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【巻頭言】 |
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現場に眠る潜在能力
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坂本 健 |
今回は、現場において自問自答すべきいくつかのテーマの中で、「非正社員」という存在について考察してみようと考えた。この分野のマネジメントに対する期待や興味は確実に高まってきており、事業の中核により近いところで活用する事例が目立ってきたからだ。
なお、非正社員と言っても一般化された定義があるわけではない。単に「正社員ではない者」をひとくくりにまとめた言葉であるとご理解いただきたい。その中には、契約社員、アルバイトなど、雇用条件が正社員とは違う、という意味で「正社員ニ非ズ」という場合もあれば、派遣社員や出向社員のように、文字通り自社の社員ではない、という人材も含まれている。
バブルが崩壊し、企業のリストラが本格化し始めたあたりから、正社員と非正社員の垣根が徐々に低くなっていったように思われる。「高度な仕事は正社員、簡易な仕事は非正社員」という機能分担がくずれ、非正社員が正社員に取って代わることのできる存在として認知されるようになったのはこの時期からだろう。当初は一般職(事務職)の採用を中止または縮小し、派遣社員やアウトソーシングに移管していくところからスタートしたが、その後、定型事務に留まらず、営業などの自律的な判断を伴う業務や、金融実務やメディカル(薬剤師等)といった専門領域にまで広がっていった。
このような、高度化していく非正社員の実態に企業が気づきだしたきっかけは、成果(実力)主義的な人材マネジメントシステムの導入によるところが大きい。
成果主義的な人材マネジメントシステムにおいては、単に結果業績だけではなく、その成果を生み出すまでのプロセスを多面的に棚卸しし、組織や人材のパフォーマンスを総括する(※1)。
従来の評価では、「どの組織が、結果としてどれだけの数字をあげたのか」という把握に留まっていたが、正しく成果主義を解釈し、運用している企業では、その成果を生み出す物語の「登場人物」と「具体的な行動(取り組み)」レベルまで明らかにされる。
その成果創出物語の節々に、単なる事務作業を行っているはずの「非正社員」が登場しだしたのである。
例えば派遣社員。たいてい、人事や経営企画の担当者に派遣社員の位置づけや業務内容を確認すると、「判断を伴わない定型業務、ルーティンワークをやってもらっている」という回答が返ってくる。いわゆる、一般事務派遣である。
ところが、管理職のコンピテンシーアセスメントや、組織の業務分析を通じて見えてくる彼女たち(この分野はやはり女性が圧倒的に多い)の姿は、一般事務の領域を超えていることが珍しくない。
一般事務として派遣されているが、いつの間にか正社員と同等の仕事を任されている。しかも、マネジャーが意図的に活用していると言うよりは、どちらかと言えば、正社員の退職やリストラの中で、やむにやまれずそうなってしまった、という経緯が多いようである。そのため、業務分担の考え方や方法があいまいになり、正社員の一部が派遣社員よりも質・量の劣る仕事をしている、という事態も珍しくはない。同僚の山本さん(キャメル・ヤマモト)の言葉を借りると、まさしく従来の「余る人」の領域に「安い人」が進出し、「余る人」が本格的に余り始めているのである。
現場レベルでは、こうした事態はまったく問題として認識されていない。むしろ「安い経費でハイレベルな仕事をしてくれるのだから、これほどおいしいことはない」と考えていたりするが、経営の視点に立つと、そうとばかりは言っていられない。簡単な事務だけだと思っていた派遣社員が、自社の根幹となるような業務を任されているのである。当然、
「業務のチェック機能は十分働いているのか」
「ノウハウや情報の継承・管理は十分行き届いているのか」
という、リスクマネジメント上の不安や、
「そのレベルの仕事が正社員である必要がないのならば、もっと積極
的に派遣社員へのシフトを進めれば、新たなステージに人材を投入で
きるのではないか」
という、期待が生まれる。
こうした潜在的な「可能性」と「リスク」に気付き、積極的に非正社員の活用とマネジメントに取り組む組織が出てきており、そのパフォーマンスを飛躍的に伸ばしている。
非正社員のマネジメントには「アサインメントのマネジメント」と「パフォーマンスマネジメント」の二つの要素が必要であると考えられ、上述のような取り組みを行っている企業では、そのいずれか、または両方を組織の状況や課題に合わせて使い分けている。
アサインメントのマネジメントとは、正社員と非正社員の能力を最大限活用するために、仕事の役割分担を工夫することである。単に仕事の割り振りに気を使うというだけではない。組織内の仕事の仕方をきちんと整理し、場合によっては非正社員が最もパワーを発揮しやすいように仕組みを整える。ただし、やみくもに仕組みを作り込むのではなく、「非正社員がどこまで対応しうるか?」を見極めながら、その任せる部分を徐々に引き上げられるように留意している。非正社員の潜在能力を最大限引き出そうとするのが特徴的である。
パフォーマンスマネジメントは、簡単に言えば、正社員と同様に採用⇒育成⇒活用⇒評価⇒処遇といったマネジメントフローを非正社員に対してもしっかり行うことにほかならない。
もちろん、契約形態や関係性が違うので、正社員に適用している仕組みや方法をそのまま当てはめるわけにはいかない。採用方法や、評価方法、処遇方法などは、雇用形態に応じて設定している。
特に、派遣社員や業務委託、出向などは、自社の社員ではなく、法人対法人の契約に基づいて派遣されている人材なので、その法人レベルの契約の中に人材マネジメントの要素を盛り込んでいくことも検討する必要がある。
やや主観的だが、こうした非正社員のマネジメントを徹底し、高い業績を上げている会社(組織)に共通している点は、合理的なだけでなく、正しく、あたたかい目線で非正社員に接している点ではないかと思う。時給や対価について、いい加減にごまかしたり、低く抑えたりしようとせず、評価に応じて適切な水準を支払おうと考える。社員と同様、その人のその後のキャリアや育成方法を真剣に考え、コミュニケーションを図り、可能な限り対応していく。
そのようなマネジメントを受けた非正社員は、契約条件や当初の応募動機にかかわらず、正社員と同様に真剣に業務と向き合い、高いパフォーマンスを発揮するようになることが多い。お互いにWin-Winの中で信頼関係が築かれていく(※2)。
一方、こうしたマネジメントが行われず、状況に流されるように非正社員を活用し続けた場合、パフォーマンスが上がらないばかりか、むしろ高いリスクを抱え込むことになる。
最も頻繁に見受けられ、問題となっているのは、雇用の短期化による業務の停滞である。
アサインメントとパフォーマンスのマネジメントを両方ともおろそかにしている企業では、以下のようなマネジメントに陥っていることが多い。
このようなマネジメントにより、「非正社員が辞めてしまい、その仕事を知っている人がいなくなった」「非正社員が短期間で辞めてしまうので、十分な引き継ぎができない」といったことの繰り返しとなる。
また、業務委託や人材派遣など、自社雇用でない人材のマネジメントについては、労働法のみならず、契約や各種規制に関わる違反行為が懸念され、コンプライアンス上のリスクを伴うことを忘れてはならない。
「非正社員を過剰に使うと、業績に響く」というクレームが現場から人事に殺到する場合には、まず、現場のマネジメントスタイルをチェックしたほうがよい。
コンビニエンスストア各社や、ブックオフ、ユニクロといった専門量販店、マクドナルドのような飲食チェーンなどの企業では、非正社員の活用をあらかじめビジネスモデルに組み込んできた。そうした企業では、今回紹介したものも含めて、何らかの「非正社員マネジメント」を徹底して行っており、それが驚異的な利益率に貢献している。また、最近では、イオンやダイエーなど流通業や、都市銀行などの世界でもパート、アルバイトに対する成果主義の導入を開始した。
こうした事例は、Googleで「非正社員 成果主義」といった語句で検索すれば枚挙に暇がないと思う。ただ、通常の正社員に対する人材マネジメントですら、成果主義を肯定する人もいれば否定する人もいる。誤った理解に陥らないように、非正社員についても、「給与の格差をつけることが本質ではない」ことに留意してほしい。本質は、現場マネジャーの一人ひとりが、正社員のみをマネジメントの範囲と限定せず、非正社員や取引先まで含めて、「事業のパートナー」と認識し、大切に関係を築き上げようとするメンタリティにある。
本稿では、具体的な手法の詳細については例示に留め、まずは、非正社員を本気でマネジメントすることの意義や可能性について述べてきた。なにがしかの興味を抱いていただけたならば幸いである。最後に、具体的にアクションを起こそうという方に向けて、非正社員マネジメントの事始めとなる作業を紹介して本稿を終えたい。
非正社員の仕事・評価・報酬の実態に関わる調査
一時的な雇用であれば、雇用終了時、長期にわたる雇用であれば、着任後定期的に、非正社員の実態調査を行う。形態としてはアンケート調査でよい。項目として、「これまでに担当した業務の内容」「管理者とのコミュニケーションの状況」「就業条件・環境の実態」で、記述・選択はどちらでもよい。対象が派遣社員であれば、人材派遣会社を通じて依頼するという手もある。また、別紙匿名形式で、就業環境や業務内容、雇用条件に対する「不満足度調査」を行う場合もある。この調査のポイントは「満足度」ではなく「不満足度」調査で、単なる状況確認ではなく、今後の改善点を抽出することに重きを置いた設問を設定するところにある。
現場管理者の教育
この取り組みを突き詰めていけば、通常の人事と同様、採用や評価・報酬の仕組みやプロセスを設計することになるし、人材育成や登用の仕組みを作り込んでいくことも考えられる。同じ「人材マネジメント」である以上、上を目指せばいくらでも打ち手が考えられるし、それだけの成果も期待できる。
しかし、そうした「作り物」をいくら揃えたところで、現場管理者の理解を得て、意識を高めていかなければ、実効性は低い。逆に言えば、ある程度仕組みが整っていなくとも、現場管理者の意識が変わるだけで、非正社員のパフォーマンスは劇的に改善するはずである。現に、会社の仕組み(契約・報酬)が伴っていなくとも、現場の部長・課長レベルの問題意識でマネジメントを改善し、「人間対人間」のレベルで状況を改善している例も多数存在しているのである。
初期の教育項目としては、何よりもまず、「非正社員を企業としてどのように位置づけ、どのように処遇していきたいか」という価値観の転換と共有が挙げられる。その上で、実務面で求められる知識・スキルとして、@コミュニケーション手法(通常の部下のマネジメントに求められるレベル)と、A非正社員の雇用や処遇に関わる契約・法律面の知識が必要であろう。こうした知識・スキルを提供することは、マネジメントに関わる問題意識の高い管理者には歓迎されるはずだ。
教育については、自社で企画・運営することもできるし、Aの雇用や処遇に関わる契約や法律の知識については、人材サービス(派遣・紹介)会社や求人誌の営業が企画・提供してくれることもあるので、ぜひ問い合わせてみてほしい。
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(※1)具体的な手法については、本誌においても過去に様々なコンサルタントが言及しているため、詳細
は割愛する。ここでイメージしている人材マネジメントは、コンピテンシーアセスメントや、成果プレゼ
ン、中間管理指標などのプロセス評価手法や、360度評価、オピニオンサーベイなどの多面評価手
法を用いて、「だれが、なにを、どこまで、どのように行ったのか」を棚卸ししていくプロセスを指してい
る。
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(※2)われわれコンサルタントも、こうした企業と仕事をさせていただくと、必要以上に力を入れてしまうこと
が多い。フィードバックがうまいのだ。良いアウトプットを出すと素直に、かつ、とても伝わりやすい形で
感心してくれる。一方で、悪いアウトプットに対しては厳しく、妥協のない指摘をいただく。報酬水準も適
切なレベルでいただける。まさしく動機付け・評価・処遇のマネジメントサイクルを、われわれに対して
も確実に適用してくれているのである。
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