズムはないのか。試みに、公務員が政策オルターナティブを考える外部の議論に知恵を授け、自ら成案のスポンサーになるなり、理解ある議員との連係プレイなり、学識経験者に委員会で披露してもらうなりして、正規の政策決定プロセスに載せる方法を考えてみよう。
これまでも、シンクタンクやNPOなど、オルターナティブを提案する組織は存在した。しかし、それには行政側の人間が関与していないこともあって、実現可能性があまり検討されてこなかったと言ってよい。アイデアがアイデア止まりであり、発想する人と運用する人が切れていたのである。
ところが、インターネットの普及により、実体のない議論の場「フォーラム」で、メンバーシップを固定させずに、徹底的にフラットな議論が可能となった。ここでは、公務員も一有権者としてネットワークに参加することができる。中の人間ではあるが、別人格として、気持ちの上では外の人になりきる。そして、政策決定の力学や実行に向けた詰めの知識を提供し、オルターナティブに迫力を味付けする役割を果たす。
公務員には身分保障があるので、入札結果を左右するなど倫理的な問題がない限り、職務外のことで簡単に首が飛ぶことはないだろう。役所のブランドや中立性をうまく活用すれば、人脈の構築もスムーズに進むかもしれない。実体ある組織の時代には、行政側の関与を敬遠していたNPOも、完全フラットなフォーラムでは、エチケットさえ守られていれば、抵抗が薄れていくのではないか。
思いつきの事例だが、ある企業城下町で、その企業が経済情勢の悪化に伴い、工場を撤退させることになったとしよう。これだけ広大な土地を民間の力だけで開発するのは非常に困難であり、地域活性化のためにも公的な関与は不可欠である。しかし、バブル崩壊後の財政事情は芳しくなく、撤退による減収が重なって自治体側は及び腰になっている。公務員として立場で、思い切った企画を打ち出すことは難しい状況だ。
このような場合、善意の公務員が企画能力に磨きをかける絶好の機会を、みすみす逃してしまうかもしれない。そこで、ネットワークが武者修行の場となり、公務員が自律的に企画力を開発する。いわば、行政機関の階層的な人材マネジメント構造を、意識的に形骸化させ、バイパスしてしまうのである。
行政機関の側から見ても、メリットは大きい。第一に、硬直的な組織では対応できなかった、斬新な企画が出てくるかもしれない。第二に、同じ人間が実施から改善まで一貫して携わることによって、実効性が高まる。第三に、使う機会の乏しい企画力の発揮を通じて、企画型人材が育ち、そうした力が蓄積されていく。
きっかけが財政難による職員削減であれ、年齢構成の逆ピラミッド化であれ、最近組織のフラット化を図る自治体が増えている。行政マンが自分の意志で政策オルターナティブを考えることは、権限委譲の人材マネジメントをさらに推進することになるだろう。それでは、権限委譲時代における検証メカニズムのあるべき姿は何か。その機能も変化を求められるのか。
まず、企画立案の根っこにある価値観が多様化することにより、不正の問題や、行政機関のミッションと齟齬を生ずる可能性がある。これらの検証には、形骸化しつつある従来の階層型チェックが依然として役に立つ。ミッションとの齟齬をスクリーニングしすぎると、権限委譲の意味が薄れかねないが、ここをくぐり抜けたオルターナティブには、正統性のお墨付きが付与されることになる。
次に、アウトカム指標と達成水準を設定すると、権限を委譲された公務員の行動に方向性がもたらされると同時に、従来の発想や制約にとらわれていてはダメだというプレッシャーがかかる。職員の行動が自由になっても、方向性やプレッシャーがない限り、安易で無難な企画に流れるだけだ。方向性やプレッシャーの中で行動の自由が与えられて、初めて創意工夫が生まれるのである。
最後に、企画立案の分権化が進むと、サイクルの大きな検証メカニズムでは、タイムリーに制御できなくなってしまうかもしれない(ここまで多様化させるのは、それ自体大変だけれども)。方向性を誤らないうちに早めのチェックをかけるには、頻度が少ない外部評価や第三者評価ではムリで、お手盛りと言われようが自己評価に頼るしかないのだ。
それには、権限を委譲された職員の大部分が、ほとんどいつでも間違いのない判断を下せるように、セルフマネジメントの意識を持つことが重要である。と同時に、万一間違いが生じても、手遅れにならないうちに上司と話し合える組織風土を創り上げておかねばならない。
高度成長期に確立した成長中心・一律分配の価値観が崩れ、有権者の問題意識が多様化するにつれて、それぞれのニーズを汲み取った施策や事業が、今日求められている。それは、とりもなおさず、さまざまな行政レベルで企画立案が必要になるということであり、企画機能の分権化が進むことを意味する。このように、パブリックセクターにおいても、権限委譲とセルフマネジメントは、押し戻せない流れになるだろう。
パブリックセクターの人事制度も、この流れとの整合性を取らなければならない。施策別業績責任を負う部・局長クラスは、担当部門にどの程度の企画力が必要なのか、冷静に判断しなければならない。そして、その必要性に応じて、セルフマネジメントを刺激する評価・処遇制度を適用する。その後は、継続的に人材ポートフォリオの変遷をモニタリングし、企画型人材の成長ぶりを確認する。首長の役割は、インセンティブ構造の違いが職員の間であつれきを生まないよう、部局の切り分けを再考することだ。