【巻頭言】
変革サイエンス序曲
すべては変革実現のためにある

1.
変革の主体を創り出す三つの方法

2.
変革サイエンスの基本アプローチ……
「見」による進化のダイナミズム
事業再生案件を対象とした組織「再生」アプローチ

3.
井の中の「価値源」、大海に出る
日本的なるもののグローバル展開

4.
変革を組織に構造化する
変革の第二弾を推進するための人事制度のあり方について

5.
“人”を起点とした業務改革アプローチ
業務と人事の改革連動の方法論

6.
R&D改革と組織・人材マネジメント
価値源泉モデルの再構築

7.
パブリックセクターの変革事始
最初の一歩の踏み出し方

8.
停滞ベンチャーからの脱却
“死の谷”を克服できる変革DNAを組み込めるか

9.
年金運営の現場と年金改革
始まったばかり。まだ安心してはいけない!

10.
ニワトリを殺すな外伝

【心理学ゼミナール】
変革の鍵「達成動機」
成果主義が社員の達成動機を下げていないか

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R&D改革と組織・人材マネジメント
価値源泉モデルの再構築

 

片桐一郎

 日本企業にとって、価値を生む源泉のマネジメントを再構築することは緊急課題である。すでに伝統的な工場での「ものづくり」は世界、特に中国に拡散しつつある。かといって「ものづくり」を放棄した日本はありえない。そこで、課題となるのはR&D(研究開発)の経営である。
 今まで大半の日本企業は、目に見える規格生産品としてのハードの品質を高める経営に注力してきたためか、創造的な新商品やサービスを生むソフトな経営については遅れているといわざるをえない。
 これから重要なのは、R&Dを従来の「生産の前工程」としての研究開発ではなく、「知的生産物」を創造する事業活動全体ととらえることである。  この知的生産物には「ハード」だけではなくソフト・サービスも含まれる。この新たに再定義したR&Dの経営を再構築するために不可欠な、組織・人材のインフラとマネジメントについて提言する。

1.R&Dインフラの再構築

1-1.組織インフラの再構築
プロセス割り組織からの脱却
 今や、基礎研や中央研から発想するのではうまくいかない。どういう商品を作りたいか、そしてそれに使える技術シーズはどのようなものがあるか、シーズとニーズの中間に立ち方向を定めるマネジメントが重要になっている。したがって基礎・応用・開発とR&Dの段階を直線的(リニアプロセス)に分けて組織分担するのはうまくいかない。基礎・応用・開発と考えると初めにどうしても技術シーズを育てるという発想になるし、たとえ技術シーズがあったとしても、それがどういうマーケットを生むかという点に力を注げなくなってしまう。
 R&Dは最終アプリケーションのビジョンを実現するために、どういう技術課題を解決しなければならないか、というビジョンドリブンで運営されなくてはならない。もし面白い技術シーズが生まれたとしても、それが適用される商品をすぐ思い描くべきである。
 かといって基礎研究が不要になったわけではない。今は商品開発自体に基礎研究力が要求される。これは「ブレークスルー(限界突破)技術」というべきものであって、今やアイデア段階から生産、そしてマーケティングや品質問題解決まであらゆる局面にブレークスルー技術が要求されている。要はブレークスルー技術を持つ個人あるいはチームを、課題のある現場で機能させられるかということである。

スタジオとマトリクス組織で
 知的生産物を生み出す組織は、マトリクス型組織になる。自分の専門を持ちつつ、商品開発や機能横断的(クロスファンクショナル)な課題解決チームに所属することは当たり前になっている。
 また、新しい商品やサービスのアイデアを生み出すのは、専門を狭く掘り下げていくよりも、別の分野の人との協働が刺激となることが多い。したがって創造型組織が、単純事業部制や単純機能型組織をとらずにマトリクス型組織となるのはもはや常識である。
 マトリクス組織には、古典的な「ダブルボス問題」(私には上司が二人いるのでどちらの命令を聞くべきか混乱する)が言われているが、これからの創造型組織では、自律的な「マトリクスマインド」(多様な関係者に発信して同意を得る)をもったプロフェッショナルで構成されるので「誰かの命令」で仕事をする人とは、根本精神が違うため、ダブルボス問題は発生しにくい。
 また、これからは、中央研や基礎研のような大型組織でなく、少人数のユニットがそれぞれの開発テーマを担当しつつ、有機的につながる組織になる。あえてたとえれば、巨大な単細胞よりは、多数の細胞がネットワークでつながるほうが、環境対応力や知的生産力が強いという考え方である。この少人数のユニットは、最大50人程度、すなわち硬直的な組織や人事制度に頼らず、メンバーとリーダーが創造活動に専念できる大きさである。
 シリコンバレーにあるIDEOという工業デザインの会社では、「スタジオ経営」と呼び、50人ほどのスタジオが12ヵ所に分かれていた。人数が増えるに従ってスタジオが増殖してきたのである。このスタジオをつなぐ、知恵の共有システム(ITはむろん、具体的デザイン事例の共有)を持つ、創造組織体の良い例である。

1-2.人材インフラの再構築
典型的成果主義からの脱却
 R&Dに普通の成果主義型人事制度は合わない。特に問題となるのは目標管理である。評価の客観性を上げようとして、目標設定を厳密にしようとすればするほど、R&Dの活性化からは遠ざかってしまう。
 年度初めの目標設定で、目標項目ごとに、それぞれの難易度、ウェイトなどを設定し、年度末にそれぞれの目標達成度を評価し、その度合いによって昇給や賞与を決めるのは、創造型組織に対する典型的な「失敗管理」である。
 創造に挑戦するプロフェッショナルは、最初から予測できる課題に取り組んでいるのではなく、実際には様々な課題が頼りになるプロに降りかかってくるのだ。
 こういうプロにとって、どんなブレークスルー課題が発生するかを初めに予測することは困難である。 こういうプロに、精緻な目標管理を押し付けると、やる気をそぐか、適当に無視されるか、目標を低くして達成度を高めようとするか、のどれかになり、いいことは何もない。
 創造のプロに対しては、安易な目標管理をするのではなく、きちんと実績を評価して翌年の期待を伝える人材マネジメントが求められているのである。

図1/R&Dメンバーのインセンティブを考える切り口

技術者のインセンティブ
 近年、企業の発明者が、自分の特許の対価が少なかったといって会社を訴える例が増えてきた。今までは特別な発明に対する報酬は少なすぎたとはいえ、単にその上限を上げればよいのだろうか。図1に示すようにR&Dメンバーへのインセンティブにはいろいろなオプションがありうる。
 ひとつ確かなのは、R&Dには短期インセンティブはそれほど有効でないということである。ストックオプションは、それが費用として計上されるようになりつつあるのと、公開会社しか有効でないという限界がある。
 これからは成果を挙げた研究者には自由予算裁量や時間(サバティカル休暇など)のインセンティブを考えるべきだ。好きなことができる、というのは優秀な研究者にとっては最高の自己実現の機会になるはずだからである。

上司評価から多面評価に
 商品イノベーションは単独、孤立した組織からは生まれない。したがってR&Dの組織はマトリクス型、クロスファンクショナルチーム、プロジェクトチームなど違う組織機能や異なる専門分野の人との共同作業が多くなければならない。しかし、人事評価は所属している上司がしている。上司と言いながら対象となる人はプロジェクトにかかりっきりで上司がわからないケースがある。さらに上司よりも専門分野について深く知っている技術者がいる場合、上司が自信を持って評価できないことがある。
 知的活動をするR&Dの組織の構成員によるリーダー評価はかなり有効である。昔から米国の大学では生徒が先生を評価することがその先生の講義が終わった時点で行われていたが、これは教える側にも有効な情報を提供する。
 ある研究所で意識度調査(その一部としてリーダー評価)を行ったことがあるが、その結果わかったのは、所長にまったく人望がないということであった。この所長の存在自体が皆のやる気を奪っていたのである。
 その所長は社長には部下に示すのとまったく違う顔を見せていた。それで社長には実態が伝わらず、また部下たちも社長に直訴するわけにはいかず、なんとも停滞した空気が感じられた。
 その会社の社長はこの調査結果をもとに、その研究所長の交代に踏み切り、研究者のモチベーションは急回復した。
 R&Dの定期的健康診断として、リーダーの360度調査や意識調査は有効な手段である。

2.組織・人材マネジメントの再構築

 以上のようなインフラを用意した上で組織・人材をダイナミックに再構築すべきだ。R&Dのマネジメントでは、What(何のテーマを)・Who(誰が)・How(どのように)が強く結びついている。

2-1.U字マネジメントとビジネスプランの導入
 R&DのマネジメントはU字にたとえられる。テーマの開始と終了、あるいは次の段階への判断は経営が強くコミットしなければならないが、いったん決めたテーマの進め方に関しては担当チームに口を出さないというマネジメントである。
 最初にはどんなテーマに取り組むのか、その開発商品はどういうメリットをもたらすのか、自社独自のノウハウになるのか、これをいろいろ吟味しなくてはならない。また商品化のめどが立ったとき、どんな売り方、広告、生産台数にするのかをトップが決断しなくてはならない。一方残念ながら開発を断念する場合は、テーマの止めさせ方に気を配り、モチベーションを落とさないため注意が必要だ。
 このU字マネジメントを機能させるために、ビジネスプランという場が有効である。経営者の判断の参考になるように、R&D担当者が、自分の技術シーズと商品化について「事業の視点」からプレゼンを行うのである。アメリカの大学の教授の重要な仕事は、こういうプレゼンを熱心に行い予算を獲得することである。民間企業のR&D担当者も当然同様の行動が求められる。これからの研究者は黙っていても仕事は与えられると思っていてはいけない。
 このビジネスプランはテーマの担当リーダーに事業センスを持たせるのにも役立つ。また面白いことに評価する側の「目利き力」も同時に検証できる。

2-2.人材ポートフォリオの作成
7:5:3の成功確率分布と6:3:1の予算分配
 企業がR&Dテーマと予算の振り分けを決める際には、70%以上の確率で開発するものに60%の予算、50%の確率のものには30%の予算、30%以下のものには10%の予算という考え方がある。これはある半導体メーカーの場合であるが、企業のビジネスモデルによって多少の差はあるとはいえ、この比率は企業のR&D経営の実感に近いのではなかろうか。
 予算は大体人件費に比例するので6:3:1が求める人材タイプになる。これが大体人材ポートフォリオになると考える。つまり組織の6割は確実に仕事を進める専門家、3割が挑戦テーマを持つ高度なプロ、そして残り1割がセレンディプティを発揮する独創人材である。
 組織というのは全員が独創人材ばかりだと、社会的価値のある商品は生み出せない。しかし、1割ほどは独創的な仕事で成果を上げられる可能性の高い、「セレンディプティ」を持つ人材が不可欠である。

2-3.セレンディプティのアセスメント
セレンディプティとは
 セレンディプティとは、他の人が何気なく見逃している現象を見て、そこにブレークスルーのヒントを得る能力である。技術のプレークスルーにはこのセレンディプティが発揮されていることが多い。
 いくつかその例をみてみよう。
 バブルジェットプリンターというプリンターがあるが、この原理は細いインクの元を熱してその気泡が膨張するのを利用する技術である。この方法はある日技術者が作業に使っていた半田ゴテを立てかけておいたのが外れて、インクの入っていたチューブにたまたま当たってインクがとび出したことを目撃したことがヒントになった。
 別の例としては、自動改札機で切符を斜めに入れられると、機械が巻き込んでしまうトラブルを解決するテーマに取り組んでいた技術者が、日曜日に息子を連れて川釣りに出かけ、何気なく川面を見ていたときに、笹が流れてきた川面に出ている石にぶつかり、流れながら石のまわりを回転して流れていくのを見た。そのときいま見た動きが、切符の巻き込み防止に使えるとひらめいたのだ。技術者は出社するとすぐにこの着想に基づき、切符を送るベルトを川に見立て、岩にあたるゴムの回転体を設計してみごと問題解決したのである。
 これらの例は典型的なセレンディプティである。普段だったら見過ごしている現象に、本質的問題解決のヒントを感じるのだ。
 なぜこのようなセレンディプティが発揮されるのか、それは「とことん」考え抜いて、いったん「抜いた」状態にすることが脳を活性化するからではないか。つまり、様々な形で人間の頭に集積された知恵の断片が、いったん無意識の状態になったとき、開放された情報が、脳のシナプスを経由し、いろいろな形で自然に結びついてあるイメージを形づくるからであろう。
 ひらたく言うといつも考えていることである。会社はむろん、通勤電車、スポーツをしていても、何か「気にしている」ことである。
 仕事と遊びを割り切り、仕事を離れたら仕事のことはすっぱり忘れるという人はセレンディプティを発揮しないであろう。
 遊んでいても、無意識に問題解決が頭に引っかかっている。そういう人にブレークスルーの神様は微笑むのである。

セレンディプティのアセスメント
 通常のアセスメントと違うのは、基本的な地頭の良さを前提とするものの、着眼点やひらめきを生むセンスに着目する必要がある点である。
 ブレークスルーは報われないかもしれない努力を長期的に続ける覚悟がいる。したがって、その個人の動機の源泉も重要だ。
 それは怒り、悲しみ、好奇心、物欲など様々であろう。ある研究者は自分の母親がアルツハイマー病になったのを見て何とかしたいと思ったのが、新薬を開発する間の動機の源になったと言っていた。
 「本質直感」というコンピテンシーも重要である。これを見ようとして過去の行動を「探索インタビュー」するだけでなく、アドリブテストを行う会社もある。

2-4.R&Dのリーダーシップ
目利きのリーダーシップの確立
 R&Dはトップ次第である。セレンディプティを発揮できる探求者、技能のスペシャリスト、製造のプロなど様々な人材を活かすも殺すもトップ次第である。R&Dに限らないが日本の組織はトップの評価が甘すぎる。R&Dのリーダーが果たすべき次の四つの責務について検証しつつ、「目利きのリーダーシステム」を確立すべきである。

@生む人・育てる人・伸ばす人の分担決定
 R&Dリーダーはテーマと人のマッチングを判断するだけでなく、事業の視点から開発のステージを分けて、それを分担する人を配することが重要である。この分担は、ゼロから新技術を「生む人」、新技術をまとめて第一世代に「育てる人」、そして商品をバージョンアップしたり事業モデルを大きく組み立てて事業として「伸ばす人」の大きく三つの役割に分けられる。この役割はそれぞれ要求されるコンピテンシー(思考・行動特性)が異なるため、一人ですべてできる人はまれである。リーダーはこのステージと人の特性をにらみつつ、適正な人を選び、前ステージの立役者とのスムーズな交代を実現しなければならない。(図2)

図2/R&D人材のバトンタッチ

A 独創型変人のパトロン
 「変人」だからブレ−クスルーをするわけではないが、大きなブレークスルーを成し遂げる人の中には「変人」が確かにいる。青色ダイオードを発明した中村氏は、開発期間中、会社の会議を無視し、電話にも出なかった。それを当時の社長が認めている間はうまくいっていた。あるいは富士通で初めて日本製コンピューターを作った岡田氏は会社にも出てこなかったが、当時の部長たちが盛りたてて開発に専念できた。
 組織の常識に反するこういう人に対する周囲(特に人事部)の反発は大きいが、独創を発揮するこのような非常識人をかばうパトロンが必要で、その役はリーダーにしかできない。

B刺激のデザイン
 創造のための組織・人材インフラを整えたら様々な刺激を人に与えなければならない。この刺激はチーム間の情報共有化の場の設定であったり、顧客や事業部との意図的接触である。研究所を社内や地域に開放する「オープンハウス」も刺激になってよい試みである。素人にわかりやすく説明するよい訓練になるし、他の研究室が何をしているか知るチャンスでもある。こういう場のリード役を務めなければならない。
 ある材料の会社で研究所の活性化プロジェクトを行っていたとき、リーダーが研究者チームに事業部営業と話をさせる機会を何度も持たせた。初めは営業側からの訴えをいろいろ研究側が聞いているだけだったが、何度も話を繰り返すうちにある研究者が、自分の持っている技術をこう応用したらという着想が出てきて、すぐ開発テーマ化され、性能を大幅に向上させた商品が開発できた。これも意図的にニーズとシーズの出会いの場を設定したリーダーの貢献である。

C創造のコミュニケーション
 R&Dでは「形式」や「権威」によるコミュニケーションは禁物である。R&Dトップは個人の自尊心を尊重したコミュニケーションに最新の注意を払うべきだ。
 「失敗は貴重な経験」は確かなので、その情報共有会をするのはよいが、それもリーダーの仕切り方次第である。ある会社ではせっかくの失敗共有会が偉い人の前での懺悔の場になってしまった。それは場を仕切るリーダーのちょっとした一言とフォローの無さが原因であった。
 また総じてR&Dメンバーは自尊心が強いので良いリーダーは気を配っている。ヒューレットパッカードの創業者は、技術者と会話するときには、「感心」「質問」「判断」と三つのモードを順番に使い分けることで、たとえテーマの中止を経営として判断するとしても、その前の気配りのコミュニケーションがあったので技術者のモチベーションは維持できたそうである。
 地位でなく「知威」でウィットに富むコミュニケーションができなければR&Dのリーダーは務まらない。

卵より鶏が大事
 R&Dのマネジメントとしては、このような責務を果たすリーダーが持続するようなシステムを確立せねばならない。難しい課題だが「卵か鶏か」といえば、最初に鶏が必要である。
 独創的な研究成果を出した人をみると、師匠と弟子という関係が連続していくのが見られる。「独創の系譜」が続いていくのである。日本でこの系譜が見られるのが東北大学である。材料と電気・電子分野で脈々とした独創が息づいている。遡ると原子モデルの長岡半太郎氏、八木アンテナの八木教授、KS鋼の本多光太郎氏、光ファイバーの西沢潤一氏、今回ノーベル賞の田中耕一氏らがその伝統を体現している。
 伝統を作り維持する師が弟子に、その弟子が師になるという関係が続いているのである。
 独創的な発明をした人にあこがれて若手技術者・研究者が集まるのは研究開発の世界ではよく起こることである。ただし師がいつも弟子を育てるとは限らない。
 半導体を発明したアメリカの有名な科学者ショックレーは、研究者としては半導体という20世紀後半の技術の大発明をしたが、リーダーとしては成功しなかった。彼のもとに集まった若手研究者がショックレーの人格に失望し、別れて会社を作った。そのひとつがロバートノリスの創業したインテルである。無理にショックレーに従わずに独立できたのはアメリカらしい。
 研究所の所長に「学者的」人材を持ってきてうまくいかない例もよくみられる。R&Dリーダーとして人、テーマ、ビジネスに関してセンスがある人(個人ですべてカバーできなければチームで)を持ってくることが第一である。

審判(ジャッジ)としての訓練
 しかしリーダーシステムとして継続するにはR&Dリーダーの開発も必要である。R&Dのリーダーには、商売・技術・人材という三つの目利きとなってもらいたい。そのためには判断の妥当性を審査するシステムが有効である。
 自分の判断がどのくらい妥当であったかを検証できなければ、どんな優れた才能があっても伸びない。またどんなに優れた判断をしていたリーダーでも、判断の「打率」が下がってくることがある。
 こういった傾向を事実としていち早く察知して、リーダーの適正判断を常時行うシステムが是非必要である。こういう検証システムがないと、ただでさえ偉大なリーダーの「伝説化」「神格化」が進みやすい日本の組織では、昔はあった創造力の停滞・減少が起きやすい。
 環境変化に対応して、次々とR&Dのリーダーの鶏が育ち、卵を産むシステムを作らなければならない。
 ではどうやって審査するシステムを作るか。それは実行と審判の力を分けてとらえるべきだ。我々は優れた経営者を、事業実行や評価の両面が優れたスーパーマン(ウーマン)とみなしがちだが、実行力と評価力は別の能力である。ちょうど画家と画商、作家と評論家、プレーヤーと審判が分かれているように。
 この審査するシステムは、リーダーの先見性や責務の遂行度を定量的にとらえる一方、審判力自体のレベルも検証するのである。もし審判力が衰えたら審判ライセンスが更新されないという考え方である。大相撲で優勝できない横綱が引退せざるをえないこと、行司差し違えを繰り返した行司も辞めざるをえないことと同じである。
 このようなリーダーシップの妥当性を検証する仕組みが機能して、知的生産物のものづくり力が持続するのである。ある会社(創造的なメーカーだと世間には思われているが)は、役員に対してこの審判力向上を目指した活動を始めている。こういった企業が現れたのは日本の将来にとって嬉しいことである。

まとめ

 日本企業は「高品質規格品」から、事業全体を通じた「知的生産物」のものづくりを行う組織・人材マネジメントへの転換を急がなければならない。そのために安易に成果主義を適用するのではなく、組織・人材インフラを創造の場とし、独創性(セレンディプティ)のある人材が、目利きのリーダーによって活かされる組織システムを導入すべきである。それができれば日本企業の新たな潜在力を引き出せるであろう。

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●片桐一郎 かたぎりいちろう/コマツ、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経てワトソンワイアット株式会社入社。戦略・組織・人材を一体ととらえた21世紀型企業モデルの実現に向け、海外を含むクライアント企業に対し幅広いコンサルティングを行っている。M&Aや企業再生にも参画。研究所活性化のような創造型組織モデルへの変革を持続的に実施。東京大学工学部卒。スタンフォード大学工学部大学院修士課程修了。