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【巻頭言】 |
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アジアでの「日本」的人材育成のあり方
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鈴木 康司 |
現在、アジアの日系企業トップの最大の関心事は人材育成である。
次世代の経営を担うことのできる人材の育成は、各企業の中長期戦略を実現する上での重要課題になっている。
アジアにおける日系企業の進出の歴史は長い。企業によってはすでに30年、40年以上の歴史を持つ企業もある。
しかし、いかに人材を育成していくべきか、という問題は、大半の日系企業が抱える共通の課題である。
実際に、各種トレーニングを実施したり、あるいは、日本国内で研修を実施している企業も多いが、結果としては、
という具合で、人材育成に関する取り組みを実施しても、効果がほとんど見られないケースや、むしろ、逆効果であるケースもある。
トレーニングを行えば人材育成になる、ということはない。
人材育成を図っていくためには、個人レベルで、まず「向上していこうとする動機・モチベーション」が必要になるし、実際に、「必要な知識・スキル」を習得することが必要になる。
また、習得したら、それを実際に自分で実践してみて、自分の武器として身に付けることも必要だ。そして、ステップアップしていくための「場」や「機会」も不可欠になる(場合によっては、ローテーションも必要になるだろう)。
同時に、組織のレベルで言えば、「人材育成」は大事なことだ、という雰囲気・価値観を高めていかなければならない。
このように、人材育成は、トレーニングを単発で行うのではなく、複数の打ち手を同時並行して講じていく必要がある。
アジアの日系企業にいるローカル社員と接していると、ポテンシャルを感じさせる人材にお会いすることがある。彼は、個人レベルにおいて、地頭(じあたま)が良い上に、向上心が強く、新しいものを吸収していくための柔軟性も持っている。
ここで注意が必要なのは、アジアのローカル社員の場合、長期間一つの企業に勤めることに価値を見出すことは少ない、ということである。むしろ、一つの企業に長年勤めることで、人材としての市場競争力が失われてしまうことを危惧する傾向にある。
最近、私が直接聞いた事例である。
ある大手日系企業に勤めていたローカル社員A氏(男性・35歳)は、日本での留学経験・(日本企業での)勤務経験があり、日本語は非常に流暢。
入社後、人事部に配属されたが、その実力が認められ、(その会社では、最短の35歳で)課長(Manager)まで昇格した。
しかし、彼は、最近、転職した。なぜか?
「確かに、いい会社でしたよ。上司(日本人)も良い人たちでした。でも、Managerの次のポストがないんです。今は、すべて日本人駐在員がそのポジションについているので、ローカル社員はManagerが最高のポストになっています。
日本人の上司からは、これからも頑張れば、さらに上のポジションに行ける、とも言われました。
でも、次のポジションに行くのに、何年かかると思いますか?
10年ですよ。10年!!私はもう35歳です。今の会社にいて、そのまま10年過ごしてしまったら、45歳になってしまいます。私としては、このまま10年を過ごすのはとても耐えられない。だから、私は転職しました」
私はこの話を聞いて、とても残念に思った。A氏は日系企業の価値観も十分に理解しており、しかもポテンシャルを感じさせる優秀な人材である。
その彼をつなぎ止めることができなかったことが残念でならない。
そもそも、優秀なローカル社員に対して、次のキャリアを提供できなかったことが何よりも悔やまれる。
将来を期待できるような、優秀な人材であればあるほど、常に、自分がステップアップできる「何か」を、会社に求める。
そして、その会社に勤めていても、その「何か」がない、とわかった途端に、モチベーションが下がることになる。
アジアにおいて、人材育成(と、つなぎ止め)のためには、個人レベルで、「次のキャリア・ステップ」をしっかりと示すことが何よりも不可欠になる。
当然のことながら、10年先のことでは話にならない。2〜3年先の、中期的なスパンで、次のステップを提示することが重要である(若手社員なれば、2年先でも長すぎる。半年先、1年先というタイムスパンで次のテーマを示す必要がある)。
アジアでは、「人材育成が大事だ」という価値観が真に共有されている、とは言い難い状況にある。
もちろん、ローカル社員の方々は、口々には、「人を育てることは重要だ」と言う。しかし、同時に、「うちの会社は、トレーニングがない。これでは、人を育てることはできない。自分もトレーニングを受けたい」と言う人が多いのが実態である。
部下を管理すべき立場にある、ローカル社員の管理職の場合、人材育成は、すべて「人事部」あるいは「会社」の仕事・役割である、という認識が一般的になっており、管理職こそが人材育成を担わなければならないという自覚は、残念ながら低いと言わざるをえない。
したがい、経営者(日本人駐在員)が、「人材育成」の重要性を伝えたところで、ローカルの管理職は「他人事」だと感じているだけのことが多いのが実態であると言える。
アジアの場合、会社に勤める「サラリーマン・ウーマン」であったとしても、まず大事なのは、「家族・個人」である。そして、その次の次……おそらく順序としては、3番目、4番目になってから、「会社」と答えるケースが多い。
日本の場合、自分の両親(さらには祖父)の代から「会社組織」に勤務しているケースもあり、サラリーマン・ウーマンとは何か、という感覚を無意識に体得しているのに比較して、アジアにおいて、会社組織に勤める世代の層は薄い。
結果として、「家族・個人」が大事だ、という価値観が一般的になっているのではないかと考えている。
したがい、アジアでは、逆手を取って、「人材育成」を行うことは、自分(家族)のためにもなるんだ、ということをしっかりと伝える必要がある。
つまり、
「部下が成長すれば、組織全体の力(パワー)が強化されますよね。そして、すべての組織のパワーが大きくなれば、それは会社業績にも直結しますよね。会社業績がよければ、それは、皆さんに還元(賞与等)されるんですよ」
さらには、
「部下が成長すれば、管理職の皆さんの一部の業務(オペレーション的な業務)を、任せることができますよね。そうすれば、皆さんは、もっと高度な業務にチャレンジすることができるようになります。そして、それにチャレンジして、自分自身が成長できたら、昇格のチャンスもありますよ」
ということを、しっかりと伝える必要があるのである。
このように、会社が目指していこうとするものと、個人のメリットとをリンクさせていくことが不可欠になるのである。
上述のように、人材育成を進めていくためには、まずは、アジアの価値観に配慮する必要がある。しかし、日系企業である以上は、日系企業としての強みを同時に活かさなければならない。
日本企業の真の強みは、実は、ロールモデルの存在であると私は考えている。ロールモデルとは、各職場において、周囲の手本・見本になるような先輩社員を指す。
通常、日本の会社であれば、新人は上司から指導を受けると同時に、ロールモデルである先輩社員を見て、「あのようになりたい」という目標が身近にあることが多い。そして、彼らの仕事に対する考え方・価値観あるいは哲学に自然と触れていく過程で、後輩も育っていく部分が多い。
このように、日本の会社には現場に、ロールモデルが多く存在しており、そのことによって、会社が様々な人材育成の取り組みを強化しなくても、ロールモデルによって継続的に人を育てていく、良い連鎖・循環が存在する。
しかし、残念ながら、アジアではそういうロールモデルとなりうる人材がまだ十分に育成されているとは言い難い。
人材育成においては、日本企業の強みの源泉である「現場発のボトムアップ」を生かしていく必要があろう。日本企業(本社)は、欧米系企業に比べて、各現場における人材の層が厚いといえる。いわゆる主任・課長クラスに優秀な人材が多くいて、彼らが企業の中の「ロールモデル(手本)」となっているため、入社間もない若手社員は彼らロールモデルを横で見ながら、自らの能力開発の指針としているのである。
一方で、アジアの現地法人においては、この種の「ロールモデル」はまだ絶対数として足りない部分があり、人材の層の薄さが、人材育成のボトルネックになっているケースが散見される。
このような現場の核となる人材(ロールモデル)の育成は急務であり、そのためには、会社全体としての人材育成の取り組みも重要であるが、同時に、日本人駐在員が熱意と忍耐力を持って、正面からローカル社員に立ち向かい、時間をかけてコミュニケーションをしたり、仕事を一緒に進めていくことで「手本」を示していくことが必要であろう。また、折をみては、自分が考えている仕事の価値観を語ることも重要であろう。
では、視点を変えて、日本はどのようにしてロールモデルを育成してきたのか、ということを考えてみたい。
上記のように、先輩社員からの厳しいながらもやさしさをもって指導していくことがまずは考えられる。そして、同時に、「ローテーションを通じて、様々な経験を積ませる」、「あるときは、修羅場とも言えるような試練の場を与え、やらせてみる」ということが挙げられよう。日本で実施してきたことをそのままアジアで実施する上で、難しさは確かにある。しかし、だからといって、アジアで実施できないわけではない。
日系企業がこれまで培ってきた「よい方法」を再度検証した上で、それをアジアで実施していくために応用・工夫しながらも、アジアで展開していくスタンスが重要ではないかと考える。
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