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【巻頭言】 |
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成長構造創出の人材マネジメント
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曽根岡 由美子 |
21世紀を迎え、競争環境はますます激しくなり、その変化のスピードも速まる一方である。顧客への価値提供のあり方も従来とは比較にならないほど多種多様になっていく時代を迎えて、現状の延長上で勝ち残ることはほとんど不可能に近いと言っても言い過ぎではない。そこで、企業が勝ち残り存在し続けるためには、恒常的に成長し発展し続けることが不可欠となりつつある。本稿では、この「恒常的な発展を実現するためのメカニズム」すなわち企業の「成長構造」を創出するための人材マネジメントについて考えていきたい。
まず、最初に本稿における「成長構造」とは何かを定義しておきたい。成長するということは、現状にとどまらず、発展・向上し続けることである。成長の代表格といえば子供である。成長期にある子供は、日々変化し続け、昨日と今日の間に何かしらの進歩がある。単に物理的な成長だけでなく、いつの間にか知識が増えていたり、同じことをするにも工夫を凝らしているなど、目を見張るスピードで、それも発展の方向に変化し続けている。企業の成長も、同様に日々とどまるところを知らず、これまでの常識や思い込みといった慣習を否定して、向上し続けることであると言ってもよかろう。
では、どのような方向に発展すれば、企業が「成長」したことになるのか。高度成長期においては、業績が向上し、規模が拡大することが成長と考えられていた。しかし、今や単に「規模の経済」で勝てる時代でないことは、誰の目にも明らかになりつつある。本誌前号のテーマでもあったが、これからは各企業独自の「尖り」を研ぎ澄ますことこそ、「成長」と考えることができる。発展の方向は、各企業の目指す「尖り」の方向であり、質の向上であっても、ユニーク性の拡大であってもかまわない。市場に対して何かしらの独自性を持つ方向で、企業が発展し続けることが企業にとっての成長である。
しかしながら、顧客や社員、株主などのあらゆるステークホルダーに価値を提供し、存在し続けるためには、その前提として収益をあげることが不可欠である。そこで、企業の成長とは、将来の「尖り」に向けた投資の部分と、当期の利益を確保する収益の部分をバランスさせること、すなわち「中長期の発展とそれを支える短期の収益力を同時に実現すること」にほかならない。
このような成長の構成要素は何であるか。成長を実現するには、「事業」そのものと、その担い手である「人」が発展することが必要である。事業が発展すれば、新たな場や機会が生まれ、社員にとって成長機会が広がる。また、個々の社員のレベルが向上すれば、新たなビジネスが生まれたり、既存の仕組みが改革されるなど、事業が発展する可能性が高くなる。したがって、「事業」と「人」の成長・発展には密接な関係があると言える。そこで、事業と人が相互に成長を促すような自律発展のメカニズムを、企業の「成長構造」と呼びたい。
前置きが長くなったが、本稿においては、「中長期の発展とそれを支える短期の収益力を同時に実現するような、事業と人の自律発展メカニズム」を「企業の成長構造」としてとらえ、このメカニズムを創出するためには、いかなる人材マネジメントが求められるかを考えていく。
「人の成長」を考えようとすると、とかく「育成」や「教育論」といった切り口でとらえることが多い。確かに社員のスキルや実力を向上させるためには、「育成」や「教育」といった観点は非常に重要である。しかし、子供の成長にしたところで、単に学校で教育したり、親が教えることだけが成長を促す要因とは言えない。教育・育成は成長を促す環境の一部に過ぎず、発展の段階が進むに従って、その役割・位置付けは逓減していくものである。本稿においては、「成長」を「育成」の視点から一元的にとらえるのではなく、組織運営のあり方や環境を含めて、幅広く考えていきたい。
また、労働市場の流動性が高まり、中途採用や転職が当たり前の時代になると、人の問題は社外を含めて考えることが必要となってくる。社内にいる現有人材の成長を促すための仕掛けを考えると同時に、社外の有能な人材をいかに引き付け、魅了するかを考える。企業と個人の関係も多様性を増し、雇用の形態も従来の正社員、契約社員、派遣等だけでなく、さらに多用な形態が生ずるものと思われる。現に、ファーストリテイリングの例に見られるような「のれん分け」の仕組みは、すでに複数のクライアントが導入している。そこで、雇用の形態にかかわらず、有能な人材が集まり、事業と人が継続的に成長し続けるためには、どのような環境を実現すべきかを中心に考えていく。
事業と人の発展は、組織の状況に密接に関係する。ここでは、以下の3段階に分けて組織の発展段階を考えていく。
第一段階 ― 個人依存の段階
組織スキルや顧客への提供価値が、特定の個人に依存しており、組織内で共有化されていない段階。既存のビジネスにおいて、顧客に安定したサービスを約束することができず、中長期で見ると、その人が辞めてしまえば現状維持も困難な不安定な段階である。事業の立ち上げ期や、個別商店(個別プロ)の集合体的な組織において、意外と多い状況である。
第ニ段階 ― 組織としての再現性がある段階
組織スキルが構成員の間で共有化されており、また人の組み合わせによって安定したレベルの価値を顧客に提供できる段階。既存のビジネスにおいては、少なくとも中長期で現状を維持できるという状態である。共有化されている組織スキルを向上させるのが、この段階における成長と考えることもできる。
第三段階 ― 自律発展段階(成長構造)
組織を構成する一人ひとりが事業に参加することにより、事業と人の双方が発展・成長する段階。冒頭に定義した「成長構造」そのもの、つまり「中長期の発展とそれを支える短期の収益力を同時に実現するような、事業と人の自律発展メカニズム」が働いている状態である。
いずれの段階についても共通なのは、仮説・実施・検証のマネジメントサイクルを埋め込むことである。どのような状況であっても、発展を促すには、仮説を立てて実行し、そのプロセスと結果を検証して、次の仮説を高度化していくことを繰り返すことが基本である。このことは、すでに本誌のバックナンバーにおいても、多くのコンサルタントが述べており、読者の方々もよくご存知のことであろう(※1)。実際に、組織運営や人材マネジメントの基本として全社でこのサイクルを徹底的に回しているクライアントも多数見受けられる。
それでは、マネジメントサイクルを前提として、どのような環境や仕組みを整えていけば成長構造を創出することができるのであろうか。
第一段階から、第二段階を目指すには、個人が保有しているスキルや提供価値を共有化していくことが課題となる。この段階では、仕組み化や育成によって解決される部分が多い。まず、再現性を高めるための仕組み作りとして、ノウハウや成功例の蓄積・共有化や、どのようなスキルや行動が求められるかの人材要件の明確化、評価項目の設定などの打ち手が考えられる。同時に、サービスを提供する体制(チーム)の構成方法を見直すことにより、人の組み合わせによって、安定したサービスの提供を目指す。また、育成が重要な段階であり、部下や後輩の育成責任を明確に求めていくとともに、各人にも自己改革の目標を設定させることも有効である。これらの打ち手は、すでに多くの企業で実践されており、また、具体的な施策であるだけに比較的イメージしやすいのではないかと思う。
一方、第二段階から第三段階に到達するための人材マネジメント、すなわち「成長構造を創出するための人材マネジメント」のあり方は、組織運営や環境のあり方によるところが大きい。そこで「中長期の発展とそれを支える短期の収益力を同時に実現するような、事業と人の自律発展メカニズム」を創出するために、どうしても整えなくてはならない条件(必要条件)を2点挙げたい。
必要条件@ ― マネジメントサイクルの高度化
先にも述べたが、事業や人が発展・成長するためには、仮説・実施・検証のマネジメントサイクルが機能していることが大前提である。特に、全社レベル、事業レベル、個人レベルの各レベルでマネジメントサイクルが回っており、それぞれがリンクしていることがこの段階では重要である。
必要条件A ― 価値観の共有化
会社や組織を構成する一人ひとりが、顧客に提供する価値を同じように認識し、共有化していることが必要である。根本的な価値観を共有できないまま同じ事業に携わっても、共に働くことに不協和が生じてしまい、相互に刺激し合いながら発展することは極めて困難となる。
価値観を共有化すると一言で言っても、実際に構成員の間に共有化させることは実に難しい。仕事上のコミュニケーションだけでなく、仕事を離れた場でも意見交換を重ねたり、ワークショップなどを定期的に行って、何にこだわるべきかを徹底的に話し合うことが必要かと思われる。クライアントの中には、半年に一度、終日仕事の場を離れて、仕事に直結しないテーマについて徹底的に話し合うワークショップを行っているところもある。実は、我々自身も、最近「バリュー合宿」なるものを実施している。他のコンサルタントが何にこだわり、今後どのような価値を提供しようとしているのか、何を発信しようとしているのかがよくわかり、普段見えないところまで理解できるようになる。また、自分は何ができるのかを改めて考えさせられ、なかなか刺激的な場である。
これらの必要条件を整えた上で、さらにそれを後押しして、事業と人の発展・成長を促すには、以下の三つの十分条件が考えられる。
十分条件@ ― 中長期の発展と短期の収益力の切り分け
冒頭に定義したように、「成長構造」とは、「中長期の発展とそれを支える短期の収益力を同時に実現するような、事業と人の自律発展メカニズム」である。この二律背反するような二つの要素をバランスさせるにはどうしたらよいかが大きな課題であり、多くの経営者が思い悩むところである。
すべての組織や個人に、双方を求めることには無理がある。それぞれのミッションを明確に切り分け、それに適した動機付けを行うことが必要である。その際、新たな事業展開を目指す企業においては、新しい仕掛けをする組織や個人が注目され、現業の担い手は暗黙のうちに被害者意識を持つことが多い。そこで、全社のビジョンやあるべき姿など、同じ方向に向けて全ての社員を動機付けし、その中でどの役割を担うかを明らかにすることが必要である。中長期の発展を仕掛ける役割も、短期の収益性を担う役割も同じように重要であることを全社で認知し、いずれに関わる社員の尊厳も尊重する。全体像が見えて、自分の存在意義を認知されれば、自ずからコミットメントが高まってくる。その上で、やり切ることを求めれば、理不尽な要求とはならない。
いずれの存在意義も同じように尊重する一方で、価値の生み出し方に応じて、評価方法や処遇方法は切り分けることが望ましい。釘を打つのと、ねじを回すのでは道具が違うように、価値の生み出し方に応じて、人材マネジメント上の仕組みも異なるからである。具体的には、仕組みの大枠は全社で共有化し、運用部分をそれぞれの価値の生み出し方に応じて変えていく。中長期の発展を仕掛ける組織においては、事業計画や個人の目標管理制度において、必ずしも最終的な成果を求めない定性項目や指標を設定したり、投資的な処遇を行ったりする。一方、現業の担い手においては、収益項目と現業のあり方の改善テーマといった2点を求め、収益に連動した処遇を行ったりしてもよい。
必要条件A ― 「ゆとり」と「プレッシャー」のバランス
成長するということは、それまでの方法や常識を否定し、慣性を断ち切って、恒常的に発展し続けることである。慣性を断ち切って、発展に向けて取り組むということは、すなわち「挑戦すること」である。
挑戦を促すには、どのような環境が求められるか。おそらく、失敗を許容するような「ゆとり」と、向上することを求められる「プレッシャー」をバランスさせることではなかろうか。マネジメントサイクルの仮説を設定する際に、一切の失敗が許されないのであれば、従来の延長上で成功の確度の高い計画を立てざるをえないことになる。意味ある失敗を許容するようなコミュニケーションや評価が行われていなければ、なかなか挑戦することはできない。
同時に、向上することを求められる「プレッシャー」の後押しも必要である。会社や上司から向上することを求められるだけでなく、同僚がチャレンジする姿からもプレッシャーを感じることがある。ただし、「ゆとり」の部分が希薄でプレッシャーばかり高まると、ストレスが生じるので、このバランスを取ることが重要である。プレッシャーは仮説設定だけでなく、計画をやり切ることにも働かせるべきであろう。
なお、挑戦を促すことは、上記の「中長期の発展」と「短期の収益性」の双方に当てはまることである。新たな発展を仕掛ける組織においては言うまでもないが、短期の収益性を担う組織においても、今までのやり方や事業のあり方を維持するのではなく、常に改革・改善を行うべきである。特に、これまでの慣性が働きやすいため、意図的に挑戦を求めていくことが望まれる。
十分条件B ― 個の力の共振
有能な人材にとって魅力的な企業や組織とはいかなる組織であろうか。上記した失敗を許すゆとりも魅力の一つであるが、何よりも大きいのは、そこに参加することによって刺激を受けたり学びとるものがあるなど、自らが個人で行動するよりも成長する機会が大きくなることではなかろうか。
ここで、子供たちが成長を続ける舞台を考えてみたい。子供たちは、日常的に競争や喧嘩、遊び、助け合いを通して、相互に刺激しあって成長を続けている。彼らは自由に友達を選ぶことができるが、その視点は相手が魅力的に映るかにある。自分と共通のものを持っているがゆえに魅力的であったり、あるいは自分にないものを持っているからこそ魅力的であったりと、理由は様々であるが、相互に魅力を感じて認め合える間に仲間意識が生じるものである。
仕事の場でも同様に、共に働く人のレベルは重要なファクターである。相互に相手の持てる力や将来のポテンシャルを認め、尊重し合えれば、相手の言うことやなすことに耳を傾けるようになる。その上で、自分とは異なるタイプや異なるバックグラウンドを持つ仲間とチームで仕事をすることにより、相互に刺激を与え合うことが可能となる。もちろん、チーム内では自由な議論と検討がなされることが前提である。
これらの「成長構造」を創出するための五つの条件は、雇用形態にかかわらず人材マネジメントの基本として実現可能なものである。今後、企業と個人の関係がどのように変化しようとも、これらの環境を整え、事業と人が継続的に発展し続ける好循環を生み出すことによって、環境変化に先がけた成長が期待される。基本的に企業は生き物である。であれば、常に発展・向上し続ける若い体質を維持し続け、過去の成功体験にしがみつく老躯とはならずにいたいものである。
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(※1)特に、前号の「一次徹底の人材育成」において、鈴木康司が育成の観点からマネジメントサイクル
を述べているので、参照されたい。