【巻頭言】
ビジョンパワー
自問自答によるビジョン再興

1.
世界についての自問自答
世界を自己の中に映し出す
   
2.
内省の技術
人材開発の自問自答

3.
自問自答のガバナンス

4.
今こそ確認すべき役員報酬改革の基本論点

5.
アジアの人材マネジメントを検証する
まず何から検討し、着手すべきか
   
6.
人事部門の再興
人事部門は何を自問自答すべきか

7.
事業構想を進化させる自問自答の要諦
〈リアリティ〉を高める「ロジック」と「パッション」の統合

8.
組織設計の原理原則
「勝つ組織」をデザインする勘どころ、悩みどころ

9.
現場に眠る潜在能力
非正社員の人材マネジメントを考える

10.
変革シナリオの描き方
押さえておくべき変革のステップ

11.
変革「浸透」の鍵
組織のどこを押さえればよいのか

12.
強い管理部門が経営トップの自問自答力を高める
検証機能を高める管理部門改革の進め方

13.
報酬制度の自問の要所
いきなり報酬制度として考えない視点

14.
なぜマネジメントサイクルが回らないのか
「ねじれ」を解消するための自問自答

15.
パブリックセクター経営論
「長」が取り組む自問自答の要点
   
16.
経営者が退職金・年金制度で悩むべきこと
自ら参加し、考えるべき

17.
競争力を改善させるリスク・マネジメント
年金運営が教えるリスクとつきあうための自問自答

18.
ITで悩むべきこと、ITで悩んではいけないこと
“宇宙ボールペン”はなぜ生まれるのか

19.
経営者が人を動かすとき悩むべきこと

【心理学ゼミナール】
キャリア・アップからキャリア・アイデンティティへ

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今こそ確認すべき役員報酬改革の基本論点
 
 

 

森田 純夫

 最近の日本における役員報酬の流れは、はっきりとした形で表れているわけではないのだが、おそらくは、米国の役員報酬の流れに追随する方向で動きつつある。ストックオプションの費用化を義務付ける会計基準の変更に見られるように、米国をはじめとする世界を視野に入れて検討を進めなければならないことは確かであるが、米国型報酬を追いかけることに、落とし穴はないのだろうか。日ごろわれわれは、米国の先進的な役員報酬の形態やツールにとらわれがちになっているかもしれない。本稿では、自戒の意味も込めて、常に問いかけ、確認しておかなければいけない、役員報酬を取り巻く基本的な論点を改めて確認する。

役員への問いかけ

 役員であるあなたに問いかけたとする。「あなたは、自分の報酬の適正額はいくらだと思いますか?」と。あなたの答えはどうだったであろうか。「3000万円くらい」と胸を張って答える人がいれば、おずおずと「2500万円……」と答える人もいるかもしれない。いやはや、「ジッサイ、ヨクワカラン」と言う人もいるだろう。
 では次に、答えることができた人は、どうやってその金額を算出したのか、問いかけてみたい。「今転職するとしたらこれくらいの値がつくはず」「会社の制度上そうなっている」「自分はそれを受け取るに十分な利益を生み出す貢献をしているから」。これまたいろいろな答えがあるだろう。
 なぜこの問いに答えることが意外に難しいのか。報酬額、あるいはその算出には正解がなく、無数の基準を取り得るからである。
 通常、われわれは、二つの観点から適正な報酬水準を探ることを提案する。一つは、人材を引き寄せ、引き止めるための競争力があるか。もう一つは、貢献に応じた報酬となっているかどうか、の2点である。

役員報酬における競争力

 報酬が、人材市場における需要と供給の関係で決まるとするならば、「同等レベル」の人材に対する需要と、そういった人材の供給量によって価格=報酬が帰結される。ところが、まずもって、「同等レベル」の人材を定義するのが難しい。プロ野球選手のように、個人成績のようなものが明瞭に残されているのであれば、まだ評価はしやすいのだが、A社のX氏とB社のY氏が同等の仕事をしてくれるかどうかはわからない。一般社員であれば役員に比べれば比較的役割が明確であることが多く、職務内容などを参考にして目安をつけることができるかもしれない。ところが、役員に求める役割とは、会社の成長段階や外的環境など、さまざまな要因によって会社ごとに異なるはずであり、それに対応する報酬を決定することも容易ではない。ある会社で活躍した役員が別の会社で活躍するとは限らないのである。
 重要なのは、どのような貢献を求めるのか、ということを明確にし、どのような人材を求めていくのかという、「人材スペック」を明瞭にすることである。それができれば、その人材を得るためにはどれだけの報酬が必要か、という段階に進むことができる。
 人材スペックがはっきりしたら、その人材をどこから調達するのか、ということを明確にすることが必要である。まず、国内からか、海外を視野に入れて考えるのか、ということを確認しておかなければならない。いかにビジネスがグローバル化しているといえども、人材そのものの国境を越えた流動化は、完全に進んでいるとはいえない状況であり、経営者人材のグローバルマーケットの形成まではまだ時間がかかりそうである。企業としては、調達先の地域の人材マーケットの報酬水準に対して競争力のある水準を提示しない限り採用はおぼつかない。なお、日本では、まだまだ外国人経営者の採用は進んでいない。今はまだ、日本企業が海外の役員報酬水準を参考にするのは時期尚早かもしれないが、役員の相当数を外国人が占めるようになったときには、その前提を変えざるをえなくなるだろう。
 また、日本の大企業の多くは、役員人材は社内かつ日本の人材から登用するのが通例である。このような形態を取るのであれば、外部市場の報酬水準との整合性を取る必要性は低い。むしろ、社内の一般社員の報酬水準との整合性を取ることの方が優先される。ただ、日本でも、企業再生やM&Aが活発となってきており、徐々に、役員人材マーケットが構築されつつある。また、企業側としても、これまでのように純社内人材のみで経営体制を構築していくことには限界があるように見える。この原稿を書いているとき(3月7日現在)にソニーのCEOが交代し、米国子会社社長が後継となるニュースが報道された。まさにこういった動き、すなわち海外子会社からの役員登用や、外部人材の採用が加速するほど、報酬水準の見直しは必須となる。今後、日本における経営者の報酬水準は、役員がグローバル化した企業と、純国産企業との間で二極化する可能性が高い。

貢献の還元の仕方

 二つの典型的なモデルを通じて考えてみたい。
 一つは、トップに対して、ビジネスの大きな転換や経営のプラットフォームの構築を求め、さらにそのために権限をトップに集積させているケースである。この場合、生み出された付加価値=利益を創出した当人に還元するのは筋であろう。逆に、その期待に応えることができない場合には、可及的速やかに別の道を模索する(=代わりの役員を据える)必要があり、成果を創出できなかったその役員はクビになる。したがって、ハイリスク・ハイリターン型の成功報酬体系となる。経営判断によるインパクトが大きく、利益が少数者に帰属するため、成功したときの金額は大きくなる傾向にある。米国式の経営スタイルが典型であり、日産のゴーンCEOがした貢献はこうしたイメージに合致する。
 もう一つは、ビジネスとしての一貫性、継続性に重点を置くケースである。典型的な日本の伝統的大企業はこちらの考え方を取っている。経営者が独創的なことを考えて埋め込んでいく、というよりもむしろ、これまでに諸先輩が築き上げてきたものを磨き込む、というタイプである。この場合は、すでに構築された経営プラットフォームを利用しているのであり、成功の要因たる条件は、最初からあらかじめ整えられているわけであり、ローリスクと言える。利益の帰属は、ビジネスの継続に成功したトップと、これまでに利益を生み出す体質を構築してきた過去の経営陣となる。また、社員が重い意思決定を下しているようなボトムアップ型の組織であれば、社員も含めて考える必要がある。トヨタの経営が、過去の経営陣からの価値観を引き継ぎ、トヨタの経営モデルを徹底的に磨き込むプロセスであるとすれば、継続モデルの典型かもしれない。こうしたモデルでは、付加価値を生み出す主体の数は多くなり、トップの受け取るべき報酬金額は小さくなるべきである。こういった会社では合議的な意思決定プロセスを採ることも多く、経営者の貢献度が見えにくく、不祥事がない限りクビになることも少ないという会社も多い。つまり、ローリスク・ローリターンの報酬体系となる。
 このように、経営の意思決定プロセスの形態により報酬の体系は変わるべきなのである。

モチベーションへの配慮

 報酬は上記の二つのポイントを中心に構築されるべきであるが、役員の報酬においては、その役員に対してのモチベーションを高めるということが一つの重要の目的であり、個人の報酬に対する感応度も考慮に入れなければならない。
 原資が許す限りにおいて、つい、モチベーションを高めようと、手厚いインセンティブを用意したくなるが、それには注意が必要である。当該役員のモチベーションを高める限りにおいて、報酬の支払いの正当性が認められるべきであると考えられる。一般に、報酬がある一定の水準に達しない場合は本人の不満の要因となり、結果としてモチベーションが下がるが、実は一定水準を上回ってもそのモチベーションを上げる効果は相対的に薄いといわれている。そうだとすれば、「一定水準」というものを慎重に見極める必要がある。「一定水準」以上に支払う場合は、株主あるいは会社にとっての無駄が生じているということである。
 この「感応度」については、私は、社会的な条件も含めて影響を受けるものと考えている。例えば、中流意識が依然として根強い日本のような社会と、経済的に恵まれることがアメリカンドリーム的なステータスとして誰にも認められるという米国のような社会では、報酬の水準や構成が異なっていてもおかしくはないと思う。ただ、米国においては、あまりに感応度が高すぎるせいかどうかはわからないが、数多くの不祥事が起こっている。それは、経営が成功していると賞賛されている会社であっても、そうでない会社でも、いずれでも起こっている。

表1/米国でここ数年の間に話題となった経営者報酬の事例

(※1)退職後、社用ジェット、マンハッタンのマンションなどの特典の存在が明らかになり、その厚遇ぶり
   が取りざたされた。

(※2)その一部だけでも、約1億ドル≒約104億円に達すると言われる。

米国と日本の報酬水準の概観

 米国の報酬体系では、利益還元という考え方が極めて強い。したがって、過去の蓄積によって利益を生み出されたという考え方が薄い。しかし、元々所与のものとして与えられている環境は、一定の規模をもっており、それを基にして付加価値を生み出したのだとしたら、結果として現れた収益には、レバレッジ効果(てこの効果)が働いているはずである。米国の報酬体系は、利益を生み出したらそれを還元するという原則が徹底するあまり、特に大企業だと、金額が天文学的な数字になることがまま見られる。日本の典型的大企業では、ある経営者が急に巨額な報酬を受け取ったとしたら、おそらくは過去の経営陣や他の役員などからの指摘などが行われるのではないか。それが良いかどうかはわからないが、過去の経営陣たちの貢献を尊重した上での報酬水準となっていることは間違いない。米国に比べ「低い」のは確かだが、それが米国以上に不適切であるとは言い切れないと私は考える。

 総括するならば、米国のモデルは、莫大なインセンティブを通じて、徹底的にモチベーションを高めようとする、ハイリスク・ハイリターンモデルである。高額報酬に目がくらみ、経営判断に目がくらみかねない点が弱みである。日本モデルは、貢献の帰属を丁寧に見積もり、継続性を重視する、ローリスク・ローリターンモデルである。こちらでは、経営に対して責任を明確に問う動きが出にくいことが問題である。

 報酬水準を抜本的に見直す際は、相当慎重な検討が求められる。ドイツ銀行は、そのビジネスのグローバルへの展開に合わせて報酬体系を構築しているが、その金額の高さ(※3)に対して大きな批判が起きている。金融ビジネスのグローバル化に合わせて、グローバル人材を引き寄せ、引き止める報酬体系を構築するという彼らの説明が、投資家に対してどれだけ説得力を持つのかは不明瞭である。
 日本は、幸か不幸か、報酬の水準は米国などに比べると低い。いったんマーケットでの水準が上がってしまうと、それを下げるのは難しくなる。報酬の水準を上げるケースでは、諸外国でどのような効果・弊害が起きているのか、確認をしておいた方がよいだろう。

表2/大企業役員の報酬水準

役員報酬を支えるその他の重要な論点

評価の重要性
 日本の場合、致命的なのは、役員に対する評価がほとんどといっていいほど行われてきていないことである。その要因の一つは役員報酬体系にある。貢献に応じて支払う、という報酬体系となっていないため、評価を通じて貢献を明確にすることをせず、必要なはずの役員の淘汰が進まない、という具合である。日本の場合、報酬水準や体系が云々というよりも、まずは、役員の評価を行っていくことからスタートする必要があろう。

外部に対しての説明責任 ― 第三者による判断
 役員に絡む評価や報酬などの微妙な判断を行い、それを外部に対して納得させることは、当事者では難しい。役員報酬に関して多様な選択肢がある中で、当事者が、決定した内容についてどのような理由付けをすることも実際には可能だからである。あのエンロンも、当時はその「先進的な」ガバナンスや、役員報酬体系が賞賛されていた。どれほど立派な報酬体系が構築されていたとしても、当事者が構築したものであれば、もはや株主としてはその経営陣を信じるしかない、という状況に陥る。
 したがって、委員会等設置会社で言えば報酬委員会にあたる機関を通じて第三者の判断を仰ぐことが決定的に重要である。さらには、その第三者が本当に第三者か、また、正しい判断を下せる人なのか、ということも併せて担保せねばならない。
 日本では最近始まった報酬委員会の実際の運営状況であるが、委員会を構成する人材が不足していることもあり、一部の有名人に人気が偏る傾向が見られる。有名人であることが当然に正当な判断を下すことができるという保証をしてくれるわけではないものの、そうした著名委員(社外取締役)に対して法外な報酬を支払っている会社も多いようである。そのようなケースでは、もはやその社外取締役は第三者ではなく、その会社から利益を得ている立派なインサイダーである。
 今の日本でまず必要なのはこの層の人材を育成することである。そうはいってもそれまでにはまだ時間が必要であるのも事実である。第三者による検討がされるまでの間は、当事者として判断しなければならない現在の日本の取締役たちには、微妙な舵取りが求められる。自分自身で報酬をコントロールしつつも、検討の内容や結果を開示するなどの手段を通じて、投資家に対して透明性を高める努力をする必要がある。

開示のススメ
 今後の役員報酬については、徹底的な開示が求められると考えられる。具体的には、報酬体系を構築する背景およびその基準、報酬の算出式、評価プロセス、報酬水準開示が求められる。まだ開示が進んでいないこの日本の状況においては、この開示を徹底的に行うことそのものが経営としての先進性を訴える一つの手段になるものと考えている。開示に反対する役員たちの声があることも確かである。開示反対の理由は、1)経営陣の総コスト(総額)がわかっていれば十分である、2)日本の役員はそれほど大きな金額をもらっておらず、米国のようなおかしなことは起こっていない、というようなものが主たるものである。しかし、「上がり」のポジションとして、そこそこの報酬をもらって安穏としている役員はもういらないのである。水準の高低以前に、きちんと役員としての役割を果たしているのかどうか、ということの検証がなされ、その検証の結果によって報酬が支払われているということが、第三者の目で確認されねばならない。実際に、株主であれば見過ごすことのできない形で報酬を支払っている日本の会社は存在する。われわれは、強く、報酬の開示を求めていく。それこそが、役員としての責任の明確化を促し、役員のパフォーマンスを高めることになると信じている。

総括
 今後の役員報酬決定において確認されなければならない論点を再度確認する。
 1) 報酬の水準は役割に応じたものになっているか。市場の水準を反
   映しているか。あるいは不必要に市場水準を反映していないか。
 2) 報酬は貢献に応じて支払われる構造になっているか。あるいは、利
   益の分配となっているか。
 3) モチベーションを高める構造となっているか。一方で、適切な経営
   判断を妨げるような、過度に手厚いものとなっていないか。
 4) 評価も含め、報酬の決定プロセスの透明度は高いか。報酬は独立
   性を持った第三者により決定されているか。
 5) 報酬に関する情報の開示はされているか。

終わりに

 最後に、弊社では、半期に一度、コンサルタントは、自身の年俸について社長と直接話し合う機会を持つ。他のコンサルタントがどうしているかは知らないが、少なくとも私は、目だった主張をすることができない。なぜならば、私の値段がいくらかなんて、人事コンサルタントのくせにわからないからである。したがって、私は役員ではないが、冒頭の質問を自問自答するならば、いつものようにこう言うだろう。「あ、とりあえず、お任せしときます」。この半年に一度のイベントがやってくるたびに私はつくづく、自分を評価することの難しさを感じる。自身が小心者であることを知るのと同時に。

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(※3)CEO報酬=7700万ユーロ(≒約10億7000万円、'03、キャッシュのみ)
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●森田純夫 もりた すみお/三井海上火災保険株式会社(現三井住友海上火災保険株式会社)を経て、ワトソンワイアット株式会社入社。人材マネジメントの改革に関わるコンサルティングを行っている。ストックオプションを含む経営者報酬や退職金制度の設計にも従事。現在、ジャパンデスク担当コンサルタントとして、タイ(バンコク)でも在タイ日系企業に対する人材マネジメントのコンサルティングに従事。東京大学文学部卒(社会学専攻)。