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【巻頭言】 |
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アセットアロケーション戦略の常識再考
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岡田 章昌 |
「キャッシュ・バランス・プランに制度移行し、これに合わせて資産運用方針の変更を検討しているが、予定利率3.5%の平均的なアセットアロケーションとはどのようなものか」
このような質問について、読者の皆さんはどのように思われるであろうか。従来の年金基金運営の常識からは、何の違和感もない質問のように思われるかもしれない。しかし、ここに「常識の罠」が潜んでいる。
上記の「平均的な」には「常識的な」という意味が込められていると解釈でき、アセットアロケーションの選択を「常識的に」行うことが従来の年金基金運営の常識であった。従来の年金基金運営では、年金基金間の年金制度の内容に大きな差異がなく、結果としてアセットアロケーションについても基金間で大きなバラツキが見られなかった。したがって、「常識的な」アセットアロケーションなるものが存在し、意思決定の客観性を担保し、基金内の合意形成を安定的に行う上で重視されるべきものであった。
ところが、キャッシュ・バランス・プランの導入等に見られるような制度の多様化に加え、退職給付会計の導入による母体企業の年金基金運営に対するコミットメントの強化、代行返上の実施の有無等により年金基金のアセットアロケーション選択における個別性が強くなってきている。すなわち、従来の「年金基金業界の常識」が「基金の常識」としてそのまま通用する時代は終わったといえる。よく「我が社の常識は世間の非常識」と揶揄されることがあるが、年金基金運営においては「世間の常識が基金の非常識」になりかねないのである。
しかし、一方で「常識の効能」についても忘れてはならない。年金基金運営においては、受給者・現役加入者・母体企業等基金関係者の利害が複雑に絡み合う中で、意思決定の客観性を担保しながら一定の合意形成が求められる。特に、受託者としてのプロセス責任上、利害関係者への説明責任が高まる中では、世の中における淘汰を経てなお生き残り続けている判断基準としての「常識」は、その重要性を増大させているともとらえられる。したがって、今、求められるべきことは、年金基金運営に関する「常識」を再考し、基金独自の運営に活用していく方法論を再構築していくことにあると考える。
本稿では、アセットアロケーション戦略に関する常識を再考しつつ、個別性が強まっている年金基金運営に求められるアセットアロケーション選択アプローチの方向性について展望したい。
アセットアロケーション戦略は、資産運用戦略において、理論的にも経験的にも最も常識が蓄積されている分野であるとともに最も常識に左右されながら意思決定がされやすい部分であるといえる。
理論的には、マーコヴィッツに端を発したモダン・ポートフォリオ理論の中心的な研究テーマであり、今日、実務において最も活用されている最適化アプローチ(平均─分散アプローチ)はアセットアロケーション選択手法の常識となっている。
一方、経験的には、ホーム・カントリー・バイアスというものがあり、投資家は外国資産よりも自国資産により多くの資産を配分する傾向(慣習)があり、資産配分を選択する際には、国内株式の比率が外国株式の比率を下回らないことを制約とすることが行われてきている。近年、国内年金基金では、国内株式が長期的に低迷したことやグローバル投資の普及により、ホーム・カントリー・バイアスは弱まりつつあるが、依然として考慮すべき常識といえるであろう。
また、心理的には、常識が不安定化しやすい側面があり、例えば、株式相場が悪化し株式投資への確信度が市場心理として低下する場合には、株式比率を引き下げることがあたかも常識のようにみなされてしまうことがあり、常識の妥当性を主体的に判断する(常識を疑ってみる)スタンスも重要である。
年金資産運用におけるアセットアロケーション戦略を考える上では、以下の年金資産運用の三つの常識を押さえることが基本となる。
@ リスク効率の最大化
同じリターンが得られるのであればよりリスクが大きいほど喜びを感じる投資家もいるかもしれないが、年金受給者からの受託者責任を負う年金資金の特性から、同じリターンが得られるのであればよりリスクが小さくなることを志向しなければならない。すなわち、リスク効率(リターン/リスク=リスクを取ることによるリターン獲得の度合い)を最大化することが求められる。また、このリスク効率は、過去実績ではなく、将来のリスクおよびリターンの期待値でなければならない点に留意する必要がある。
A 積立水準のコントロール
一般の資産運用は、儲かれば儲かるほど好ましい絶対収益志向の投資である。しかし、年金資産運用の目的は、年金を支給するために準備しておかなければならない積立目標額(=年金債務)に対して、いかに年金資産を効率的に増やすことができるかということにあり、積立水準(年金資産/年金債務)のコントロールを視野に入れた相対収益志向の投資が年金資産運用の本質といえる。したがって、必要以上に資産を増やすためにリスクを取ることが求められないとともに、元本の確保を重視するあまり、必要積立目標額に資産の増加が追いつかないような過小なリスクテイクも特段の事由がない限り回避されなければならない。
B 長期の時間軸の活用
確定給付型の積立年金制度は、個々の加入者でみると、会社からの掛金の支払い(加入者にとっては掛金の受け取り)に対して実際の年金給付の発生が遠い将来(一般に、平均期間が15〜20年程度)となる長期の制度であり、積立金の準備期間も長期にわたる。したがって、受給者の観点からは、資金の拘束期間相応分のリターンが求められることになり、もちろん、人員構成の変化による基金全体でのキャッシュ・フロー(掛金vs.給付)のバランスには注意する必要があるが、長期の時間軸を活用した資産運用が求められる。ただし、退職給付会計の導入により、企業年金基金では短期の年金コスト管理も重要となっており、短期の時間の積み重ねが長期の時間の獲得につながっていくことを踏まえつつ、短期の時間軸を意識した資産運用戦略の策定の必要性も高まっている。
これらの三つの常識を満足させるべく、アセットアロケーションの選択およびそのマネジメントは、@資産サイドのリスクおよびリターンを対象とした最適化アプローチ(平均─分散アプローチ)でアセットアロケーションを選択(政策アセットミックスを策定)し、AALMシミュレーションで積立水準の将来推移のイメージを確認し、B長期的に政策アセットミックスを維持するという3段階アプローチが常識とされてきた。
最適化アプローチでは、投資対象資産(国内株式、国内債券、外国株式、外国債券等)について、a)期待リターン、b)想定リスク(標準偏差)、c )各投資対象資産間における期待リターンの相関係数を事前に見込んだ上で(資産仮定)、あらゆるアセットアロケーション候補(資産配分比率)の中から、同じリターンであればリスクが最も低くなる「最適な」組み合わせ(有効フロンティア)をコンピュータ計算により導出する。有効フロンティアは、縦軸をリターン、横軸をリスクとして、右上がりの曲線として描かれるが、その中から、年金制度設計上の予定利率(制度設計上の想定リターン)を目処に、アセットアロケーションを選択する(図1)。
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図1/最適化アプローチによるアセットアロケーション選択 |
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したがって、従来の常識とされてきた資産選択のアプローチでは、年金制度設計における資産運用に関する想定値である予定利率と、投資対象資産の将来の想定値から導出される有効フロンティアを基にアセットアロケーションが選択される。すなわち、アセットアロケーションは純粋に資産サイドの要因のみで決定され(このような特質から伝統的な最適化アプローチは「アセットオンリー・アプローチ」とも呼ばれる)、資産仮定が「常識的に」設定されるとすれば、本稿の冒頭で挙げた質問のように、ある予定利率に対する平均的な(常識的な)アセットアロケーションが導出されることになる。
そして、積立水準のコントロールについては、資産要因の最適化アプローチにより選択されたアセットアロケーションを採用した場合の年金資産の将来推移と、年金制度設計上想定される年金債務の将来推移をコンピュータ計算によりシミュレーション(ALMシミュレーション)を行い、長期の時間軸におけるアセットアロケーション戦略の妥当性を検証することになる。ただし、このようなアセットアロケーション選択と積立水準コントロールを分離して取り扱うことができた背景には、年金資産と年金債務が無関係に動くという前提があり、また、年金運用は長期という常識の下で、短期的にはアセットアロケーションを見直す必要がないという時間との無関係性が前提となってきたことがある。
しかし、退職給付会計の導入やキャッシュ・バランス・プランへの制度移行により年金資産と年金債務が無関係に動くという前提は崩れつつあり(いずれも市場金利により年金資産と年金債務の連動性が発生する)、母体企業の年金基金運営に対するコミットメントの強化により短期の時間軸も重視されるようになり、アセットアロケーションと時間との関係も無視できなくなってきている。このように従来のアセットアロケーション戦略の背景にある諸前提が変化する中で、最適化アプローチが最適といえるだろうか。
このような時代環境の変化の中で、新たに常識となりつつあるのが「サープラス・フレームワーク」である。これは、伝統的なアセットアロケーションの選択(アセットオンリー・アプローチ)では資産要因のみしか考慮されていなかったのに対して、年金資産と年金債務の関係を考慮に入れた上でアセットアロケーションの選択およびそのマネジメントを行おうとするものである。年金資産と年金債務の差額(年金資産−年金債務)は「サープラス」と呼ばれ、サープラス・フレームワークにおいてはサープラスの特性をアセットアロケーション選択の判断基準として採用する。
このような代表的なアプローチとしては「バランスシート型ALM」が挙げられ、一般に「サープラス・フレームワーク」という場合には「バランスシート型ALM」のことを指している場合が多い。このアプローチは、米国において1986年にFAS87基準により年金債務の時価評価が導入されたことを契機に広まってきたものである。日本においては、現状では一般に用いられているとはいえないが、退職給付会計を導入しているプラン・スポンサーの年金ALMへの関心の高まりや、厚生年金基金における最低責任準備金の評価方法の変更(再評価に用いられる利率が国の資産運用実績に連動)を背景に、今後、普及する可能性も考えられる。
「バランスシート型ALM」は、最適化アプローチをサープラス・フレームワークに拡張したものである。「バランスシート型ALM」では、年金債務を「期待リターンがマイナスとなる負の資産」とみなした上で資産と同列に扱い、他の投資対象と同様に資産仮定を作成する。ただし、債務の「資産仮定」は、基金独自の将来の債務特性を反映する形で作成される必要があることが前提となる。そして、積立水準の想定値を基に「年金債務」の資産として組入比率を制約条件として加え(例えば、積立水準の前提が100%であれば、年金資産:年金債務=1:1となるため、「年金債務」の組入比率=50%を制約条件とする)、縦軸をサープラスで計測したリターン(=「資産収益率−債務増加率」、サープラス・リターン)、横軸をサープラスで計測したリスク(=「資産収益率−債務増加率」の標準偏差、サープラス・リスク)として有効フロンティアを描き、有効フロンティア上にあるサープラス・リスクおよびサープラス・リターンの組み合わせを導出するアセットアロケーション候補の中から、アセットアロケーションを選択することになる。
このような「バランスシート型ALM」の分析事例を図示したものが、図2-A および 図2-B である。投資対象資産としては、伝統4資産(国内株式、国内債券野村BPI、ヘッジなし外国株式、ヘッジなし外国債券)に、短期債(デュレーション≒ 2年程度)、超長期債(デュレーション≒15年程度)、ヘッジ付き外債を加えた7資産としており、図2-A では、年金債務を市場金利変動の影響を受ける確定給付型制度のPBO(企業会計上の年金債務)とする一方、図2-B では、年金債務を市場金利変動の影響を受けない確定給付型制度の数理債務(年金財政上の年金債務)としている。また、図2-A の年金債務の特性については、ワトソンワイアットのALM(ダイナミックALM)のシミュレーション結果に基づき設定しており、図2-A および 図2-B ともに積立水準は100%を前提とし、年金債務の増加率を3.5%(期待リターン=−3.5%)としている。
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図2-A/サープラス・フレームワーク(資産と債務が連動する場合) |
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図2-B/サープラス・フレームワーク(資産と債務が無相関の場合) |
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図2-A および 図2-B では、アセット・オンリーの最適化アプローチにより導出された有効フロンティアを「サープラス・フレームワーク」に変換したものも併せて図示している。これらは、図2-A では、バランスシート型ALMにより導出された有効フロンティアよりも右側(リスク効率が悪化する方向)に位置している一方、図2-B では完全に一致している。したがって、これらの比較分析により、年金債務に金利感応度があり、年金資産と年金債務との間に連動性が認められる場合には、「サープラス・フレームワーク」を採用することにより、積立水準(サープラス)のコントロールを行う上でより効率的なアセットアロケーションを発掘可能なことがわかる。一方、年金債務が固定的であり、年金資産と年金債務との間に連動性が認められない場合には、「アセットオンリー・アプローチ」と「サープラス・フレームワーク」では、最適化アプローチをとる限りにおいてはアセットアロケーションの選択に差異が生じないことがわかる。
次に、資産と債務の増加率が等しくなる場合(サープラス・リターンがゼロ=バランスシート型ALMにより導出された有効フロンティアと横軸との交点)におけるアセットアロケーションの内容を比較すると、超長期債の組入比率は、図2-A の場合のほうが 図2-B の場合よりも大きくなっている。
このような背景を分析するために、図2-A における各投資対象資産のアセット・リスクとサープラス・リスクの大きさを比較したものが、図3である。図3を見ると、アセットオンリー・アプローチではリスク最小となっていた短期債がサープラス・アプローチではリスク最小となっておらず、アセットオンリー・アプローチではリスク最小となっていない超長期債がサープラス・アプローチではリスク最小となっている。このように、サープラス・フレームワークでは、年金債務の特性を考慮に入れた債券アロケーションの選択が可能となることが大きな特徴といえる。
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図3/投資対象資産別リスク特性の変化 |
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さらに、積立水準の前提を100%だけでなく、60〜100%までの10%刻みで有効フロンティアの変化を比較したものが、図4-A および 図4-B である。上記と同様に、図4-A では、年金債務を市場金利変動の影響を受ける確定給付型制度のPBO(企業会計上の年金債務)とする一方、図4-B では、年金債務を市場金利変動の影響を受けない確定給付型制度の数理債務(年金財政上の年金債務)としている。
図4-A および 図4-B を見ると、いずれにおいても、積立水準が低い場合のほうがより右側(リスク効率が悪化する方向)に位置している。すなわち、積立水準が低い場合のほうが、サープラス・リターンを獲得するために必要となるサープラス・リスクは増大していくことになり、サープラス・リスク管理の重要性が高まることが確認できる。しかも、年金資産と年金債務との連動性がないことを前提とした 図4-B の場合にも該当することが重要なポイントであり、現状の多くの年金基金が直面しているように積立不足が発生している状況では、年金債務特性にかかわらず、サープラス・フレームワークでアセットアロケーション戦略を検討する必要性は高いと考えられる。
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図4-A/積立水準とサープラス・リスクの関係(資産と債務が連動する場合) |
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図4-B/積立水準とサープラス・リスクの関係(資産と債務が無相関の場合) |
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もう一つの重要なポイントは、積立水準と時間との関係であり、積立不足の解消のためには特別掛金による資産増大策(拠出ポリシー)が併用されていることが多く、時間とともに積立水準が変動していく可能性が高い。このため、積立水準が100%から乖離した状況では資産と債務とのマッチングが不可能であり、「サープラス・フレームワーク」は機能しないとされることがあるが(このため、サープラス・フレームワークの採用に二の足を踏まれているスポンサーの方も多いかもしれないが)、問題の所在は「最適化アプローチが時間による積立水準の変化を考慮に入れることができない点」にあり、「サープラス・フレームワーク自体の問題ではない点」に注意する必要がある。むしろ、上記の通り、積立水準が低い場合のほうがサープラス・リスク管理の必要性は高く、将来の積立水準の時間的な変化を考慮に入れることが可能な「ダイナミックなサープラス・フレームワーク」によるアセットアロケーション戦略の策定が必要となっているのである。
以上の分析より、年金資産と年金債務の変動に連動性が認められる場合や、積立水準が100%から大きく乖離している状況においては、最適化アプローチは最適とはいえないのである。
新たに常識となりつつある「サープラス・フレームワーク」へ移行するにあたっては、年金資産運用における三つの基本軸:リスク効率・積立水準・時間を三位一体で考慮したアセットアロケーション選択のアプローチが必要となる。特に、三つ目の軸において常識とされてきた「長期の時間軸」は、その重要性は年金制度の本質から今なお変わらないが、前述の通り、短期の時間軸を意識した資産運用戦略の策定の必要性も高まっていることから、長期および短期の時価軸を選択基準として考慮可能なダイナミックなアプローチが求められることになる。
最適化アプローチでは、長期と短期という時間の区別をすることが不可能であり、投資期間を「ひとかたまり」(例:10年間)としてしか扱うことができないことが「サープラス・フレームワーク」への拡張における致命的な欠点であった。それでは、時間を考慮に入れたアセットアロケーション選択は、どのように考えたらよいのであろうか。
ここで活用すべきは、時間を取り扱うアプローチ(ダイナミック・アプローチ)の常識である。ダイナミック・アプローチの常識は、「将来のゴール・イメージ(目標とする状態)から逆算することにより、現在採るべき最良の方針を検討すること」である。例えば、日常的には、目的地への交通手段の時刻表を調べる場合には、目的地への目標到着時刻から逆算して、各経由駅での乗り換え時刻を決定するであろう。学術的には、動的計画法という分野において、将来の最適行動を前提に現在の最適行動を決定すればよいことが説かれている(ベルマンの最適性原理)。
したがって、ダイナミック・アプローチで重要となるのは、将来目標とする積立水準のゴール・イメージに対して、その通過点として起こりうる積立水準の状態(回復/下ぶれ)を逆算的に見込みながら現在の積立方針を検討すること(フォワード・ルッキングなアプローチ)である。しかも、将来の積立水準の状態は現在選択するアセットアロケーションの選択の影響を直に受けるため、すべてのアセットアロケーション候補に対してALMシミュレーションを行い、将来の積立水準の推移を見込みながら、現在の積立方針ならびにアセットアロケーションの選択を検討するアイデアが有効となる。このようなアイデアを基にアセットアロケーションを選択することが、弊社が提唱している「ダイナミックALM」の基本コンセンプトであり、ダイナミックALMは年金資産運用に関する三つの常識を三位一体で扱うことを忠実に追求した「常識的な」アプローチと考えられる。伝統的な最適化アプローチでは、アセットアロケーション選択後にALMシミュレーションを行うため、アセットアロケーション選択において積立水準の時間的な変動特性を事後的かつ限定的にしか考慮できないが、ダイナミックALMでは、ALMシミュレーションをアセットアロケーション選択に直接的に活用していることが最適化アプローチとの大きな違いである。この結果、将来の積立水準の時間的な変動特性をアセットアロケーション選択の基準に含めることが可能となっている点にダイナミックALMの他のアプローチに対する差別性がある(図5)。
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図5/アセットアロケーション選択アプローチの比較 |
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ダイナミックALMでは、積立水準のコントロールが年金運用の本質であることからサープラス(年金資産−年金債務)でとらえたリスク(サープラス下ぶれ)とリターン(サープラス回復)がアセットアロケーション選択基準の基本となるが、意思決定者が重視すべき時間軸や評価基準(サープラス回復/サープラス下ぶれ)の組み合わせにより、積立方針検討のための多様な判断材料を手にすることが可能となる。
図6では、ダイナミックALMによるアセットアロケーション選択の事例として、縦軸を10年後のサープラス期待回復水準(ALMシミュレーション結果における中央値)、横軸を3年後のサープラス下ぶれ水準(ALMシミュレーション結果における下位5%の値)として、すべてのアセットアロケーション候補についてプロットしたものである。この中から、例えば、3年後のサープラス下ぶれを最も重視する場合はA案、3年後のサープラス下ぶれリスクと10年後サープラス改善のバランスを重視する場合にはF案と、将来の時間軸を考慮に入れた積立方針に適した最良のアセットアロケーションを選択することが可能となる。
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図6/ダイナミックALMによるアセットアロケーション選択 |
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さらに、ダイナミックALMでは、積立方針およびアセットアロケーションの選択と積立水準の時間的な変動特性との関係(サープラス・リスク)を計画時にあらかじめ見込んでおくことが可能となることも大きな特徴として挙げられる。これにより、実際の積立水準のモニタリングにおいて実績値と計画値との間に乖離が生じた場合には、その状況が妥当なのか/異常なのか、運用方針を継続すべきなのか/修正すべきなのか、といった局所的な判断を、過去・現在・未来を視野に入れた大局的な視点から安定的に行うことが可能となる。したがって、アセットアロケーション選択の個別性が強まる中では、従来のような「常識的な」アセットアロケーションの後ろ盾を期待できなくなる中、アセットアロケーション選択手法における発想を転換し、アセットアロケーション戦略における三つの常識を昇華させた基金独自の良識を備えることが、規律あるアセットアロケーション・マネジメントを志向する上で重要となる
本稿では、アセットアロケーション戦略における常識を再考することにより、個別性が強まっている年金基金運営に求められるアセットアロケーション選択アプローチの方向性を展望した。
日本の年金基金運営において最悪期となった2000〜2002年度においては、本稿で挙げたアセットアロケーション戦略の三つの常識(リスク効率の最大化、積立水準のコントロール、長期の時間軸の活用)に対して、@市場は信頼できずリスクを取ってもリターンは報われない、A積立不足の大幅な拡大により積立水準はコントロール不能、B年金制度といえども長期の時間をとることは許されない、といった悲観論が台頭し、日本の年金基金運営が不安定化する時代となった。
2003年度以降は市場環境の好転と企業年金制度改革の進展を背景に年金基金運営状況が大幅に改善しており、これらの三つの常識に関する悲観論は後退しており、常識としての意義を回復しているものと考えられる。
しかし、これらの三つの常識の積み上げ的な方法論である「最適化アプローチ」が今後も常識的なアプローチとして通用するかといった点については、本稿で論じた通りであり、基金独自の個別性に配慮しながら従来の常識を疑ってみる必要がありそうである。
企業年金制度の多様化の進展等を背景に、基金運営の独自性が強まる中、基金独自の良識を備えることが規律ある基金運営において重要となっている。特に、アセットアロケーション戦略は基金運営への影響力が大きいことから、そのマネジメントの巧拙が基金運営の巧拙に直結することが見込まれ、新常識となりつつある「サープラス・フレームワーク」においても通用するアセットアロケーション選択アプローチへの移行が急務といえる。
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