【巻頭言】
変革サイエンス序曲
すべては変革実現のためにある

1.
変革の主体を創り出す三つの方法

2.
変革サイエンスの基本アプローチ……
「見」による進化のダイナミズム
事業再生案件を対象とした組織「再生」アプローチ

3.
井の中の「価値源」、大海に出る
日本的なるもののグローバル展開

4.
変革を組織に構造化する
変革の第二弾を推進するための人事制度のあり方について

5.
“人”を起点とした業務改革アプローチ
業務と人事の改革連動の方法論

6.
R&D改革と組織・人材マネジメント
価値源泉モデルの再構築

7.
パブリックセクターの変革事始
最初の一歩の踏み出し方

8.
停滞ベンチャーからの脱却
“死の谷”を克服できる変革DNAを組み込めるか

9.
年金運営の現場と年金改革
始まったばかり。まだ安心してはいけない!

10.
ニワトリを殺すな外伝

【心理学ゼミナール】
変革の鍵「達成動機」
成果主義が社員の達成動機を下げていないか

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パブリックセクターの変革事始
最初の一歩の踏み出し方

 

杉浦恵志

拝啓、後戻りできない改革派首長の皆さまへ

 うちの役所を何とかしたいのに、どこから手をつけてよいのか見当もつかない、なんてことはありませんか。あるいは、すでにいろいろやってみたけれど、どうもしっくりこないとか。有識者が宣伝する変革の道具立てや、先進自治体の体験談はたくさん出回っているのですが、手間ヒマかけて書式を整えている割に、成果のほどはあまり伝わってきません。うちは出遅れているからと、焦る必要はまったくありません。先頭集団に追いつき追い越すことは、やり方次第でいくらでも可能なのです。

道具立てから入るのは、いかがなものでしょうか

 皆さまもよくご存知のように、変革を進める強力なテコとして、行政評価が注目を集めています。既存の事業を見直したり差し替えたりする前に、まずちゃんと評価しなければと思うのは、何となく理屈が通っているような気がします。そして、あらゆる事業を同じものさしで比較して優劣をつけましょう、成績の下の方から予算を削っていきましょう、という具合に話が展開します。これが、事務事業の総点検です。
 総点検では、通常以下のような観点から評価がなされます。

1)期待通りの成果が挙がっているか。
2)ミッションの実現に寄与しているか。
3)民間の活動に委ねることはできないか。
4)他の方法より費用対効果が優れているか。
5)他の事業に優先して取り組む必要があるか。

ところが、担当者から出てきたコメントを見て、評価が見事なまでに骨抜きにされたことを悟り、ガク然とするのです。

1)住民の関心が高まり、幅広く認知された。
2)より大きな課題に目を向ける契機となった。
3)自治体が所管の施設でやることになっている。
4)問題を総合的に対処する上で、欠かせない。
5)事態は悪化しており、緊急に対応する必要がある。

 まるで「やることになっているんだから、ムダなものなどあるはずないじゃないか」とでも言いたげな様子です。
 なぜ、こんないい加減な結末になるのでしょうか。評価を指示する管理部門は、期待される成果やミッションの中身について、深く考える材料も余裕もなく、そこに手間をかける意味すらあまり感じていません。求められるのは、異なる事業を比較するもっともらしい理屈であって、判断の正しさではないのです。事業部門は、本来「正しさの基準」をまじめに考えてしかるべきなのですが、やらされる評価ですから適当に済ませようとします。しかも、昔からやってきたことを否定したくないという気持ちが自然と働き、管理部門も予算を認めた時点で同じ船に乗っています。
 このように、事業を評価単位とする限り、どうしてもミッションの中身にまで光があたらなくなってしまいます。
 そこで、ミッションから出発して、その達成手段となる事業を連鎖的に導き出すために、バランス・スコアカードのような経営ツールの導入を検討する自治体が増えているようです。しかし、役所が手法にこだわると、「雛型通りにやらなければダメです」と管理部門が事業部門を牽制したり、そもそものミッションが戦略的に設定されていなかったりして、現状維持に陥る可能性があります。
 ツール依存症の患者たちは、「本当は、導入プロセスにおける分析や議論が大事なのだ」と口々に言いますが、プロジェクトチームに人を得なければ、まともな分析や議論はできません。逆に、熱い思いに燃える優秀な同志が集まってくれれば、特に小規模な自治体の場合、もっとずっと簡便な方法で重要課題を絞り込んでも、なんら支障はありません。

最初に、思いを分かち合う同志を見つけよう

 同志を、長年気心の知れた元同僚や、精いっぱい自分に尽くしてくれる腹心の中から選びたくなる気持ちはわかります。しかし、ちょっと待ってください。あなたの自治体は、改革が待ったなしの状況です。彼らには、心の底から協力する気持ちがあるのでしょうか。しがらみを断ち切る勇気があるでしょうか。最後までやり遂げる力量が備わっているでしょうか。ワトソンワイアットでは、以下の方法であなたの真の同志を発掘する、「人材の目利き」支援を提供しています。
 あなたは、できるだけ多くの管理職に会って、価値観や仕事の進め方について話を聞きます。候補者の選抜は、管理部門に任せっぱなしにせず、自分が信頼する複数の人物から推薦を受けた者ということにしておけばいいでしょう。自治体の規模が大きくなると、カバーできる範囲に限界がありますが、最初の頃に見い出した人物に自分の代理をさせることも可能です。
 具体的には、過去に取り組んだ課題(やりがいのあった仕事、あるいは成果を出すのに本人の貢献が決め手になった仕事がよいでしょう)と現職での取組方針について、候補者に1人1時間ほどのプレゼンをやってもらい、以下の点を確認します。

1)本人が率いる(た)部門のミッションを、状況や上位目的と関連づけて
  論理的に説明できたか。
2)その説明は、あなた自身や住民など利害関係者の立場で聴いていて
  も、納得がいくものであったか。
3)その部門が主管する事業について、ミッションに貢献する道筋と将来
  的な見通しを論理的に説明できたか。
4)担当者(部下)が事業成果をミッションに照らして把握するよう、徹底
  した意識づけを行っていたか。
5)部下のおみこしに乗っかるのでなく、自分にしかない強みを発揮して
  部門ミッションに貢献したか。例えば、庁外を出歩いて新たな人脈を
  構築する、先進的な事例に意味を与えて情報共有する、押しが強く
  部下の退路を断つ、一見関係がないような情報をつないで総合的な
  判断を下す、などのアクションやものの見方を、具体的に紹介できる
  か。
6)修羅場を潜り抜けた経験があるか。普通ならつらいと思う場面でも、
  仕事を楽しんでやっているように見えたか。
7)取組課題や本人の行動、ものの見方から、職位に見合った目線の高
  さや視野の広さが感じられたか。

 こうして、あなたの眼力に適う人物が何人か見つかったら、経歴のバランスにも配慮しつつ、首長直属のタスクフォースを立ち上げます。その目的は、複雑な利害調整ではなく、重要課題の絞り込みと責任の所在の明確化、取組過程における部門間の連携強化、部下に意識変革を迫るマネジメント・ノウハウの共有などです。納得のいく絞り込みが完了したら、タスクフォースは表向き解散し、そこでの実績を踏まえて、各メンバーを重要課題の実施に責任を負うリーダーとして配属します。リーダー間の親交は、その後も非公式に続くことでしょう。
 タスクフォースの設置には、当然のことながら守旧派の抵抗が予想されます。もちろん、三役や部局長が勢揃いする、従来型の調整会議が機能を停止するわけではありません。各事業の進捗状況を監視するのは、従来通りこちらの枠組みで処理されます。しかし、重点課題の絞込みが邪魔されるようになったら、それらに正面から取り組まないことのリスクを理詰めで説明し、不作為の結果責任を負ってもらうように念を押して、黙らせてしまいましょう。
 このプロセスが確立されるにつれ、企画部門の役割も劇的に変化していくことでしょう。今後は、各事業部門の企画立案に対して、手続き面の支援を提供する他、職員が企画に必要な知識やスキルを身につける「育成道場」として位置づけられることになります。

選ばれたリーダーが、現場の変革をやり遂げます

 さて、ここから先は現場のリーダーたちを信じて鼓舞し、事業実施の障害を取り除いてやるのがあなたの仕事です。リーダーには、一般的な原則や方針ではなく、現状を直視してどうしたらミッションを実現できるのか、純粋に考えてもらわなければなりません。リーダーがその場しのぎの考えを出してきたら、即座に差し戻す厳しさも求められます。
 課題をゼロベースで見直すことができたら、あとはそれをやりきるだけです。この段階で、初めて評価が重要になってきます。リーダーは、個別事業がミッションに貢献する道筋に照らして、その実現度を測定する適切な指標と最終的な達成水準、それにこの1年間でどこまでやるかを決定し、あなたや他のリーダーとその妥当性について話し合います。そして、是が非でも部門目標を達成できるように、本人や部下の個人目標を連動させていきます。
 私のお会いした範囲に限られますが、公務員には実績評価を敬遠する傾向があり、実力を具体的に診断するコンピテンシー評価が流行の兆しを見せています。けれども、本当の問題は、予算を獲得するまでの論理構成に精力を使い果たし、それをやり遂げることに関心が乏しいことではないでしょうか。例えば、ミッション指向性の強さが実力公務員の証のように言われていますが、その中には大風呂敷を広げ尻すぼみになる職員も混じっていると思います。
 また、評価基準は客観的な数値でなければならない、という議論も根強くありますが、必ずしもそうではないと思います。行政の手段と結果(アウトカム)の因果関係は、民間企業に比べると一般に間接的なので、効果が現れるのに時間がかかります。重要なのは、事態が正しい方向に向かっていること。イベントの回数や参加人数を評価したところで、何もわかりません。
 そこで、事業がミッションの実現に貢献する道筋(仮説)について、住民など利害関係者にもわかりやすい言葉で説明し、その論理的整合性や仮説通りの進捗状況を広く公開して、彼らの納得感が得られたかどうかを検証します。すなわち、事業が役所の自己満足に陥らないように、説明責任(アカウンタビリティ)を徹底的に果たしていきましょうということです。事業体系の大掛かりな再編が困難だとしても、このように説明責任をはっきりさせるだけで成果につながった事例は、民間にも事欠きません。
 では、なぜ最初から評価を入れなかったのでしょうか。それは、管理部門主導で庁内共通の評価を行うと、ミッションとの関係があやふやになってしまい、最初に述べたように何とでも書けてしまうからです。なぜこの部門は存在するのか、何のためにこの仕事をしているのか、ミッションがはっきりするまで、それを一番見事に表す評価指標を選ぶことはできません。
 これまでのお話でわかっていただけたと思いますが、最初の一歩は決して道具立てではありません。私の友人の中でも、企画・管理部門の公務員は特に勉強好きで、アルファベット3文字のツール類について、重箱の隅をつつくようなところまで知り抜いています。しかし、変革のカギは、優秀で「熱い」リーダーをバランスよく人選するところから始まります。すでにいくつかの自治体が、私どもと一緒に変革の大海原へと漕ぎ出しています。さあ、あなたも一緒にやりませんか。

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●杉浦恵志 すぎうらけいし/英国サセックス大学科学技術政策研究所にて科学技術政策およびR&Dマネジメントを学び、94年博士号を取得。その後、国際開発センターで途上国への技術移転を、富士通総研でアジア経済や電子商取引の分析を担当。現在は、パブリックセクターにおける実力実績評価制度の導入や、外資が資本参加した日本企業における人事制度のハーモナイゼーションなどに従事。東京大学法学部卒。