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【巻頭言】 |
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アジアでの「成長」を再考する
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鈴木 康司 |
1997年の東南アジアにおける経済危機を乗り越え、2000年代に入り、アジアにおけるアセアン諸国はいずれも堅調な成長基調にある。
中国が目覚ましい成長を遂げつつある中で、従来、アセアン地域に進出してきた日本企業の生産拠点が中国にシフトする流れも見られるものの、それでも依然として、成長を続けるアセアン市場は魅力ある市場であるといえる。
2000年代に入り、これまでアジア地域(特にアセアン地域)に進出してきた日本企業では、地域内における、より一層の経営効率化を図るため、アジア地域を一つの地域(リージョン)ととらえ、広域運営を目指そうとする動きも出始めている。
これは、単に、従前の国際化・現地化を推進しようとする、いわば「各ローカルにおける個別最適のビジネスモデル」から脱却して、「リージョン内での全体最適」を模索する動きであり、リージョン内を有機的に結合させることで、さらなる成長を目指す動きであるともいえる。
また、他方で、国内の生産拠点の海外シフトや、業績面での海外マーケットの占めるインパクトの高まりに伴い、日本企業では、海外拠点におけるより一層のグローバル化・現地化に対する必要性が高まりつつある。単なるコストダウンのプレッシャーだけではなく、海外の市場で生き残りをかけるためには、駐在員を中心としたビジネスの推進だけでなく、現地発のオリジナリティーのあるビジネス展開がますます求められていることもその一因と考えられる。また、規模の経済を追求するため、ビジネスをグローバルレベルでスピード感をもって水平展開していく必要性が高まっていることも一因として考えることができるだろう。
「国際化」や「グローバル化」は、以前より日本企業で叫ばれていたテーマである。そして、その必要性と緊急性はますます高まってきており、企業間における熾烈なマーケットシェア競争とともに、各ローカルにおける優秀な人材の獲得競争も激化の様相を呈している。
アジアに進出する日本企業では、より一層のグローバル化を進めるため、様々な取り組みを行っている。
そこで、本稿では、アジア地域において成長を続けるための基盤作りについて、「人材」を切り口として考えてみることとしたい。
グローバル化を推進するためには、「人の獲得」は必要不可欠な要素であり、日本企業に限らず、欧米企業も含めて、優秀な人材の獲得競争に乗り出している。
しかし、多くの日本企業の海外オフィスの経営トップの悩みは深い。「人」を切り口としてとらえた場合、よく出てくるポイントとしては以下の点が挙げられる。
・任せたくても、任せられる人材が育っていない
駐在員の代わりにマネジメントや一定の権限を任せたいと思ってい
ても、まだ任せるだけの人材が育っていないので、いつまでたっても
駐在員が必要である。
・優秀な人材を採用しても定着しない
中途採用や新卒採用で優秀な人材を採用しても、すぐに他に転職し
てしまう。また、せっかく研修やトレーニングを実施し、育成しても、や
めてしまい、定着しない。
・そもそも優秀な人材が採用できない
中途採用や新卒採用において、いわゆる「優秀な人材」は欧米企業
への就職を希望しているケースが多く、日本企業では採用できない。
アジア地域における転職斡旋企業(ヘッドハンター)からは次のようなコメントが寄せられている。
いわゆるトップクラスの大学出身者は、欧米企業への就職を希望するケースが多い。
欧米企業では、職務や役割が明確であり、その中で、権限委譲がされている。実力次第では経営トップまであがることができる、というイメージをもたれている。
一方、日本企業に対しては、「マネジャーにはなれても、役員(Director)にはなれない」、「成果や業績(Performance)よりも勤続年数や年齢が重要視される」というイメージをもたれていて、日本企業を敬遠する人もいる。
当然、ヘッドハンターのコメントに対しては異論反論を言いたい方も多くおられると思われるが、現実問題として、上記のようなイメージをもたれていることについては冷静に受け止める必要があるものと思われる。
上記のような、いわばジレンマを克服すべく、最近になり、アジア地域において、欧米企業の人材マネジメントシステムを取り入れ、人事制度を改定する日本企業が多く見られるようになった。
欧米流の人材マネジメントシステムの特徴を簡単にまとめると次の点が特徴的であるといえる。
・職務を中心とした等級制度
・職務記述書を作成し、各人の職責や役割を明確
・市場水準を意識した給与・処遇制度
・成果や業績に応じたメリハリのある評価・処遇制度
そして、多くのアジアに進出してきた日本企業の海外での人事制度は日本本社の人事制度をそのまま適用してきたケースが多いため、欧米式の人材マネジメントシステムへ改定を行うことで、欧米企業との間で、人材獲得・つなぎとめにおいて、競争力を高めようとしている。多くの企業で見られる制度改定の流れは次のとおりである。
・職務概念の導入
従来の、職能を中心とした、実質的に年功的な資格制度を見直し、
職務を中心とした等級制度へ見直しをした。その際に、若手でも優秀
な人を上位役職に登用した。
・成果主義型制度の導入
従来は、評価の反映要素が非常に小さく、「やってもやらなくても給与
が変わらない」という状態であったため、評価制度において、目標管
理制度を導入し、同時に、報酬のメリハリをつけるために、賞与や昇
給の評価反映格差を拡大させた。
・市場水準の反映
従来は、全社一律の資格制度で給与水準を設定してきたが、特に、
人材の流動性の高いポジションに対しては、報酬の市場水準に対し
て優位性を持たせるような形で報酬水準を設定した(従来の一律的
な給与水準ではなく、役職・職種に応じた給与水準を設定した)。
これらは、日本国内でもすでに取り入れられている手法であり、これらを海外でも展開しようとする動きが活発化しているものと思われる。
確かに、従来の「日本企業」に対するイメージを払拭するために、上記の改定は、ある程度は必要であろうと考える。
しかし、実際、欧米流の人材マネジメントシステムを数年前から導入していても、相変わらずグローバル化が進展していない企業も残念ながら数多く見られるのも事実である。
では、欧米企業でうまく機能しているシステムが、なぜ日本企業ではうまく機能しないのであろうか。
社内の共通言語が、英語・日本語・ローカルの言語といった言語の問題もあるが、それ以上に重要な問題が潜んでいるように思われる。
欧米流、日本流であろうとも、新しい人材マネジメントシステムを導入し、機能させるためには、忘れてはならない、いくつかの前提条件がある。
1.本社との間の意思決定プロセスの明確化
多くの日本企業では、大きな意思決定は日本本社でなされるのが現実であるが、その意思決定は駐在員と日本本社間のコミュニケーションによってなされることが多い。ローカル社員にしてみれば、この意思決定プロセスがブラックボックス化しており、よく見えないため、この意思決定プロセスそのものを明確化させ、透明性を高めておかないと、いくら職務記述書を作成しても、結局はすべての判断を駐在員に委ねる、という状態は継続しかねないのである。
2.「阿吽(あうん)の呼吸」の言語化
(ローカル内部での意思決定プロセスの明確化)
日本で教育を受けた人が日本企業に就職し、数年間の経験を積めば、企業における「仕事の進め方の基本」や「仕事をうまく進めるためのコツ」「判断をする際に気をつけなければならない要素」といった、仕事をするための基本的なポイントを各職場で自然と身につけることができる。
例えば、仕事を進める上での「判断」において、「日本人」(注:以後、日本の本社での勤務経験を持つ社員のことをここでは便宜的に日本人と呼ぶ)であれば、ほとんど肌感覚のように、「おそらく経営陣はこのように判断するだろう」ということを推測することができるケースが多い。
さらに付け加えるとすれば、日本企業では、実は重要な決断や判断を下すための会議や稟議については、そのような形式的な会議や稟議を行う前に、すでに意思決定されていることが多い。「根回し」といった、非公式的なコミュニケーションによってお互いにざっくばらんに意見交換を行い、提案内容のブラッシュアップを図ることも日常的によく見られるのである。
これは、企業の価値観やバリューを言語化する、明確化する、といった抽象性の高い次元の話ではなく、仕事をする上での、より切実で現実的な問題である。
つまり、「日本人」であればお互いに明確に言語化せずに理解できることでも、ローカル社員との間ではうまく意思疎通ができないことも多いのである。
上述のような、不透明な意思決定プロセス、阿吽の呼吸や以心伝心に基づく判断こそは、まさしくローカル社員から見れば「ブラックボックス」であり、特に、中途採用で部長クラスの人材を採用・登用したとしても、日本企業ではうまくなじめない、と思われてしまう元凶になっているのである。
優秀な人材を採用・定着させるために、せっかく欧米流の人材マネジメントシステムを導入したとしても、上記のような前提条件が整備されない限り、日本企業における経営や意思決定の不透明さは払拭できない。
上記のように、「日本人」であれば常識と思われることであっても、それを言語化し、明確化させることが、まずは第一ステップであるといえる。
つまり、意思決定のプロセスや、仕事の進め方といった基本的なことを言語化し、ローカル社員との間で共有化する、ということである。
すべてを言語化するのは、やはり難しい部分もあるだろうが、しかし、このステップを避けていては、先には進めないと思われる。
さらに、成長に向けた基盤整備においては、次のステップを考える必要がある。
それは、仕事や組織の「組み方」である。
駐在員は、多くの場合、経営者層として赴任してきており、会社の全体像を見渡しながら経営を行うことが求められている。したがって、自分の担当組織だけでなく、前後工程(関連するセクション)や、会社全体の業務プロセスを俯瞰し、そこで、担当組織の方針や戦略を考えることができる立場にある。
しかし、たとえ、ローカル社員に対して十分に経営情報が開示されている状態にあったとしても、駐在員がこれまで担当してきた業務をそのままローカル社員に移管するのは(経験・スキル等、様々な理由によって)困難な場合が現実には多い。
グローバル化・現地化の必要性が高まる中で、駐在員が担当してきた業務をローカル社員に権限委譲しようとしても、なかなか進まない理由がここにあるのである。
ここで、現状を打破するための一つの方法として、駐在員が担当している「業務」の再構築を行うということが考えられないだろうか。
駐在員であれば、一人ですべてを担当することができたとしても、経験やスキル、あるいは情報量の違いから、ローカル社員一人に任せることができないことは、現実問題として想定しうる。
そこで、駐在員が担当してきた業務や組織をいくつかの単位に細分化すれば、ローカル社員に権限委譲していくことも可能になる場合があるのではないだろうか。
また、駐在員を引き続き残すとしても、駐在員が今実際に行っている仕事の一部を集約化させ、それをローカル社員に任せていく方法も考えられる。
このように、人材マネジメントシステムを導入するためにはいくつかの前提条件をクリアにしておく必要があるのである。
「成長」のためには「人材」は非常に重要な要素を占める。しかし、「人」という切り口から問題をとらえるだけでは、見えてこない重要な問題の本質が潜んでいるのである。「人」の成長を促進していくためには、「人」と「業務」の二つの観点をあわせて見直す必要性があると感じている。
最後に、アセアン地域全体で、今後とも、飛躍的な成長を続ける場合の難しさについて言及しておきたい。
特に、これまで順調に成長を続けてきた成功企業に見られる難しさ、とも言い換えることのできる問題である。
それは、「過去の成功体験の呪縛」である。日本の場合でも、ここ数年の企業変革を推進していくための阻害要因となったものであるが、アジアにおいて、「たちが悪い」と考えられるのは、現在も引き続き、(市場全体が成長していることもあって)会社としては成長を続けている、という事実がある、ということである。
確かに、グローバルレベル、あるいは地域レベルでとらえた場合、アジアは今も成長を続けている。しかし、今後、さらに飛躍的な成長を続けるためには、過去の成功体験だけにとらわれない取り組みや仕掛け作りが求められている。
しかるに、様々な企業でインタビューを実施してみると、日本企業の海外進出期を支えてきたローカル社員のベテラン層(今や経営に近い立場にいる社員層)は、今はすでに「成功」している状態であり、さらなる「変化や成長」は必要ないのではないかと受け止めている、ということがある。もし、この状態を放置しておくと、次なる「動き」を起こそうとしても、このベテラン層がその抵抗勢力になる危険性は十分に想定される。
本稿で考えてきた、「成長に向けた基盤」を整備した後は、会社全体の意識改革や変革に向けた取り組みが大きな課題になってきている。
引き続き成長が見込まれる市場において、いかに成長・前進し続けることができるか。アジアでの競争に生き残り、勝ち続けるには、「成長基調の下での、さらなる成長に向けた、健全な危機感の醸成」というさらに困難なテーマが待ち受けているのではないかと感じている。
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