【巻頭言】
脱・思考停止の原理原則
いかに思考停止の罠から逃れるか

1.
日本人の「思考圏」再構築
中国人に取り込まれ、
中国人を取り込む
   
2.
脱・依存
振り切るべき外への追従、
断ち切るべき内への郷愁

3.
思考停止を排除する
経営プロセスの設計
コアプロセスに
〈不完全さ〉をビルトインする

4.
生涯現役組織への道
思考停止に陥らない組織の作り方

5.
組織バカをいかに防ぐか
「組織頭脳」にもとづく考察
   
6.
成果主義導入の要諦
思考停止に陥る五つの関門

7.
自ら「考える」アジア拠点の作り方
「思考停止」の
負のスパイラルからの脱却

8.
「深く考える」人材の開発法

9.
思考停止を避ける思考法
感覚的問題解決ノススメ

10.
地方自治体の智恵創出法
半永久的思考停止からの脱却

11.
退職金制度改革での頭の使い方
エキスパートの落とし穴にはまらないために

12.
脱・IT思考停止
企業ITの
再生・再活性化のための処方箋

13.
人事部が思考停止に陥るとき
人事制度構築に関わる思考停止パターン

14.
半歩上の思考術

【心理学ゼミナール】
心理学における二つの知識論

.

思考停止を避ける思考法
感覚的問題解決ノススメ
 

 

西川 淑子

ある日の事業部長会議の話

 A、B、C各事業部の事業部長たちが、変革について話し合っている。この中で、思考停止に陥っている、あるいは、思考停止に陥る危険性がある人は誰だろうか?

A事業部長:
 「自分たちの業務は、以前よりもずっとスムーズに流れるようになって
 きたし、利益も上がるようになってきた。これ以上の変革は無理だし、
 不要である」と自信満々である。

B事業部長:
 「自分の組織には課題がいっぱいで、日々発生する問題への対応で
 大忙しです。早期の問題発見と迅速な対応で、何とか順調に業務は進
 んでいるのですが」と、忙しく飛び回っている。

C事業部長:
 「7Sや3C、バリューチェーンなどのフレームワークを元に徹底的に分析
 を行い、事業の方向性を考えました。それに合わせて組織形態も変
 え、変革は完璧です」と、意気揚々としている。

思考停止とはどういう状態なのか

 「私はときどき、『流れ』について考えます……」と語る健康飲料のCMがある。体内を血液がサラサラと流れる状態が、健康にとっては非常に重要であり、どこかに滞り・よどみがあると、体の各部に支障をきたし、様々な病気の引き金となるという。
 実は私も常に「流れ」というものを意識している。業務の流れ、情報や意見の流れ、人材の流れ、ビジョンに向けての進化の流れ……。企業の中では、常に様々なものが流れている。そして、これらのどれか一つにでも滞りやよどみが発生してしまうと、企業の健康状態が悪化し、様々な病を引き起こすことに繋がっていく。
 しかし現実には、これらのどこかに滞りが発生していることがほとんどであり、100%サラサラと流れている状況など、ほぼ皆無なのではないかと考えられる。
 そして各企業は、そのような滞りを解消し、サラサラ度を向上させるべく、様々な取り組みを行っていることと思う。しかし、それでもなお、ずっと同じところに留まってしまったり、流れているようで実は同じところをグルグルと回っていたり、あるいは、枠組みは作ってみたものの、本質的なものが流れていなかったり……。そのような状況が多々発生する。このような状況に陥り、なおかつ、自分がそういう事態に陥っていることに気づいていないとき、それはまさに、思考停止状態になっているのではないかと考えられる。

自分では気づかない思考停止

 ここでもう一度、冒頭の問題に戻りたい。上記のように、滞りやよどみが発生し、スムーズな流れが実現できていないにもかかわらず、それに気づいてないこと自体が、そもそも思考停止状態であると考えた場合、冒頭のA、B、C各事業部長は思考停止に陥る危険性はないだろうか。

 まず、A事業部長。おそらく、事業を軌道に乗せるためにどうするか、一つ一つの仕事に一生懸命取り組み、常に前進してきたのであろう。しかし、これ以上の変革は本当に不要なのだろうか。A事業部が最終的に目指す姿はどのようなものなのか。おそらく、最終のゴールに向けて組織が進化を遂げていく、その流れを、A事業部長は明確に描けていないのではないか、と感じてしまう。盲目的に現状に満足してしまって今に留まり、将来に向けて先に進めない、という思考停止状態に陥る危険性がある。

 次に、B事業部長。日々発生する問題に対し、常に頭をフル回転させながら動き回っている。一見、思考停止とは縁遠いようにも聞こえるが、日々発生する問題をもぐらたたきのようにつぶしていって、いつまでたっても同じところをグルグルと回っているだけなのでは、と思ってしまう。そういう意味では、A事業部長同様に、将来に向かって前進していない、という思考停止状態になる危険性が高い。

 最後に、C事業部長。経営分析のフレームワークを用いつつ、客観的な分析とロジックの組み立てを行ったようである。問題解決の基本を押さえ、C事業部長の思考力を駆使したことがうかがえる。
 ところが、そのようなフレームワークのもとで、細かい分析や問題解決ロジックを組み立ててみても、どこか違和感を感じるケースがある。一見、もっともらしくロジックで組み立てられているのだが、出来上がりイメージが静止画像でしか思い浮かばず、組織の将来像に躍動感が感じられないことがあるのだ。
 おそらく、客観性やロジック、その他の形や枠組み(ガワ)にこだわるあまり、本質的なもの(ソフト的な中身)の「流れ」を見落としているのではないかと考えられる。C事業部長においても、流れを創造できず、よどみにはまってしまうという思考停止の危険性を孕んでいるのである。

 以上のように、3名の事業部長全員に、ちょっと油断をすれば、思考停止に陥る危険性が潜んでいるということが言える。

イメージ力が思考停止回避のカギ

 この3名の事業部長が、思考停止状態に陥るのを回避するためにはどうすればよいか。私が一つ提案するとすれば、「常に想像力(イメージ力)を働かせておく」ということである。

 変革を確実に実行するには……というテーマでよく語られるのは、先ほどのC事業部長のように、様々なフレームワークで詳細かつ客観的な分析を行い、ロジカルな結論を導き出そう、というものであったり、目標を定め、それを具体的なアクションプランに落とし込もう、といった類のものが多い。
 ところが、いくらそのような手法を用いたとしても、その前提として、正しい「想像力」を働かせていなければ、変革もうまく進まないと考えられる。その想像力のキーワードは、先ほどから書いているように、「流れ」である。
 よく、「成果イメージ(ゴールイメージ)を持ちましょう」という話を聞くが(私も言うが)、その成果イメージとは、二次元の紙に綺麗に絵が描けるようなものではなく、また、短い文章で直線的に表現できるものでもない、3D映像のようなものである。しかも、静止画ではなく、アニメーションのように躍動感があり、「流れ」がはっきり見えるものである。しかし、それを人に鮮明に伝えるのは、実は非常に難しい(ただし、その成果イメージを他の社員と共有するために、敢えて図や文にすることは、当然必要である)。

 何かの問題について話し合っているとき、私はよく、「なんとなく、何かが違う気がする……(沈黙)」と言って、同僚や友人に嫌な顔をされることがある。相手にしてみれば、「なんとなく」とか、「……の気がする」とか、そういう感覚的なことじゃなくて、どこがどう違うのかを具体的に論理的に説明してほしい、と思うに違いない。私にしてみれば、出来上がりイメージに躍動感がない、流れが感じられないと、本当に感覚的に感じているのだから、その場で説明してと言われても、すぐには説明できないのだ。
 もちろん、変革を進めていく上では、その違和感が何であり、それを解決するためにどうするのかを、具体的に考えていく必要がある。しかし、その前段階として、私はこのような「感覚」を大事にしている。

どういう「流れ」を意識すべきか

 では、先ほどのA、B、Cの各部長は、どのような想像力を働かせるべきなのか?

 まずA事業部長の場合、今と将来を結ぶ組織や事業の変化の流れがイメージできていないと考えられる。その結果、この先の課題が明確にならないため、現状に満足して立ち止まってしまう危険性がある。よって、A事業部長は、時間軸で見た進化の流れを具体的に想像することで、常に進化を進めるための問題解決を行っていく必要がある。

 B事業部長の場合も、目の前のことに追われ、先が見えない状態になりがちであるため、時間軸での想像力が必要である。加えて、個々の問題に対応する際、これが組織あるいは事業全体にどう影響するのか、を常に意識して解決策を考えていく必要がある。そういう意味では、業務の流れや情報の流れなど、組織や事業という空間軸で見た全体の流れを常に意識しておく必要がある。

 C事業部長の場合は、表面的な「流れ」については、一通り意識していると思われる。しかし、それが本当にスムーズに流れるのか、という現実的なシミュレーションがやや欠けていると思われる。現実的なシミュレーションとは、組織の風土や文化、人の心理的な動きなど、言葉や枠組みに表しがたい要因を考慮しながら、本当にこの組織が動くのか、ということを、まさに五感を研ぎ澄ましながら想像してみる、ということである。

コンサルタントの言うことはすべて正しいか

 これは、変革を起こそうとしている企業の経営者や事業責任者のみならず、メンバーの方々にも、ぜひ大切にしていただきたい感覚である。特に、コンサルタントからの提案を受けた際、見た目に正しそうだからとか、ロジックが通っているからというだけでそのまま鵜呑みにするのでなく、最終的なイメージとして、業務や組織が流れている感じがするか、組織や事業が進化に向けて動いていく感じがするか、という観点から検証してみていただきたい。
 そこで、「なんとなく違う」「動く感じがしない」という印象があるとすれば、その感覚を、私たちは大切にしなければならない。なぜなら、そこには、言葉にはできなくても、肌で感じる組織の価値観やクセ(習慣)、社員の本能的な反応を、無意識に感じている可能性があるからである。
 このような感覚を無視し、変革の形だけを整えようとすると、最終的には、血の通わない、静止画的な姿が出来上がってしまい、思考停止の組織が出来上がってしまうのではないか、と懸念してしまうのだ。

 人事制度を構築する際も同じである。形がきれいに整っているから、運用が簡単そうで、人件費も削減できるから、という理由で、人事制度に満足してはいけない。この人事制度を見て、社員がどう感じ、どう動くのかをイメージし、具体的に動きそうだ、というイメージが描けることが重要なのである。

組織として想像力を担保する

 人によって得意な思考法は様々であるため、今回の話が全ての人にあてはまるわけではない。また、日常の細かい実務に追われながら、常にこのような想像力を働かせておく、というのも、無理な話である。
 しかし、少なくとも組織としてこのような想像力を確保しておくことは、思考停止を避ける上では非常に有効であると考えている。たとえば、具体的な分析や実務を行う人(部署)と、想像力を駆使しながら全体観で検証する人(部署)の役割を明確に分担する、あるいは、タイミングを定めて、定期的に将来像と照らし合わせて検証を行う場を設けるなど、組織としての想像力を維持するための工夫をぜひ行っていただきたい。
 非常に抽象的な話であったが、常に「流れ」を想像する、という思考法を、頭の片隅にでも置いておいていただけると幸いである。

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●西川淑子 にしかわとしこ/アクセンチュア(株)において、主にヘルスケア業界、官公庁の業務プロセス改革に関するコンサルティングを経験した後、ワトソンワイアット株式会社入社。当社入社後は、製薬企業、製造業、サービス業等において、組織ビジョンに基づく人材マネジメント実現のための人事諸制度の設計・導入および定着化支援に従事。東京大学法学部公法学科卒。