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【巻頭言】 |
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【巻頭言】
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ワトソンワイアット株式会社 |
前回のレビューのテーマ、脱・思考停止は多くの読者の方から好意的な反応をいただいた。経営にかかわる方々が、日頃から感じていた問題点の何か「芯」といえるものを突いたためと考えている。
今ようやく日本企業は長期にわたる低迷から抜け出そうとしている。だからといって、すべての日本企業が一斉に中国に大型投資を行い、北米ビジネスの利益拡大に突っ走ることが正解ではないはずだ。多くの日本企業が、横並び的思考停止の愚を巨額のコストを支払って学んだはずである。
事業環境が大幅に変化するときには、単に早く動いたものが勝てるわけではなく、適切にゴールを定めて早く到達したものが勝てるのである。
最近、私の尊敬する優れた経営者から「経営者の要件」をお聞きする機会があった。彼が要件として最初に挙げられた意識と行動が「自問自答する」であった。
そもそも、大変革を迎えた現時点の日本企業の経営層に求められている最も重要な要件がこの「自問自答」に表現されている「自省的な深い思考」ではないだろうか。
このような考えのもと、弊社東京オフィスが設立20周年を迎える5節目に当たり、我々自身の自省も込めて「自問自答の経営」を今回のレビューのテーマに取り上げた。
経営者はまず何を自問自答すべきなのだろうか。あるいは、経営者の価値とは何なのだろうか。以前、何から何まで自分がやらなければ気のすまない、極めて有能な経営者から真顔で質問されたことがある。
次世代の経営層を開発するためには、経営者は「任す」勇気を持つことが唯一の解であると言った私に、「では何をするのが経営者なのか」と聞かれたのである。このとき即座にイメージとして頭に浮かんだものが、タイムマシン機能の付いたヘリコプターである。
まず、経営者はヘリコプターに乗って、自分の会社、お客様、取引先や競合企業の全体像が掴める高さまで上昇して徘徊する。その高さは、企業活動全般の状況を鳥瞰できると同時に、目を凝らせば関係者のやり取りや表情まで見える位置である。
そして、そこからタイムマシン機能をONにして、5年先の世界の同じ高さに飛んでみる。そして、少なくとも三つの世界を見てみる。一つはこのまま進めば到達の可能性の高い世界。二つ目は、ぜひともこうなってみたい、ワクワクするような理想的で「ありたい姿」。そして最後に、こうなったら最悪と考える状況をしっかり映像として描き切る。
今度は逆に、5年後から現時点までゆっくりと時間を巻き戻してくる。そしてこの5年間に、この最終的なありたい姿から最悪の状況までの分岐点がどこのどんなタイミングにあるかを見定める。
結局、経営者はこのありたい姿から最悪の姿までを、生き生きとダイナミックかつ詳細に描く。そして、そこに至る道筋の複数の分岐点で、ありたい姿ルートへと企業を導くために全精力を傾ける。
全体シナリオを明快に持っているからこそ、「今」のほとんどを部下に任せられるのである。分岐点のありかを自問自答し続け、最善の準備を施す。これが経営者の価値であり仕事なのである。
前項の経営者の仕事を一言でいえば、「ビジョン」の提示と実行となる。しかし、これほどまでにダイナミックなビジョン、命を吹き込まれて踊りだしているように感じられるビジョンを語る経営者は稀である。
ほとんどの経営者は、このレベルのビジョンが見えるまで、自問自答を繰り返していないからである。あるいは、自問自答を繰り返すことに必要な情報が不足しているためかもしれない。
そこで、このような生き生きとした魅力あふれるビジョンを描くための条件を考えてみよう。
第一にその業界の「インサイダー」である必要がある。5年先の姿を確信を持って言い切るためには、顧客、競合、サプライヤーが過去から今まで、どのような考えでどんな行動をしてきたか、そして今からどのような方向に動こうとしているのかを知らねばならない。各組織やグループのDNA的な特性から、個々の主要メンバーのキャラクターまでを実体験とともに理解していなければ、自社の取るべき最適ポジションを描くことは不可能に近い。つまり究極のインサイダーでなくてはならない。
第二の条件は何か。5年後に到達する企業の形は、マクロとミクロの経営環境の変化にも大きく左右される。例えば、M&Aがどの程度のスピードと広がりで日本の企業社会に浸透していくのか。その変化を見越して、自社はどのような準備をいつからすべきなのか。
このように特定の分野で最新かつ世界に通ずる全体観を持っている人は各分野にせいぜい数人程度しかいないはずである。つまり、各先端分野の「一流プロとのネットワーク」があるかどうかが思考の種である情報の鮮度を決める。結果として、ビジョンの質を左右するのである。
最後の条件は、一種の「知的体力」である。人間、特に日本人は基本的には真面目な働き者であると思われる。しかし、「考える」という観点からはほとんどの人は怠け者である。
何か企画書のようなものを作らねばならぬとき、何か定型フォーマットのようなものはないかと考えてしまう。似たようなペーパーはないかとファイルをひっくり返す。あるいは大型書店で関連するマニュアル本を立ち読みする。
このような行為はすべて、ゼロから考えることを脳が拒否しているから起こる。それだけ、深く考えることは脳への負担が大きい。だから、肉体的体力と同じように「鍛える」しかない。意図的にたくさんの変数が相互に絡んだ複雑な事象の構造をゼロから考える習慣をつけることだ。自問自答し続けることだ。
あなたが、生き生きとした魅力たっぷりのビジョンを熱く語るとどのような変化が組織に起こるだろうか。
実はビジョンは組織を構成する人材の動機付けの「根っこ」なのである。つまり、組織のビジョンと各人材のキャリアビジョンが重なったとき、組織の活性度が飛躍的に高まるのである。
この会社でこの仕事で成果をあげれば、自分のキャリアが広がる実感が持てれば、仕事の質とスピードが急激に向上していく。さらに、世界トップレベルのプロになれるかもしれないとの確信がもてれば、この傾向は加速する。
私のクライアントを通じた実感ベースで、大体4倍から5倍の生産性の向上が起こる。しかも、ビジョンが根っこの動機付けの場合は比較的に持続力も高いのである。
企業経営の視点から見て、これほどの投資効果を期待できる対象は他にないのではなかろうか。しかも、将来の不確実性のリスクを低減させる効果も高い。
経営者が第一に、しかも恒常的に自問自答すべきものは、ビジョンである。過去の清算を終え、将来に意識を切り替えつつある多くの日本企業にとって、今がビジョン再興の「旬」なのである。
本レビューでは、様々な切り口から、自問自答すべき経営テーマの鳥瞰図を描こうと試みた。もしも、皆さまが自問自答すべきと考える「旬」な題材が提供されているならば、編集責任者としては最高の幸せである。
そして、我々が設立20周年を迎えられたのも皆さまからのあらゆる知的な刺激の賜物です。どうか今後もさらに切磋琢磨の機会をいただければと願っています。ありがとうございました。
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