【巻頭言】
ネオ・リーダーシップ・ジャパン
ゴーン改革から学ぶ混迷日本のリーダー像

1.
マルチレイヤーリーダーシップ
産業構造の変化による組織構造・リーダー像への意味合い

2.
まずチームから始めよ
チーム・アプローチ入門
あなたも私もネオ・チームリーダー

3.
リーダーシップのつまずく瞬間
米国型リーダーシップから学ぶべきもの

4.
欧州系多国籍企業のリーダー開発
「六つの視点、三つの真実」
欧州から日本は何を学べるか

5.
ミドルの変革リーダーの創造
二つの難題をどのようにして克服するか

6.
リーダーに関する三つの小話

7.
パブリックセクター改革のリーダーシップ
地域経営者としての資質

8.
ペンション・ガバナンス・リーダーシップ

【心理学ゼミナール】
リーダーが「リーダー」ではなくなる日
リーダーシップの新たなパラダイム

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パブリックセクター改革のリーダーシップ
地域経営者としての資質

 

杉浦恵志

 近年、地方自治体で、無党派候補が大勢当選しており、民間出身者も少なくない。閉塞感からいつまでたっても抜け出せない国民が、身近な首長の指導力に抜本的な変革を託す、期待の現れだろう。その期待に応えるには、首長はどんなリーダーシップを発揮すればよいのだろうか。本稿で掘り下げて議論してみたい。

1.住民や企業に見限られる自治体

 地方自治体は、「自治体」という名称にもかかわらず、戦後長らく国によって手足を縛られ、首長がリーダーシップを発揮しようにもできない仕組みになっていた。首長は、国が描いたシナリオにそって、その全般的な指揮監督の下に芝居を演じる、「いい子」の役者にすぎなかった。他方、基礎的な財政需要が一律に算出され、不足分は穴埋めされたので、興行予算を心配する必要はなかった。
 できる首長の条件は、国の補助金がついた事業をできるだけたくさん地元へ誘導してくれる人物である。中央とのパイプや補助金の仕組みに関する理解、有力議員の協力などがあればよいが、とりたてて資質というほどのものではない。しいて言えば、さまざまな利益代表のバランスを取る、典型的な調整型リーダーであった。
 しかし、昨今の構造変化は、画一的な自治体運営を根底から揺るがせている。グローバリゼーションが進み、原材料に限らず、生鮮品やハイテク製品まで海外から輸入されるようになり、生産地域と消費地域の生活基盤に格差が目立ってきた。また、人々は同質的な生活を嫌って独自のライフスタイルにこだわり、地域間のちょっとした違いにも、まったく異なる魅力を感じている。
 そこへ、産業のソフト化と持ち家信仰の崩壊が起こり、住民も企業もずいぶん身軽になって、住み慣れた地域を簡単に見限り始めた。いったんコミュニティができると、それ自体がエネルギーをもち、そうでない地域との格差が加速度的に開いていく。だが、景気の低迷が続き、もはや国には構造改革の痛みをやわらげ、地域の強みを建て直す予算を十分確保する余裕がない。自治体は国からの税源委譲を望んでいるが、納税者から見れば負担は変わらない。

2.首長が経営者感覚をもつ必要性

 自治体が構造改革を進めるには、やはり自力で魅力的な地域を作り上げ、住民や企業を惹きつけ引き留めるしかない。住民や企業を誘致することができれば、生活基盤も安定し、コミュニティが活気づき、ひいては自主財源が増加する可能性も高まる。このような好循環の軌道にいかにして載せるかがカギを握る。
 住民や企業は、あたかも税金で政策を購入する顧客さながらに自治体を選ぶ。パブリックセクターでも、ついに市場原理が機能し始めたのだ。したがって、首長には、自治体間の住民・企業獲得競争に勝ち残るべく、地域を経営する視点が欠かせない。最近の地方分権の動きは、自治体の裁量を広げ、制度的な環境も整った。
 しかし、多くの自治体が経営資源の不足に悩んでいることに変わりはない。地域経営への転換には、大胆に選択と集中をするリーダーシップが求められている。
 例えば、特定の住民や企業に集まってもらいたいのなら、その価値観と相反する特徴をもつ住民や企業に自主的な退出を促すことも考えられる。住民がナショナル・ミニマムの行政に到底満足できないところでは、課税を強化してでも質の高いサービスを提供し、産業規制を上乗せしてでも生活環境を守るだろう。コスト的には、受益者負担やアウトソーシング、コスト削減などでやりくりする。

3.ハードなリーダーシップ

 自治体も、住民・企業の獲得競争を勝ち抜かねばならないと考えると、民間企業におけるリーダーシップの考え方が十分通用するはずだ。ただし、民間企業のリーダーも、これまでは調整型が主流だった。「優秀な」民間人が変革を実現できるとは限らない。
 変革期の首長は、新たな行動を求められ、条例の制定・改廃を試みる。しかし、議会はそれを拒み、首長の行動を妨害することができる。結局有力議員からアンダー・ザ・テーブルの交渉に持ち込まれ、玉虫色の決着になることが少なくない。前任の首長と親しく、旧来の仕事のやり方に郷愁を覚える自治体の幹部職員も、首長の指示に対し徹底して面従腹背の態度を示すかもしれない。
 このような状況では、当面ハードなリーダーシップも必要である。首長になる人物は、まず住民や企業の方を向いた確固たる軸足をもたねばならない。それには、ビジョンを掲げて選挙戦を戦い、正統性を確保する必要がある。就任後にあわててこしらえたものでは、よりどころを欠き、職員や議員の反発にあうともろい。
 ワトソンワイアットでは、民間企業のリーダー選抜に選挙同様の透明性を持ち込んだ、「ビジネス・プラン・プレゼンテーション」という手法を導入することがある。これは、通常の実力実績評価でリーダー候補と認定された人材に対し、試練に満ちた部門長のポジションを与え、期首にビジョンと戦略プランを、期末にその実績について、役員や他のリーダー候補、部下となる管理職の前で発表させるものである。人選に納得感が出るため、強力なリーダーシップを発揮しやすい。
 また、首長は、既存の硬直化したマネジメントの枠組みを、ゼロベースで作り変えることも躊躇してはならない。職員の才能を無用な管理から解き放つと同時に、成果へ向けて適度なプレッシャーのかかる手法を導入する必要がある。
 これまでのマネジメントは、国の制度的要件を忠実に遵守しているかどうかを物差しにして行われた。職務の範囲は決まっているが方向性がはっきりしないので、職員は指示通り無難なことをやり、手続きを逸脱せず、ミスをしなかったかどうかで評価されてきた。
 これからは、民間なみの会計基準や住民の満足度(住みやすさ)指標などを整備し、その達成状況を公開して他の自治体との比較にさらすべきだ。さらに、組織編成を分野別から施策別に再構築して、管理職の人事評価を職場の業績指標に連動させれば、是が非でも目標水準にコミットせよという監視圧力が働くだろう。

4.ソフトなリーダーシップ

 他方、地域を魅力あるものにしていくためには、いくら自治体が頑張って箱モノや制度を整備しても、肝心の住民や企業が動かなければ効果は乏しい。関係者すべてが知恵や労働、資源の面で貢献し、それがダイナミックな相互作用を生じたとき、街は輝き成長する。したがって、首長は、自治体という組織に限らず、地域全体を広義の経営対象と考えるべきである。
 しかし、日本では、住民や企業が積極的に地域/街づくりに関わっていくという意識に乏しい。ハードなリーダーシップは、組織内部のしがらみを断ち、業務の方向性を変えるには有効だが、何もないところから新たな貢献を引き出すには向いていない。そこでは、幅広い参加の必要性を理解してもらい、いっしょに働くよう後押しする、ソフトなリーダーシップが欠かせない。例えば、想像力を駆使して、人をわくわくさせる力などが挙げられるのではないか。

 高知県の橋本知事は、就任した時に、県警本部長から「この仕事は誰にでもできますから、安心してやってください」と励まされたという。地域の経営者は、そんななまやさしいものではない。

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●杉浦恵志 すぎうら けいし/英国サセックス大学科学技術政策研究所にて科学技術政策およびR&Dマネジメントを学び、94年博士号を取得。その後、国際開発センターで途上国への技術移転を、富士通総研でアジア経済や電子商取引の分析を担当。現在は、パブリックセクターにおける実力実績評価制度の導入や、外資が資本参加した日本企業における人事制度のハーモナイゼーションなどに従事。東京大学法学部卒。