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【巻頭言】 |
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「日本」磨き型サービス企業は世界で勝てるか
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高橋 克徳 |
先日、中国・北京で日本式スーパーの評判が高まっているという記事が載っていた(産経新聞2005.6.3)。イトーヨーカ堂出資の日中合弁食品スーパー・北京王府井洋華堂も連日、7000人以上の買い物客で賑わうという。その理由は、店員の応対、鮮度管理、店舗の衛生管理などの徹底ぶりにあるという。
まず評価されているのは、店員の礼儀正しさ、接客姿勢。開店前の40日間研修の最初の2日間は、お辞儀と挨拶、笑顔の練習をひたすら繰り返したという。店員の態度だけではない。コンピュータで商品別の販売数や日付を管理する、野菜を一度水に入れてみずみずしさを取り戻してから店内に並べる、試食コーナーをつくる。チラシやイベント・セールの工夫。こうした商品管理や販売手法が、北京の人たちには新鮮に映っているという。また、1時間ごとのトイレ掃除や手すりやカートの消毒などの衛生管理も、日系スーパーの評価を高める一因になっているという。
何か当たり前のようで、それでいて新鮮さを感じる。日本のスーパーが原点に立ち戻り、自分たちがやってきたことを未知の場で再確認、再発見しているように感じる。日本で培ってきた自分たちのビジネスのやり方が、世界で通用するのか。特に、海外進出の遅れている日本のサービス業が、世界の中で勝つことができるのか。こうしたサービス業のチャレンジが、今まさに加速しようとしている。
日本のサービス業の中で、世界で評価されている企業を挙げろといわれると難しい。なぜ、日本には世界に通用するサービス企業が少ないのだろうか。大きく三つの要因が考えられる。
第一に、サービス業が海外展開する必然性、動機が低かったということがある。そもそも、多くのサービス業は小規模な拠点、店舗から始められる。一つひとつの拠点が小規模であるがゆえに、日本という狭い国土の中でも拡大していく余地は高い。同時に、市場の境界も曖昧で、新業態が生まれやすく、他業種からの参入も起こりやすい。つまり、日本の市場の中でも成長の余地、変容の余地が大きかったということがいえる。
第二に、日本のサービス業はコスト競争力が低いと思われてきたことが挙げられる。その要因は大きく二つある。一つは流通構造が複雑かつ多段階であり、これがコスト負担の増大を招いていたことがある。外資系企業が日本に参入しにくかった要因の一つはここにある。さらにもう一つ、日本の人件費の高さである。設備投資、固定費の少ないサービス業において、人件費は大きなコスト要因になる。その人件費の高さが、海外の同種のサービスと比較して価格高を生んでいた。
第三に、海外進出する場合に生じる、現地の人の採用やマネジメントに関する難しさへのためらいがある。サービス業の場合、人材そのものがある意味で商品である。人材が顧客に価値を届ける主体であり、満足度を大きく左右するという意味では、製造業よりもサービス業のほうが人材の重要性は高い。それだけ、彼らを教育していくエネルギーも投資も必要になる。これが海外進出へのためらいを生む、一つの要因になっていたと考えられる。
確かにこうした三つの要因が、日本のサービス業が海外市場へのチャレンジすることを妨げてきたと言えそうだが、どうも最近は事情が変わってきた。
経済全体がサービス化に向かっている中で、高齢者マーケットなど新たなサービスが開発できる領域は多い。しかし、エリアの拡大という点で見るとかなり厳しい状況にある。首都圏や地方中核都市はほぼ抑えてしまい、ある一定以上の収益を見込めるエリアはもう残っていないという企業も多い。少子高齢化で人口が減少し、消費支出全体が縮小していく日本という国だけで、既存の事業を拡大させる余地は明らかに減っていく。
また、デフレ経済の進行はコスト競争力の強化という意図せざる効果を生んでいる。特に流通での価格破壊、そのための仕入れ体制の改革、ビジネス全体の流れの短縮化、ITを活用した業務効率化、派遣・パート社員やアウトソーシングの活用が、サービス業の中でも進んだ。
このように考えてくると、残るは未知の世界の人材に本気に向き合う勇気と覚悟をどう持つかである。
マーケティングの世界では、サービスには四つの特性(4 I)があるという。
第一のIは、intangibility(無形性)である。製品といった形あるものが目の前にあるのではなく、どういったものかは予想できても、実際に提供してもらわないとその価値が実感できないという特性である。
第二のIは、inconsistency(変動性)である。多くの場合、サービスの提供は人の手を介するため、その内容にばらつき、変動が生じるという特性である。個々人の技術の差だけでなく、個々人が持っているコミュニケーションの特性、態度などが、サービスレベル、サービスの満足度に影響を与えるという側面をもっている。
第三のIは、inseparability(不可分性)である。サービスとその提供者を厳密に区分することが難しいということ。サービスの生産と消費が同時に行われ、提供する側とサービスを受ける側が同じ時間、同じ場所に存在しなければ成立しないという特性のことを指している。同時性とも呼ぶ。
第四のIは、inventory(在庫性)である。サービスはその時々で消費されるために、在庫が効かないという意味で使われている。その瞬間、瞬間がサービスの価値であり、そこにどれだけ顧客の満足度を引き出せるかが、勝負になるということである。
この四つの特性から、サービス企業における競争優位性を考える上で重要な二つの軸が見えてくる。
一つは、サービスの無形性と変動性に関連するが、サービスの安定性をいかに高めるかという軸である。サービスは形が見えにくく、人を介するがゆえに、ばらつきが大きくなりやすい。日本企業が海外展開した際に、最もリスク要因として感じるのが、顧客接点にいる人材のサービスレベルのばらつきである。このばらつきを極力なくし、サービスを安定させることが顧客との信頼関係を構築する上で、大前提になる。
もう一つは、サービスの不可分性と在庫性に関連するが、そのサービスを提供するその瞬間に、どれだけ相手との心の対話を創り出せるかという軸である。サービスは提供する側と提供される側の対話があって初めて成立するものである。そこにはサービスを提供する側の顧客に対する「思い」があり、それが対話を通じて、顧客に伝わり、ある種の共鳴を起こすプロセスがある。それが、サービスの満足度を大きく左右する。実は、ここに人と人との関係性に根づく日本独自のサービス観が隠されている。
先述したように、サービスの安定性はある意味で、顧客との信頼関係を構築するための基礎要件であるといえる。特に、グローバルで展開していく上では、ある意味でばらつきのある教育レベルの人材やそもそも責任やホスピタリティといった精神の希薄な人たちであっても一定レベル以上のサービスを提供することが必須条件になる。そういう意味では、いかなる人がサービスの提供者であろうとその人たちに一定レベル以上のサービス提供力を持たせ、安定して供給し続けることができるメカニズムを構築する必要がある。
サービスの安定性という意味では、コンビニやスーパーなどの流通チェーン、ファミリーレストラン、居酒屋、ラーメン屋などの飲食チェーンなどは、すでにかなり高いレベルの安定性を確保する仕組みを持っている。どの店に行っても、基本は同じメニュー、同じ味、同じサービスを受けられるし、店の雰囲気や接客姿勢なども一定レベルの統一感を持っている。単に店員の接客のばらつきをなくすということではなく、システム全体が一つの安定した供給システムとして機能している。
何も、流通や飲食に限らず、娯楽、教育、医療においても一定レベルの水準をクリアし、その上で品質の安定性を図るメカニズムを構築している日本のサービス業はいくらでもある。その典型例が、駅構内で展開している理髪店「QBハウス」である。すでにシンガポールにも進出している。
10分1000円という大胆な価格設定もさることながら、散髪難民が列を成して次々に散髪されていくシステムは異様な光景でもある。髪を切るという基本機能だけに徹し、最後にエアウォッシャーと呼ばれる掃除機で毛を吸い取る。最初は一緒に毛が抜けるのではないかという恐怖感に襲われるが、洗髪することなく、手際よく10分で終了することができる。実はチェアにも仕掛けがあり、センサーが内蔵され、効率的に顧客が回転しているかを本部がチェックできるようになっているという。
散髪そのものは、髪を切る人の技量により、ばらつきが生じやすい。むしろその技量の高さを求める人は、カリスマ美容師にお願いして、他の人ではできない髪型にしてもらえばよい。逆に、ある一定水準のレベルの散髪で満足できる人からすると、時間をかけず、低コストでさっぱりするほうがいい。散髪の技量の安定性というよりも、時間や利便性を含めたサービスの安定性を高めたところに競争優位のポイントがある。
サービスの安定性を高めるために、サービスを提供する人材の教育は必須である。しかし、多くの企業ではその育成のためのトレーニングを顧客へのサービスの一つの流れとしてとらえ、システム全体としてのサービスレベルの向上と安定を図っている。このシステムの安定性を創り出す力は、グローバルに展開する上での最低条件として必要になる。
サービスの安定性を極めるだけでも、ある一定レベルの顧客からの評価を得ることはできる。しかし、それだけでは顧客が真にそのサービスに共鳴し、感動することにはならない。そこには、サービスを提供する瞬間を通じてなされる、顧客との対話の質の高さが求められる。これをどれだけ、組織として高いレベルで提供できるかが大きな分かれ目になる。
日本のサービスの原点は、茶道にあるといわれる。茶の湯は亭主が客を「もてなす舞台」であるといわれる。一期一会、その舞台に集まった人たちの出会いを大事にし、亭主が給仕をし、最高の「もてなし」を行う。このもてなしの基本精神を表す言葉に「和敬清寂」というものがあるという。互いに心を開いて和み合い(和)、敬い合い(敬)、清らかな心で(清)、何事にも動じず落ち着いて(寂)、もてなすという意味であるが、静かな心の対話がそこにあるように感じる。
この「もてなし」の根底には、相手を慮る気持ちがある。顧客がどういう人で、どのようなときに何をしてほしいのか。何が一番喜びにつながるのか。こうしたことを思い巡らせ、最良のものを提供したいという気持ちが、日本のサービスの原点にあるのではないだろうか。
顧客に感動を与える営業マン、ホテルマン、店員など、一流の人材はこうした相手を慮る能力に長けている。そういう一流の人材を一人でも多く育てることが最高の優位性を確立することは言うまでもない。しかしこれには難点がある。それは一流の師匠や顧客がそばにいなければなかなか育たないし、ホスピタリティに関する本人の高い資質も要求される。だとすると、一流とまでいかない人材であったとしても、顧客を慮る気持ちを連鎖させ、組織としてのサービスにいかにして磨き込むかが、勝負どころではないか。
実はセブン-イレブンの強さはここにある。単にPOSデータに基づいて、売れ筋商品、死に筋商品を決めて、商品構成を変えているというものではない。そこには、顧客を慮るプロセスが組み込まれている。顧客の購買行動を推測し、顧客が何を求めているのかを読み込む。天候や気温、湿度の変化が、顧客にどんな心理変化を起こすのかに思いを巡らす。それを仮説・検証を通じて深めていく。そうした顧客を慮るプロセスが、顧客に合わせた商品提案、商品構成の精度を高めていく。
こうした仕組みとまでいかなくとも、日常の顧客接点活動の中に顧客を慮るプロセスを創り込んでいる企業は数多くある。
例えば、ホームセキュリティの導入を検討すると、安心というサービスを売るプロセスが創り込まれていることを実感する。最初に依頼をすると、営業マンが機器を持って尋ねてくる。家の構造や広さに応じて、どのような警備のあり方があるのか。そのときに何を基準に最適な仕組みを選べばよいかを説明してくれる。そこで信頼できそうだと思えば、家の図面を渡す。すると、営業マンはその家の外部や内部から見た防犯上のリスクを洗い出してくれる。家の構造、玄関の鍵や窓自体の防犯性、周囲の環境も含めて、どのような防犯対策が必要かを教えてくれる。その上で、実際にどのような防犯機器をどこに設置するのが最適かを提案してくれる。このあたりで、家主の方は漠然と思っていた防犯という意識から、具体的にどのようなリスクがあり、そのためにどのような対策を打っていくことが必要かを理解していく。
契約が終わると、次は工事に立ち会う。そこでもまた工事責任者の方が、詳しい説明と緊急時にコントローラーをどう操作して、どう対処すればよいかを丁寧に教えてくれる。そこへ、近くの待機所にいる警備員がやってきて緊急時にどのような対処をしてくれるかを説明してくれる。
一流の営業マンが引き出す最高のもてなしとは異なるけれども、一人ひとりの顧客を慮る気持ちの連鎖が安心を売るビジネスの流れとして組み込まれている。
実は、日本の優れたサービス企業の多くは、すでにこうした磨き込まれた仕組みを持っているのではないだろうか。サービスを組織全体のシステムとして安定供給する仕組み、顧客を慮る連鎖のプロセスを創り込んだ仕組み。この二つの仕組みが組み合わさって一つの仕組みになっている企業は、すでにグローバルでその価値を発信するだけの要件を備えている。さらにそこに、一流の「もてなし」の拡大再生産の仕組みが出来上がれば、日本のサービス業が世界を凌駕することもできるのではないだろうか。
まずは、我々が当たり前だと思っていたサービスの中にも、この顧客を慮る連鎖のプロセスをベースとした磨き込まれた仕組みがないか、確認してみてほしい。北京の日本式スーパーの例のように、日常業務の中に実は顧客を慮るプロセスが存在していないか再確認してみてほしい。その上で、自分たちが新たなチャレンジをする必要性を考えてみよう。日本企業のプレゼンスを高めるのは何も製造業だけではない。サービス業だって世界に通用する素晴らしい仕組みを作ったのだということをもっとアピールしよう。一企業一企業が、一人ひとりが、自信をもって自分のやってきたことを世界に解き放つときが来たのではないだろうか。
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