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【巻頭言】 |
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新日本型成長組織
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中島 正樹 |
最近「成長戦略が思ったように軌道に乗らない」という声を耳にする。「市場の緩やかな回復に乗って、足元の売り上げは拡大し始めた。問題なのは、次の収益拡大のための戦略も実行プランも作ったのに、それが思ったように立ち上がってきていないことだ。一体、我が社の現場はどうなっているのか」。トップマネジメントの焦りと不安がその裏にある。
リストラの繰り返しによって、ようやくコスト構造の是正にこぎつけた多くの日本企業の命運は、今後収益を伸ばすための新たな成長戦略を成功裏に実施できるかどうかにかかっている。今このタイミングでの「成長戦略が軌道に乗らない」というコメントは、将来に対する極めて深刻な課題の存在を示唆している。
実際に注意深くその内容を見ていくと、描いた「戦略」そのものに深刻な問題があるわけではないようだ。むしろ、それを実行に移す「組織」のほうに問題があるケースのほうが多く見られる。つまり、日本企業の組織が戦略を実行する能力が著しく落ちてきているのである。
「失われた10年」を何とか乗り越える間に、日本企業の組織が内部から壊れていく状態が続いている。80年代、米国を中心とする海外の経営者・学者からも賞賛された日本の企業組織の強みは、すっかり劣化が進み、以下のような組織の課題が深刻化してきている。
(1)「経営」と「現場」の断絶
日本企業の強みであった「ボトムアップ」はそれを支えてきたミドル層の弱体化により機能しなくなってきている。
リストラによる雇用削減と新規雇用の極端な絞り込みは、ミドル層が担当する事務処理の工数と複雑さを急増させた。一方、右肩上がりの事業拡大の中で若手にマネジメント経験を積ませることが比較的容易であった大企業の組織は、一変して慢性的なポスト不足の構造となり、ミドル層をマネジメントとして育成する機会が大きく失われた。つまり、ミドル層を成長させる仕組みが、業務の繁忙と組織構造の変化によって組織の中から構造的に失われたのである。
さらに問題なのは、このミドル層たちが、マネジメントの仕事の代わりに事務処理を「効率化」するための社内調整やそのためのルール作りに時間をますます使っていることである。社内に細かく張り巡らされたルールと事務手続きは、社内の合意形成を一層複雑にし、ボトムアップによる意思決定のスピードをさらに落とす結果を生んでいる。
ミドル層の弱体化は、日本企業の組織の中で「経営」と「現場」との断絶を生む。「経営」が市場動向を大局的にとらえ、あるべき方向性を「現場」の動きに反映させようしても、また株主からのプレッシャーの深刻さを伝えようとしても、スキルと時間の足りないミドルたちは、「経営」からのメッセージを正しく理解できないか、たとえ正しく理解できても、即座に反応して「現場」の動きに変えていくことができない状態に陥っているのである。
(2)「現場」の崩壊
総賃金の圧縮と個々人の業績向上へのプレッシャーを目的とした「成果主義」は、多かれ少なかれ「年功序列」によって支えられてきた現場での秩序と平等意識を崩壊させた。特に「現場」では、短期的な業績改善は達成できても、長期的には全体の生産性を落としてしまうような深刻な影響も現れ始めている。
例えば、ある企業では、成果主義的な評価制度を導入した結果、現場の営業や企画マンが「社長プレゼンテーション」のみに注力するような個人的なスタンドプレーが横行してしまった。また、それが運悪く評価されてしまったことで、現場での横の協力や情報・ノウハウの共有が進まなくなり、現場グループ全体の効率を落としてしまうような事態を招いている。
(3)「企業DNA」へのこだわりの希薄化
多くの企業で創業時からの独自の精神が希薄化している。独自の製品やサービスに対するこだわりが弱くなってきたことがその主要因だが、「終身雇用制」によって支えられてきた社員の忠誠心とモチベーションの低下がそれに拍車をかけている点も見落とせない。
高度成長期には企業の存続と成長の必要条件であった「終身雇用制」の放棄は、日本企業にとって今後必要なミドル層の忠誠心やモチベーションを、国際的な水準から見ても低いレベルまで下げる波及効果を生んでいる。会社のDNAに飽き足りない個人が自分自身のDNAの発露を模索して広範に行動し始めていることが、転職の引き金となる「キャリア志向」の強まりの向こうに透けて見えている。
これらの課題の要因は、戦後、日本企業が急成長する市場の環境になんとか適応しようと導入した人事制度や組織構造が生み出していた特長が、90年代以後の環境変化に対応すべく実施された制度の改廃や組織構造の変化の中で消えていったが、その一方で、新たな成長を生み出していく組織がいまだ十分に構築できずにいることにある。したがって、組織が機能劣化した日本企業にとっては、21世紀の市場環境に適合する新たな組織の〈かたち〉を生み出すことが、成長のための重要課題となってくるのである。
それでは、今後の成長を生み出す組織とはどのような〈かたち〉なのだろうか。そして、それはどのような仕組みや制度によってデザインできるのだろうか。
「成長戦略」を実行するという観点に立てば、アメリカ型のアプローチで設計される組織の〈かたち〉になるだろう。つまり、「戦略に合わせて組織を設計する」というアプローチである。しかし、この「論理的」なアプローチは、全く新規に立ち上げる会社か、これから再生する会社を除けば、多くの日本企業の現状に適応するとは言い難い。前号のワトソンワイアットレビューでも述べた通り、「戦略」の有効期限がますます短くなっている上、ミドルを含むマネジメント層の流動性という必要条件が、少なくとも日本国内では、まだ十分に整わないからだ。
我々は、日本企業を取り巻く市場環境と日本企業の組織に根付く固有の特性を踏まえた上で、新たに独自の組織の〈かたち〉をデザインしなければならない。そのために、ここではまず、日本での企業の歴史的な成り立ちや日本人自身の特質に立ち戻って、主な固有の特長を確認しておこう。
(1)差別化の源泉=〈人〉を軸とする企業の成り立ち
国内に限らず、世界のどこでビジネスを行おうと「差別化」が成長の要件であることは言うまでもない。労働力も資金も希少資源ではなくなったグローバル経済の中で、差別化の源泉は〈人〉である。独自の技術やノウハウの開発、様々な情報や知恵を統合するネットワークは最終的には〈人〉に帰着する。
それでは、〈人〉が差別化に向けた力を発揮しやすい組織のかたちとはどのようなものだろうか。
日本企業の成り立ちは、自分がやりたいことをやるために仲間を集め、組織をつくり、その成長のために資金が必要であれば株主を募るというものであり、株主よりは組織の維持と成長を重視してきた。一方、アメリカ型の企業の成り立ちは、株主の利益最大化という究極の目的があり、そのための戦略をつくり、その戦略の実行に必要な組織をつくり、人材を集めるというものである。
近年、アメリカ型ガバナンスへの関心が一部では高まっているが、企業の成り立ちという観点からは、日本企業の〈人〉を軸とする成り立ちのほうが、差別化を生み出す組織のかたちとしてはよりふさわしい。また、今後の環境への適合性も高いと言えるのではないだろうか。
(2)「現場」による環境変化への自律的な適応
半導体やインターネット事業など、急速な変化がグローバルベースで起こる市場環境を想定するならば、マネジメントが先読みで戦略を立て、現場のアクションに落としていく、というトップダウン的なやり方だけでは、企業はこの市場環境には十分適応できない。現場が市場の変化をとらえたら、現場で組織的な対応が即座に起動され、それがマネジメントを通じて全社的に展開されていく、というようなボトムアップが機能する必要性がますます高くなってくる。
アメリカ的アプローチによる機構の導入と社内ルールの増加によって硬直化が進んだとは言え、日本の組織の本質は今なお「価値・情報の共有をもとに集団内の成員や集団間の頻繁な相互作用を通じて組織的統合と環境対応を行うグループダイナミクスを生かした組織」(加護野忠男ほか『日米企業の経営比較』日本経済新聞社、1983年)であることに大きな変わりはない。この組織の長所のひとつである、現場組織が「自律的な環境適応を起こしやすい」という特性は、今後の企業の成長にとってKFS(Key Factors for Success)とも言える組織特性である。
(3)個人の理解力・判断力の「きめ細かさ」
変化への対応に要求されるスピードが速くなればなるほど、組織の中の情報の受け手が、伝達された情報の内容を正確に理解し、「その先」を判断して自律的に行動することが必要になる。情報の伝達に正確を期すれば、そのぶん時間が余計にかかるため、定型化されない曖昧な情報でも受け手がうまく処理できることが必要となる。
日本企業の「暗黙知」の効用は広く議論されているが、情報の受け手は結局は個人であり、企業内の個人がいかに情報に対する「理解力」「判断力」の精度を上げられるかがカギになる。
最近、日本のゴール型のスポーツ(サッカーやラグビーなど)のレベルアップとともに、日本人プレーヤーの理解力・判断力の「きめ細かさ」が明らかになってきている。「気配」や「加減」など、程度を具体的に表現できないような感覚を共有できることは大きな強みであり、これを具体的な企業活動の中で活用できれば、マネジメントサイクル(PDCA)の精度を大きく向上させ、アウトプットを拡大することが可能になる。また、「日本人」を超えてこの「きめ細かさ」の感覚が共有できるようになれば、グローバルな成長ポテンシャルを拡大することも期待できる。
以上の三つの特長を組織のベースとしてうまく利用しながら、今後成長する日本企業の組織のかたちをデザインするとすれば、それはどのようなものになるのだろう。もちろん、業種・製品特性の違い、企業が個別に持つ特性、社員構成の差などを考慮したデザインが必要になるため、画一のものはありえないが、ここでは成長を生み出す組織モデルの原型のひとつとして〈交響する組織〉を提示しておこう。
〈交響する組織〉の三つの〈交響〉
〈交響する組織〉は、従来の「分業と調整のメカニズム」を規定する組織の「箱」と「線」で表現された機能・業務の固まりとつながりを一応の前提とはしながらも、差別化された価値創造を実現するために、各機能・業務の〈人〉が互いに「箱」や「線」を自律的に動かし、活発なインターアクションを起こしていくダイナミックな有機体である。
〈交響する組織〉は、基本的に以下の三つの〈交響〉を持ち合わせている。
第一の〈交響〉は、「マネジメントと現場の交響」である。マネジメントは、戦略の基本的な方向性のみを設定して現場に示し、現場の動きを支援する具体的な打ち手を検討する。現場はマネジメントの戦略の方向性を「仮説」として持ちながら、実際の実行を通じて得られた結果をベースに、より効果の高い方向へ自律的に行動を改善するとともに、マネジメントへのフィードバックを行う。これを受けたマネジメントは戦略の方向性の修正を行うとともに、成功例の汎用化や教育も含め、具体的な現場支援の打ち手を開発する。このマネジメントと現場とのやり取りを通じて戦略は具体化され、進化していく。マネジメントのPDCAと現場のPDCAが互いに響き合いながら、リアルタイムに近いような頻度で回って価値創造をドライブしていく、というダイナミックな動きである。
第二の交響は、〈部門間の交響〉である。例えば、営業部門が顧客の製品開発や購買プロセスへの参画をねらい、顧客とのやり取りの中から次の価値創造につながるニーズのかたちを感じ取ると、開発部門を巻き込む。開発部門は即座に仕様設計を行いながら、より具体的な顧客ニーズの聞き取りを営業に依頼し、顧客の要求水準を超える価値の開発を模索する。生産部門は開発部門と営業部門とのやり取りを聞きながら、試作完成のスピードを上げるため、生産プロセスの改善に入る。そして購買は……、というように、関連するすべての部門がそれぞれに限定された情報を理解し、きめ細かく判断しながら、顧客への価値創造に向けて共時的・自律的に動いていく、という姿である。
第三の交響は、〈現場の交響〉である。個々の関係はフラットでありながら、特定の問題解決のために必要であれば、それに合うスキルや技術を持つ人にサポートを求め合う。サポートを求められた人は自分を活かす機会を作ってもらったと意識し、即座に自分のベストプラクティスを提供する。現場の個々人がそれぞれ独自の貢献によって顧客への価値創造を最適化していく過程で、現場のネットワーク力を拡大し、現場組織全体のスキルレベルも上げていく、そのような活発なインターアクションである。
まだ実例は少ないとは言え、〈交響する組織〉を部分的に実現し、新たな成長を生み出した日本企業もある。広告部門の社員の提案をきっかけに実現したカシミアセーターをヒットさせ、フリースブーム後の停滞から脱け出したファーストリテイリングは、直近の例と言えるだろう。
〈交響する組織〉を実現するための基本原則
〈交響する組織〉を実現するための基本原則はシンプルである。すなわち「〈交響〉を遮断するものを取り除く、または、より響くものに変える」ということである。
例えば、コミュニケーションと意思決定のスピードを遅らせる社内ルールは真っ先に取り除かれなければならない。響けない個人とうまく交響させられないマネジメントには、訓練による響きのレベルアップや響かせるための社内の仕組みの導入、またはより響かせるための配置転換が必要になるだろう。なお、響きの「通奏低音」となる「企業のDNA」がきちんと組織のメンバー全員に聴こえていることは前提条件である。
つまり、今後の成長を生み出す組織のデザインは、個々の組織の課題と特性とを踏まえ、三つの〈交響〉を実現するために、響きを遮断する要因を取り除き、より響かせるための仕組みを入れていく作業となるのである。
〈交響する組織〉で成長を目指す例として、ビジネス以外の事例も見ておこう。2006年のワールドカップを目指すサッカー日本代表である。
2002年のワールドカップで、日本は「戦略」によって最も成功したチームの一つだった。トルシエ監督の「フラットスリー」は、個々人の身体能力とテクニックでは世界レベルに劣るが、スピードと規律の取れた組織プレーを得意とする日本にとって非常に有効な戦い方だったのである。「フラットスリー」は、最終ラインを上げ目に保ち、戦うスペースを狭くすることによって、攻撃面では相手ゴールに近いエリアで展開する時間を長くするとともに、守備面ではロングボールで身体能力に物を言わせる敵を封じ、個人技で一人が抜かれても別のプレーヤーがすぐにフォローに入る可能性を高くするという「戦略」であった。組織として動くためのかなり細かいルールを事前に設定し、その忠実な実行があって初めて成立した戦略でもあった。
しかし、その限界も明らかになった。0−1のまま攻めあぐね、「ずるずると時間だけが過ぎていく煮え切らない敗北」となった決勝トーナメント。トルシエから最も戦略の理解能力が高いと評された主将の宮本選手は「ベンチの指示がないなら……自分たちの判断で総攻撃に出ればよかった」というコメントを残している。
2006年のワールドカップを目指すジーコ日本代表監督は、トルシエと比べると組織的プレーについて細かい指示を出さないため、一部の関係者から「何も教えない」と批判を受けている。しかし、ジーコは敢えて選手に細かいルールを課さず、選手個人が自分で考え発想するプレーからチームのポテンシャルを引き出そうとするアプローチを採り続けている。実際、鹿島アントラーズ時代に手取り足取りで選手を指導した姿を知る者には、「今のジーコが同一人物とは思えない」と言われるほどの変わり方である。
動きがスピーディな上、展開もダイナミックであり、特定の戦略にはすぐに対抗策が打たれてしまうモダンサッカーでは、事前の決め事に基づく戦略の実施というアプローチには限界がある。敵が支配していたボールの奪取を起点として、全プレーヤーが次、その次の展開を瞬時に予想して即時に動き、ボールを持つプレーヤーのわずかな動きや指示をその他の個々のプレーヤーが瞬時に理解して、あるプレーヤーはスペースを作り、別のプレーヤーはそのスペースを使ってゴールに迫るというような自律的な動きと有機的なかたちが作れなければ、勝利する確率は低い。それが今のサッカーの「市場環境」である。
このように、サッカー日本代表は〈交響する組織〉を実現するアプローチによって、向こう2年で一段高いレベルへの成長を目指しているように見える。結果が出るのはもちろんこれからだが、日本の企業が今後成長するためのアプローチとしても検討に値するのではないだろうか。
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