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【巻頭言】 |
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役員報酬改革に「日本」解はあるか
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森田 純夫 |
これまでは日本では焦点が当たることが少なかった役員報酬に、徐々に、関心が集まりつつある。経営者本人はもちろんのこと、投資家、社員、マスコミ、そして一般の社会そのものが、水面下で変わりつつある世界の存在に気づこうとしている。
役員報酬の究極的な論点は、その報酬が会社の業績に結びつくかどうか、という一点に絞られる。他のビジネス上の問題と同様、人のココロも絡む問題であり、一概に結論付けることは難しいが、本稿ではその論点を抑えることを試みる。
役員報酬の目的には二つある。人材の確保と、役員のパフォーマンスの最大化である。優秀な人材を集め、そして彼らの成果を最大化することが、すなわち会社の業績向上につながる、という基本的な考え方である。
役員への就任から、役員の退任に至るまでのプロセスは、人材確保という観点では、引き寄せ/引き止め/引き離す、というフェーズに分けられる。それぞれのフェーズで鍵となる役員報酬上のポイントは異なる。採用時は、仮に社内からの登用であれば、社内一般社員の報酬水準と役員報酬水準との開きが、役員としての重責に十分か、ということがポイントになる。一方、社外からの調達がある場合は、世間一般の水準に比較して競争力のある水準なのかどうか、ということが採用の成否を分ける。
次に、その役員を引き止めたいときは、報酬水準の引き上げでもいいが、報酬の支払いをいかに後のタイミングに引き伸ばすか、ということが重要である。将来に対する期待値が高いほど、会社に留まる確率は上昇する。日本の大企業でしばしば見られる、固定的な(=あまり業績にはリンクしない)役員退職慰労金はその典型である。長い間勤めれば、最後にたくさんのお金がもらえる、だから、この会社に留まろう、そういった動機付けを与えるのである。他方、その役員を引き離したいときは、「つかみ金」的に、お金を支払ってしまう、という手段が考えられる。いわゆる「早期退職金」である。こちらは、後払いではなく、「先払い」がキーになる。
このように、人材確保という目的の上では、報酬の水準と、いつの時点で支払うのか、という2点が重要である。ところが、今の日本においては、人材確保という目的を役員報酬という一つのツールで実現するという意識は一般に薄い。なぜなら、人材の流動性がまだまだ低く(特に純日系企業)、報酬水準・支払い時点そのものよりは、長期雇用に基づいて培われた会社に対する愛着などのほうが大きな影響を持っていたりするからである。言い換えれば、ある程度の報酬で、業界比著しく低い水準であるようなことがなければ、他社に転ずることを考えない人が実際には多いだろうという仮説が立てられる。
もしこの仮説が正しいとするならば、日本の役員報酬における重要な論点は役員のパフォーマンスの最大化、すなわち、インセンティブ機能に集約される。役員であるので、業績に連動した報酬体系とすることは論を待たないが(実際にはそうなっていない会社が多いが)、どの程度まで業績連動性を高めるかということが最初のポイントになる。
私どもは、通常リスク・リターンの概念を元に考えを整理することが多い。つまり、事業の特性および今後の事業計画においてどれだけの経営上のリスクを取るのか、ということを念頭に置き、さらに期待リターン(利益、キャッシュフロー、株価等)を考慮に入れて設計するのである。例えば、公共財を提供する企業であれば、おそらくは事業としての安定性は高く、もしその方向性を変えないということならば、経営判断においてリスクはあまり取らないのであろう。他方で、再生案件のように、事業としての相当のてこ入れを行わなければならないという場合は、リスクを取らなければならない。前者については、比較的固定的な報酬体系、後者については、業績が上がったときに大きく還元する報酬体系となる。
もう一つ、考慮に入れる必要があるのが時間軸である。いつ成果が発現するのか、あるいは、いつの時点で成果を検証するのか、ということである。短期に業績を上げることを求めるのであれば、キャッシュ中心、長期であれば、キャッシュに加えて株式処遇を使うことも方法として考えられる。
リスク・リターンおよび時間軸という二つのファクターを考慮に入れた場合、考えられる報酬を類型化すると図1のようになる。
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図1 |
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ローリスク・ローリターンの場合、固定的な報酬が中心となる。業績達成までに必要となる期間が短期であれば、基本年俸、長期であれば、キャッシュの長期報酬、典型的には、勤続に応じて一定額が累積されるタイプの役員退職慰労金である。一方、ハイリターンを求めてリスクを取ることを許容する度合いが高い場合は、業績等に応じた報酬となる。時間軸が短ければキャッシュボーナス、長ければ、キャッシュの長期インセンティブに加え、株式処遇が考えられる。長期かつハイリスク・ハイリターンというケースでは、その分将来のリターンの予測が困難であり、つまり当初の時点での報酬水準の設定が著しく難しいということになる。したがって、株を媒介し、業績達成後の市場の評価を仰ぐという形に構成するのである。
当然に、図は単純化したモデルであり、実際の報酬体系構築においては、役員個人の受け止め方も予想するなど、様々な要因を考慮の上、複数の報酬を組み合わせることになる。その意味で、役員報酬の設計プロセスは事業ポートフォリオ構築のそれに近い面があると言えよう。特に注意が必要なのは、ハイリスク・ハイリターンに過度に傾斜すると、それが経営者の心を惑わせる可能性があるということである。大量のストックオプションを付与した結果、様々な粉飾までも行ったエンロンや、現在伸び悩んでいる米国のIT企業は、その失敗の典型例である。
これまでは、役員報酬を考える上で、人材確保の相対的な重要性は日本では低いという前提に立って論じてきた。今後も同じように考えてよいのだろうか。図2を見ていただきたい。
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図2 |
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今の日本の企業群は、第一段階および第二段階に分類されるものと考えられる。この場合役員の多くは日本人であり、海外ではなく日本の人材マーケットが問題になる。日本でも、再生案件の増加等の要因により、依然低いとはいえ役員層の人材流動性は高まりつつあり、その意味で、人材の引き寄せ/引き止め/引き離しという機能を役員報酬に求める時代が来ることが予想される。仮に外国人が少数いたとしても、その外国人は出身国の慣習や水準等にしたがって処遇されるべきである。
第三段階になり、役員が多国籍になるということが一般的になった場合、そのときに考えるべきは最早日本の人材マーケットに留まらず、全世界ということになる。その時点で例えば米国の報酬水準が最も高ければ、その水準に引っ張られる形で、報酬水準は、急激に上昇するのかもしれない。
ここで注意すべきは、第二段階と第三段階の見極めである。事業そのものがグローバルだとしても、人材がグローバルとは限らない。本当に、人材をグローバルで奪い合っていて、かつ、その人材が世界中を動き回る、という状況になって初めて、「グローバル役員報酬」という考え方が生まれるのである。
二つの段階の違いは、報酬に決定的な違いを生む。最近の報道でも、グローバル戦略とともに役員報酬を見直したという例が見られるが、この見極めは、かなり、慎重に進めるべきであると考える。いたずらに「役員報酬のグローバル化(=今時点では米国化)」に伴い水準の上昇を行うことは、役員報酬に伴うコスト負担の増加および役員という地位への固執につながる危険がある。ドイツの役員報酬は、近年急速に上昇していると言われ、開示されている一部企業の報酬水準を見ると、米国ほどの高騰は見られないにしろ、10億円を超える水準の報酬を受け取っている役員も現れ(※1)、論議の的となっている。また、イギリス、フランスの役員報酬も、大企業であればすでに数億円レベルに達している。ヨーロッパの役員は、確かに、人材の流動性が日本に比べれば高く、国境を越えてのヘッドハンティングもしばしば見られるため、米国につられる形での水準上昇が避けられない側面はあると考えられる。特に言語を共有するイギリスを中心として、米国とのつながりも密接である。
では、日本はどうか。私自身は、経営チームとしての安定感と団結力を重視する日本的な経営機構が、現場が力を発揮できる土壌を作り上げてきたと考えている。その土壌こそが日本企業としての競争力なのだとすれば、海外との「人材流通」が始まる前の段階で、役員報酬を安直に米国型にシフトすることは、結果的に競争力を高めない形で経営機構の変質を促し、コスト競争力を失うという結果のみが残るのではないか、という危惧を抱いている。いったん歯車が動き出すとその動きを止めることは困難であり、今後の日本の経営陣に対してどのような役割を期待するのか、ということを慎重に見極めた上での役員報酬に関わる判断が求められているのではないだろうか。
役員報酬においては、結果として構築された報酬体系を論ずる以前に、実は、その決定プロセスが極めて重要である。いかに、透明性が高く、公正な仕組みを構築することができるか、という問いを常に念頭におかなくてはならない。うち、特に重要なチェックポイントを以下に簡潔にまとめてみよう。
1. 報酬の最終決定権者は役員本人となっていないか
監査役型の経営機構を導入している場合、役員報酬の上限枠は株主総会で決定されるが、その範囲内での報酬決定権は通常取締役会にゆだねられている。その結果、多くの企業では、結局社長が鉛筆をなめて、自分も含めてすべての役員の報酬を決定している。これは、最も避けなければならない。まず、事業上の判断を正しく下せる人であっても、報酬の決定においても正しい判断を下せるとは限らない。ましてや、それが自分自身の報酬に関わるのであればなおさらである。非公式であっても、委員会等設置会社の報酬委員会に類するような機関なり機能を設けて決定する、といった次善策が求められる。もちろん、対象役員本人がきちんと判断できるケースもあるかもしれないが、投資家に対する説明責任を果たすことは依然困難である。
2. 報酬委員会・社外取締役は実質的に機能しているか
仮に委員会等設置会社で報酬委員会を持っているとしても、それが本当に機能している企業は実はまだ多くない。よくあるのは、社外取締役の委員がいても、執行役を兼ねた社内取締役が委員となり、実際には、その社内取締役の意向がそのまま反映されている、というケースである。これでは、報酬委員会の機能を生かしきっていない。不法行為をチェックしたりする、というくらいの機能しか残らない、お飾りに近い組織である。社外取締役が、真に独立性を持って、公正中立な判断を下すためには、社外取締役の報酬水準およびその体系も重要である。社外取締役が高額報酬を受け取っているというのは論外である。これではもはや社内外役員全員が「グル」である。「日本では社外取締役人材が限られているからしょうがない」という意見をよく耳にするが、「不足現象」は全世界共通で見られる。社外取締役専門人材であるという必要はなく、経営的な観点を持ち、役員のパフォーマンスを評価し、客観的な視点で報酬額を決定する、という目的を考えれば、経営を経験あるいは理解しているということが選考の際優先されるべき条件ではないか。日本であっても経営者として活躍した経験を持っている人はたくさんいるのだから、一概に不足しているとは言えないと考えるべきではないだろうか。
3. 評価をきちんと行えるか
一般社員でも同じだが、きちんと評価が行われない限り、立派な役員報酬の器も色あせてしまう。どのような点を評価するのか、ということを事前に評価権者(例:報酬委員会)と本人との間で合意しておき、評価は公正なプロセスに基づいて慎重に行われることが必要である。経営環境は常に変動するものであり、評価権者は常に微妙な判断を求められることになるだろう。算式に頼って杓子定規的な判断を下してはならない。また、その裏返しで、詳細にまであらかじめ報酬の決定ロジックを定め、何の評価も行う必要のないような報酬制度にも問題があるといえる。
4. 投資家や社員の視点を忘れていないか
投資家にとっては、役員報酬は費用対効果が問題になる。報酬の金額設定においては、最終的には、投資家の視点を基に慎重な決定を行わなければならない。希薄化の問題を生じる可能性がある、株式を使った処遇(ストックオプションなど)においてはより注意が必要なのは言うまでもない。
5. 積極的に開示しているか
社会的な責任までも求められる、企業の役員としては、その高額な報酬の根拠を投資家や社員、一般社会(潜在的投資家を含め)に対して明らかにすることが望ましい。ただし、プライバシーの問題により、個人ごとの開示において論争があるのは読者の皆さんもご存知の通りである。重要なのは、当該企業の役員報酬が、どのような考え方で、どのようなパフォーマンスに対して支払われているのか、という構図を投資家等が理解することができるかどうか、ということである。透明性の高さを実現すれば、投資対象としての魅力が高まり、結果として株価の上昇につながるという可能性も考えられる。
6. コンサルタントは公正中立な立場を保っているか
役員報酬においては、専門的な知識が必要となることもあり、私どものようなコンサルタントを必要とされる企業も多い。しかし、このコンサルタントについても、社外取締役と同様、いかに、報酬を受け取る権利を持つ役員と、一定の距離を保てるか、ということが重要である。当然、私どもも常に肝に銘じなければならない点である。理想的には、報酬委員会のような役員からは独立した機関がコンサルタントを使う、という関係が望まれる。もちろん、一切の接触が禁じられるというわけではなく、事業を理解するためのコンサルタントによるインタビューなど、一定のコミュニケーションは当然必要である。
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(※1)ドイツ銀行トップのJosef Ackermann氏の2004年報酬額(株式報酬含む)は約1000万ユーロ
=約13億円
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