【巻頭言】
ペンション・ルネッサンス
リターン獲得に向けリスクに対する自信を取り戻す

1.
リスクに打ち勝つ組織を創る
リスク・マネジメントとガバナンス
   
2.
年金負債構造に基づく
サープラス・リスク・マネジメント

3.
ダイナミック・リバランス・ポリシー
リアルオプション的アプローチによる
アセット・アロケーション戦略の革新

4.
アルファ戦略の現状と今後の新展開
勝ち抜くために

5.
年金基金のヘッジファンド運用
最近の動向と留意点
   
6.
運用会社経営とアルファ創造
ルネッサンスは多様性の復興か

7.
付加価値を創造するもの
何を見るか? どう選ぶか?

8.
年金のトータルリスク管理
個別マネジャーに対する相対リスク管理から 年金全体のトータルリスク管理へ

9.
年金運用全体のモニタリング

【基礎講座】
パフォーマンスはガバナンスで決まる
過去3年間の運用実績を振り返る

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パフォーマンスはガバナンスで決まる
過去3年間の運用実績を振り返る

 

 

保母 和也

 

小笠原 真由美

はじめに

 昨年度の運用パフォーマンスは良好だったものの、年金スポンサーを取り巻く過去数年間の運用環境は、大変厳しいものであった。とはいえ、各スポンサーの運用実績データを調べてみると、すべてのスポンサーの運用実績が一律に悪かったわけではなく、各スポンサーの間で、資産運用の優劣に大きな差が生じていることがわかる。表1は、弊社が四半期ごとに行っているサーベイにより、2001年度から2003年度までの過去3年間の各スポンサーの総資産リターンの実績を分析したものであるが、総資産リターンの上位25%の平均と下位25%の平均との間には、年率3.40%もの大きなリターンの差が生じているのである。

表1/総資産収益率 上位25%と下位25%の比較

 さらに、この総資産リターンを、資産配分がどの程度リターンに影響を与えたかを説明する「期初アセット・アロケーション効果」、マネジャー・ストラクチャーとマネジャー・セレクションによる銘柄選択の優劣がどの程度リターンに影響を与えたかを説明する「銘柄選択効果」、「その他タイミング効果」の3つの要因に分解してみる(表1)。上位25%の平均と下位25%の平均を比べてみると、期初アセット・アロケーション効果においては1.95%、銘柄選択効果においては1.52%もの差が生じており、資産配分がパフォーマンスに一定の影響を与えることや、各スポンサー間の、マネジャー・ストラクチャー、マネジャー・セレクションによる銘柄選択の優劣の差が大きいことが確認できる。

何がパフォーマンスの差をもたらしたのか

 では、資産配分、マネジャー・ストラクチャー、マネジャー・セレクションなどの優劣の差はどこから生じるのであろうか。意思決定プロセスが大きく影響していると考えられる。
 資産配分をどうすべきか、マネジャー・ストラクチャーをどうすべきか、といった運用に関する意思決定については、運用に関する要因のみを考慮して行われるべきであるが、現実には、「他のスポンサーと異なる資産配分にすることで失敗したくない」、「取引先の運用機関を選定しなくてはいけない」といった運用以外の要因に影響されて意思決定が行われているケースが多い。弊社では、このように、意思決定に歪みを生じさせる要因をθ(シータ)ファクター(運用効率に悪影響を与える不合理な心理要因、取引関係を優先した運用機関選定等)と定義しており、θファクターの影響を抑え、効率的な意思決定を行うには年金ガバナンスの向上が必要だと考えている。
 図1は、弊社の考える資産運用サイクルであるが、すべての意思決定プロセスに年金ガバナンスが深く関わっていることを表している。つまり、年金ガバナンスの強化によって、θファクターに影響されない、高度な意思決定を行えるかどうかが、資産配分やマネジャー・ストラクチャーなどの優劣に関係してくるのである。

図1/資産運用サイクル


年金ガバナンスとは

 前節で年金ガバナンスの重要性について述べたが、そもそも年金ガバナンスとは何であろうか。ここで、年金ガバナンスについて簡単に定義しておきたい。年金ガバナンスとは「年金の運営体制そのもの、年金運営の意思決定プロセス、意思決定が適切に行われていることを確認するプロセス」である。そして、ガバナンスレベルは具体的には以下の要因によって決まる。

@運営体制
 ・リソースレベルの充実(年金スポンサー内部のリソースレベルの向
  上、外部リソース[コンサルタント]の導入・活用)
 ・専門性(専門分野における役割分担、担当者の知識、経験、業務へ
  の集中度)
 ・適切な評価と処遇(専門性、運用実績に応じた処遇体系)
A意思決定プロセス
 ・適切な権限委譲とプロセスの明確化(運営体制での役割分担)
 ・プロセスの迅速化(組織のフラット化、スムーズな意思決定)
Bチェック体制の充実
 ・中立性・独立性(意思決定・執行とチェック機能の分離)
 ・適切かつタイムリーにチェック(意思決定プロセスの妥当性を確認)
 ・透明な情報開示(事業主・加入者への開示)

 年金ガバナンスというと、何か特別なものを思い浮かべるかもしれないが、「年金運用」という要素を取り除くと、一般組織におけるガバナンスと本質的には何ら変わらないものであることに気づくのではないだろうか。

ガバナンスレベルと運用パフォーマンスとの関係

 これまで年金ガバナンスと意思決定プロセスについて論じてきたが、ガバナンスレベルと運用パフォーマンスには、実際どのような関係があるのだろうか。ここでは、実績値を用いながら、これらの関係について実証分析してみたい。具体的には、弊社で行っているガバナンス・サーベイのデータを利用し、リソースレベルの充実度(運用体制、運用担当者の経験年数、運用成績と処遇との関係、外部コンサルタントの活用度合い)、運用機関選定におけるθファクターの影響(母体との取引関係、過去実績、運用機関のブランド)が、それぞれどのように運用パフォーマンスに影響してくるかを分析するものである。分析内容をファクター分解で示したのが表2である。
 表2を見ると、ガバナンスレベル(リソースレベル)と運用パフォーマンスが相関している(相関係数0.28)のが確認できる。つまり、実績値からは、ガバナンスレベルの向上が図1の資産運用サイクルにおける意思決定を高度なものとし、運用パフォーマンスの改善をもたらしていることが確認できる。また、インディペンデントファクター(運用機関選定における、θファクターからの独立度合い)と運用パフォーマンスについても相関関係(相関係数0.32)が見て取れる。運用機関の選定にあたり、いかにθファクターの影響を排除し、効率的な意思決定を行うことができるかが、運用パフォーマンスを決定する大きな要因となっているのである。少し別の見方をしてみると、ガバナンスレベルとインディペンデントファクターの間にも、相関関係(相関係数0.27)が確認できる。このことから、ガバナンスレベルが高くなるにつれ、θファクターの影響を抑えた、より効率的な意思決定が可能となり、そのことが運用パフォーマンスに良好な結果をもたらしている、ということが実証できる。

表2/運用パフォーマンスとの相関


パフォーマンスの差 ― アセット・アロケーション

 前節で、ガバナンスとパフォーマンスの相関について実証したが、本節からは、どれくらいパフォーマンスの差が生じているのか、資産運用サイクルの流れに沿って実証する。
 まずはアセット・アロケーションとリターンの関係を検証するためにタクティカル・アロケーション戦略の導入とリターンへの影響について分析してみた。
 企業年金の運用は、長期運用されることが通常であるが、時にある資産の相場環境が好転しリターンを得るのに魅力的な相場環境になった場合、目先の収益に目がくらみ短期的に資産配分の変更をしたいと思う心理は普通であろう。このように、短期間に資産配分を変更し、収益を狙う手法をタクティカル・アセット・アロケーション戦略(TAA戦略)という。短期的な資産配分の変更は長期的な観点から見て結果的に収益を上げることに貢献できるのであろうか? 毎年年始になると新聞各紙上に、著名なエコノミストや各銀行の業界関係者による「×年度の日経平均は××円になるだろう」という予測が掲載される。だが、しかし年末になった際に果たしてどれだけの予想が当たるであろうか? マーケットをぴたりと予測するのはプロにとっても非常に難しいと思われる。
 表3は総資産超過リターンに対するタクティカル・アセット・アロケーション効果を表している。TAA効果とは各四半期中に起こった資産配分の変化を計算し、短期間で資産配分を変更することでどれほど効果が出たかを表したものである。これによると、総資産超過リターンの中央値▲0.24%に対し、TAA効果の中央値は年率▲0.21%であり、その効果の上位25%と下位25%の差は年率▲0.07%であった。TAA効果はあまりリターンに貢献してないように思える。さらに、米国の82の年金基金の10年間についてのデータ(Brinson,Singer, Beebower“Determinants of Portfolio Performance II: an Update”Financial Analysts Journal May/June 1991)によると、TAA効果は平均で▲0.26%であった。つまりスポンサーの判断または運用機関の短期的判断で配分を変更するという手法は長期的運用を主とする年金運用のリターン向上においてあまり効果的ではないということが読み取れる。

表3/タクティカル・アセット・アロケーション効果


パフォーマンスの差 ― マネジャー・ストラクチャー

 さて、次にマネジャー・ストラクチャーとリターンの関係を検証するために、バランス型運用の導入割合とリターンへの影響について分析してみた。
 表4はバランス用を導入している比率が90%以上のスポンサーの平均総資産超過リターンと、比率が30%以下の運用から生み出された超過リターンであるが、前者が年率▲0.60%、後者が年率+0.13%とその差は年率0.73%であった。バランス型運用を否定するつもりはないが、運用機関にも、得意、不得意とする資産があるので、すべての資産に おいて秀でることは難しいだろう。バランス型運用の比率が過度に高い場合にリターンが悪化していることからも、マネジャー・ストラクチャーがリターンに大きな影響を与えていることが確認できる。

表4/バランス運用


パフォーマンスの差 ― マネジャー・セレクション

 続いて、運用機関の選定において、θファクターがどう影響してくるのか、パフォーマンス実績から分析してみる。

@母体との取引関係
 最近のガバナンス・サーベイによると、母体との取引関係で運用機関が決まる割合は、平均30%弱程度にまで減少してきている。とはいえ、運用機関選定において、「母体と取引がある運用機関だから」、「グループ会社だから」、といった単純な理由で大切な年金資産を委託するのは受託者責任の観点からも問題が残る。そこで、運用機関選定において、母体との取引関係によって運用機関が決定される割合と運用パフォーマンスにどのような関係があるのかを分析したのが表5である。

表5/選定基準のうち、母体と取引関係が占める割合

 表5を見ると、母体との取引関係によって決定される割合が30%以下の場合、総資産の超過リターンは、年率0.11%であるのに対し、取引関係によって決定される割合が50%以上になると、総資産の超過リターンが年率▲0.27%にまで悪化してしまうことがわかる。超過リターンに0.38%もの差が生じているのである。

A過去実績
 年金スポンサーなど、運用の世界に少しでも関係のある人なら、「過去の良好なパフォーマンスが将来も続くとは限らない」、といったことを聞いたことがあるはずである。だからこそ、「大事なのは将来のパフォーマンスである」、「将来のパフォーマンスが期待できる運用機関を選定すべきだ」と誰もが考えるのであるが、それにもかかわらず、実際には、十分な意思決定プロセスを経ずに、過去の運用パフォーマンスから運用機関を選定しているケースが多いのではないだろうか。
 表6は、過去の運用実績によって運用機関が選定される割合と運用パフォーマンスとの関係を示している。過去実績によって決定される割合が20%以下の場合、総資産の超過収益率は年率0.06%だが、この割合が高まるにつれ、総資産の超過リターンは悪化していき、割合が50%以上になると、総資産の超過リターンは年率▲0.12%になってしまう。ここでも、最大で0.18%の差が生じている。

表6/選定基準のうち、過去実績が占める割合


B運用機関のブランドネーム
 一般的な消費行動において、有名ブランド品が好まれるのと同じように、運用の世界においても、ブランド、知名度で運用機関が選択されるケースは多い。「有名な運用機関だからパフォーマンスもいいはずだ」という期待感や、「有名な運用機関だから結果が悪くても説明責任を回避できる」という安心感に左右されて、意思決定を行ってしまうのである。
 運用機関のブランドを考慮する場合と考慮しない場合で、どれだけ総資産の超過リターンに差が生じるかを示したのが表7である。ブランドを考慮する場合、総資産の超過リターンは年率0.13%、考慮しない場合で年率▲0.15%であり、両者で0.28%の差があることがわかる。

表7/選定基準として、運用機関のブランドを考慮するか

 さらに、@、A、Bの合計と運用パフォーマンスとの関係についても分析してみると(表8)、やはりここでも、母体との取引関係、過去実績、運用機関のブランドによって運用機関が選定される割合が高くなるほど、運用パフォーマンスが悪化していることがわかる。θファクターの影響によって、運用機関選定における意思決定プロセスが歪められると、運用パフォーマンスにもマイナスの影響が生じるという傾向が把握できる。

表8/選定基準のうち、母体との取引関係、過去実績、ブランドが占める割合


Cθファクターの排除
 それでは、どのように運用機関を選択するのがベストなやり方なのであろうか。ガバナンス・サーベイでは、「実際にどういうポイントを考慮して運用機関を選定しているか」というアンケートだけでなく、「理想としては、どういうポイントを考慮して運用機関を選定したいか」というアンケートにもご回答いただいている。グラフ1は、運用機関選定において考慮すべきポイントの「理想」と「実際」のギャップを表しているが、「運用担当者の質」、「運用プロセス」、「委託内容との整合性」の項目については、特に理想が現実に追いついていないことが読み取れる。つまり、スポンサー自身は、運用機関の選定においてはこういうポイントを考慮すべき、という「理想的な運用機関の選定基準」を具体的にイメージしながらも、運用以外の諸要因(=θファクター)によって、それが実践できていないのである。それならば、θファクターの影響を最小限にし、できるだけ「理想」の項目だけを考慮して、運用機関を選択した場合の運用パフォーマンスはどう変わってくるのであろうか。

グラフ1/運用機関選定における理想と実際のギャップ


 理想と実際のギャップの大きい3つの項目によって、運用機関が選定される割合と運用パフォーマンスとの関係を分析したのが表9であるが、これらの項目によって運用機関が選定される割合が高くなるにつれ、運用パフォーマンスが向上していることがわかる。つまり、θファクターの影響度合いが小さくなるにつれ、運用パフォーマンスが改善しているのである。

表9/選定基準のうち、
   運用担当者の質、運用プロセス、委託内容との整合性が占める割合


おわりに

 ここまで様々な観点から、パフォーマンスの差をもたらした要因について分析してきた。では、どうすればパフォーマンスが良くなるのだろうか。前3節で論じた内容から、「バランス運用から特化型運用に移行する」、「母体との取引関係やブランドで運用機関を選定するのをやめる」ことでパフォーマンスを良くしようと思われるかもしれないが、それは短絡的ではないだろうか。繰り返しになるが、そのような結論にいたるまでに必要十分なプロセスを経た意思決定が行われていなければ、個々のスポンサーにとっての、最適解は導くことはできない。そして、そのような効率的な意思決定を可能にするには、高度なガバナンスの構築が必要なのである。
 ガバナンスレベルを向上させるには近道はない。スポンサー自身が自ら目指すべきガバナンス像を描き出し、それに近づくための努力を継続していくことが求められている。

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●保母和也 ほぼかずや/京都大学法学部卒業。住友信託銀行にて、年金特金およびグローバルカストディの営業企画に従事。当社入社後は、資産運用コンサルティングに従事。

●小笠原真由美 おがさわらまゆみ/明治大学法学部卒業。HSBC香港上海銀行にて、外国為替ディーリングに従事。当社入社後は、資産運用コンサルティングに従事。(現アルムナイ)