【巻頭言】
ポスト再生
未来型ニッポンの成長要件を構想する

1.
成長とは何か
個体・器官・細胞の形態的あるいは量的増大を伴う変化
(三省堂「大辞林第二版」より)
   
2.
中国ヲ以テ日本企業成長ノ基礎ト為ス
老若男女が皆成長する

3.
新日本型成長組織
成長をドライブする〈交響する組織〉

4.
ひらめく人を咲かせる組織
着眼大局、着手小局による進化

5.
成長する組織の要件
「勝てる組織」であり続けるために
   
6.
成長構造創出の人材マネジメント
恒常的な発展を実現するためのメカニズム

7.
アジアでの「成長」を再考する
汎「アジア」の成長基盤の構築に向けて

8.
バーチャル「人事」からリアル「人材マネジメント」へ
写真から動画への世代交代

9.
新成長指向のパブリックセクター
縮み指向の行政改革に対する批判

10.
ネット企業は日本の成長を担えるか
足元にある成長のボトルネックを取り除け

11.
成長のダイナミズムを生み出す役員報酬改革

12.
退職金(年金)と企業成長
退職金(年金)を企業成長にどう役立たせるのか

13.
成長のためにこそ、「人間尊重」の経営を
成長志向の人的リスクをヘッジする
   
14.
「不安」と「楽しい」のマネジメント
「機嫌のいいオンナ」考
   
15.
遊びが生み出す成長パワー
   
   
16.
稼ぐチームのレシピについて
タイプ論と特性論の躁鬱に悩む著者の話
   
【心理学ゼミナール】
役割性格の打破が再発展の鍵となる

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退職金(年金)と企業成長
退職金(年金)を企業成長にどう役立たせるのか

 

関 邦雄

 

河原 索

第1部基本編

退職金(年金)と企業成長 ― 一筋縄でない関係
 本稿では、「退職金(年金)は企業の成長に寄与することができるか」という命題について検討する。しかし、この命題は非常に書きにくいテーマである。なぜ書きにくいかというと、退職金(年金)と成長の関係は、投資と成長のような直線的な関係ではなく、どこかねじれた関係にあり、退職金(年金)は使い方によっては、薬にも害にもなりうるからである。このことを、よりわかりやすく説明するために、まずは現在の退職金(年金)の置かれている状況について簡単に整理するところから始めたい。(※1)

痛みばかりの公的年金改革
 日本の年金制度は基本的に、公的年金(厚生年金、共済年金、国民年金)、企業年金(厚生年金基金、確定給付企業年金、確定拠出年金等)、個人年金の三つに分けられる。このうち、公的年金の改革が現在急ピッチで進められている。執筆段階の最新情報で、2004年度中にも導入される公的年金制度改革の骨子は以下の通りである。
 会社員が加入する厚生年金の保険料率は、2004年10月より2017年にかけて、13.58%から18.30%へ年0.354%ずつ増加する。これは、年収が600万円であれば、年28万円の負担増(労使折半)となる。
 このように、年金保険料負担という支払いは増えるものの、一方で、受け取りである年金給付水準は下がることになる。夫婦2人のモデル世帯による想定給付水準は、現行制度では現役時の所得の59.4%であるが、これが50.2%へとダウンすることになる。在職老齢年金の見直しにより、働きながら年金を受け取るときに有利になる改正等もあるが、改正のほとんどが痛みを伴うもので、ハッピーな内容は少ない。

図1

 今回の公的年金制度改革を企業サイドからの視点からみると、法定福利厚生費の負担増に直結という影響が大きい。すなわち、事業費用に占める人件費率の高い会社には、今回の公的年金制度の改革は極めて大きなコストアップ要因となる。人件費の圧縮のため、さらなるリストラが起こるかもしれない。
 一方、従業員サイドからの視点では、厚生年金の年金保険料が増加する分だけ手取りの給与が減ることになる。今後予定されている所得税の定率減税の廃止や、企業におけるベアゼロや賃下げの日常化等、多くの家計が厳しい状況を迎えていく中で、さらに年金保険料が増加するインパクトはかなりのものとなるだろう。また、先にも述べたが、将来受け取る年金も減ることになり、老後の生活のためには、さらに貯蓄を増やしていかなければならなくなる。従業員の不安は募るばかりである。

先が読めない企業年金
 2000年に入ってからの株式市場の低迷は、企業年金にとって試練の時となった。厚生年金基金連合会によると、厚生年金基金全体での運用成績は2000年度でマイナス9.8%、2001年度でマイナス4.2%、2002年度ではマイナス12.5%となった。何十年もかけて積み上げた年金資産が、この3年だけで実にその4分の1が消失した計算になる。企業は企業年金を持っているばかりに、株式市場低迷に伴う年金積立不足の処理に頭を悩まされた。

 株式市場の低迷は、企業に対しては、積立不足の債務化によるバランスシート悪化や、債務の償却という後ろ向きの出費によって、利益の減少や前向きな投資に振り向けるためのキャッシュが圧迫されるといった悪影響につながった。
 一方、従業員は、会社の利益減によるベアゼロやボーナス減を強要された。さらには、積立不足によって企業年金制度のポジションが悪化した企業の中には、企業年金の解散や給付減額を行った会社もある。このような状況では、従業員も、退職後の生活設計が読めなくなってしまう。

 90年代初頭までは、企業年金を用いることによって、年金資産を予定利率以上で運用し、その差分を利益とすることができた。しかし、この数年来の市場の嵐によって、企業は企業年金に対して「及び腰」になっている。また同じようなことが起こるのではないかと不安になり、企業年金そのものの存在の否定にかかっている企業も少なくない。

年金がもたらす不安のパラドックス
 確かに今日、老後に対する不安および年金制度に対する不信は、企業サイド、従業員サイドともに、ピークを迎えつつあるように見える。このような状況下においては、年金は企業成長に害こそあれ、薬には全くなりえないように思えてくる。

 しかし、だからといって、企業年金は不要だと一気に結論づけてしまうことは短絡的な考え方だと言わざるをえない。なぜなら、企業年金を廃止して、退職金の前払い化や給与組み込みを行ったとしても、「年金制度」に対する不信は解消できるものの、従業員の「老後の不安」解消に対しては何一つ問題を解決していないからである。そして、企業にとっても、従業員に活力を与えられない状況が続く。

 ここで少し頭をクールダウンして考えていただきたい。そもそも年金制度は何のためにあるのか。それは、老後の生活を安心させるためのものではなかったか。安心させるための仕組みが、逆説的に不安を助長してしまう仕組みになってしまっているのが現状である。であるとすれば、不安を解消するためには、逆説に従うよりも、ねじれた逆説をまっすぐに戻すのが筋であろう。

再び ― 退職金(年金)は企業の成長に寄与するか
 ここで本題の「退職金(年金)は企業の成長に寄与するか」に戻る。
 シンプルな質問だがじっくり考えてみていただきたい。
 「あなたは将来の不安を抱えたままで良い仕事ができますか」
 「あなたは将来の不安を抱えたままで仕事上のリスクをとって果敢に
 チャレンジできますか」

 これら二つへの答えはおそらく否であろう。そうであれとすれば、老後の不安を解消することは、企業の成長に寄与することにつながるのではないだろうか。そして、そのために用いることができるツールが退職金(年金)なのである。
 現在の年金は、老後の不安を助長している仕組みかもしれない。ただし、これを老後の不安を解消させるための実効的な仕組みに変えるべく、今一度検討していくことこそが、今、年金(退職金)にとって、成長に資するために求められる使命なのではないだろうか。

溺れる前に藁を見せよ
 とは言え、年金が企業成長に与える影響は軽微なのではないかという懸念も残る。この懸念の根拠は、金銭的報酬の総額に占める退職金・企業年金の割合というのは10%程度と言われているため、また、実際に支払われるのが退職後という遠い未来のためであり、時間的近接度から見ると、基本給や賞与ほどには従業員の意識が向かないことに起因するものと思われる。

 しかし、年金というものは、使いようによっては、そのポテンシャルを発揮しうるものである。なぜかというと、お金に対してありがたみを感じるのは、お金が必要なとき、お金に対して不安を感じているときであり、まさに年金は不安な老後生活のためのお金だからである。
 それを明確に意識させるためには、将来どんな不安が生じうるのか、そしてそれをどのように解決できるのかを従業員に明確に示す必要があろう。これをきちんと行うことで、年金は基本給や賞与に比べて小粒だがピリリと辛くすることができ、投じた費用に見合っただけの効果を追求することができるようになるであろう。
 ただし、そのためには、今まで以上に従業員と効果的にコミュニケーションを取っていく必要がある(あなたがこれだけパフォーマンスを上げれば、厚生年金と合わせて老後に月50万円の年金が支払われ、この程度の生活ができますよ云々)。企業も年金のことは不得手だからといって逃げるのではなく、知識の乏しい従業員に対してわかりやすく説明していくことが必要なのではないか。
 内容をディスクローズすることにより、従業員の不安、不信は小さくなり、また、退職金(年金)に対する企業の支出も有意義なものとなる。

心を鬼にし強制貯蓄
 また、年金に対してこんな反論も聞こえてくる。

 「老後の不安を解消するためには、会社に頼る企業年金よりも、退職
 金の前払い等によって得たお金を、自分で積み立てて運用するほうが
 安心である。」

 確かにもこれも一つの考え方である。しかし、税金を含めた実受け取り額の面から見ると、この考え方は圧倒的に不利となる。
 退職金前払いで現金を受け取って、それを将来の備えとして資産運用する場合には、受け取り時の所得税と資産運用益にかかる源泉分離税(2007年までは一律10%、2008年以降は20%)とがかかる。一方で、企業年金(退職金)を用いる場合には、一時金受け取りの場合は退職所得控除を受けられ(例えば、勤続38年の場合で2,060万円が所得控除される)、分離課税となる。また年金として受け取った場合にも、公的年金等控除を受けることができる。

図2

 細かい税の説明は本稿では省略するが、個人にかかる税制面からみると老後の備えの貯蓄のためには、自ら運用するよりも、圧倒的に企業年金(退職金)制度を使うほうが有利であると言える。

 もともと、企業年金(退職金)は、従業員の税制面での有利貯蓄を会社が行っているようなものである。企業年金(退職金)を用いて、会社が強制的に老後生活のための資金を強制貯蓄させることは、会社からしてみれば支払った金額がより多く従業員に渡せるようになる、すなわち実効性の高いお金になるツールを提供していることになるし、従業員からしてみれば、自分で受け取ってしまえば何かに使ってしまいかねない資金を会社が強制的に貯蓄してくれ、さらには自ら運用するよりも、税制面では有利にしてくれるというのだから、企業年金(退職金)は使うに値する仕組みであると言えよう。

図3

百の病に百の薬
 ここまで、企業年金(退職金)を実効性のある仕組みに変革し、従業員の老後の不安を取り除くことで、従業員が成長に向けた行動を取りやすくするという説明を進めてきた。
 では、どうすれば「企業年金(退職金)を実効的な仕組みに変える」ことができるか、というのが残された課題であろう。

 これについては、病気ごとに、さらに言えば、同じ病気でも個人ごとに最適な処方箋が異なるように、従業員のニーズ、会社の置かれた状況、目指す戦略の方向性等によって一社一社どのような年金(退職金)制度が必要なのかが異なる。本来であれば、我々としても、具体的にコンサルティングに入らなければ、どうすればよいのかという「解」として提言することはできない。

 以下第2部では、退職金・年金制度を従業員の活力につなげるツールとするためのいくつかの観点からの考え方を紹介する。いずれにしても、退職金・年金制度の機能を再認識し、従業員のモラルアップにつなげようということである。参考にしていただきたい。

第2部応用編

従業員の自立度との関連
 企業年金には、大きく分けて、確定給付型(Defined Benefit:DB)、確定拠出型(Defined Contribution: DC)、キャッシュバランス型(Cash Balance: CB)という3種類がある。うち、DBとCBは資産運用の責任を担うのが企業であり、DCは資産運用の責任を個人が担う。また、DBは給付額が金利や株価の変動に影響を受けないのに対し、CBとDCは影響を受ける(CBが全従業員一律で金利の影響を受けるのに対し、DCは個人の運用成績によって影響度が異なる)。

 DBとCBは資産運用の責任を会社が担うため、従業員は基本的には会社に任せておけばよいのだが、DCは資産をどのように運用するのか自ら意思決定しなければならない。さらに言えば、DCでは、意思決定の失敗によっては、元本を割り込むことさえある。

 老後の生活の資金の多寡が、自らの運用手腕によって左右されるということは、従業員の会社からの自立度が高くなければ、うまくいかない。会社側の論理である退職給付債務カットを優先し、無理やりDCを導入したとしても、株や債券など全くわからない、あるいはわかろうとしない従業員からしてみれば、運用のリスクや手間を押し付けられたと感じるだけだろう。これでは、会社への忠誠心が下がることはあれ、やる気が増え、会社の成長へ寄与することは望めないであろう。

企業の成長段階との関連
 退職金・年金が従業員に対して強いアピール力や安心感を持たせるためには、企業の成長フェーズによって対応策を変えていくことが必要になる。ここでは、大きく分けて、若い企業と成熟した企業の例を挙げて解説したい。

 若い企業においては、一般的に従業員の平均年齢も低く、従業員のリスク許容度や流動性は高い傾向にある。このような会社においては、「定年まで勤め上げると豊かな老後が約束されますよ」という“The 年金”的なものは効果が薄いことが予想される。むしろ、自分の老後のことは自分で考えさせるようなDC的な仕組みのほうが従業員からも受け入れやすいであろう。
 ただし、先に述べたように、従業員の自立度が低い場合においては、DCを導入するのは逆効果で、代わりにCBを用いることを勧めたい。そもそも、CBは米国では短勤続の従業員に対する仕組みとして発展してきた経緯もある。長期にわたって勤続する従業員に対して固定金利を約束する(すなわち、DB)ことは、ある程度、会社としても合理的だが、短期間しか働かない従業員に対して固定金利を約束するのは会社としても無用なリスクを負うことになる。ゆえに、その都度の変動金利だけを約束する(すなわち、CB)ほうが会社としては得策となるのである。

 一方、成熟した企業においては、若い企業と逆に、一般的に従業員の平均年齢は高くなり、従業員のリスク許容度や従業員の流動性は低くなる傾向にある。このような会社においては、DB的な仕組みのほうが従業員にとってはありがたみを感じることになるだろう。このように、従業員のニーズに応じた制度を提供することにより、従業員のモラルアップを図ることができる。

ビジネスモデルや人材モデルとの関連
 上記の企業の成長段階との関連の項では、企業年金(退職金)設計の際に、従業員サイドの視点に立った場合の選択のあり方について述べたが、同時に、会社サイドとしての視点も考慮する必要がある。すなわち、会社としてのビジネスモデルとそれを支える人事戦略により、企業年金(退職金)のあり方も変わってしかるべきことに留意する必要がある。
 企業年金(退職金)制度をDBやCBにすることによって、ベスティング係数(一般的には自己都合退職係数が用いられる)をかけることができるようになる。これによって、従業員を会社に「引き留め」ておくことや、会社からの「引き離し」をかけることができるようになる。

 もし、従業員が長く勤続することによってスキルやノウハウ、あるいは組織知を溜め込ませ、総合力で勝負していこうという人事戦略を持つ企業では、総報酬に占める退職金・年金の比率を高め、かつこのベスティング係数により「早く辞めると損だ」というメッセージを送り、従業員を囲い込んでしまったほうが有利になる(先に、若い企業ではDC的なほうが適していると述べたが、会社の明確な意思として従業員を過度な流出を阻止したいのであれば、若い企業でも逆張りとしてベスティングを効かせていく方法もある)。
 一方、常に新しい人材を外部から引き寄せ、絶えず外部から新たなアイデアを注入していく人事戦略を持つ企業であれば、DBやCBを使ったとしてもベスティングをかけない、あるいは、ベスティングが不可能な前払い的なDCの仕組みにするほうがよい。これによって、従業員からしてみれば、いつ辞めても有利不利がないため、人材が社内に無理に滞留しない。あるいは、長く勤続しなくても退職金が多く給付されるとして、人材獲得に有利となる。

ハイパフォーマーにとっての節税との関連
 日本の所得税は10〜37%までの累進課税である。すなわち、所得が伸びたとしても、手取りはそれほど急激に伸びない仕組みになっている。会社は従業員の貢献に対してできる限り多く報いたいと思っていても、所得税が増えるばかりで、従業員が実際に受け取る金額はなかなか増えていかない。

 先にも述べたが、日本の退職金・年金というのは税制上非常に優遇されている。よって、高所得者に対しては、給与として前払いとするよりも、退職金・年金として後払いするほうが有利となる。これを活用することによって、会社が支払ったお金のうち、従業員に実際に渡る割合を大きくし、かつ、退職金や年金として後払いにすることによって、高所得者、すなわちハイパフォーマーを「引き留め」ておくこともできるようになる。

 実際にこのようなスキームを導入するにあたっては、ハイパフォーマーに対する特権的な退職金・年金制度という形になるであろう。ある一定の資格等級や職位以上の従業員は、基本給の伸びは抑えつつ、ベースとなる退職金・年金とは別に付加的な退職金・年金を導入する。その退職金・年金は賞与と同様に成果・業績を大きく反映するようにし、賞与を後払いにするような形にしていくという方法が考えられる。

図4

キャッシュの必要度との関連
 企業の成長のためには、キャッシュが不可欠である。このキャッシュを捻出するための仕組みとして、退職金・年金を使うという方法もある。概念的には、従業員に強制貯蓄させた資金を事業投資に回し、そこから生み出した利益によって、従業員に対して利息を付けて返すという仕組みとなる。

 具体的には、退職金の積み立てにおいて、企業年金による外部拠出を行わず、社内引当金を用いる。社内引当金は、バランスシート上では計上するが、退職金の前払いや外部拠出のように実際のキャッシュアウトは発生しない(退職者が実際に出て支給を行うときまでキャッシュアウトを繰り延べられる)。そのため、引当額は現金で持つ以外にも、提携企業の株式や機械設備等の企業成長のために必要となる資産で持つことも可能となる。

 ただし、これは裏を返せば、会社としては保全すべき資産を使ってリスクを取ることになる。これは、従業員からしてみれば、外部拠出によって会社の外に資産が保全される企業年金の仕組みと異なり、実際に会社が倒産してしまえば退職金が支給されないというリスクを負うことになり、無用な不安を生むことにもなりかねない。従業員からの貯蓄を使って事業投資をするという方法は、中毒になって、感覚が麻痺しかねないので、何らかのブレーキをかける仕組みを同時に持つことによって節度のある程度に収める必要があるだろう。
 いずれにしても、退職金・年金は、会社にとっても成長を阻害するものではないということである。

会社財務との関連
 最後となるが、退職給付債務(PBO)に対する考え方によって、退職金・年金制度のあり方は変わってくる。PBOをコントロールしたいといった場合には、PBOの「絶対量」と「ブレ」に分けて考える必要がある。PBOの絶対量を減らすためには、DCあるいは退職金の前払いが有効である。DCや退職金の前払いをすることによって、PBOはゼロにすることができる。ただし、後払いするために積み立てておくべきお金を前払いするだけのことなので、会社の負担が減るわけではないことに注意する必要がある。
 一方、PBOのブレを減らすためにはCBが有効である(なお、DCや退職金の前払いの場合はPBOがゼロになるため、そもそもPBOがブレることはなくなる)。CBにおいては、積み立てられた給付額に付与する利子を金融市場の動きと連動して変えることが可能であるため、金利の変動等により大きな積立不足が発生する可能性はほとんどない。

 ただし、最近の年金制度改革はこの財務的な視点ばかりにとらわれている感がある。そもそも、年金制度は人事制度の一環である。年金に対して財務的な視点から改革を進めた結果、財務的にはよくなったものの、従業員からは総すかんを食うということでは、企業成長に対してマイナスの影響を及ぼしかねない。人事、財務の両面から複眼的に考える視点が必要となってこよう。

最後に
 以上、企業の成長に向けた退職金・年金の活用のあり方について、いくつかの視点から考え方を示した。では、どうするかという意思決定は、何を重視し、何を捨てるかという会社の優先順位付けによって検討していくしかない。

 本稿では、退職金・年金が成長に寄与できる可能性について論じてきた。当然のことながら、企業成長に寄与する割合は退職金・年金よりも、他の要素によるものが大きい。しかし、退職金・年金も工夫の加え方によっては、投じた金額以上の企業成長へのリターンにつなげることもできると我々は信じている。今一度、現在の退職金・年金制度がこのままでよいのかというところから議論を進めてもらいたい。

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(※1)企業年金は、退職金の変形であることが多いため、本稿では「年金=退職金」と適宜読み換えて
    ほしい。

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●関 邦雄 せき くにお/年金数理人。日本アクチュアリー会正会員。三井信託銀行年金企画部部長を経て、ワトソンワイアット株式会社入社。退職金・年金制度のコンサルティング経験30年。大阪大学理学部数学科卒。

●河原 索 かわはら さく/日本貿易振興機構(JETRO)を経て、ワトソンワイアット株式会社入社。業務プロセス軸からの人材マネジメント改革や、トータルコンペンセーションの観点から退職金を含めた報酬制度等のコンサルティングに従事。国際基督教大学(ICU)教養学部社会科学科卒。慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。