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【巻頭言】 |
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資産運用プロフェッショナル
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佐藤久恵 |
よく言われることであるが、米国は多くの領域で日本の動向を先取りしており、年金の運用管理もその例外ではなかった。しかしながら、困難な運用環境を背景に年金運営における知恵は加速的に進化し、マネジャー・ストラクチャーはじめ、運用の効率化への取り組みはあっという間に米国に追いつき、分野によっては逆転さえしかねない勢いである。
急速な進展のドライバーとなったのは、過去10年以上にわたる運用環境の悪化・低迷である。人間、誰しも環境が良好なときにはそのような「知恵」を働かせるものではない。外圧がなければ規制緩和だってそう簡単には進展しなかったであろう。つい5〜6年ほど前では、今は死語の感もある「5.3.3.2規制」がほとんどの基金を支配していたし、資産配分も運用機関の委託方法も一部の基金を除いて、ほとんど一様であった。近年、年金に関わる運用戦略や運用機関選択の巧拙がパフォーマンスの顕著な格差につながっていると言われているが、こうした状況は、一連の運用規制の撤廃を経て、起きるべくして起きたといえる。
運用規制の撤廃はまた、年金スポンサーの責任が格段に増したことを意味している。自由と責任は表裏一体のものであり、この困難な環境においては、気が重い話かもしれない。しかし、「規制」はもう守ってくれないし、言い訳にもならないのであり、まさに、金融自由化時代下の金融機関と同じく、「勝ち残る」ための戦略構築、運営が年金にも求められていくといってよいであろう。
投資のオポチュニティはどの年金スポンサーにも今や均等に開かれており(まだ適格年金には一部制限は残っているが)、様々な投資対象・手法への取り組みが可能となっている。従来のような運用規制の枠組みを例外的に超えるという視点ではなく、自由な視点に立ち返って、「ベスト・ソリューション」を再考する必要があろう。もちろん、このオポチュニティは、運用体制やリソース等のガバナンスやリスク許容度と密接な関連があり、また、プルーデンスをもって実行される必要がある。従来の「お任せ」「管理」する年金から「運用」する年金への本格的な変貌が進むなか、バリュー・チェーンの担い手の一員として、資産運用管理のプロフェッショナルたることが求められている。
本稿では、このような「運用する年金」を象徴している二つの潮流について、取り上げてみたい。一つはオルタナティブ投資、もう一つは自家運用である。どちらも数年前までは、日本における企業年金運用においては、実現にはおよそ縁遠い存在であった。
「オルタナティブ」は、低迷を続ける伝統資産と「低相関」で「より高い期待収益率」を期待できる資産クラスとして、日本の年金スポンサーからも熱い視線を集めている。オルタナティブ・アセットへの投資が日本の年金に根づきだしたのは、ここ2〜3年の話であるが、一部の年金スポンサーを中心にその取り組みは加速化している。身近な話として、「日本株式のロング・ショート」戦略の運用説明は、年金スポンサーの皆さんであれば、一度ならずとも、ひっきりなしに受けているのではないだろうか。そして市場が下落を続けるなか、ショートも組み合わせた戦略に投資すれば、伝統的なロング・オンリーのものに比べてリスクも低下し、高いリターンが期待できるのではないか、という希望を託そうとしているのではないか。
伝統資産から期待されるリターンが低下し、また、実績も長期間にわたって低迷するような環境にあっては、資金の配分先として十分、魅力的に映っていることは間違いのない話だ。そして、いったん注目を集め始めると、多くの人が関心を持ち、飛びつくようになる。困難な環境下にあっては、まるで、救世主にでも出会ったかのように。はたまた、この波に乗り遅れたら、自分(たちの年金)は世の中の先進的な動きから取り残されてしまうのではないか、とか。
このような動きが本格化する以前から、我々はこの資産クラスへの投資を検討することを提案してきたし、今後もその考えに変わりはない。ただし、今、この業界に起きている現象、特に資金の急速な流入による急成長には十分に注意するべきである。
もともと、アルファ(=超過収益)の源泉は、投資の非効率性に注目して、それにベットする(=賭ける)ことによって得られるものである。これは、伝統資産であっても同じことである。市場の効率化が進み、パイが小さくなったとはいえ、他者が容易に真似ができないようなスキルの独自性・差別性があれば、アルファの追求は、困難ではあるが可能である。サテライトと言われるアクティブ度もスキルも高い運用機関であれば、この傾向は顕著である。オルタナティブ投資においては、戦略や取っているリスクの違いは様々であるが、この度合いがさらに大きく出ているにすぎない。しかしながら、そこに多くの資金が流入し、市場の参入者が増加したら、一体、何が起きるであろうか。市場の非効率性は低下し、ひいてはリターンの低下につながるのではないか。足元のリターンを見ても、今年に入ってから低下傾向が見て取れ、99年頃にみられたリターンの水準からは程遠い状況にある。にもかかわらず、資金は流入を続けている。2001年には時価の上昇分も含めると1400億ドルもの資金がヘッジファンド業界に流入し、その残高は5000億ドルとも6000億ドルとも言われている。今年は昨年以上の資金が流入するのではないかと言われている。これは、何を示唆しているのであろうか。
期待リターンの低下は、当業界の運用報酬等のフィー水準を脅かすことになる。戦略にもよるが、年間10%から20%ものリターンが期待できるのであれば、フィーが高くても(通常、元本の1〜2%程度の管理報酬と成功報酬)関係者が一様に満足できる「Win−Win」シチュエーションとなるが、これが逆回転を始めた場合には、リターンの低下がフィーの引き下げ圧力にもつながり、それが、関係者のインセンティブを引き下げ、投資家の関心もますます薄くなる、といったようなことになりかねない。市場のボラティリティが大きくなればなるほど、これをプロテクトするために、現金の保有比率を一時的に増やすような行動に出ることも考えられ、そうなると、フィーはますます割高なものとなっていく。ファンド・オブ・ファンズの形態をとる場合、現在のようなフィー構造が維持可能かという問題はさらに深刻である。
急速な残高の増加は、アルファの獲得機会を低下させ、マネジャーのスキルが希薄化する可能性をはらんでいる。今の状況は、需要が明らかに供給を上回っている。スキルは、需要が増加したからといって、簡単に生み出されるわけではなく、また単純に真似ることができないものである。もし簡単に真似ができるような運用手法であれば、将来にわたってそのような戦略にアルファを期待することは難しいであろう。また、戦略によっては、キャパシティの問題も大きい。例え各マネジャーは自社の運用に関するキャパシティを理解し、それをきちんとコントロールしていたとしても、同様の戦略を取る競合他社が、どれくらいいて、市場の非効率性を取りに行っているかという全体像は理解することはできないものである。
巷では、オルタナティブ投資に関するポジティブな効能ばかりが取り上げられている感もあったので、「使用上の注意」みたいなことを述べてきたが、オルタナティブ投資は、年金運用の投資戦略の拡大・分散を考えていくうえで、必要な検討ステップの一つと考える。結果として「投資しない」「先になすべきことがある」という結論に達したとしても、投資目標を明確にし、それを達成するための、様々な選択肢を検討していく、というプロセスが重要なのではないか。
繰り返しになるが、決してこのアセット・クラスへの投資に否定的なわけでも、シニカルな見方をしているわけでもない。ただ、ますます「選別」が重要となり、戦略の構築にあたっては、慎重なプロセスが求められていくことになろう。先の章では、オルタナティブ投資のなかでもヘッジファンドを中心に取り上げたが、ヘッジファンドは、ロング・ショートのみならず各種の裁定取引やイベント・ドリブン、ディストレスト債権、グローバル・マクロといったリスク特性を異にする戦略がある。また、今まで論じてきたようなことは、プライベート・エクィティにも当てはまる話である。
プライベート・エクィティは、投資成果をリターンとして享受するまでに時間がかかり、いわゆる「Jカーブ効果」もあって、困難な環境下にあっては、目に見える効果がもっと早く期待できそうな戦略に目が行きやすくなるかもしれない。しかしながら、年金の資金性格を考えた場合、キャッシュ・フローがある程度の期間、潤沢に確保できるスポンサーであれば、理に適った戦略ということになる。一般的に、時間が経過するに従って、年金の成熟度は高くなり、リスク許容度も低下してくる。言い換えれば、積極的にリスクを取って運用できる期間は、無限にあるわけではない。困難な時代にこそ、目先の利益にとらわれない知見は、年金の運用戦略を構築するに当たってより重要なものとなるであろう。
投資対象の選択は、運用戦略を構築するうえで非常に重要なステップであり、この議論をおざなりにして安易に投資すると、予期せぬ結果が出た場合、動揺をきたし、結果的に大底で解約してしまったということにもなりかねない。これは1997年から98年にかけてのエマージング投資などにおいて実際にあった話である。資産運用の進化はガバナンス(=運営体制)ありき、では決してないが、両者を結果的にきちんとバランスさせることは、明るい未来を享受するためにも必要である。
委託形態においても、従前の運用機関への完全な「お任せ運用」から、スポンサー自身が主体的に運用方針・戦略を構築し、運用の委託先を選んで、これらのプロセスを管理するという一連の資産運用サイクルを回すようになった。しかしながら、運用を外部に委託せずに、自分で行う自家運用についての取り組みは、日本の企業年金においては、まだ、ごく一握りにすぎない。基金においては、2000年6月に自家運用に係る規制が緩和された後でも、「自分たちには縁遠い」「やるとしても、コストの問題もあり、資産規模が大きくないとメリットがないのではないか」と考えている人が多いのではないか。実際、日立製作所、トヨタ自動車などが、インハウス運用にとどまらず、米国の先例にならってグループ内に運用子会社を設立し、グループを対象にした年金資産の運用に乗り出した一方、自家運用への取り組みの表明に至っている基金はごくわずかであり、それも大型基金がほとんどである。
これについても、オルタナティブ投資同様、資産運用プロセスのサイクルに当てはめて、運用効率の向上に資するのかどうか検討していく必要があるのではないだろうか。導入することの意義やそのために必要なリソース、取らなければならないリスクなど。自家運用を始めるといっても、何から何までフル装備する必要はなく、各々の年金運用の目標を達成するために、他人に任せたほうが良いのか、自分たちでやったほうが合理的なのか、ということを各々の投資戦略や手法について再考してみるプロセスが重要であろう。例えば、投資信託の直接購入などは、規模が相対的に小さい基金においても、現実的な選択肢としてなりうるのではないだろうか。ただし、ここでもコスト削減(自家運用に切り替えたほうが運用報酬を軽減できる)という視点のみでなく、目に見えないコスト、自分たちの達成するべき目標や体制に見合うものかどうかということを総合的に踏まえて、取り組んでいく必要があろう。
「信じるものは救われる」、ただし、救済を受身的に待つのではなく、年金の関係者各人が、資産運用のプロフェッショナルとしての自律心を持って、付加価値の創出に取り組んでいくことこそが、困難な時代を拓いていく「鍵」ではないか。そのためには、自分たちに開かれている投資機会、様々な選択肢について再考し、運用効率を高めていくための「ベスト・プラクティス」に果敢にチャレンジしていく必要があろう。やるからには積極的に取り組まなければ、良い結果につながらないことは、資産運用に限った話ではない。
困難な環境は、年金を取り巻いてきた、本来、運用とは関係のないしがらみを断ち切る良い契機にもなりうるはずである。ここでいかに努力をしたかが、将来の大きな差につながるのではないか。
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