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【巻頭言】 |
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【巻頭言】
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ワトソンワイアット株式会社 |
2004年を振り返り、新たな年を迎えるタイミングを捉えて、「思考停止」をワトソンワイアットレビューのテーマとして取り上げた。これには以下の理由がある。
まず、企業や組織の変革が滞る根本原因に「思考停止」という共通の現象が見て取れるためである。
また、自分自身を含め、そもそも人間は思考停止に陥りやすい性質を持っていると考えている。かなり思考力が高いリーダーでも、容易にこの思考停止の罠にはまってしまうケースを数多く経験してきた。
したがって、世の中、企業、部門、個人の各レベルで、過去一年の仕事の進め方、考え方や行動を振り返り、自らの「思考停止度」を自己評価することが変革を実現する上で極めて有効であると考えるからである。
今ほど「思考」が経営上重要な時代は過去にない。なぜなら、バブルまで続いた右肩上がりの時代とそれ以後の十数年余りの停滞期には、日本企業が優先的に取り組むべき課題が明快だったからである。
成長期には横並びでもかまわず、成長分野にいち早く参入し、自社にとっての有利なポジションを築くことに専念した。その結果、売上は伸びたが、その企業にとって本業といえない分野まで事業の領域が広がってしまい、収益力が大幅に低下した。
そして、バブル崩壊とともに「右肩上がり」が過去のものとなり、「選択と集中」の時代が到来する。もう一度自社の中核分野を再定義し、非中核分野をリストラし、「本業」に資源を集中投下した。競争力を取り戻し、収益性も向上させた。
ざっくり言えば、長い間、日本企業にとって重要な能力は、「思考力」ではなく、すべきことをやりきる「実行力」であった。まさしく、上司が「考えてないでまずは走れ」と叫ぶような企業が成長できた時代が続いていたのである。
今はどうか。リストラ後に残った本業に集中するだけでは、縮小均衡のリスクが大きい。組織も元気が出ず、人材も育たない。かといって、皆が成長分野とはやし立てている事業に横並び的に参入しても勝ち目が見えず、昔の過ちを繰り返すことになる。
また、競争がグローバル規模で行われ、M&Aも常態化して、競争相手の特定さえ難しくなった。つまり、取るべき選択肢の幅が広がり、「やるべきこと」自体の判断が命運を決めることになった。「実行力」のみで企業が進化できる時代は過ぎ去ってしまったのである。
質の高い実行力は一流企業では当たり前になった。そして、今最も問われているのは、競争力のある「思考」に基づく「事業構想」そのものになったのだ。
いったん、組織が思考停止に陥れば、あっという間に組織としての命運が尽きてしまう時代が到来したのである。
まず、ビジネスパーソンがどのようなタイプの思考停止に陥りやすいかを考察してみよう。
図を見て欲しい。陥りやすい思考停止の状態を二つの軸で分類してみた。横軸が個人の外界との関わり方である。ある時点で、その人がより強い関心を持っているのが「内」か「外」か、で左右に分ける。
相対的に市場の変化や業界の動きに興味が傾いている傾向を「外向的」とする。逆に、どちらかと言えば、外部環境よりも自分の組織や自分自身への関心が強い傾向を「内向的」と呼ぶ。
縦軸は、ある時点での外部環境が、自分や自分が属する組織にとって、追い風(フォロー)か逆風(アゲンスト)か、で分けてみる。こうすると、思考停止は以下の四つのパターンに分類される。
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図/思考停止のパターン分類 |
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「おごり型」思考停止
マーケットが急速に拡大している状況のように、外部環境がフォローのときに陥りやすいのが、「おごり型」思考停止である。強いフォローの風を受けているときに、自社の体制さえその上昇気流のスピードに付いていければ、勢いに乗って成長できる。
この状態が長く続けば、関心が内部へ向く。体制さえ整えば勝ち続けられるからである。その結果、外部情報への感度が落ちる。社会からの評価も高まり「褒め殺し」の危険性も増す。自分と自社を客観視できなくなる。
結局は、「イケテル」状況を単純に自分や自社が優れているからと、「おごって」自己認識してしまう。ひどいケースには、自社以外で作られたものは、全部二流に見えてくる。これを"Not Invented Here Attitude"(NIH症候群)、自社以外には見るべきものは存在しないと考えるようになる姿勢、と言う。
しかし、いずれ外部環境に変節が起こる。流れが逆風に変わったときに、何ら対応策の準備をしていないことに気づくのである。「おごり」の代償の大きさに気づいたときには後の祭りである。
「蛸壺型」思考停止
逆に、外部環境が「逆風」のときに陥りやすいのが、「蛸壺型」思考停止である。逆風の時には良い結果がなかなか生まれない。周りからも文句を言われる。取引先や上司からは怒られる。
そのような状況に陥ると、自分の実力にも自信が持てなくなる。何かを考えようとしても、怒った取引先の役員や上司の怖い顔が数限りなく襲ってくる。仕事自体よりも、自分の評価が気になってくる。
上司からどう思われるか。仲間たちからバカにされないか。取引先からの信用も失ってしまうのではないか。自分の能力に不信感が生まれ、より内向性が強まる。
不安の中で考えを巡らせても堂々巡りして、何ら智恵が浮かばない。結果として、思考が「蛸壺」化して何をして良いか分からなくなる状況になる。頭の中が真っ白の状況が続く。
蛸壺状態が真に深刻であれば「死に至る」(戦いから退場する)思考停止のパターンである。
「拡散型」と「評論家型」の思考停止
今まで述べた二つのパターンとは異なる、「外向的」な心理状況で陥りやすい思考停止のパターンを考えてみよう。
自社や自分自身を取り巻く環境がプラスのとき、自分自身の興味が外に向いていれば、次々に魅力的な情報が入り込んできやすい。大企業からの業務提携の話であったり、ベンチャーからの新規事業の申し入れであったりする。
このような、外向きかつ順風時に陥りやすいのが、「拡散型」思考停止である。様々な前向きの情報が入ってくるので、「あれもこれも」とつい手を出してしまう。結局は思考も行動も資源も「分散」して、一つひとつの課題への取組みの深さが足りなくなる。結果がでないという点から言えば、何も考えていない状況と変わりないこととなってしまう。
最後に、外向きの人が逆風時に陥りやすいのが、「評論家」型の思考停止である。外向的特性ゆえに、逆風時も様々な情報は入ってくる。しかし、置かれた状況が明るくないと、すべての情報のリスク面ばかり見がちになる。
事業機会を批判的にシミュレートし、"Go"の最終判断を下せない。その結果、何ら行動せず「評論家」で終わってしまう。何も考えていない状況と同じく成果は出ない。
企業や組織を率いるリーダーが、今までに述べてきたような思考停止の罠にはまると、その企業や組織自体が存亡の危機にさらされることになる。
経営者自身も未熟で、企業組織としての熟成度も進んでいないベンチャー企業では、「おごり型」と「蛸壺型」を外部環境の変動とともに「行ったり来たり」することがある。その繰り返しの中で、経営者が成長し、時間とともに思考停止の罠から抜け出せれば、安定した成長軌道に乗ることも可能である。
ただ残念ながら、多くのベンチャー企業がこの「おごり」と「蛸壺」の罠から逃れられず、市場から消えていく。
一方、成熟度が進んだ大企業では、この四パターンすべての思考停止が様々な部門に見られるケースが多い。というよりも、思考停止に陥っていない部門を探すのに苦労するケースさえ珍しくない。
実際には、大企業であれば、リーダー候補層の厚みもあるため、上記の四パターンの思考停止の度合いがひどければ、新たなリーダーが登用され、新たな展開を期待できる。
大企業で最も危険なケースは、図に点線で示した「ゆで蛙」型である。例えば、売上前年対比が97〜101%程度で、順風でも逆風でもない。今まで通りの施策は打ち続けているので、一定の収益は生み出している。
このケースでは基本的に関係者全員が「思考停止」しているという自己認識を持っていない。
しかし、長期的には、徐々に競争力が衰退していく場合が多い。まさしく「ゆで蛙」状態であり、死に至る道筋をゆっくり進んでいるのである。
それでは、経営者や部門長の責にあり、変革リーダーである読者の皆さまは、どのようにこの「思考停止」のリスクから逃れたらよいのであろうか。
ここでは私流の脱・思考停止の三原則を紹介しよう。
第一原則:自己客観視
まず、思考停止の度合いを自己評価できることが必要条件である。例えば、一つの業務やプロジェクトの第一ステップが終了する。そのタイミングに、自分の考え方や仕事の進め方を「客観的」に振り返って評価する。
本当はもっと効果的な進め方があったのではないか。なぜその進め方に気が付かなかったのか。そもそも、事前準備が十分だったのか。なぜ、いくつかの選択肢を事前に検討しなかったのか。
「一流の役者は、もう一人の自分を客席の一列目のど真ん中に置く」という。常に自分の演技を客観的に評価する癖をつけているからこそ一流なのである。
そもそも、人間は自分に都合の良いように結果を理解しようとするものだ。成果が出れば自分の力であり、出なければマーケットや他人が悪いと考える。どうすれば「徹底的に謙虚」になれるのだろうか。
「自分は常に良くやっている」と考える誘惑に打ち勝ち、とことん自分を冷徹に客観視する訓練を日々積むしかない。
第二原則:人的ネットワーク
思考停止のリスクを避けるためには、新しく鮮度が高いインプットが必要である。思考の質を高めるためにも、できる限り第一線で活躍している多様な人材の旬な情報が入ってくるようにしたい。
しかし、この原則を全うするのも挑戦度が高い。なぜなら、自分から提供できる価値がなければ、意味ある情報を提供してくれる人材とのネットワークができないからである。単に名刺交換するような「異業種交流」ではなかなか真のネットワークに繋がらない。
まずは、自分の領域を明確に持ち、その分野での第一線での情報の意味合いを考えることからスタートする。特に、未来に向けてどのように変化していくか。
そんな「意味合いメッセージ」を他業界で起きている変化とぶつけてみる。素直に興味を持って、人の話を聞き、自分の情報を徹底してディスクローズして、共通点と違いを発見していく。
このようなコミュニケーションを機会あるごとに積み重ねていくと、自分にとっての良きアドバイザーと言える人に出会うこともできる。思考と判断と行動の質をチェックしてくれるアドバイザーの存在価値は、思考停止のリスクを避ける上で極めて大きい。
第三原則:自分流「構え」
最後にあげる原則が「構え」である。構えとは、仕事をする上での、自分流の原理原則である。この原理原則の中で、自分が陥りそうな思考停止の根を断ち切っておくことだ。
例えば、日産自動車のゴーン社長は、仕事とは何かと問われ、「ともに生き生きと働くことだ」と答えている。彼は日産を変革するにあたり、常に現場第一線を含む主要な関係者を数多く巻き込み、現状をともに分析し、CFTを立ち上げ、ビジョンと明確な目標を定め、各部門責任者のコミットメントを求めた。
ゴーン社長は、人を信頼し多くの人の智恵を集めることが、自分一人が突っ走って陥る組織の思考停止の危険性を回避してくれる「構え」であることを知っているのではないか。
また、ワタミフードサービスの渡邉社長は「夢に日付をつける」を信条にしているという。ある程度の成功に満足し、そこそこで留まってしまう危険性を察知しているに違いない。
その恐れを断ち切るために、高い目標と実現する期日を定めることが、挑戦的なレベルの思考へと常に自分自身を追い込む「構え」なのである。
本レビューでは、思考停止の罠からいかに逃れるか、我々自身の「思考」のプロセスを紹介したい。この中で、今年のホットなテーマの一つである「成果主義は是か非か」の議論について、思考停止の観点から総括したいと思う。
読者の皆さまの思考停止のリスクを多少なりとも低減し、新年に向けて、誉れ高い変革を強力に推進するためのヒントを、一つでも提供できれば、我々として望外の幸せである。
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