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【巻頭言】 |
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組織設計の原理原則
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片桐 一郎 |
21世紀のグローバル競争では、策定した戦略をやりきる「組織」の力が重要となってきた。情報化社会の中では戦略はだれでも知り理解できるが、それをグローバルな環境でスピーディに実行できるかはその組織次第である。課題を早く察知して、すばやく解決策を意思疎通できるスピードをもつ「組織頭脳と神経」、そして課題達成までやりきる「組織筋肉」をもっているかが、競争力の源泉となっている。
あらゆる戦略手法は本に紹介されている。しかしいろいろな言葉や記述(戦略ジャーゴン)に惑わされることはない。戦略は大きく分けて、「集中と選択」そして「仕事の清流作り」に2分されるからだ。前者はGE、後者はムダのない仕事の流れとしてトヨタ自動車のものが有名である。
組織設計にあたっては、まず自社の戦略について、この二つの思想をもとに整理し、次にそれを実現する組織を構想するのが定石である。
おおざっぱに言って、組織は機能別組織から事業部制となり、さらにそこにグローバルなエリア軸やコア技術といった、その組織が重視する組織軸を足す形でグローバル化へと進化しているようである。図1にそのイメージを示した。機能・製品を包含して事業部ができ、それがさらに地域エリアに拡大し、意思決定の階層がそれらを統合するという球形のイメージが、これから目指すべきグローバル組織のイメージとなる。
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図1/組織設計軸 |
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本稿では、従来の21世紀の事業環境の中で、これまで行われてきた組織設計の限界や数々の問題点を明らかにするとともに、それをどう超えてグローバル組織へと変革していくかについての仮説、その勘どころと悩みどころについて述べてみたい。
従来の組織設計の問題
従来の組織設計では、企業戦略を反映させるような組織構造(組織のハコ)を設定し、組織のハコを使命(ミッション)や職務で定義し、その成果を鍵となる指標KPI(Key Performance Indicator)やBSC(Balanced Score Card)で測定する。さらに、業務プロセスを整理しなおして新しい業務プロセスに再設計することが基本であった。
また、組織設計を人材マネジメントと連動させ、組織業績と個人の業績について目標管理を行い、評価を年俸に反映させる。これはいわゆる成果主義人事制度の定石でもあった。
こういった設計手法は論理的でわかりやすいので、新たに会社を作るようなケース(民営化など)や、未熟な組織には有効ではあるが、ある程度基礎があって、次のステージに進化しようとする組織では効能が薄いようである。論理的ではあるが美しすぎて変革パワーが生み出せないように見える。組織設計図を作っただけでは実際の組織は動かない。組織作りの工程にまで踏み込んでデザインされていないからであろう。
これに気付かないと、やたら組織図をいじり、効果が出ないと首をひねることになる。同じ組織設計手法を繰り返し、組織構造や指標、責任・権限を変更するという「イスの並び替え」では社員に対するインパクトは弱まり、管理強化につながったり、内向きのベクトルが組織に生まれてしまうであろう。
組織診断の問題
また、組織の課題を探ろうとしていわゆる組織診断を行うが、これにも問題がある。
組織診断ツールとしては、社員意識調査や360度調査がよく用いられるが、注意を要すべき面もある。社員意識調査は世論調査にも似て総論しか分からず、真の問題把握には隔靴掻痒(かっかそうよう)の感がある。
360度調査においても、部下からの評価が被評価者のリーダーとしての自覚と反省に役立つと言われているが、実施される組織の状況によっては必ずしもそうとは言えず、疑わしい面がある。
少々極端な例えではあるが、もし、独裁国家において、上司の評価をしたらどうなるだろうか。当然すばらしいリーダーだという高い満足度が結果として得られるだろう。だがこの結果を鵜呑みにする人はいまい。人材の流動性が低く、上司からの復讐(?)を恐れる組織では360度評価をしても上司に媚びる評点しか出ないであろう。
また痛みの伴う改革途上にあるリーダーは部下から不満を持たれているので、そうした改革リーダーに対する評価は低くなるであろう。これも部下からの評価が信用できないケースである。ほかにも文化による違い(日本人は自分を低く評価する人が多いが、韓国人はこの逆の傾向があるようだ)など様々で、データについて注意深い解釈が必要なのである。
こういう定量指標に限界があるとすると、頼りになるのは組織エキスパートによるインタビューとなる。確かに経験豊かな人材が深いインタビューをすると、その組織の本質的問題をえぐり出せることが期待できる。
ただし、そういう人材は限られているうえ、多くのインタビューを行うには、相当の時間がかかってしまう点が問題である。
組織運営時に起きる問題
組織診断と再設計を経て変革された後、新組織の運営は予算のサイクル、中期経営計画づくり、業績評価などで検証されていくが、ここからがさらなる悩みどころである。
会社の経営課題が個人の目標に実際に展開していく組織運営プロセスを作らなくてはならない。全社戦略を実現する課題に分解してそれぞれを部門課題に展開する。この課題展開で具体的になったテーマを組織の部門メンバーの一人一人の目標とリンクさせる。これがいわゆる方針管理であり、これも組織運営の基本定石である。
ここまで到達させるのが第一歩であり、これを浸透させるのも大変であるが、さらに難しいのはこの方針管理のサイクルのスピードを上げることである。
課題の展開と各部門の課題設定、解決のための仮説設定、その検証、こうしたマネジメントサイクルを環境の変化に応じていかに早く回すかがポイントとなる。しかし、これを目指すにあたり、既存の組織運営の常識が障害となることがある。その典型が目標管理である。
目標管理制度の適用間違い
MBO(Management By Objective)はドラッカーの造語であるが、これを「目標管理」と訳したのは失敗だったようだ。大きな組織単位では良いのだが、それを個人まで落とそうとしたことが問題であろう。
個人の目標の「管理」を真面目に実行しようとして、目標を細かく分析し、その難易度や達成度を指標化して、その得点を評価に結びつける。
一見もっともだが、本来個人では、このサイクルは1年に1回ではなくて、日々の仕事で常態化されるべきだ。1年に1回というのは、大きな課題との達成度合いをマクロで確認することで、本来は「目標経営」と訳すべきだろう。
目標経営では自分の仕事をどう経営すべきか、その目標を高く掲げればよい。日々変化する仕事を細かく設定することなどもともと不可能である。
多くの日本企業が、期初の目標の達成度を細かく評価し、しかもそれについて部下と合意をとるのに膨大なエネルギーを割いているのはもったいないことである。しかもこの官僚的なプロセスで社員の自律性を殺しているのは残念なことである。
「目標は定量化し、自己で管理できるものとせよ」とのガイドを受けて、自分の目標を「体重を10s減らすこと」と書いた管理職がいた。笑い話でなく実際にあったことである。こういう意識をより経営志向に変えなければ、目標経営は実現しないのは言うまでもない。
目標経営のレベルが上がり、サイクルスピードが上がってくると、管理的な目標評価を1年に1回行う意味は薄れてくる。
高収益で発展を続けるトヨタもセブン−イレブンも、個人の仮説・検証を1年単位で検証するような悠長な管理などやっていないだろう。とくに成果主義人事制度で期初に立てた目標の達成度で年俸を評価するのは問題がありそうだ。
組織業績と個人業績の乖離
組織業績(ひいては部門リーダーの業績評価)をしっかり行うことは重要不可欠である。しかし社員一人一人の評価や貢献を分離し、客観的に測定しようとすると問題が起こる。組織業績は、一人一人の切り離せない貢献によって成り立っているからだ。
したがって一人一人の貢献を細分化して計測しようとすると必ず、ほかの人の貢献と分離できない有機的つながりにぶつかる。
結局、組織業績評価は人間が行うものだが、それを厳密に数値で客観的に個人レベルまで落とそうとすることに問題が生じるのだ。
この辺が欧米、とくにアメリカ企業の本社には理解できず、個人業績まで指標管理しろ、と日本法人に管理強化を強めて経営文化の衝突を起こしているのを見聞きする。日本法人内ではそこまでやるのはバカバカしい、と片付けることができるが、本社側アメリカ企業ではそうはいかない。要素還元型の経営ロジックを個人に落とすかどうかの判断は難しいが、大抵の仕事ではNoである。
ただしこれは数値管理をやめろといっているのではない。部門の生産性などを細かく評価するのは不可欠である。問題は個人にまで細かく数値管理することであり、チームや組織部門の業績管理自体は重要なのである。
プロセスの固定化
組織の業務分析を行い、ムダと思われるところをとり、新たな価値を産むことを期待するプロセスを追加して、新しい業務プロセスを設計する。これは組織設計の定石の一つだが、このこと自体が新しいルールになって次の進化を拒んでしまう失敗も見られる。
これはコンプライアンスと絡んでいる。せっかく安全な新設計の業務プロセスが手順として完成しているのに、また新しいものに変えるとリスクがあるという抵抗につながることがあるのだ。進化が止まってしまうのである。
リーダーとガバナンスの問題
リーダーとガバナンスの関係も組織設計の悩みどころである。ここで起こる問題はリーダーとガバナンス体制・運用のズレである。
組織はリーダーの器より大きくならない、というのは昔から変わらない真実である。リーダーの成長に伴って、そのリーダーを中心とした経営チームができる。そうして経営チームメンバーがおのおの成長して組織が発展する。
これは織田信長の時代から変わらない。織田信長は農民から専門武士を分離させ、機能別に戦う組織を導入した。傘下の武将たちがリーダーとなる地域別のカンパニー制の導入も行った。しかし最後にはガバナンスに問題を起こし、明智光秀に裏切られた。
最近、ガバナンスに対する高い意識を持つアメリカ企業においても不祥事が起こっているのは、トップのガバナンスに対する解がそう簡単ではないことを示している。適切なフィードバックを利かすような、組織設計と運用が求められているのに、委員会設置会社の「形」だけでは十分な答えができていないことを示しているのだろう。これはまだ定石化が不十分な分野と言えるかもしれない。
以上、いろいろと組織設計の定石にまつわる問題を挙げてきたが、これからの組織設計はどうあるべきかについて述べる。まだ新定石として自信のあるものではないが、この方向に解があると信ずるものである。
人的資本に基本的安心感を
組織の基本要素は、役割と構造、プロセス、プラットフォーム、資源である。資源はヒト、モノ、カネであるが、そのうち最も重要な資源は人である。ヒトは労働力(Labor)から資源(Resource)の時代を過ぎ、人的資本(Human Capital)となったと言われて久しい。しかも日本では資源はヒトしかないので、いかに知的資本(Intellectual Capital)の効率を高めるかもっと真剣に工夫しなくてはならない。
そのために社員に基本的安心感を与えることがまず大事である。不安な状況だとだれも真面目に創造的な仕事はできないからだ。
アメリカで会社の社員意識調査をすると、なぜ今の会社に働いているかという問いに対して「雇用が安定しているから」と「自分が成長できるから」が最上位を占め、「給料が良い」が次に来るという調査データを目にしたことがある。これはどの国でも普遍的な真実のようである。
日本企業は雇用の安定と社員の成長のためにどういう組織をつくるべきか、もう一度原点に戻るべきであろう。今後団塊の世代の大量退職と少子化で労働力が希少になるから、なおさらこの「人」についての哲学を考えておかねばならない。
やはり採用した以上はできるだけ雇用に責任をもつのが基本であろう。そのために安易な採用はしない、雇用した以上は育成に責任を持ち、人的資本が大きなリターンを生んだら社会に還元する、といったような方向で再検討すべきであろう。
生物視点での組織設計
従来の組織設計が機械的、論理的であったのに対し、これからは生物的組織設計の考え方がますます重要になるだろう。
つまり、どのような経過を経て現在のような組織になってきたのかという生物的考察が重要となりそうだ。
たとえば恐竜についての考察である。なぜ草食恐竜はあんなに巨大になったのか。理由は大型だと肉食恐竜に食われない、食物を消化するのに胴が長くなって胴体が大きくなった、などが考えられている。そういう巨大化を進めたのは遺伝子である。
危機への対応や環境最適のために遺伝子は進化を続ける。しかし環境が変わったときは、遺伝子は急には対応できない。従来の環境での生存の鍵となる遺伝子は変異のスピードが遅いからだ。これが当然ではあるが、環境変化に生物が対応する難しさを示している。組織進化のメカニズムがわかれば、進化の舵の方向を変える遺伝子レベルの組織設計が可能となるのではなかろうか。
組織の環境変化に対応するには、遺伝子変化の多様性を増すように母数を増やすこと、そして新しい環境に適応する遺伝子が優勢になるような仕組みを動かすこと、しかし将来の環境変化に備えて既存とは異なる遺伝子(現在の生存には貢献しないが、変化への自由度が大きい)をもつことが組織設計の主眼となる。
外部の刺激による免疫反応にどう対処して組織変革を設計するかなど、ネットワーク型組織の設計に生物的知見をより活かすべきであろう。
組織運動の設計
従来の機械的組織設計に欠けていたのは組織運動の設計である。新組織のパラメータ(ミッションや指標など)を静的に設定してもそれが動きだすとは限らない。組織の設計図に自律性や変化への対応、スピーディなアクションを組織のミッションや職務記述書に書いたとしても、これが安易に実現しないのは自明である。
これからは運動論の視点が必要である。運動方程式で説明されるように、より大きな変革力を発生させ、組織の質量(慣性)を小さくすれば、組織変化の加速度は大きくなる。スピードは加速度が発生して初めて向上するのである。このように組織の変化対応力を挙げるために、「組織の加速度」に着目すべきであろう。
良い組織はコミュニケーションが活発といわれるが、コミュニケーションも組織の意図を実現するための変革力である。
また組織変革で「構造こわし」と呼んで、従来のやり方で重くなった慣性の部分を一度否定して分解することも有効である。これはコミュニケーションにより変革力を増大させる一方、組織の質量を下げ、組織変革のスピードを上げる発想である。
いずれにしろ運動論で考える視点はこれから重要になるだろう。
組織頭脳の設計
知的資本は自ら学習し、記憶し、応用する。パソコンの頭脳ともいえる中央演算装置(CPU)も最新機種は複数処理が同時にできる方式に進化するという。一人の頭脳でなく、複数の頭脳が同時に作動するような状態が組織にも必要である。このような組織頭脳を働かせる方向に、これからの組織設計を深めるべきであろう。
「組織頭脳」は課題をすばやく見つけて、仮説・検証のサイクルを組織で早く回すための判断と、その共有化の仕組みがその基盤である。
基盤上では、情報加工の役割分担がなされており、その情報共有の流れと意思決定が設計されなければならない。従来の静的権限設計と違うのは、意思決定のパターンが多く、サイクルが短いため権限規定をいちいち書くのは困難なので、権限のガイドラインを定め、様々な課題発見から仮説・検証にいたる経験をその効果を確認しながらどんどん積み上げることを重視するような点であろう。
組織頭脳としてのクロックスピードを重視するために、メンバー一人一人の頭脳活動時間とインタラクションをトレースするようにもなるだろう。組織頭脳である各メンバーの働きをデータで検証するのである。現在自分だけのパソコンや携帯を持ち歩く人が増えているので、そこにトレース機能を設けることで、組織頭脳の活動状態のモニターとそのより効率化の方向を設計することも可能になるであろう。
また、組織頭脳の成長のために、仕事と一体となった「学習」も重要な設計要素となる。
現在、日本企業も手薄になっていた研修の強化を進めているが、研修プログラムの量を増やしたり、それをe-learning化したりするだけでは組織頭脳開発には効果が薄いだろう。
組織頭脳は仕事を通じて鍛えられる。組織頭脳の回転スピードと質を上げていくような検証の場も組織設計に加えるべきであろう。
最後にグローバル化が組織設計にもたらす課題と解決方向を示してみよう。
日本は唯一成功した社会主義国家といわれるくらい、所得の再配分が行われ、社長の給料と社員の給料の差が最も少ない先進国といわれてきた。
しかし、これは過去の話になりつつある。今や所得の二極化が進み、ジニ係数という統計指標によると、今や日本の所得格差はアメリカ、イギリスの次でドイツやフランスより高いくらいである。
また、日本企業においても、国際的な再編やM&Aが影響するようになってきた。金融や医薬品業界では「内なる」国際化も進んでいる。次第にグローバルなマネジメントが適応できる素地が整ってきたといえよう。グローバル企業では、各国の社会や文化に合わせた組織にしなければならない。組織設計にもグローバルな環境への適応性を考慮すべき時代になった。
日本企業のもともとの良さを活かしたグローバルな組織と人材マネジメントのあり方が製造業の復活を契機に模索されだしている。そしてその主戦場はアジアである。
日本特殊論ではない組織、またアメリカンモデルとも異なる日本発の組織と人材マネジメントについて検討する時期にきていることは間違いない。
従来の組織設計の限界や問題点についてはいろいろと述べたが、これからの組織設計については、現在進行中でもあり、視点を提示するのにとどまっており、組織の新定石を打ち出すまでにはいたっていない。今後も新しい組織設計に挑戦を続け、定石化していくつもりである。
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