【巻頭言】
脱・思考停止の原理原則
いかに思考停止の罠から逃れるか

1.
日本人の「思考圏」再構築
中国人に取り込まれ、
中国人を取り込む
   
2.
脱・依存
振り切るべき外への追従、
断ち切るべき内への郷愁

3.
思考停止を排除する
経営プロセスの設計
コアプロセスに
〈不完全さ〉をビルトインする

4.
生涯現役組織への道
思考停止に陥らない組織の作り方

5.
組織バカをいかに防ぐか
「組織頭脳」にもとづく考察
   
6.
成果主義導入の要諦
思考停止に陥る五つの関門

7.
自ら「考える」アジア拠点の作り方
「思考停止」の
負のスパイラルからの脱却

8.
「深く考える」人材の開発法

9.
思考停止を避ける思考法
感覚的問題解決ノススメ

10.
地方自治体の智恵創出法
半永久的思考停止からの脱却

11.
退職金制度改革での頭の使い方
エキスパートの落とし穴にはまらないために

12.
脱・IT思考停止
企業ITの
再生・再活性化のための処方箋

13.
人事部が思考停止に陥るとき
人事制度構築に関わる思考停止パターン

14.
半歩上の思考術

【心理学ゼミナール】
心理学における二つの知識論

.

日本人の「思考圏」再構築
中国人に取り込まれ、中国人を取り込む

 

キャメル・ヤマモト

1. 主体の状況 − 思考停止 = 思考収束or思考拡散

 思考停止している本人や本社には、通常、「思考が止まっている」という自覚症状はない。いや、本人や本社は、本気で、「私はいつもどおりきちんと思考し続けている」と信じている。中には、F1のドライバーのように、高度の技術を駆使しながら、全速で疾走(「思っ想」)しているつもりの人もいるかもしれない。
 問題は、そういう思考活動が、ある固定したループにはまってしまっていることにある。F1の場合なら、そういうゲームだから同じループを走り続けることになんら問題はない。だが、ビジネスにおいては、そんなルールはないのに、自分で勝手にループを決めて、そこを、いくらフルスピードで走っても、顧客市場や株式市場から、そのうち飽きられてしまう。気づいてみると、どこかの野球場のように、ほとんど観客がいない球場で、自分と自社だけが疾走している。
 ところで、海外に行くと、枕が違ったり、夜も外がうるさくて、寝付けないことがある。そういうとき、思考を停止させようとしても無理で、一時的な不眠症(=雑念思考過多)に陥る。でも、そういう眠りを妨害する「思考」が、すばらしい思考で、事業成功につながったという話はあまりきかない。今度の問題は、ループとか脈絡がないことにある。
 要するに、思考が停止することが問題なのではなくて、ループにはまることや、脈絡がなくなること、が問題である。言い換えれば、収束のみになることや、拡散のみになること、が問題である。思考停止問題とは、「思考収束」問題と「思考拡散」問題である。
 さて、思考収束と思考拡散は、日本でも「思考停止」のレッテルを貼られるのだが、グローバルな環境では、それぞれ次のような症状となって現れる。
 まず、収束のほうは、自分中心主義(ethno-centrism)である。これは、海外であることをわきまえずに、国内と同じように期待して、裏切られる。米国的な自分中心主義は、自分のやりかたをグローバルスタンダードだと思い込むことだが、日本的な自分中心主義は、そこまで傲慢ではなく、もっと無意識的ではあるが、自分中心主義になっていることに変わりはない。
 他方、拡散のほうは、要するに自分とか自社の主体性が欠如し、ふらふらしている状態で、相対主義(ethno-relativism)である。「郷に入れば郷に従え」というのは相対主義である。それは雑念的な拡散ほどひどくないが、主体性の欠如という点では同根である。もし、ローカルがやるとおりにやるのがいいのなら、そもそも外国人は顔を出さないほうがいいかもしれない。

2. 客体の状況 − 多様で変化する中国

 さて、思考収束的な「自分中心主義」と、思考拡散的な「相対主義」は、ことさら、いまの中国と相性が悪い。
 まず、中国には、よく言われるように「地域差」がある。この地域は、単なるセグメンテーションでは捉えきれない。たとえば、上海は、通常のセグメンテーションでは「中産階級ができつつある豊かな」、「国際化が進んだ」地域であろう。最近は、雪崩をうつように、多くのグローバル企業が、アジア地域の地域統括の拠点を、香港、シンガポールや東京から上海に移しつつある(2004年だけでもIBM, GM, Dow Corningなど)。最近こちらで招かれて出席したセミナーでは、シェアード・サービスやアウトソーシングというコスト競争力が売り物の事業においても、「上海が一番いい」と、コンサルティング企業などが力説していた。中国国内で見たときに、上海はすでにコストが高いが、語学力を含めた人材の能力レベルの高さがそれを補って余りある、と言っていた。
 しかし、そのように豊かになった先端的でグローバルな上海も、実際に訪ねてみればわかるように、後進的なスポットがまだら模様に存在する。100元札をみると、通常の換算レートなら、1300円(1000円札の感覚)だが、ときに、それは1万円札にも見える。100元を一万円として暮らせる低物価の途上国的な空間も上海にはまだ存在する。
 先日北京から車で2時間余りの天津に行った。天津も沿岸都市の一つで、日系企業や韓国企業が数多く進出していて、中国の中では豊かなところだろう。しかし、上海などをトップ層の都市とすれば、第2層である。しかし、その天津でも、高級マンションや高級ホテルのレートは上海とさほど変わらない。そういうところは、いわばグローバルクラスのサービス品質と価格の空間だ。ただ、そういう高級なところはごく限られていて、それ以外の天津は、上海よりぐっと安い(と言っても先ほど言ったようにその上海も多様だから、どこと比べるかという問題は残る)。
 さらに、セグメンテーションしても、そのセグメントの中に多様性が残ってしまうような、どうしようもない多様性に加えて、客体をみる主体の側の多様性が加わる。たとえば、私は先日、私の新しいボス(前は米国人だったがそれが上海出身の台湾人に変わった)と二人で、上海オフィスのトップのリクルーティングをやっていて、ある候補とランチをとっていた。それらしいインタビューをした後、二人の中国人、私のボスの台湾人と、候補のカナダで教育を受けた中国人は、上海で不動産をいま買うべきかどうかという不動産投資の話に興じ始めた。候補の中国人は、上海の国有財産管理委員会のメンバーにもなっていて、不動産の動向にも非常に詳しい。しかも、彼は昔、アナリストもしていたから数字的な嗅覚もある。彼が言うには、いま、上海では不動産の供給が需要を上回る状況になっているから、少なくとも来年のある時点までは、不動産投資はやめたほうがいい、と説明し始めた。そして、彼は、東京やニューヨーク、欧州の都市などの比較を始め、上海はすでにバブルの状況で、上海の所得水準等を考えれば、もういつはじけるか、という時期だと言う。しかし、私のボスの台湾人は、いや台湾と比べて、上海は、まだ30%くらい不動産が安い、経済の底力から言って上海の不動産は依然買いだ、特に、上海の平均が問題ではなくて、上海のいいところについては、まだまだ値段が上がると見る、などと言っていた。要するに、上海など中国について判断する側の問題、主体の側の見方も、多様なのである。主体が持つ基準の多様性が、客体の多様性と掛け合わさるのだ。
 さて、こうした空間的な多様性と並んで、時間的な変化の速さも、停止した思考にはきつい。プレモダンとモダンとポストモダンが、道の両側に共存しているのが、いまの中国である。
 この多様性と変化の濁流の中で、自分で思考しているつもりでも、それは相対的には思考停止といわれてしまうかもしれない。ましてや、自己中心の思考収束や主体不在の思考拡散では、太刀打ちできない。では、どうするか?
 決定打はないが、多分、客体の多様性に対しては、こちら(主体)側に中国人を巻き込んで多様性を確保することが必要だろう。また、変化に対しては、仮説検証サイクルを早く回すことが必要だろう。などと、極めて常識的な考えをしていたが、ぱっとしない。そんなとき、ある人から一つヒントをもらったのでまずそれを紹介しよう。

雑談:思考を働かせるための思考停止
 最近、A電気のBさん(日本人)と知り合った。彼は、もとロックミュージシャンで、彼のノートパソコンで、若かりし頃のBさんと知人のMさんがキーボードの前に立つ雄姿と、最近Bさんが発掘している中国人ミュージッシャンのすばらしい音楽(ひょっとするとすごく当たりそう、日本でも)で、しばし思考を停止して、感性モードにひたっていた。
 そして、Bさんが、10カ月前から上海にきて、ある日系企業で「音」関係のデバイスを開発する開発事業部長の仕事をしていることを、何気なくきいていた。
 「音といっても、音楽ではなくて、携帯の着メロなどの音を開発しているんですよ。上海で走る公共バスのアナウンスや音楽に使われているのが自慢です」
 Bさんは、多分ミュージシャンだから、感性がすぐれていて、国境をこえてコミュニケーションがとれる、プロ型リーダー人材だ。彼は、中国人が好む音の開発を、若い中国のエンジニアやマーケッターとともに開発しているという。このあたりで、私も仕事モードになって、何がコツですかときいてみた。
 昔若かった二人が軽くスウィングしながら、会話が続く。
 「まあ、マネジメントですかね」
 「バロッですか、ロッですか、ハイ(俳句)ですか(思わず韻をふんで質問した)」
 「いや、ハイブリッじゃなくて、ハイブリッです」と軽く転調された。
 「日中、日米、米中?」
 「さすがキャメルさんと言いたいとこですけど、もっとひねってますよ」
 もう私が口をはさむ余地がなくなって、Bさんのモノローグ。
 「まず、『日本のやりかたを研究し、それを形式知化した』米国のやりかたをベースにしてるんです。ある戦略系のコンサルタントの人から内緒で教えてもらっています。つまり、日米のハイブリッドを組織や人材マネジメントのプラットフォームにしてます。日本の考えはいいけど、表現ができていないので日本の遺伝子を組み込んだ米国ものをベースにしています」
 「中国人は、確かに悟性レベルでは、米国式を求めていますが、感性レベルは波長が違います。彼らは個人主義ですが、個人の間の関係が極めて大切です。そこで、この日米ハイブリッドをベースに、中国式を入れまくったフュージョンができつつありますよ。彼ら、ものすごく才能豊かですから。たまらなく面白い毎日です。今度遊びにきませんか」
 私は、自分が日本人で、米国系のコンサルティング会社に勤め、中国人と一緒に働いているので、ちょうど同じようなベクトルで物事を考えていた。でも、そこに音楽性がなかったから面白くもなんともなかった。Bさんの話をきいて、私のなかにリズムが出てきて、次のような思考が動きだした。Bさんの話からちょっと飛躍しているが、少なくとも、思考停止は止まった。

3. 「思考圏」拡大作戦

 さて、2.の終わりで述べたような、中国での思考停止を防ぐには、日本人だけで考えずに、中国人とパートナーシップを組んで考えることと、仮説検証的なサイクルを回すことが必要だ。言い換えれば、「思考圏の拡大」と「思考サイクルの継続回転」である。ただ、これは二つの原理を述べたにすぎない。以下、この二つの原理を下敷きにして、実際どうするか具体的な知的動作について述べたい。

動作1:日本人だけで考えない
 まず、日本人だけで考えること自体が、ここでは思考停止である(せいぜい日本人用のループ内で走ることにしかならない)。中国人と一緒に考えるという日中パートナーシップの徹底である。
 日系企業の関係者を見ていても、うまくいっている人は、いい中国人パートナーと組んでいる。たとえば、日本人の生産責任者と中国時の創業者がパートナーを組んだ場合などうまくいく。日系の生産責任者が、徹底的に規律をたたき込む。中国人の創業者はめざとく案件を開拓する。日中の陰陽思考で、ただ日本人思考停止を防止する。

動作2:個人モードに切り替える
 以前にも、このレビューで紹介したが、「中国人の仕事観、キャリア観」について、友人で中国通のジャーナリスト兼人材コンサルタントの田中信彦さんの見方によれば、中国社会とは、「個人とその仲間たち」が単位となっている社会である。従来の日本のように、会社とか役所とか学校とかが単位の社会ではない。つまり、ゲゼルシャフト的でなくて、ゲマインシャフト的である。あてにならない国家の中で、個人が生き抜くために、信頼できる仲間を選びぬき、リスクを分散したしたたかな生き方が必要となる。そこで、類は友を呼ぶで、いい中国人はいい中国人と仲間になる(それを圏子quanzと呼ぶ)。会社とか課長とかは、この圏子には入れない。「私の友人はキャメルカンパニーの課長です」などと言う変な中国人は存在しない。再び田中さんの言葉を借りると、「どういう圏子を引き付けるかは、本人次第」である。いくらいい会社に勤めていても、個人としての魅力を見せないといい圏子には入れてもらえない(キャメル流の露骨な言い方をすれば、「もてるために自然に発信しよう」)。

動作3:自信がもてることで自信をもって発信する
 中国人をゲットする(少し上品に言えば、パートナーシップを築く)第一歩は、日本で育んだ考え方や価値観に基づいて、自分から発信することである。どの人と仲良くなろうかと、こっちで物色していても、なかなかいいのが寄ってこない。自分が一番、自信をもって語れるやりかたで、積極的に、前に出て、話をし、行動して示すことがまず大切だ。そうしてはじめて、少数かもしれないが、中国人を引き付けることができる。少なくとも、何か共通点をもったコミュニケーションが可能な中国人を引き付けることができる。

動作4:評価する
 「中国人は、一日中面接をして、いい仲間を選ぼうとしているのですよ」というのが田中さんの指摘である。こっちもそれをやり返そう。発信すると、必ず誰かが寄ってくる(というか寄ってくるまで発信し続ける)。寄ってきた人に対して、仲良く、でもしっかり評価しよう。

動作5:自分の圏子を作る
 よさそうな人だとわかったら、自分がその中国人の圏子に入れてもらうと同時に、自分の圏子にその中国人を入れる。まだ私も圏子どんなものかよくわからないが、わかるためには、教えてもらうとともに、自分で圏子を作ってみるに限る(ただし、圏子は、あくまで自然発生的でインフォーマルなものだから、「これから圏子を作るのでよろしく」みたいな加入案内を出すようなものじゃないだろう)。
 ちょっと会社モードにもどると、あなたのおめがねにかなった中国人(たぶんあなたの会社にたまたま勤めているだろう)に、徹底的に、自分の考えを注入する。同時に、その過程で、中国人の思考をあなたの思考に組み込む。あなたが日本からあなたの頭に入れてもってきた「ファイル」は、ここで、書き換えていく。中国流にバージョンアップしていく。最初に持ち込んだすべてのものを、中国人とともに、再定義していくことだ。言い換えれば、中国人パートナーのおかげで「拡大した思考圏」を使って、「当初の仮説」を大胆に組み替えていく。

動作6:企業は、個人の圏子作りを非公式に奨励する
 企業は、企業だけの魅力では中国人を引き付け、引きとめ、動機づけることができない。企業の魅力に、企業が派遣する日本人社員の魅力を加えることが必要だ。個人レベルの「圏子」網で、がっちり、優秀な中国人をゲットすることが必要だ。
 その意味で、企業は、総経理だろうと、事業部長だろうと、部長だろうと、課長だろうと、専門家だろうと、必ず、自分のパートナーを作ることを、非公式に奨励する(ただし、圏子も、派閥ほどでないにせよ、表だって奨励する代物ではないので、非公式な奨励である。もっとも、この非公式部分で中国人の中に食い込めないと、実際の彼らの動きを把握することはできないらしい。人事異動も気をつけないと、それによって圏子の生態系が破壊されてしまうらしい。他方で、このような圏子を、公式的に認めるのは現代化に逆行するかもしれない。このあたりの微妙なバランスが必要なようだ。このあたりにはやや政治的なセンスが必要かもしれない。中国人はこの手のことで頭脳の容量をかなり使っていると中国人の友人がこっそり言っていた)。

動作7:企業は「仕組み」で個人を支援する
 日本人駐在者は、せいぜい数年で入れ替わる。そうすると、中国の人とのパートナーシップといっても、組織的に行わない限り、途切れ途切れになる(圏子を、パートナーシップと言い換えたところで本質は変わらないかもしれないが、よりオープンなものを志向して言い換えてみた)。パートナーシップの総量はいつまでたっても太くならない。そこで、大切なのは、マネジメントの方法を一貫したものにすることである。
 その際、可能なかぎり、中国におけるマネジメントが、日本におけるマネジメントと近いほうがよい。マネジメントの仕組みを、中国に適応させることは必要だが、根っこのロジックや考え方は、日本のものをなるべくそのまま使うほうがいい。もちろん、日本のマネジメントがある程度、海外でも通用するようなものになっていることが大前提である。
 たとえば、人材マネジメント的に言えば、事業のKPIとリンクした目標を設定し、その実現に向けて行動し、期末に評価する、という成果主義の基本は当然である。また、人の能力を、思考・行動ベースで見てしっかり評価し、適材適所に努めるというコンピテンシー的な考え方も当然である。成果主義とコンピテンシーという二本柱は、中国においても、外資系の間では常識である(中国企業ですら、この二つは実施できているかはともかく制度的には常識化しつつある)。こういった考え方に慣れていない日本人のマネジャーはそれだけでハンディキャップを負うことになる。中国語や英語の能力以前に、マネジメントの共通言語が使えることが重要であり、それが、日本企業の人が中国の人とパートナーシップを築くことを支援する。
 さらに有効なのは、日本において、(中国に送り込まれる)マネジャーやマネジャー候補の人の採用や解雇などについて、慣れておくことである。
 さらに、(人材マネジメントを含めて)日本で使うマネジメントツールを、「言語化」しておくことが望ましい。それも、中国の状況に合わせて、自由な組み合わせや換骨奪胎ができるように、モジュール的な構造としておくことが望ましい。
 ただし、この動作7は、あくまで、動作6の支援手段であることを忘れてはならない。中国の人は、日本の若い人以上に、会社への帰属意識が薄い。でも、個人の関係作り(圏子)には熱心である。だから、日本企業も、日本企業の価値観をしっかりもった日本人が個人として、動作1から6までができるように、支援すべきである。
 企業という組織に入っても、それだけでは、中国の人の考え方や行動は、日本企業の強みの軸と合ってこない。しかし、日本企業がもつ価値観を個人のものとした日本人社員を通じれば、それを伝えることができる。
 人のリーダーシップや魅力に期待できないからといって、制度でそれを代替するのは無理である。ただし、よい制度や仕組みは、個人が魅力を発揮し、価値観や考え方を伝えることを助ける。使い慣れた仕組みは使いやすいから自信も持てる。この意味でも、日本人社員が、日本で使い慣れて、相場観を持った仕組みが、なるべくそのまま中国で使えることの意味が出てくる。

動作8:中国人思考で、日本人の仕組みをバージョンアップする
 以上が成功したら、いや、成功しかけたら、日本の価値観や仕組みを、中国人の知恵が入ったニューバージョンで再定義するチャンスが生まれる。そのとき、中国と関係した日本人はもちろん、そういう日本人と同志となった中国人が大活躍するはずである。
 日本から持ち込んだ価値観や仕組みは、初期仮説にすぎない。それをいつまでも振り回すのは、それこそ思考停止である(ただし、初めのほうの動作で述べたように、最初の段階は静止画像でしっかり見せることが必要である)。より重要なのは、後から加わった、より多様な人(中国その他の人)によって、別のものに常に作り変えられていくことだ。
 個人のことを強調してきたが、個人主義の思考停止に陥らないために、議論を個人とは逆の方向に振っておこう。
 企業の仕組みは、個人を超えている。それは企業がもつ、生きた「型」である。その型は、それ自体が作動しながら、変態していくオートポイエイシス(自己制作)的な生き物である。
 この間まで、私は、価値観など基本の部分はいじってはいけない、根拠となるものは不変だ、などと考えていたが、それは短期的なことである。むしろ、そこにいる人と、その人たちが、たとえば圏子として作動していることのほうが本物である。そういう現場に効いている価値こそが真の価値であり、それは不断に進化するはずだ。

基本動作:中国人の悪口を、自分が言い始めたら、鏡を見る
 外国人も、いい中国人の圏子に入れてもらえれば、多くのことがうまくいく。働けと命令したり、べらぼうな金銭的インセンティブをぶらさげなくても、自律的に働いてくれる。逆に悪い圏子に入ってしまうと、始終、だまされないか、ずるいことをされないか、と警戒するはめに陥る。外国人が、どういう圏子を引き付けるかは、当の外国人次第ということになる。
 「毎日、中国人の悪口を言いそうになる」自分への自戒を込めた基本動作である。人の悪口を言うことは、思考停止の最たるものであろう。

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●キャメル・ヤマモト(本名:山本成一 やまもとせいいち)/上海在住。外務省、ヘイコンサルティンググループを経てワトソンワイアット株式会社入社。『稼ぐ人、安い人、余る人』(幻冬舎)、『稼ぐチームのレシピ』(日本経済新聞社)、『「クビ!」になる人の共通点』(幻冬舎)他、著書多数。詳しくは、ホームページhttp://www.camelyamamoto.com 参照。東京大学法学部卒。