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【巻頭言】 |
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年金負債構造に基づく
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川辺 純 |
最近、年金資産と負債の両面から同時にシミュレーションを行い、最適な資産配分を模索する年金ALM手法が求められている。いわゆる、サープラス(=資産−負債)ベースの年金ALMである。その背景には、金利変動リスクにさらされる退職給付債務(PBO)の存在や、代行返上やキャッシュ・バランス型制度の導入といった、年金制度自体の多様化がある。
ただ、実際に資産と負債の両面から、真の意味でのサープラスベースのALM分析を行い、年金スポンサーにとって最適な資産配分を決定することは、従来の資産配分策定手法と比較して、より複雑で難易度の高いプロセスが要求される。
本稿では、まず年金負債の金利連動性に関して一般的な考察を行った後、金利変動リスクをヘッジするための手法とその問題点を議論し、最後にその解決策に関して提案と検証を行う。
退職給付会計上の年金負債である退職給付債務(PBO)は、割引率の値に大きな影響を受けるが、日本と米国の割引率の決定方法の違いにより、PBOの金利感応度が大きく異なる可能性がある。
米国会計基準(FAS 87)では、割引率の決定に際し「年金給付が実際に清算されうる利率を反映させる」と定め、債務評価時点の利率を用いることを求めているのに対し(※1)、日本の会計基準では、「過去の一定期間の変動を考慮して補正」(※2)することを認め、また、その期間は「おおむね5年以内」(※3)としている。
つまり日本の制度では、例えば割引率の決定方法が20年国債利回りの5年平均と仮定した場合、元となる利回りが1%上昇しても、割引率はその5分の1の0.2%しか上昇しないことになる。すなわち、その場合のPBOの金利感応度は、割引率決定にそのままの金利を採用する米国のようなケースと比較して、計算上5分の1となることになる。
実際、ある年金スポンサー(DBとCB)に対し、割引率平均化年数を変化させてPBOの金利感応度を検証してみると、DBとCBの両ケースとも、指標利回りの平均化年数が増加するにつれ、PBOの金利感応度が減少し、金利変動によって債務の変動が説明できる比率(決定係数)も低くなることが確認できる。(図1)
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図1/割引率平均化年数と金利感応度 |
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すなわち、一般的に年金負債(PBO)のデュレーションは長い(金利感応度が高い)と思われているが、それは、例えば米国のように割引率が金利とそのまま連動するケースに当てはまるのであって、割引率決定に金利の平滑化を採用している場合、PBOのデュレーションは、一般に考えられているデュレーションよりも短く(金利感応度が低く)なる。また、同時にその遅効性のため、金利変動からは直接的には説明できない債務変動の割合が増えることも資産配分の決定にあたって考慮する必要があろう。
また、PBOの金利感応度はその時点の金利(割引率)水準や、時の経過により変動する場合があることにも注意が必要である。一般に割引率を横軸としたPBOカーブは下に凸であるから、その接線の傾きである金利感応度は、金利(割引率)水準が高くなるほど小さくなる傾向がある。また、年金スポンサーの負債構造によっては、時の経過によっても金利感応度は変化するであろう。図2は、ある年金スポンサーの割引率に対する感応度が、割引率水準、および時間の推移でどう変化するかを表したものである。
サープラスベースのALMでは金利変動を含む様々な要因により変動する負債に対し、変動する資産をさらに併せて検討することになる。負債の変動特性をしっかり理解することで、最初のステップ―土台づくりが完了する。
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図2/PBOの金利(割引率)感応度 |
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さて、サープラス変動リスクを、主要因である金利変動要因とそれ以外の要因の2つに大別し、まずは主要因である金利変動要因に関して、金利変動に連動する債券ポートフォリオを用いて、その変動リスクをヘッジすることを考える。
単純にサープラスの金利変動によるブレの回避を目的とするならば、負債の金利感応度と資産の金利感応度を一致させ、金利変動に対する資産と負債の変動を相殺させることが、最も単純な方法である(デュレーション・マッチング)。また、その金利変動リスクのヘッジ効果は、負債の変動が金利変動で説明可能であればあるほど、その効果が高い。
例えば、割引率として直近の金利を採用する最も金利変動と債務の連動性が高いケースで、PBOの金利感応度と同じデュレーション(15年程度)の債券ポートフォリオを用いて、PBOの変化率とポートフォリオ・リターンを、1,000パターンのモンテカルロ・シミュレーション(※4)で3年間の分析を行った。(図3)
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図3/サープラス・リターンとその要因 |
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その結果、債務の伸び率(b)とポートフォリオ・リターン(a)が互いに相殺して、その差であるサープラス・リターン(c)はほとんどブレがなく、金利変動によるサープラス変動リスクがデュレーション・マッチングにより効果的にヘッジされていることがわかる。債務と金利の連動性が高く、債務変動が金利変動要因により十分説明できる場合、デュレーションをコントロールすることによるサープラスのブレの抑制効果は高い。
次に、サープラス変動リスクのうち、金利変動以外の要因で債務が変動するリスクに関して考える。
債務変動における金利変動以外の要因としては、割引率決定における金利平滑化といった金利変動の影響が先送りされることによるタイムラグの要因や、金利変動と無関係に時系列で債務が増加するといった年金スポンサーの個別債務構造の要因などが考えられる。
例えば、DB制度で割引率として過去5年平均の利回り数値を採用した場合、金利と割引率のタイムラグの影響で、図1でみられるように債務の金利感応度は小さく、債務変動が金利変動により決定する比率も小さい。
こういった債務と金利の連動性が低い状況では、デュレーションを債務に合わせた債券ポートフォリオでも、サープラスのブレを効果的にヘッジすることは難しい。債務の金利感応度と合わせた短期債券ポートフォリオで同様のシミュレーションを行うと、確かに資産と債務が変動する方向性は一致し、多少金利変動リスクを相殺するが、PBOの変化率に短期債のリターンが追いつかず、サープラス・リターンがマイナスになる結果となった(図4)。
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図4/サープラス・リターン(短期債券) |
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特に図左側のサープラス・リターンが悪いシナリオにおいては、割引率低下で増加するPBOの伸び率に、短期債のみのポートフォリオではリターンが追いつかない“リターン不足”の状況が顕著に表れている。金利変動リスクをヘッジするため、債務の金利感応度に合わせてデュレーションを短くした結果、金利変動で説明できる割合がそもそも非常に小さい債務の変動リスクをヘッジした一方、タイムラグのため金利変動では説明できない債務の上昇を、資産がキャッチアップできない結果となった。
繰り返しになるが、デュレーション・マッチング手法の有効性は、債務変動を金利変動で説明するその説明力にかかっている。
一見、デュレーション・マッチング手法がうまく機能しているように見える前述の図3のケースも、金利変動では説明できない、例えば、時の経過で債務が変動するような負債構造を内包している場合には、その効果は当然薄れることになる。
こういったデュレーション・マッチング手法による限界に対処するため、サープラスの「変動」という金利感応度を介したリスク側面のみからのアプローチに加えて、サープラスの「水準」という、リターン側面も含めたリスク・リターン両面からのアプローチを考慮することが必要である。デュレーション・マッチングで金利変動リスクをある程度ヘッジしても、それ以外のどうしても残る金利変動と無関係なミスフィットの部分で、サープラス・リターンが下ブレするリスクが残ってしまう。
また、ここでいうサープラスの「水準」とは、具体的には、サープラス・リターンや実際のサープラス金額であり、例えば、1,000パターンといった複数回のシナリオパターンでシミュレーションを行ってソートした結果のうち、上位から75%、95%、99%といった特定の確率におけるそれらの指標を、その確率におけるVaR(Value at Risk)と定義する。
このVaR指標でポートフォリオを評価することにより、例えば、負債に対してプラスの期待超過リターン(期待サープラス・リターンがプラス)であるとしても、その分対負債で下ブレするリスクが高い(サープラス・リスクが高い)とすれば、VaRが低くなることもある一方、デュレーション・マッチングのように、期待サープラス・リターンはほぼゼロでも、想定サープラス・リスクが小さければ、VaRが高くなることもある。
例えば、前述の図4のケースで、75%の確率におけるサープラス・リターンが最大となる債券ポートフォリオをサーチング(最適化)した結果、デュレーションは図4で想定したケースよりも長くなり、75%(下位25%)確率におけるサープラス・リターン(?)は、図4の短期債のみのケースと比較して改善していることがわかる。(図5)
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図5/サープラス・リターン(最適な債券) |
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これは、短期債ではキャッチアップできなかったPBOの上ブレ(割引率の下ブレ)を、よりデュレーションの長い債券を組み入れたことで、主にリターン面で改善できたことを示している。
こういった検証結果は個別年金スポンサーの負債構造により全く異なる可能性があるが、実際は、こうして検証した債券ポートフォリオに株式などのリスク資産を加えながら、VaRで最適なポートフォリオを検索し、さらなる効率化を目指すことになる。
ターゲットとなる年限や用いる確率、それらを複数組み合わせる場合はそのウェイトなど、VaRの設定には様々な要素が組み合わさるが、やはり重要なのは、負債構造を把握した上での年金スポンサーの個別判断である。
本稿では、サープラス・リスクの変動要因を、主要因である金利変動要因とそれ以外に大別し、各々のリスク特性を考慮しながら、そのマネジメント方法とその限界に関して論じ、最終的に、リスク側面にリターン側面を加味したVaRベースのアプローチの有効性を確認した。このアプローチや考え方は、例えば、年金負債がPBOではなく、数理債務や責任準備金であったとしても、金利に対する感応度の大小はあれ、基本的には同じである。
また、割引率の算出方法の違いにより、サープラスの金利連動性は変化し、その結果、予期せぬサープラス・リスクが発生し、そのためのリスク・マネジメントが必要になるかもしれないが、本稿では、サープラスの金利変動性を高めるために、割引率算出方法を変更すべきだと主張しているわけではない。もちろん、母体と年金スポンサーが、お互いの利益、不利益を勘案しながら、一体となって年金資産運営を行うことは、これからより重要になってくるであろうが、より大事なのは、現時点で所与の負債構造の中で、その特性を正確に把握した上で、今後に向けて適切な対策を検討し、実際に実行するということである(母体と年金スポンサーの関係に関しては、本特集の佐川利道「リスクに打ち勝つ組織を創る」を参照)。
年金ALMは、資産配分を決めることが最終目標ではあるが、その過程で発見される負債やサープラス・リスクの特性の理解、運用開始後の戦略的な資産配分といった運用方針の決定も、大事な副産物である(年金ALMとリバランス戦略に関しては、本特集の岡田章昌「ダイナミック・リバランス・ポリシー」を参照)。
数年間低迷が続いたかと思えば、50%以上の上昇をみせる国内株式市場や、金利の急上昇に対する債券価格暴落の懸念など、市場環境は目まぐるしく変化し、将来は予測不能である。
そういった不確実な運用環境の中で、金利が上昇・下降した場合に自年金に与えるインパクトはどのくらいか? その時のサープラス水準は? その時とるべき対策は? といった問いに対して、事前に準備を整え、想定を超える市場環境の変化に備えることが、これからの年金担当者に期待される姿勢ではないだろうか。
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(※1)米国では、その分回廊アプローチの採用により、債務変動がある一定の範囲内であれば、必ずし
も償却の必要性はない。
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(※2)退職給付会計に関する実務指針(中間報告)第59項
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(※4)シミュレーションは、金利パスの生成にCIRモデルを用いるワトソンワイアット社のダイナミックALM
モデルを用いた。
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