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【巻頭言】 |
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自ら「考える」アジア拠点の作り方
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鈴木 康司 |
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森田 純夫 |
まず、最近、アジアに展開する日本企業の経営者の皆さんから寄せられる声を紹介したい。
「うちの(現地の)マネジャークラスはまじめだが、自分で考えようとしない。何かあれば、すぐに日本人駐在員に聞いてきて、自分で考えようとしない」
「現地のマネジャークラスに対して、『ここがおかしい』と指摘すれば、『やっぱりそうでしたか、実は私もそう思っていました』と言う。従順なのか、したたかなのか……。とは言いつつも、自分から問題提起をしたり、提案しようとはしないので困っている」
「これまでも現地マネジャーに対しては、計画・戦略の立て方とか、自分からいろいろ指導もしてきたし、外部の教育機関を使って研修もやってきた。それでも、まだ、自分が担当する組織を、将来に向けて、どうしていきたいのか、といったアイデアや意見がでてこない」
そして、最後には、次のように尋ねられる。
「考える力を高めることのできる、効果的な研修は何かありませんか?」
各現地法人トップとしての切実な意見であり、お気持ちもわからないではない。しかし、そもそも「考える力」を養成する万能薬はないことも事実である。
実際、皆さんは、「そもそも考える力を高める魔法のツールはない」ことは十分にご承知であり、それでもなお、上記のようにおっしゃる背景には、藁をもつかむ思いで、現状のマネジャークラスのレベルアップを図りたい、という切実な思いがその背景にあることを痛感する。
万能薬や魔法の杖がないからといって、そこで止まってしまったとすれば、まさに思考停止状態になる。しかし、アジアで展開する日本企業の経営トップの方々は、「止まってはいない」。
通貨危機以降の苦境を乗り越え、また再び大きく飛躍していこうとする企業は、現在、様々な取り組みを行い、思考停止状態からの脱却を模索している。
本稿では、アジアにおける日本企業の取り組み状況をご紹介することで、「考える」アジア拠点の作り方を考えてみることにしたい。
では、本当に現地マネージャークラスは思考停止しているのだろうか? 本当に自分で考えようとしていないのだろうか。
実際に、既に部長あるいは課長にまで昇格し、そのポジションに安住してしまっている人たちがいるのは事実である。いわゆる「上がって」しまった人たちである。
しかし、その一方で、アジア地域のマネジャークラスにインタビュー等を実施すると、会社に対する問題点や課題を指摘する人も相当数いることも実感するし、中には、課題に対する提案・解決策まで考えている人たちも当然いる。
ただ、始末が悪いのは、ローカル社員の「面従腹背」である。
ローカル社員はアジアの現地企業に長年勤務してきており、各セクションの実務運営には欠かせない存在になっている。その一方で、日本人駐在員の派遣期間は3〜5年が平均的であり、駐在員が変われば方針もコロコロ変わることも実際に発生している。
そのような環境下においてローカル社員は駐在員のレベルを実によく見ている。つまり、「前のボス(日本人駐在員)の言うことは聞くべきだったが、今回はたいしたことないから、そのままにしておこう」という事態も散見されるのである。
その点で、これらの社員は、実はしっかり駐在員のアセスメントをしており、決して、実務運営だけに埋没しているわけではない。とはいいつつも、将来に向けての方向性や戦略を考えるのを放棄すると同時に、自分のテリトリーに閉じこもり、保身を考える傾向が強いという点で、思考停止してしまっているといえる。
実際には、既に思考停止してしまった人(上がってしまった人)よりも、各人のおかれた環境下に順応する過程で思考停止状態に陥ってしまった人(考えることを、ある意味、「あきらめてしまった」人。今の状態で問題がないので、今のままでやっていこうと「割り切ってしまった」人)の方が多いのではないかと思われる。
また、ローカル社員だけではなく、現場の日本人マネジャーにも問題が見られることがある。彼らの中には、日本なりのやり方に固執したり、日本人顧客の窓口として自分の仕事を確保したりする人がいる。このような人から見ると、自分の配下のローカル社員たちのやり方は、日本のやり方に比べれば未成熟で、「まだまだとても任せられない」。そうすると、任期が限られていて、短期志向に陥りやすい事情とあいまって、マネジャーが本当の問題に気づかなかったり(あるいは見て見ぬフリをしたり)、問題の解決にまで踏み込まない。そうした人たちは、日本では、すでにある程度確立された仕組みを元に仕事をしてきたため、ゼロベースで考え、新たな仕組みを作り上げることに慣れていないことが多いのである。
それぞれの企業の歴史の過程で、「あきらめてしまった人」「割り切ってしまった人」を増産してしまってきたのは事実であり、その状況から克服するためには、いろいろな打ち手を考えていく必要がある。
思考停止状態とは、いわゆる負のスパイラル(連鎖)状態であるといえる。
「日本本社との様々なやりとりがあるので、結局、日本人駐在員が
『考える』仕事をしてきた」
↓
「情報は日本人駐在員止まりであり、ローカル社員まで開示されて
こなかった」
↓
「ローカル社員は運営・実務面を中心、日本人駐在員はマネジメ
ントの仕事を中心に実施。OJTで教育するといいながら、結局、
教育・トレーニングにあまり注力してこなかった」
↓
「日本企業に勤めても、結局部長・課長までしか上がれない、とい
う認識が広がる」
↓
「若手で実力のある社員は、結局将来の夢が持てず、辞めてしま
う。また、採用段階でも、(ローカルにおいて市場価値の高い、欧
米多国籍企業での勤務経験のある)いわゆる『優秀』社員は日本
企業への就職を敬遠する」
↓
「結局、いろいろやってきたが、いまだマネジャー層が育成されて
いない。そこで、まだ任せるには不安があるので、任せられない」
↓
「そして、結局、『考える』仕事は日本人駐在員が実施……」
この負のスパイラルは根が深いものであり、単に「人事制度の改定」、「研修の実施」という単発的な取り組みだけでは克服するのは難しいといえる。
では、どうすればよいのか? おそらく、複数の観点からアプローチを考える必要がある。
そのために、「@インプット」→「Aアウトプット」→「Bその結果の検証」の3段階に分けて考えてみたい。
@インプット(考えるための材料を用意する)
まず、「考える」ために必要な「材料」が適切に提供されているか、という点である。
〈情報開示〉
今後の方向性・計画を考えるために必要なデータ・情報が公開されているかどうか(売上・利益等の情報については、賞与・昇給の組合交渉への影響を懸念して非公開にしている企業が現実には多い。しかし、「考える」マネジャーを育成していくためには、「考えてもらう」ための情報開示を検討する必要があろう)。
〈トレーニング〉
データ・情報が開示・提供されたとして、その活用方法(分析方法、論理的思考スキル等々)について、トレーニングがされているかどうか。
〈評価の明確化〉
日常の実務をまわすこともさることながら、同時に、自ら「考える」ことが重要である、ということが共有化されているかどうか。さらには、「考える」とは何か(どのレベルのことまでを考える必要あるのか)、ということが共有化されているかどうか。
〈役割の明確化〉
そもそも、マネジャーである以上は、「考える」仕事がマネジャーの仕事である、ということが明確化されているかどうか。
Aアウトプット(考えるための場を提供する)
次に、インプットとして「材料」が提供されたとして、それを活用(材料を料理)できる「場」、「機会」が提供されているかどうか、という点からの検証も重要である。
〈権限委譲〉
「考える」仕事はマネジャーの仕事である、と言いながらも、トップダウンがあまりに強すぎる場合には、結局、マネジャーが考えなくても、「方針は上から」ということになってしまう。そこで、ある部分は、「任せる」、「(時間がかかったとしても)いったんはやってもらい、それをベースにトップ・マネジャーの間で話し合いを行う」という決断も必要になる。
〈阻害要因の除去〉
いくら「考えろ」といっても、実際問題、多くの現場では、日常のオペレーションをしっかりまわしていくことだけに忙殺されているケースがある。
もっと言えば、将来の夢なり方向性を語る前に、まずは、現状のビジネスをしっかり進めていくための土台をしっかり構築しなければ、結局マネジャーは忙しさにかまけて、思考停止に陥ってしまうことがある。
これはかなり重要な問題であり、この部分を放置しては大きな問題に発展する危険性すらはらんでいる。
日常業務の多忙さの原因としては、いくつかの原因が複合的に絡んでおり、単に現場の生産性(各現場の自助努力)だけの問題ではない。その中で、原因の一つとしてあげられるのは、日本本社の各関係セクションから海外法人に対して寄せられる様々な要求がある。日本本社内で連携がとられていないままに、アットランダムに要求が寄せられる、すると受け皿としての海外法人の方ではそれを受け入れざるを得ず、業務が雪だるま式に増えてしまうことがある。
しかも、それらの要求事項の趣旨・目的・意義が十分に伝えられない状態で要求が寄せられる(あるいは、駐在員が本社の意図・趣旨を翻訳して伝えていない)ケースもあり、そのような状態が継続すると、結局、「やらされ感」が蔓延してしまう。
その他にも、そもそも日常業務(オペレーション)の業務プロセス・業務プロセスが属人化しており、システム化されていないために、業務量が増えると同時に、オペレーションがパンクする、という業務プラットフォーム(業務プロセス・業務フロー未整備)の問題もある。
このように、考えることの阻害要因は相当数の企業に存在しており、その部分をある程度解決していかないと、次に進めない、というのが現実ではないかと思われる。「考える」マネジャーを育成していくために、マネジャー層が考えることのできる環境にあるかどうか、という観点からの検証も非常に重要な問題である。
〈ロールモデルの存在〉
これこそが「考える」ことだ、ということを実際の仕事を通じて示すことができる人が現場にいるかどうか。また、初めて「考える」仕事をするときに、その背中を支えてあげられる人がいるかどうか。日本人駐在員の本来果たすべき役割はこの領域であると考えられる。
Bその結果の検証(考えたことを検証・評価する)
最後に、「考えた」ことがしっかりと評価される仕組みになっているか、という問題がある。(これはモチベーションにもつながる問題でもある)
〈処遇面での反映〉
評価項目等が明確化され、自らしっかりと「考えた」結果が、適正に評価され、処遇面に反映される仕組みが構築されているかどうか。
〈キャリアパスの明確化〉
「考える」ことを通じて、スキルアップしていった場合、この会社にいることで、どのような将来の夢が描けるかどうか。
〈登用・交代〉
周りの社員も認めるような「考える」社員が適正に登用される、というように、社員の納得感のある登用・交代ができているかどうか。
結局、「上がってしまった」社員を高いポジションに登用しつづけてしまっては、結局、「考えたとしても、これ以上、上のポジションに上がれない」という意識づけをしてしまうことになりかねない。ここでは、日本人であろうと、ローカル社員であろうと、そのポジションにふさわしい人のみが配置されるべきである。
ただ、特に、ローカル社員からは、「この先、この会社にいたとして、どのような将来の夢があるのか、ということが見えない」という声が寄せられることがある。
日本企業は本来、人を大切にする哲学を持っている企業が多く、中期・長期的に人を育成していこうとしているにもかかわらず、それらの価値観なり哲学が伝達されていないのはゆゆしき問題である。
このように、思考停止の負のスパイラルから脱却するには、様々な要素を考慮し、打ち手を考えていく必要がある。
そのためには、単に「人事制度の改定」、という「ツール」にメスを入れるだけでは不十分なことが多い。
とは言え、実は、「人事制度改定」というプロセスそのものは「考える」ための「場」として効果的に機能することもある。
アジアの海外拠点で人事制度を改定する場合、人的な制約から、いわゆる「人事部」が主導して制度改定していくことが難しく、人事だけでなく、営業・生産・技術等の各現場のキーパーソンと一緒になって改定していくケースがある。
そして、組織横断的なプロジェクトチームを通じて人事制度を改定していくことによって、各セクションの課題を捉えた上で、それをいかに解決していくのかを全員で検討する、ということが可能になる。
さらには、今後、社員に期待する価値観(Value)、行動(Behavior)、コンピテンシー等を議論・検討していくことで、各企業の価値観・方向性に関して、メンバー間でのそのイメージを具体化させ、共有化していく機会にもなるのである。
その結果、(日本本社の立場から)アジアの海外法人で作成した人事制度の最終形だけを見れば、「日本本社とあまり変わらないではないか」、「何となく、10年前の日本の制度に似ている」という印象を受ける人がいるかもしれない。
しかし、人事制度の改定を通して、キーパーソンが「考えた」プロセスそのものに価値があるのであり、最終形だけを見ていては、その価値が見えないこともあるのも事実である。
特に、最近では、「リージョン経営」の観点から、アジア各拠点の人事制度なり各種インフラを共通化していこうとする流れがある。しかし、その際には、単に「最終形」をモジュールのようにそのまま導入するのではなく、意図的に「考える」ためのプロセスを組み込むという一工夫が必要になると考える。
思考停止からの脱却については、安易な方法はないと考える。真正面から取り組み、正攻法を積み重ねていくことで突破口が開けるものと思われる。
まさに、日本人駐在員も含めて、常に考えつづけていくことが鍵になるようにも思われる。
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