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【巻頭言】 |
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何によってパフォーマンスの差が生じたのか?
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五藤智也 |
ここ数年間の年金運用のパフォーマンス悪化は、厳しい市場環境が原因であることは間違いない。では、各スポンサーのパフォーマンスの相対的な優劣も、資産配分によって決まっていたのであろうか? マネジャー・ストラクチャー、マネジャー・セレクションの優劣はどの程度の差をもたらしているのであろうか?
スポンサーの方々は、ぜひ本稿の年率○○%という数値を、ファンドの時価に掛け合わせて、実際の金額として認識して、読んでいただきたい。
実績データを元に実証分析を行った。実績データは、弊社が2001年11月に実施したガバナンス・サーベイと四半期ごとに行っているサーベイにご回答いただいた61スポンサーのデータを使用しており、1999年度から2001年度の3年間の分析を行った。
表1を見ると、61スポンサーの総資産収益率の中央値は年率−0.16%となっており、非常に厳しい市場環境を反映した数値となっている。そして、この年率−0.16%の要因を、期初資産配分効果、銘柄選択効果、そのタイミング効果の三つに分解している。期初資産配分効果は各四半期の期初の資産配分によって説明できる部分、銘柄選択効果は各資産における超過収益によって説明できる部分、そのタイミング効果は各四半期の期中における資産配分の変更等によって説明できる部分である。中央値では、期初資産配分効果が年率−0.35%、銘柄選択効果が年率0.33%、そのタイミング効果が年率−0.14%となっている。
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表1/総資産収益率 |
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表2は、過去3年間のパフォーマンス上位25%の平均と下位25%の平均を比較した表となっている。期初アセットアロケーション効果の差が年率1.07%となっており、どのような資産配分としていたかは、大きな差を生み出している。しかし、銘柄選択効果の差が年率1.84%と期初アセットアロケーションの差を上回っていることがわかる。このことから、過去3年間の各スポンサー間の相対的パフォーマンスにおいては、銘柄選択(マネジャー・ストラクチャー、マネジャー・セレクション)が資産配分以上の影響力を持っていたことがわかる。
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表2/総資産収益率 上位25%と下位25%の比較 |
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表3は、表2の銘柄選択効果をさらに分解し、どの資産から生じているかを示している。パフォーマンス上位と下位の差は、国内株式と外国株式のマネジャー・ストラクチャー、マネジャー・セレクションの優劣が要因となっていることがわかる。
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表3/各資産別銘柄選択効果 |
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次に、各スポンサーの超過収益率を比較してみたいと思う。ここでは、各スポンサーの超過収益率を比較し、超過収益率をタクティカル・アセットアロケーション効果(以下TAA効果)と銘柄選択効果に分解する。超過収益率は、各四半期末の資産配分を政策アセットミックスとみなし、算出している。TAA効果は各四半期期中の資産配分変更に起因する部分であり、銘柄選択効果は各資産における超過収益率に起因する部分である。
表4から、中央値は、超過収益率が年率0.22%であり、TAA効果が年率−0.14%、銘柄選択効果が年率0.27%であることがわかる。超過収益率の第1四分位と第3四分位の差は年率1.03%と大きく、銘柄選択効果の差の年率1.13%に起因していることがわかる。この年率1.13%の差は、マネジャー・ストラクチャー、マネジャー・セレクションの優劣に起因するものである。TAA効果は、中央値がマイナスであり、第1四分位と第3四分位の差も年率0.39%とそれほど大きくない。自らの判断または運用機関の判断で短期的な資産配分の変更から超過収益率を得ようとすることは、この結果を見る限り、非常に難しく、マネジャー・ストラクチャー、マネジャー・セレクションの改善から超過収益率を得ることのほうが確率は高く、効果も大きいと考えられる。リスクと効率性の観点に着目すると、超過収益率の高いスポンサーは、ある程度高いリスクを取っているが、インフォメーション・レシオが高く、効率性は高いことがわかる。
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表4/総資産超過収益率 |
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ある資産が上昇した際に一部売却し、下落した際に追加購入する行動であるリバランスは、スポンサーの心理として、受け入れがたいという部分があるかと思われるが、実際にはどのような結果となっていたのであろうか?
表5は、リバランスルールの有無とTAA効果の関係を示している。リバランス・ルールが設定されているスポンサーのTAA効果の平均値が年率−0.07%であったのに対し、リバランス・ルールが設定されていないスポンサーの平均値は年率−0.23%と設定されている場合に対して年率0.16%マイナスが大きい。
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表5/リバランス・ツール |
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さらに、政策アセットミックスの許容乖離幅が5%以下である場合のTAA効果の平均値が年率−0.02%であったのに対し、10%以上の場合には年率−0.23%とリバランス・ルールが設定されていない場合と同じ結果となっている。当然のことながら、許容乖離幅はあまり大きくては意味がないということがわかる。
人は、直近のパフォーマンスが良いとさらに大きなリスクと取ろうとし、直近のパフォーマンスが悪いとリスクを抑制しようとする傾向があることが行動ファイナンスの研究から明らかになっているが、そのような無意識の心理的バイアスを克服するためにも、リバランス・ルールと適切な許容乖離幅の設定が必要不可欠であると言える。
資産配分やマネジャー・セレクションと異なり、マネジャー・ストラクチャーを定量的に分析することは難しいが、ここではバランス型用の比率という切り口から、各スポンサーの超過収益率を分析していきたい。バランス型運用を完全に否定するつもりはないが、1運用機関が4資産の運用すべてにおいて秀でているというケースは極めて稀であると言わざるをえないであろう。また、バランス型運用は、様々なスポンサーからの受託があること等から最大公約数的な運用になりがちであり、複数の運用機関に委託した場合でもリスク分散効果が限定的であることが多い。
表6は、バランス型の比率と総資産の超過収益率、トラッキング・エラー、インフォメーション・レシオを示している。バランス型を全く導入していない場合には、年率0.80%の超過収益率を得ている。バランス型の比率が高まるにつれて超過収益が減少していき、バランス型の比率が90%以上の場合には、年率−0.75%の超過収益率となり、バランス型の比率が0%の場合とは年率1.48%もの差がある。次に、トラッキング・エラーを比較すると、バランス型運用の比率が高くなる程、リスクは低くなっている。しかし、インフォメーション・レシオは、バランス型運用の比率が高い程低く、バランス運用が全体の投資効率を引き下げているという傾向がわかる。
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表6/バランス運用 |
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バランス運用を切り口にマネジャー・ストラクチャーの効果を見ていただいたが、おそらく、マネジャー・ストラクチャーの効果が考えていたよりも大きく驚かれているのではないだろうか? スポンサーは、情報が入手しやすく、結果もわかりやすいため、どうしても資産配分とマネジャー・セレクションを中心に考えてしまう傾向があるが、マネジャー・ストラクチャーも非常に重要なものである。マネジャー・ストラクチャーを適切に構築しなければ、いくら熱心にマネジャー・セレクションを行っても、意味がないことを改めて認識することが重要である。
日本の企業年金において悩ましい問題の一つが、母体と取引関係のある運用会社への委託である。母体と取引関係のある金融機関や系列運用機関への委託が全くないというスポンサーは極めて稀であろう。母体と取引関係のある運用会社への委託で問題となるのは、運用能力に関係なく委託している点と、マネジャー・ストラクチャー上の位置づけが明確でないことが多い点である。
表7、8は、母体との取引で決まるシェアと超過収益率の関係を示している。取引関係によるシェアが30%以下の場合、国内株式における超過収益率の平均が年率1.35%、総資産の平均の超過収益率は年率0.64%である。取引関係によるシェアが増加するにつれ、超過収益率は減少し、90%以上では、平均の超過収益率は、国内株式が年率0.28%、総資産では年率−0.22%となっていることがわかる。総資産の超過収益率の差が、30%以下と90%以上とでは年率0.86%もあるという現実に目を向けて、母体との取引関係から委託することの経済的合理性を再考すべきではないだろうか。また、本当に、取引関係だけが、そのような運用機関への委託の理由となっているのであろうか? スポンサーと母体にとって経済的合理性がなくとも、スポンサーの運用担当者にとって、母体との取引関係を重視している限りは、パフォーマンスが悪くとも責任を回避することができるが、他の運用機関に変更して、パフォーマンスが悪化した場合には責任が明確となるため、非常に高い確率でパフォーマンスが改善すると判断できる場合以外には、現状を維持しようとするバイアスが働いていると考えられる。当然このようなバイアスは、投資効率を低下させることにつながるため、スポンサーの運用担当者の評価・処遇体系を、スポンサーにとっての経済合理性とマッチングされる等の何らかの対策が必要となる。また、運用能力が低いと思われる運用機関に取引関係から委託せざるを得ない場合には、国内債券等のリスク度の低い資産、パッシブ運用等のリスク度の低い運用を委託するといったマネジャー・ストラクチャー上の位置づけを明確にすることが重要である。
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表7/母体との取引関係で決定されているシェア(1) |
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表8/母体との取引関係で決定されているシェア(2) |
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マネジャー・セレクションにおいては、過去実績が良い運用機関、知名度の高い運用機関を選ぶ傾向が見られる。人は、複雑な問題に直面した際に、近道をして、時間をかけて複雑な問題を解くことをせずに、答えを導くことがあるが、これによって間違った答えを導くことも多い。その代表例が、過去のパフォーマンスが良い運用機関や知名度が高い運用機関の将来のパフォーマンスは良いはずと考えることである。良い過去実績には理由があり、その理由に必然性があり、将来においても担保されることが確認できれば問題ないが、そのようなステップを飛ばして、過去のパフォーマンスが良い=将来のパフォーマンスも良くなると判断することが問題なのである。
ここでは、2001年11月実施のガバナンス・サーベイにおいて、運用機関の選定基準を過去の運用実績、ブランド、母体との関係、運用プロセスと担当者の質、委託内容との適合性、運用報酬、クライアント・サービスの7項目で合計が100%となるように回答していただいた結果から分析する。
表9は、過去実績を選定基準全体のうちどれだけ重視していたかとパフォーマンスの関係を示している。過去実績の比率が20%以下の場合には超過収益率が年率0.49%であったのに対し、20%超の場合は年率0.39%と年率0.10%の差があり、インフォメーション・レシオも過去実績の比率の低い方が高いという結果となっている。
次に、表10はブランドとパフォーマンスの関係を示している。ブランドを考慮しない場合には超過収益率が年率0.52%であったのに対し、考慮する場合は年率0.36%低く、インフォメーション・レシオも低いことがわかる。母体との取引関係がある運用機関を採用するのと同じように、スポンサーは知名度が高い運用機関を採用することによって安心感を得ようとしていると考えられる。知名度の低い運用機関を採用してパフォーマンスが悪化するかもしれないリスクを取るよりも、知名度の高い運用機関の方が、例えパフォーマンスが悪化しても、周囲の理解が得やすいということであると考えられる。
では、過去の実績、ブランド、母体との関係の三つの合計とパフォーマンスの関係はどうであろうか?
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表9/選定基準のうち過去実績が占める割合 |
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表10/選定において運用機関のブランドを考慮するか |
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表11から、合計値が30%以下の場合の超過収益率は年率0.61%となったのに対し、50%以上では年率0.34%、70%以上では年率0.25%となり、合計比率と超過収益収益率が反比例していることがわかる。また、インフォメーション・レシオも、合計比率が低い程高く、効率性が高いことがわかる。このようにマネジャー・セレクションでは、過去実績の重視等の心理バイアスを可能な限り排除し、合理的判断を行うことが重要であると言える。ただし、代わりに何を重視してマネジャー・セレクションを行うのかが重要である。
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表11/選定基準のうち過去実績、ブランド、 |
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表12は、運用プロセスと担当者の質、委託内容との適合性の合計値とパフォーマンスの関係を示している。合計値が30%以下の場合の超過収益率が0.35%となったのに対し、60%以上では年率0.58%となり、合計比率と超過収益収益率が比例していることがわかる。また、インフォメーション・レシオも、合計比率が高い程高く、効率性が高いことがわかる。ただし、いくら合理的な判断をしようとしても、定性判断の質が低くては、全く意味がない。例えば、無意識のうちに運用機関の営業担当者が行うプレゼンテーションの優劣で委託先を決定してしまっている等が典型的な例である。ここで問題となるのは、運用プロセスと担当者の質、委託内容との適合性という定性判断をスポンサーがどのように行えばよいのかという点である。定性判断は、その質に大きな差がつき、質を高めるには、知識、経験に裏づけされたスキル、時間といったリソースが十分に必要となる。
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表12/選定基準のうち運用プロセスと担当者の質、 |
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各スポンサーのパフォーマンスの相対的な優劣は何が要因なのかという疑問をスタートに分析を行ってきた。
想像していた結果と実際の結果が大きく異なるという部分も多かったのではないかと思う。
厳しい市場環境から、代行返上を含む様々な制度変更やALM等の運用方針の見直しを計画されているスポンサーも多いと思うが、運用を抜本的に見直すまたとない機会であると前向きにとらえていただき、本稿がその際の一助になれば幸いである。
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