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【巻頭言】 |
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バーチャル「人事」からリアル「人材マネジメント」へ
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坂本 健 |
前号、前々号と続けてきた「業務改革と人材マネジメントを連動させて考えよう」というメッセージが通じたのか(?)、この1年ほどの間に、人事が人事部固有の問題でなくなり、経営レベルの問題として認識され始めたように感じられる。その証拠に、ワトソンワイアットでも、従来以上に「業務×人事」というプロジェクトのお手伝いをさせていただく機会が増えている。
こうした動きは、より現場に直結した人事を行いたいという思想から生じているが、その実際を見ていると、従来と変わらず、「仕事とは関係のない、期末の行事」としての人事制度から脱皮できずにいることが多い。
今回は、現業にそぐわないバーチャルな「人事制度」から脱した、「よりリアルに日常の業務を高め、企業の成長を支える人材マネジメント」とはどうあるべきなのかを考えていきたい。
上述のように、人事が現業と一致せず「行事」となってしまうことも含めて、様々な形で「制度」が「現実」に裏切られることが多い。このギャップについて筆者は、現実世界に存在する以下の二つの概念と、その結果生じる「変化」やそのスピードが十分考慮されず、「仮想」の業務プロセスや人事制度となってしまうことが、その原因ではないかと考えている。
1-1 「時間」的な概念
業務プロセスに対する要求事項は、顧客の欲求や市場(競合)の環境によって、刻々と変化する。従来は変化のスピードがそれほど速くなく、品質や安全といった信頼性に対する市場の感度もそれほど高くなかったため、一度確立した業務プロセスの賞味期限は比較的長かった。しかし、技術革新のスピードアップと、数々の不祥事(に起因する企業の「仕事の仕方」への不信感)を背景として、業務プロセスの賞味期限は極端に短くなってきている。
こうした環境の中で、現在という「一時点」を切り取って、業務プロセスのあるべき姿を構築しても、その瞬間から陳腐化が始まり、日々の様々な変化に合わせた改善が必要となる。当然、「一時点」を切り取って作成した人材要件も現実に合わなくなっていく。
1-2 「感情(感覚)」的な概念
企業は、その人が適材かどうかを「能力要件」だけで判断する。だが、人材にとってその業務(職場)が適所かどうかを判断する上で最も重要なのは「やりたい」か否かで、「できる」は必要条件だが十分条件にはならない。「やりたい」がなければ、100%の能力は発揮されず、場合によっては疲弊する。期待通りのパフォーマンス発揮には至りにくい。
また、人材は「適所」を勝手に作り変える。2年も同じ人がやっていれば、自分のやりやすいように仕事の仕方をアジャストする。本人にとって悪気はなく、むしろ「より良く(効果的・効率的に)しよう」というポジティブな感情から発生する現象である。これを長く続けていれば、だんだんその部分の仕事がブラックボックスと化して、マニュアルなど意味がなくなり、「その人でなければできない」仕事になっていく。
現場では常に「時間」が流れ、そこで「感情(感覚)」をもった人材が仕事をしている。ゆえに、業務プロセス(仕事の仕方)が変化していくという、ごく当たり前のことが、評価や報酬の決定ロジックや、人事オペレーションにこだわるあまり、制度の検討段階で軽視される。これが現業と人事のギャップを生み、人事のバーチャル化につながっていると考えられる。
こうした現実の「変化」を踏まえた、リアルな効果を持つ人材マネジメントの仕組みとしてはどのようなものが想定されるのか。ドラッカーはその著書『ネクスト・ソサエティ』において、「変化をマネジメントする最善の方法は自ら変化を作り出すことである」と述べた。
モノ作りが得意な日本人の習性なのか、何をするにつけ、「完成(安定)」をひとつのゴールとして追い求める風潮がある。しかし、ここまでさんざん述べてきたように、業務のあるべき姿は顧客や市場環境の変化によって流動的に姿を変える。となれば、「完成(安定)」することはない。むしろ、完成(安定)したと感じたら、陳腐化し、時代遅れになっていやしないかと、不安になったほうがよいくらいだ。
ゆえに、「業務プロセス」を作り上げるのではなく、業務プロセスそのものを検証し、常に「変化を作り出すメカニズム」を構築する必要がある。
2-1 停滞を検出する仕組み
さて、その方法論だが、変化を作り出すにはまず「停滞」、つまり変化を起こす必要性を検出する仕掛けが必要だ。
検出の方法としては、大きく二つのステップに分けて考えるのが現実的である。第一のステップは指標によって全体像をざっくりと洗い出し、「もしかしたら停滞が生じているかもしれない」という停滞の可能性を検知するステップ。第二ステップはそうして検知した個別の可能性について、詳細に行動レベルで「何をどのように変えたのか、変えなかったのか」を聞き取り、停滞しているという事実を特定するステップである。
【第一ステップ】指標による停滞の検知
経営レベルの視点でいきなり具体的なプロセス上の停滞(安定)を見つけ出すのは難しい。そこで、まずはその業務プロセスが生み出すアウトプットの推移を見ることで、「停滞の可能性」を探し出す。「アウトプットが安定したり、下降していたら、プロセス上の工夫・改善が進んでいない可能性がある」というとてもシンプルな考え方だ。
このような使い方をするので、指標といっても、ROEやキャッシュフローといった財務指標ではなく、個別の業務プロセスのアウトプットに落とし込んだ形で設計する必要がある。レーダーやセンサーと一緒で、より高い精度で検知したければ、細かくプロセスを切って指標を設定し、あまり複雑にしたくなければ、大雑把にプロセスを切って指標を設定する。精度の設定については、一律に行うものではなく、組織の特徴と経営上の課題認識に基づいて適宜行っていく。
【第二ステップ】停滞の所在を特定するヒアリング
「停滞の芽」を検知したら、そのプロセスについて詳細なヒアリングをかける。具体的な変化の有無を把握する上では、コンピテンシーアセスメント(行動探索インタビュー)の手法を応用できる。つまり、時系列で、かつ行動事実ベースで、どのように業務を遂行してきたのかを聞き取っていく。
「何に着目して」
「どのように考えて」
「まず何を行ったのか」
「それで何が起きて」
「それに対してどのように対処したのか」
……といった具合である。こうして聞き取っていく中で、特に問題も確認できず、それゆえに取り立てて改善もされていなかったとしたら……それが「停滞」なのである。
2-2 変化を作り出すメカニズム
上記のような手法で検出された「停滞」だが、当人も、それからおそらくヒアリングをかけたあなたも、その停滞しているプロセスについて、目立った「問題」を発見できないだろう(だからこそ、何も変化していないのだ)。
こうした「何も問題がない」ということを「問題」ととらえることが「変化を作り出すメカニズム」の切り口となる。
停滞を打破し、変化を作り出すには、「何も問題がなかった」という現実が一定期間続いたら、「何も問題を発見できなかった」と解釈しなければならない。すなわち、人材の「問題発見能力」が頭打ちの状態にあると解釈するのである。
このように考えると、「変化を作り出すメカニズム」とは「問題発見能力を作り出すメカニズム」でもあると言える。人材の「感情(感覚)」にも配慮すると、これもまた、二つのステップから構成されるべきだと考えられる。
【第一ステップ】気付きを与え目線を高める機会の確保
問題発見能力の停滞とは、一言で言えば満足感であり、達成感とも言える。様々な努力を行い、以前設定した目標を達成したときに生じる。問題とは、現実とあるべき姿(目指す姿)とのギャップなので、本人があるべき姿の変化(市場や顧客の欲求の変化、経営の変化など)に気付きを得ない限り、さらなる問題は発見できない。
したがって、この「停滞」を打破するためには、まず当人に現状に対する「気付き」を与える機会を定例化していくことである。
週間または月間の定例的なミーティング(会議でもよい)を設け、前述の「停滞を把握する」ステップで得た情報を共有し、「何も変化を生み出していなかった」と自ら振り返って気付くことのできるきっかけを与えていく。
その際に、市場の変化や経営環境の変化など、目線を高めるために必要な情報を共有し、要求レベルを明確に伝えながら、停滞していてはいけない、というメッセージを届かせるような働きかけを、組織の文化として定着させていく必要がある。
【第二ステップ】人材の入れ替えによる問題発見能力の更新
第一ステップで気付きを与えていこうとする中では、人材の適性や能力、志向性によって、多かれ少なかれ問題発見能力や変化を作り出す能力の限界がやってくる。視点が固定化して、新たな見方ができなくなったり、その組織においては自己のノウハウを出しきってしまった、というような場合だ。
このような場合には、人材の入れ替えによる問題発見能力の「更新」が必要となる。
人材の入れ替えにあたっては、無用のデモチベーションや人材流出を防ぐためにも、強制的に異動させるという手法は最後の手段として、できるだけ「自ら降りる」機会を与えたり、社内での「降りた後のキャリア作り」を自律的に行える仕組みを準備しておくなど、人材マネジメント上の課題が数多く想定されるが、この点については後述する。
以上のように、停滞検出の仕組みと、自律的に人材交代が行われるメカニズムの組み合わせによって、常に新たな視点からの検証と、新たなノウハウによる変化が加えられ続ける。それを実現する仕組みが、「変化をマネジメントする最善のマネジメント」プラットホームなのではないかと考えている。
上述のように、「変化をマネジメントするために、自ら変化を作り出す」メカニズムを構築していこうとした場合、いかにその変化に応じた柔軟な人材の入れ替えを行っていけるかが、現業に即した人材マネジメントの要諦と考えられる。そう考えると、半期に1回評価して、年に1回の昇格や異動を行い、配置も含めてその実務のすべてを人事がコントロールする、という従来の人事オペレーションでは現業の変化を支えていくことは難しいと言わざるをえない。
ここでは、多少極論を交えつつ、「常に動いている」ことを前提とした人材マネジメントシステムの要件を考えてみた。
3-1 適所を適材に提供する市場メカニズム
従来の適材適所が「適材を適所に配置する」という、企業側に立った考え方が強いものであったのに対して、「適所を適材に提供する」という適材(=人材)側に立った思考を取り入れましょう、という言葉の遊びが「適所適材」である。
停滞を打破し、変化を起こすためにはタイムリーな人材の入れ替えが必要である。従来のような画一的なローテーションではなく、刻々と変化する業務(=需要)と、様々な志向性や適性を持つ人材(=供給)とのマッチングが必要なため、組織が大きくなればなるほど、人事が意図的にコントロールしようとすることは難しくなる。ゆえに、人材の入れ替えがある程度自律的に行われていく、「社内労働市場」のようなマーケットメカニズムが必要になってくる。最低限、以下の三つのコンポーネントは必要になるのではないかと思われる。
【入れ替えるための人材のプール化】
自ら降りるにせよ、降ろすにせよ、その交代によって業務に穴をあけるわけにはいかない。したがって、柔軟に人を入れ替えるにあたっては、「代われる」人材が確保されている必要がある。事例としては社内FAなどの制度もあるが、部門横断的に業務改革を検討する場を作り、オフサイトで「セカンドキャビネット」的に運営するなど、より臨戦状態に置かれた形で人材をプールしておくことが望ましい。より現実的な問題解決力を確保するとともに、候補となる人材に対していつでも入れ替えが効くように準備・学習させることができるからである。
【時期を問わず人材を募集する仕組み】
実際に「空き」が出てから募集をかけていては、当然現実にそぐわないと考えられる。現実的な「入れ替え」を行うにあたっては、様々な業務について「いきなり空いても、待っている人がこれだけいる」という状態を維持したい。いわば、キャンセル待ちのイメージである。
これには、通常考えられるような職務要件、期待成果、能力要件という無味乾燥な情報だけでは誰も手を挙げることはないだろう。それぞれの業務に人材を魅きつけるための仕掛けが必要となる。先に引用したドラッカーが、『明日を支配するもの』で「人をマネジメントすることは、仕事をマーケティングすることを意味する。マーケティングの出発点は、組織が何を望むかではない。相手が何を望むか、目的は何か、成果は何かである」と述べている通り、その職務を担うことで得られる市場価値や、その後の可能性など、キャリア面からのメリットをアピールしていく情報提供が必要になる。
【降りた者が循環する仕組み】
ある業務や役職を降りた者が、セカンドキャビネットや、他の業務への応募などを、自然に行える環境と文化作りが重要である。また、より機動的に人材の入れ替えが行われるためには、「年功序列の排除」でなく「年齢という概念の排除」も必要だ。年齢を加えたから偉いという考え方を捨てる代わりに、年齢を加えたから肩をたたくということもせず、年齢的には完全にフラットに扱って、年下の上司も、年上の部下も当たり前に存在するようにならなければ、どこかで硬直化する。報酬制度の設計も含めて、「年功序列の排除」という名の「逆年功序列」が生じないように気を付けたい。
3-2 時間の感覚を共有する
先だって、とあるクライアントから、「どのくらいの時間でその変化をとらえたらいいのか」「どのくらい停滞していたら変化を作り出すためのアクションを取るべきか」というご相談をいただいた。
これについてまず考えるべきは、「どのくらい」よりも、そもそも、本人自身がそうした時間感覚を求められていることに気づいていないという可能性である。「はじめの1年は現状把握、次の1年で種を仕込み、花が咲くのは3年目」というスピード感覚の方はまだまだ多く存在するのである。これは、従来の、1年や半期に一度という人事制度上の評価スパンも影響しているのではないかと考えられる。
そうした時間感覚のギャップを想定して、まずは、週次、月次の会議など、日常のコミュニケーションにおいて、こまめに評価とフィードバックを行い、相手の時間感覚を変えていくか、または必要な時間感覚をもった人材に入れ替えて、企業としてのスピード感覚を定着させていく必要がある。
「どのくらい」については飽くまで参考だが、これまでにお会いしてきた様々な企業の管理職の中で、今回述べてきたような変化を作り出せる人材は、大半が着任後3カ月間で何らかのアクションを起こしている。部下から一通りヒアリングを行い、「何を変えなければいけないか」というテーマが早ければ1週間、遅くとも2週間から1カ月で設定され、順次実行されていく。
こうした時間感覚は、「市場と現実のギャップに対する感覚」でもあるようだ。顧客が求めているものを100%提供できている業務プロセスなどあるはずもないので、市場の期待を嗅ぎ取り、その期待に応えられていない部分に手を入れ続けていく。ゆえに、過去3カ月間にどのような変化・変更を生み出したかを聴くと、必ず何らかの課題を認識し、打ち手を講じているのである。
明確な基準はないが、まずは、前述した「変化の有無の確認」を行いながら、3カ月間、なんら変化を生み出さないようであれば、イエローカードをお渡ししてみてはいかがだろうか。
こんなコマーシャルをご覧になっただろうか。寿退職する女子社員の記念撮影をするシーンで、カメラ付き携帯電話のCMである。
先輩「みんなー、写真撮るよー、動かないで動かないで」
後輩「ムービー撮るよー。先輩! 動いて動いて!」
新時代の道具に慣れていない先輩社員が、あたふた駆け回るシーンが物悲しい(?)CMだが、あらゆる企業や組織にも当てはまる時代の風景なのではないだろうか。完成されたモデルで勝てることを証明し続けてきた、マクドナルドや吉野家。突然、米国産牛肉の輸入停止というムービーを構えられ、「動いて、動いて」と言われて、どんな動きを見せるのかが注目されている。
仕組みの間隙を衝くような危機が突然発生する時代。様々な変化に対してめまぐるしく動きを変えることのできる組織が必要とされている。油断をすると、「動いて、動いて」と慣れないムービーを突き付けられる。
半期に一度、静止画で切り撮るような人事制度では、そんな市場にさらされている現業をマネジメントすることはできない。常日頃からムービーで撮影して、「動いて、動いて」「メール送るよー」というリアルタイムなマネジメントが必要である。ポーズでごまかせる時代は終わったのだ。
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