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【巻頭言】 |
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「これからの10年」第一歩の踏み出し方
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江田 郁代 |
「2:6:2の法則」という言葉がある。組織の中の上位2割は上司がいちいち指導しなくても、どんな状況の下でも、自分でゴールを決めて動きだせる。反対に下位2割は誰がどう指導しようともなかなか動こうとしない。真ん中の6割はその中間。そしてこの比率は中身が入れ替わろうと変わらない、というのが「2:6:2の法則」だ。戦後、1980年代末までの日本経済の世界的成功は、最大のボリュームゾーンである中間層6割の力をうまくまとめ上げて活用してこられたからだと言われている。この中間層の人たちは、安定した環境の下、あまりプレッシャーを与えずにおおらかにマネージすれば、チームのなかでお互いをカバーしながら連帯感をはぐくみ、時として一人で出せる以上のがんばりを見せる人たちでもあった。
「失われた10年」を経て、この中間層――均質で団結力が強く、勤勉であることに誇りと喜びを感じていた人たち――の今はどうなっているだろう。「不安」「疲弊」「停滞」、この三つの言葉が今の中間層の状態を表していると言えないだろうか。最大のボリュームゾーンである中間層を「不安」「疲弊」「停滞」からどうやって解放し、将来に向かった一歩を踏み出させるか。私は、この一歩が、日本企業再興の第一歩につながるのではないかと考えている。
ここに興味深い調査結果を紹介しよう。社団法人日本能率協会が2004年末に実施した「成果主義に関する調査」から抜粋したデータである。成果主義導入で(1)効果あり、(2)効果なし、(3)未導入、と回答した企業の従業員に対し、@自分は社内で評価されている、A自分は社内で十分に貢献できている、B今の仕事にやりがいを感じている、という三つの質問を行った。その回答によって、人材タイプを次の三つに区分したものである。
「能力発揮型」:質問@〜Bの三つとも「まったくその通り」か「どちらか
といえばその通り」と回答
「組織埋没型」:質問@〜Bの三つとも、「どちらかといえば違う」か、
「まったく違う」と回答
「中間層」 :上記のどちらの型にも当てはまらない層
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図1 |
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あくまでも従業員の自己評価に基づく区分ではあるが、この調査結果は、「失われた10年」と言われる期間に日本企業が取り組んできた人材マネジメント改革(いわゆる成果主義人事制度改革)が、「能力発揮型」人材の増加に効果があったことを示している(成果主義導入で「効果あり」とした企業は言うまでもなく、「効果なし」とした企業であっても「未導入」の企業より「能力発揮型」人材は多い)。
また、「効果あり」だった企業の人材タイプ比率は、成果主義人事制度の活用如何で「2:6:2の法則」が「3:5.5:1.5」に上方シフトする可能性を示している。ここから読み取れることは、これまでのところ、成果主義人事制度改革には組織の上位層と下位層の社員が反応している(※1)ということだ。つまり、従来の中間層の最上位にいた社員を巻き込んで上位3割の人材が活性化し、一方、従来の下位層の中にも「このままではいけない」と奮起した社員がいたということであろう。
成果主義人事制度改革の効果を検証することが本稿のテーマではないので話をまとめよう。成果主義の第一ステージでは、上位層と下位層の社員に焦点を当て、効果を出すことができた。これからも風評に踊らされることなく(※2)改革を推し進めていく必要がある。ただ、第二ステージにおいて何に焦点を当てるべきかはよく考えなくてはならない。第一ステージでは、破綻が目に見えていた年功序列賃金制度を壊し、成果主義賃金制度を導入することが課題だった。そうしなければ、コスト面でグローバルな競争に太刀打ちできなかったからだ。今や競争はさらに激化し、グローバル市場でトップ数社に入らなければ、生き残りすらできないという業界も見えてきた。第二ステージでは、グローバル市場でリーダーとなるための人材マネジメント上の備えを着々と進めていかなくてはならないのだ。マイナス部分を修正する守りの人材マネジメントから、日本企業の「強み」を徹底して突き抜けさせる攻めの人材マネジメントへの転換だ。ここで着目したいのが、かつて日本企業の強さの原動力と言われていた中間層の存在である。第二ステージでは「中間層の強みをさらに進化させること」に焦点を当てるべきなのだ。
しかし、冒頭に述べた通り、現在、中間層は、「不安」と「疲弊」のなかで「停滞」している。この三つは同根で、自分自身の能力を信じる力が萎えていることが原因ではないかと思う。進化の前に、「どうやったら、自らを信じ、一歩踏み出す力を付けさせることができるか」という再生からスタートしなくてはならないのが中間層の現状なのである(※3)。本人に「自力でやれ」と突き放せる状況ではないだろう。経営トップや人事部では遠すぎる。中間層の身近にいる現場の管理職にしかできないことなのである。ところが、この数年、多くの企業で耳にするのは、「現場の管理職の育成力が落ちてきている」という声である。だいたいこういうことだ。
「いつごろからですか?」
「この10年くらいかな」
「で、その間、何か手を打たれましたか?」
「いや、この10年間、中間管理職の育成力強化はあまりやってこなかった」
「そういえば、うちも……」という読者の方が多いのではないだろうか。日本企業の強さは「中間層」にあったと述べたが、それは、中間層をうまくまとめ上げ、力を発揮させた現場の管理職の存在があったからにほかならない。「失われた10年」は、日本企業において現場管理職への教育が手薄になった10年でもあったのだ。その結果の中間層の「不安」「疲弊」「停滞」であるならば、「これからの10年」の第一歩は、中間層再生を担う現場の管理職の育成力強化から始めなければならない。
私は、日本企業に「育成」というDNAを残すためには今が最後のチャンスではないかと感じている。1980年代の後半までに社会人になった方なら、当時の上司の部下に対する「在りよう」や、きちんと「叱って」もらったとき、自分自身がどんな気持ちになったか、というようなことを実感として記憶しているはずである。管理職にやるべきことを再認識させ、実践のためのノウハウを覚えてもらうのに1年、実践が本格化するのに1年、効果が表れるのに1年。大まかに言うと育成力のある現場管理職を育てるには3年かかる。一方、「育成のDNA」をかろうじて受け継いでいる1980年代までに入社した管理職の多くは、今から3年の間に現場の第一線からはどんどん離れていくだろう(※4)。“「失われた10年」の間、管理職教育が手薄だった”という企業は、この3年のうちに現場の管理職教育に集中的に取り組まなければ、「育成のDNA」を組織に残すチャンスから大きく遠ざかってしまうことを自覚したほうがよい。「育成」とは、単にビジネスのノウハウやスキルを教えることではない。部下を成長させることを自らの当然の責務と感じ、手を差し伸べようとする心の在りようのことだ。これは、自らその恩恵に浴した経験がなければ、次世代に伝えることが難しい。そういう世代が残っているうちに、「組織のDNA」として次世代に残す備えをしておかなくてはならない。今が最後のチャンスという由縁である。
最後に、中間層再生のために現場の管理職が身に付けるべき三つのポイントを挙げ、本稿のまとめとしたい。
第一は、部下の心理の段階に合わせた対応力を磨いていただきたいという点である。図2は部下の心理の段階と上司のとるべき対応をまとめたものである。アミがけした部分が中間層である。上司の対応如何で上にも下にも動く可能性がある人たちだ。心理の段階に合った対応で、部下が自らを信じる力を取り戻し、前に進めるよう手助けをしていく必要がある。
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図2 |
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第二は、説明力を高めていただきたいという点である。説明力とは単にコミュニケーションの巧拙を指しているのではない。以下の三つの力を発揮したうえで、さらに、独りよがりにならず、部下が理解してくれるよう冷静、かつ、熱意をもって説明できなければ、育成における説明力があるとは言えない。
@ 会社や部門の方向性と課題を掴み、担当組織の課題を分析して優
先順位を決断する力
A 部下個々人の能力や心理状況を把握し、成果を挙げるうえでの強
みと弱みを分析する力
B @とAを重ね合わせて、本人の成長意欲、貢献意欲を刺激するよ
うな育成シナリオを作成する力
第三は、質問力を強化していただきたいという点である。質問力とは、部下の思考の深さと幅を拡大するような質問を投げかけ、部下が自力で高次の課題解決を行えるようにする力である。質問力には、「遠心力質問」と「重心質問」が含まれる。詳細は、ワトソン ワイアットレビュー31号(※5)の私の“「深く考える」人材の開発法”を読んでいただきたい。
以上の「現場の管理職が身に付けるべき三つのポイント」は相互に関係し合っている。特に第一のポイントを実行するためには第二(説明力)と第三(質問力)の習得が不可欠だ。どのように習得させていくかは各企業の現在の現場管理職のマネジメントレベルによるだろう。
グローバル市場でリーダーとなるための人材マネジメント上の備えが現場の管理職の教育とは、いかにも迂遠、あまりにもありきたり、と思われるかもしれない。しかし、日本企業の強みの源泉が中間層であるならば、原点に立ち戻り、中間層を再生し、突き抜けた強みとなるまで進化させていくしかない。したがって、「これからの10年」の第一歩は、中間層をまとめ上げ、力を発揮させられる現場管理職の教育からスタートするしかないのである。多くの日本企業にとって、「育成のDNA」を残すタイムリミットは3年を切っているのだから。
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(※1)90年代の成果主義は「やった人にやった分だけ」という成果主義賃金論の磨き込みからスタートし
たのだから、当然の反応だろう。
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(※2)一時、成果主義により組織崩壊が起こるかのような指摘がなされたが、成果主義導入で「効果な
し」であったとしても「組織埋没型」人材が「未導入」の場合よりも増えるわけではない。
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(※3)「失われた10年」における人材マネジメント改革(成果主義人事制度改革の第一ステージ)の焦点
が、主に組織の上位層と下位層に当てられたため、結果として中間層への手当てがなおざりになっ
た企業が多かったのではないだろうか。
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(※4)より正確に言うならば、現場の第一線にいる中間層と日常的に接する立場からは離れるだろう、と
いうことである。
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(※5)31号は弊社のホームページ上で全文掲載しているのでご参照ください。
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