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【巻頭言】 |
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【巻頭言】
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佐川 利道 |
「ルネッサンス」をインターネットで検索してみると、実は日本人が、この中世ヨーロッパで起こった社会現象にあやかったネーミングがとても好きなことがわかる。「ルネッサンス○×」と名付けられている対象は、気分が良くなるものとか、リフレッシュする場所など、明るい雰囲気のものばかりである。
読者の中には、よりによって「年金(ペンション)」に「ルネッサンス」とは、コンサルタントはお気楽なものだ、と思われる方もいるかもしれない。
しかし、将来の歴史の教科書に、極めて異常な市場環境だったと記されるであろう厳しい十数年を経て、世の中の雰囲気(環境)に、トレンドが変化する予兆が感じられることも確かである。このなかには、八方塞がりの感が強かった年金問題(ここでは、民間の年金を対象とするが)も含まれている。
私たちは、この雰囲気(環境)を大切にしなければならないと考えている。
歴史を繙けば、ルネッサンスが勃興する以前の中世ヨーロッパは「暗黒時代」といわれた。これは封建君主に社会が、ローマカトリック教会に知識が独占・支配されていたことを背景としている。このように硬直した時代は、人間の思考を停止させてしまう。新しい考えは異端とされ、賢者の出現は封印された。
この暗黒時代は、マルティン・ルターの宗教改革を契機に大きく変化していく。彼の行動は異端と紙一重の改革であったといえるが、それが実を結んだのも、時代の雰囲気(環境)の変化が大きく影響しているといってよいであろう。
翻って現在の年金に目を向けると、依然として課題が山積みであり、そのなかには、従来から堅持してきた方針で大きな損失を出したり、企業財務上の許容限度を超えるような収益の変動が短期的に生じるというアプローチ自体の問題も含まれている。また、人事、財務、運用という3つの戦略の全体最適を要求される年金の意思決定(図1)は、常に困難が伴う。
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図1 |
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しかし、「異端」を恐れた小手先の対応では、同じ過ちの繰り返しになることは自明である。
新しい考え(=賢者)を生み出すことと、それを受け入れていくことができる雰囲気(環境)が必要である。それこそが、新しい世界を切り開いていくための活力の源泉となる。
もう少し、「ルネッサンス」を譬えに引いてみたい。
暗黒時代からの離脱は、その後の社会を変えていく3つの大発明を生んだ。「羅針盤(コンパス)」、「火薬(=>鉄砲)」、「活版印刷術」である。
これらが大発明といわれるのは、極めてユニークな発見を、広く社会全般のインフラにまで展開することができたためである(分かりやすくいえば、誰もが理解し、使える道具になったということ)。
さて、これからの年金運営には、新しい考えを採り入れていくことが必要だと申し上げたが、それがいかに素晴らしいものであっても、(初期段階はともかく)特定の専門家にしか理解できない/使えないようなアプローチでは意味が無い。そのようなレベルが要求されるのであれば、コストは割高なものとなり、年金を維持していくこと自体が困難になってしまうであろう。
したがって、年金を運営していくためのベースとなる考え方、インフラは(当然に、ボトムラインの専門性は要求されるが)、広く誰もが理解し、活用できるものにしていかなければならないのである。そうでなければ、さらなる進歩は望めないし、年金を維持する意欲(そこまでする必要があるのか?)をそいでしまうことにもなりかねない。
「ペンション・ルネッサンス」には、そのスタートが2004年であり、私たちがそのソート・リーダーになるという想いを込めている。
ルネッサンスの三大発明にあやかって、今後の年金運営を考えていくための論点を整理してみたい。
「羅針盤」
私たちがマネージしなければならないリスクとは、「不確実な将来」と「人間心理(シータ、図2)」の2つである。
進むべき方向を誤らないための「リスク・マネジメント」を進化させていくことが、最も重要な「羅針盤」になる。
これは、リスクを知る作業(計画)と、常に変化する実際のリスクに対する管理作業(運営)の2つに分けられる。この基礎となるのがALMである。
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図2 |
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「火薬」
効率性の高い運用戦略を構築するための、「投資機会・投資対象」の拡大が、年金の「火薬」といえよう。これには、マネジャーのアルファ活用の再評価が重要な位置を占める。
「活版印刷術」
世の中に情報と知識の共有化をもたらした活版印刷術は、その当然の効果として、意見を多様化させ、意思決定プロセスを複雑にした。そのため、「活版印刷術」の発明は、そのツールをいかにマネージするかという、新しい課題を生み出すことになる。
多用な価値観と複数の立場が錯綜する年金では、同じ「羅針盤」と「火薬」を使ったとしても、その運営の巧拙によって、大きな差が生まれる。自らの年金に最適な「ガバナンス」の構築と運営が「活版印刷術」とそのマネージにあたるといえよう。
以下で、各々の概要を説明する。
従来の運用方針は、将来の掛金引上げを回避するという目的から、@「予定利率」をターゲットに、A資産サイドのリスク主導で、B長期の時間軸に基づいて構築されてきた。
しかし、私たちがマネージしなければならない「不確実な将来」を考えると、この「羅針盤」は、取り替える必要があると考える。
まず、退職給付債務(PBO)やキャッシュ・バランスのように、債務が金利で時価変動する場合には、運用のターゲットは予定利率ではなくなるため、資産主導のアプローチ(=最適化によるアセット・アロケーションの選択)では、十分に機能しない。
「羅針盤」を機能させるためには、資産と債務の両者の変動を一体でとらえる必要がある。そのための指標は、両者の差額(資産額−債務額)である「サープラス」であり、リスクを判断するための基準は、その大きさと変動性(サープラス・リスク)に変わる。したがって、最適なアセット・アロケーションの選択も、(リターンからではなく)サープラス・リスクから導出されるプロセスに変える必要がある。
なお、このアプローチは、債務が時価変動しない場合であっても、アセット・アロケーションのリスク・マネジメントという観点から、同様に考えることができる。
次に、長期投資である。
長期投資自体は、年金債務の特性とシータに対する有効な対応策として、今後も重要な羅針盤であり続ける。
しかし、その方針だけでは、現実のギャップに対する対応力に乏しく、結果的に計画倒れになりやすいという大きな欠点を持っている。この点を解決していかなければならない(図3)。
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図3 |
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そのためには、サープラス・リスクを、固定的な時間ではなく、時系列で認識する必要が出てくる(これを実践するためには、ALMを、サープラス・リスクに基づく多期間のアプローチに変えることが必要になる。弊社では、「ダイナミックALM」というアプローチで対応している)。
「羅針盤」を変えることで、「不確実な将来」をより立体的に、深く理解することが可能となり、「シータ(人間心理)」に対する有効なマネジメントにつながるのである。
古いままの「羅針盤」では、安全な航海は困難になるであろう。
年金資産の投資対象を整理すると、まず、債務に対するマッチングを考える債券と、債務に対してリターンを得るための株式に大別できる。さらに、リスク分散と収益機会の拡大のためのオルタナティブ資産が挙げられるが、ここでは、マネジャーのスキル(アルファ)について再考してみたい。
昨今の国内年金は、ヘッジファンドに対する興味が大変高まっている一方で、株式・債券のアクティブ・マネジャーに対する興味は低下気味である。これには様々な要因があると思うが、ベンチマークに対する相対リターンのプロダクトと絶対リターンのプロダクトに対する興味の違いに整理してもよいであろう。
債務に対してリターンを得るための投資対象として、株式以外に、マネジャーのスキルに目を向けることは、(その分散効果を含めて)重要である。ヘッジファンドやプライベート・エクイティへの投資はすでに行われているが、弊社では、それ以外にも、絶対リターンに関するコンセプト(Long-term equity、Multi-asset absolute return等)を検討している。この領域が、今後のアセット・アロケーションにおける重要な位置を占めるようになることも考えられる。
ただし、あくまでマネジャー・スキルのトータルはゼロサムであり、勝ち組を選ぶことができた年金のみが、この効果を享受できることに注意する必要がある。ここは、マネジャーに対するリサーチ力に依存する分野であり、かつ、シータを最小化することが前提条件になる。それができないと、究極のお任せ運用になってしまう。この場合、昔のお任せ運用とマネジャー(信託・生保)が違うことは関係ない。なぜなら、お任せ運用は委託者サイドの問題だからである。
さて、マネジャー・スキルの再活用という点からは、現在使っているアクティブ戦略を見直すことで、前述の効果に近いものを得ることが決して不可能ではないことに読者の皆さんは気づいているだろうか?
「火薬」は使う側によって、湿って不発にもなるし、爆発する力も異なってくるのである。
ガバナンスを考える上でのスタート・ポイントは、私たちがマネージしなければならない「将来の不確実性」と「シータ」に対して、オールマイティに対応できるツールやマネジャーなど存在しないという認識である。
したがって、ガバナンスとは、常に変化する状況(リスク)に対するマネジメントと言い換えることができる。これは、「羅針盤」と「火薬」を適切に使いこなせる意思決定プロセスと、それを支えるすべての要素(人材、体制、リソース等)と定義でき、直接的な投資判断だけでなく、年金の制度設計(人事戦略)、財務戦略まで含めた大変広い分野が関連する。
そして、このガバナンスを支えるものは、@リスクに対する正しい理解、Aディシプリン(規律)、B柔軟性の3つに整理できる。
これを従来のガバナンスに当てはめると、「Aディシプリン」主導のアプローチといえるであろう。それは、「B柔軟性」に伴う意思決定プロセスの困難性(選択肢が増えれば、迷いが生じる)を回避したものである(図4)。
このアプローチも決して誤りではない。ただし、今後はディシプリンと柔軟性の双方を持ったガバナンスがスタンダードになっていくであろう。
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図4 |
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ルネッサンスにあやかって、日本の年金がチャレンジすべき3つの領域(羅針盤=リスク・マネジメント、火薬=マネジャー・スキル、活版印刷術=ガバナンス)について、概要を述べた。
これまでの常識からは「異端」と感じられるものも少なくないが、そのなかから、将来の「スタンダード」が生まれてくると考える。
それが、リスクに対する自信を取り戻し、年金を再生させる道である。
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