
|
【巻頭言】 |
. |
変革「浸透」の鍵
|
||||||
![]() |
曽根岡 由美子 |
いかに変革の絵を描いたところで、組織内に実際の動きを作り出すことができなければ何の価値も生まれない。変革を起こそうとする経営者の方々は、組織内に変革を「浸透」させ、実際に変化を巻き起こすプロセス(実態変革のプロセス)に頭を悩まされ、自問自答を繰り返されることが多いのではなかろうか。
実態変革といっても、全社一律に変化を起こすのは難しい。組織のどの層や個人を、どのような順番で、どのように巻き込んでいくのかを見極めなくてはならない。変革の牽引力となるリーダーと、推進力となる層は組織のどこに存在するのか、中でもレバレッジの利くポイントはどこなのか、逆に変革の阻害要因(ボトルネック)となる層はどこにあるのか……。企業によりその構成は異なるため、変革を仕掛ける主体は、常にどこ(誰)にどのように働きかけ、どのように巻き込んでいくかを自問自答し続ける必要がある。
特に、初期の段階から正しく見極めをつけることは非常に困難であり、仕掛け方次第で、推進力になることもあれば阻害要因に転じてしまうことさえある。変革の成否はこの巻き込み方に大きく左右されるといっても言い過ぎではない。変革のスピードを著しく阻害するほど慎重になるのも考えものであるが、拙速はよくない。とことん自問自答して、正しいタイミングで正しいアプローチをもって、巻き込んでいくことが肝要である。
組織のどこを押さえればよいのかについては、残念ながら全ての企業に共通する解は存在しない。組織は生き物であるから、その生態によって押さえるべきポイントが異なってくる。本稿では、実態変革の原理原則と考えられる基本的な枠組みを整理し、各企業の環境によって、どのような視点で考えればよいかを提示していきたい。
@基本的なアプローチ
一般に、変化を起こすには組織内の影響力の大きい層から働きかけることが効果的と考えられる。当然のことながら、組織に変革を浸透させるには「上からの変革」が大原則である。特に、経営トップのコミットメントがないままに大規模な変革を仕掛けることは、ほとんど不可能である。ボトムアップ型の変革においては、経営層をいかに巻き込むかが最大の課題となる。
また、執行役員や事業責任者が主体となることも必須である。この層に経営的な視点が希薄で、部分最適に終始している場合は、変革をともに推進することによって彼らの気づきや意識改革に働き掛け、当事者意識を醸成することが必要である。このようなプロセスを踏んでも、変革についていくことができず阻害要因となるような場合は、変革推進力となるような人物との交替もあり得る。それくらい、重要な層である。
同時に、意外なところに影響力を持つ層が存在することがある。組織図に載っている層や部門であることもあるが、組織図に載らないインフォーマルなグループや個人であることも多い。例えば、社内で誰もが認める優秀な若手のグループや個人であることもあれば、自然発生的に生じたネットワークや、「ハマちゃん流」のハマちゃんであることもある。これらは、組織の風土や歴史的な背景の中で生じてきたものであり、これからの組織の牽引力となる可能性も秘めているため、上手に巻き込むことを忘れてはならない。
一方、阻害要因になりやすく、負の影響力が大きい層や職種にも注意を要する。変革により大きな変化が生じる層や職種である。それも、従来の環境に適合していればいるほど、抵抗の度合いが強くなる。中でも、従来の事業の中心を占めて競争力を担ってきた層や職種においては、組織の慣性が強く働き保守的になりやすい。発言の影響力も大きいことから、新しい動きに対して大きな抵抗勢力となる危険性がある。
以上より、「『上からの変革』を進めつつ、組織内の影響力の強い層や個人を巻き込む一方で、阻害要因を可能な限りコントロールしていく……」というのが、基本的アプローチと考えられる。となると、この「巻き込むべき層」と「コントロールすべき層」を見極めることが重要になる。以下は、これらの層や個人がどこに存在するのかを考える際の足がかりとすべく、筆者の経験に基づく見解を交えながら、組織を縦横の軸で整理したものである。
A横の軸:組織のレイヤーで考える
純粋プロ型組織のような一部の例外を除いて、ほとんどの日本企業は依然としてピラミッド型の組織図に基づいて運営されている。したがって、まず「組織のレイヤー」という切り口で考えてみよう。
[経営層および事業責任者(執行役員)]
この層のコミットメントが必須であることは冒頭に述べたとおりである。したがって、ここでの説明は割愛する。
[中間管理職]
阻害要因となる危険性が最も高いのが、この層である。従来の価値観や仕事のやり方の中で長い時間を過ごし、ようやく安定的なポストについたという人が多い。かといって、外部環境の変化に関する感度は、事業責任者や現場に比すると高くない。概して、社内価値が市場価値よりも高くなっており、現状の居心地が極めて良い層である。したがって、必ずというわけではないが、この層が保守的になることが多い。
この層の影響力が大きい場合は、執行役員や事業責任者と同様に、本人の意識/行動改革に働き掛け、やむを得ない場合は交替もあり得る。しかし、影響力や抵抗の度合いがさほど気にならないのであれば、大きなエネルギーを投じるまでもない。組織の状況に応じて、適宜見極める必要がある。
[現場リーダー]
この層は、個人としての影響力は大きくないが、現場のメンバー層に直接関わるため、全体としてのインパクトは大きい。この層が抵抗要因となるのは、情報が正しく伝わらず、理解されていない場合が多い。部分的にしか情報が入ってこなかったり、間違った解釈が途中で介在することによる抵抗である。したがって、誤解が生じないように、変革のアナウンスや社員説明には細心の注意を払い、情報の伝達経路やコミュニケーションのあり方を慎重に検討する必要がある。
[次世代リーダー層]
組織図には載らないが、重要な牽引力となるのが次世代リーダー層である。先に述べた、「社内で誰もが認める優秀な若手」グループである。
日本企業の歴史的背景や慣習から、これらの若い層が実際に抜擢されて、責任あるポジションを任されている例はまだまだ少ない。実際には、組織のレイヤーで言えば現場リーダー層に含まれることが多く、顧客や現場に近い位置で日々悩みながら戦っている。また、比較的若手であることから、考え方の柔軟性や実行力を伴う人が多い。したがって、彼らこそ変革の絵と現場をつなぐ重要な役割を果たすことができる可能性を秘めている。この層を、フォーマル/インフォーマルを問わず、上手に巻き込んでいきたい。
[組合]
忘れてはいけないのが組合である。組合の背景や生い立ちによって、その性格や位置付けは大きく異なるが、概して変化に対する抵抗が強く、阻害要因となる場合が多い。特に、背後に親会社の組合や上位組織を背負っている場合は、関係が複雑で思わぬ側面から変革が進まなくなることもある。
いずれにしても、組合がある場合は、その巻き込み方にも神経を配る必要がある。旧来の位置付けから脱し、新たな発展に向けて会社と歩調を合わせていくような組合であれば、変革の方向性策定など、早期から全てを開示して巻き込むことが望ましい。しかし、複雑な背景を背負っていたり、旧来型の位置付けから脱することができない組合であれば、極めて慎重に段階的なコミュニケーションを行っていくことが必要である。
B縦の軸:部門や職種で考える
[今後の事業の中核として、新たに注目される部門/職種]
新たに立ち上がった部門が、今後の事業の中核として期待される場合は、まさに変革の中心として注目され、部門の士気も高まっていることが多い。資金や人材といったリソースも十分に投入され、変革に向けて追い風を受けている状況である。したがって、特に意図的な仕掛けをする必要はなく、当該部門を全社としてサポートし、後押しすれば十分である。
しかし、既存の事業のあり方を大きく転換して、今後の事業の中核となるべく強化する場合は、事情が異なってくる。従来の方法や価値観を大きく転換しなくてはならないので、様々な軋轢が生じる。変革に向けて前向きに取り組める人もいれば、中には強い抵抗感を抱く人もいるはずである。したがって、部門長や事業責任者に強いコミットメントを求めると同時に、組織の上から下まで、トータルに変革に向けての意識・行動改革を働き掛けることが必要となる。この場合、当該部門が変わることができるか否かによって、変革の成否が決まり、またそのスピードが変革そのもののスピードを左右することになる。
[従来の競争力の源泉であった部門/職種]
従来の中核部門や職種が、今後も引き続き中心をなしていくのであれば、これもまた変革のターゲットとして新たな事業のあり方に向けて邁進することが求められる。ここで留意すべきは、従来の事業のあり方や仕事の仕方に対する執着の強いグループや個人である。部門全体として、変革を推進する体制にあっても、これらの人々がブレーキとなることがある。特に、生産部門における「職人」と呼ばれる人々は、従来事業の競争力の源泉を担っていることが多く、代替性が低いことからも極めて重要である。彼らは、自らの技術や仕事のあり方に信念や誇りを持っており、一般的に変化に対して適応しにくい傾向がある。したがって、彼らのモチベーションを維持しつつ、その価値を最大限に引き出す環境を用意することに智恵を絞る必要がある。
一方、従来の中核部門が縮小される場合は、組織全体の士気が低迷し、阻害要因になる危険性がある。この場合は、新たな方向性において、彼らの役割や位置付けを明確にし、認知していくことが求められる。
ある製薬会社は、歴史的には製造会社であったが、開発および営業部門が急激に成長・拡大し、ついには生産の大部分を他社OEMに外注することになった。経営層は、一部のパッケージ製造に特化することになった工場に対して、「パッケージ製造の重要性」を示し、「不良率の低下」などの成果を評価し、報奨金を付与したり全社にアナウンスすることによって、従業員のモチベーションを維持している。
[管理部門/バックオフィス]
最後に、管理部門を忘れてはいけない。彼らは社内顧客に対するサービスが中心であるため、社外顧客や事業環境の変化に対する感度が概して高くはない。したがって、変革の大きな阻害要因にはならないが、機動的な推進力になるわけでもない。しかし本来、リーダー層の意思決定や企画機能を下支えし、仕組みを構築・維持することで企業の競争力を背面からサポートする役割を担っているため、意識的に変革に巻き込んでいくことが必要である。
特に、システム構築は変革の一要素として非常に重要である。システム担当者を変革の早期から議論に巻き込み、組織内に変革の動きを作りつつ、同時並行的にシステム構築を進めたことによって、スピードある変革がなされている例は多い。
Cその他
A Bでは、組織を縦横の軸で考えてきた。しかし、組織図に載らないインフォーマルなグループや個人の巻き込みは、場合によってフォーマルな巻き込み以上に功を奏することがある。また、従来の組織図に載っていなくても、新たなプロジェクトとして立ち上げることも多い。これらのあり方は、企業によって千差万別であるが、ここでは代表的なものを例示する。
[組織横断チーム]
変革を推進するには、全社視点に基づく組織横断的な取り組みが不可欠である。そこで、新たに変革推進をミッションとして組織横断チームを立ち上げることが多い。メンバーは、各部門のリーダー層であることもあるが、若手を抜擢するケースも多い。先に、「次世代リーダー層」に組織横断テーマの解決を役割として明確に求め、経営層に提言させるのも有効である。
[インフォーマルネットワーク]
優秀な人材は、社内を見回して個人的なネットワークを構築していることが多い。特に、中堅から若手が中心となっていることが多く、お互いに「優秀」と見なし、「仲間」と認め合った人たちのグループである。メンバーは優秀な人材が相互に厳しい目で評価して認め合っただけに、社内の他の人々にも信頼されており、強い影響力を持つ。そこで、これらの人々を巻き込むことによって、組織のいたる所に変革の因子を埋め込むことができるのである。このことは、ネットワークが存在しなくても、社内で強い影響力を持つ個人であれば同様である。
D実際のケース
さて、上記のような枠組みで整理すると、筆者が関わらせていただいた顧客企業にもいくつかのパターンがあることに改めて気付く。ここで簡単にそのパターンをご紹介したい。
正攻法@:「上からの改革+加速の仕掛け」タイプ
経営層の変革に対する意識が強く、変革に向けて無理なく健全な議論や活動ができる環境にある場合は、上からの変革を粛々と進めるとともに、それを加速するための仕掛けを現場に近い層に埋め込むことが多い。多くの企業がこのタイプに該当する。
いくつかの会社で実践しているのは、「次世代リーダー層」による加速である。「ジュニアボード」という位置付けでプロジェクトチームを組み、経営の視点から実態変革における様々なテーマを考え、経営層に提言するという役割を与えている。これは、変革推進に向けての若手の巻き込みという意味合いだけでなく、将来のリーダー候補の育成という目的も同時に包含しており、その意味でも実態変革を加速するものと考えられる。
また、別の企業では、ある執行役員が「優秀と思われる若手」を仕事の場を離れて時間外に集め、徹底的に事業や変革に関して討議しているケースもある。いわゆるインフォーマルネットワークの一形態であるが、現場に変革の芽を埋め込むには極めて効果的な方法である。
正攻法A:「上からの変革+競争力の源泉重視」タイプ
製薬会社の研究・開発部門や、レーベルのクリエーターなど、競争力の源泉が非常に明らかで、戦略的にもその強化が課題となっている場合は、特にこの職種に気を使う。全社的には、上からの変革を仕掛けるに変わりはないが、この職種に関しては、上から下の層に至るまで、変革の議論に早期から参加させることが多い。この職種の事情を変革に反映し、当事者意識を醸成するとともに、戦力である人材の流出を防止することが目的である。
非正攻法:「しがらみ対応」タイプ
正攻法がそのまま適用できないケースである。外資系や合弁会社、大企業による株主連合といった親会社のしがらみが大きい場合や、背後に上位組織を背負った組合がある場合は、これらの調整が組織内の変革浸透に優先することになる。実際に、これらの親会社や組合は非常に強い影響力を持っており、人事権に介入したり、トップを交代させるような強制力を発揮することもある。したがって、変革そのものが不可能にならないように、慎重に根回しを行うことが極めて重要である。
こういったケースでは、組織内の動きも当然のことながら正攻法どおりにはいかず、親会社や組合の合意形成の状況をにらみながら、調整を図ることになる。いずれの企業においても、社員から変革の全体像が見えなくなったり、混乱を生じないように神経を削っている。
最後に、どの層にも共通する「巻き込み方の原則」をご紹介したい。このアプローチのベースにあるのは、とことん議論を重ねることである。
理解を促す
何かに取り組むことを求められる際に、根拠が示されないと受け手はストレスを感じ、本気で取り組めなくなる。したがって、対象の如何にかかわらず、検討のプロセスをすべて開示して、「なぜ変革が必要か」についての背景や目的を含めて説明し、危機感を共有する必要がある。場合によっては、開示された内容について納得がいくまで議論することが望ましい。
役割を明らかにする
正しく理解された段階で、各組織・各人の変革における役割を明らかにする。特に、各層の事業面の役割(例:新たなビジネスモデルのタネ作り……など)と人材面の役割(例:チャレンジし続ける意識・行動を有し、周囲をリードする。新たなビジネスにおけるプロへと進化する……など)の双方を具体的に示す。同時に、役割を果たす上で求められる行動要件なども併せて提示すると、自分がどのように変わることを求められているかをイメージしやすくなる。
目線を合わせる
実際に変革を推進する際には、様々な場面で迷いや衝突が生じる。その際、同じ土俵で議論ができるための共通言語と、最終的な決断の根拠となる判断軸を共有化しておくことが不可欠である。「そもそも何を実現するための変革であるのか、そのためには何を優先すべきか……」といった議論ができる環境を整えておく。
実行を迫る
ここまで来れば、あとは実行を求めるだけである。可能であれば、実行を後押しするようなツールを併せて提供し、新たな組織運営のあり方をサポートしていきたい。
実行や検証の段階で、従来以上に強く求めていかなくてはならないのは、「やり切る」ことや「チャレンジ」である。変革は、従来のあり方を変えていくものであるから、当然のことながら様々な困難が伴う。その際、各主体には常に困難にチャレンジし、変革実現のためにやらなくてはならないことをやり切る姿勢を求めていきたい。
以上、変革浸透のための基本的アプローチを紹介し、どこを押さえればよいかを考えるための整理を行ってきた。読者の方々が実際に実態変革をデザインする際に、本稿が参考になれば幸いである。筆者もまた、変革のコンセプト策定の段階から、顧客企業における実態変革をイメージして、必要な巻き込み体制をサポートしていきたいと思っている。
| トップへ戻る ▲ |