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【巻頭言】 |
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サッカーとマネジャー・ストラクチャー
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窪 一郎 |
2006年7月9日 ワールドカップドイツ大会 決勝戦
FIFA世界ランキング1位のブラジルと日本代表との決勝戦が幕を開けようとしています。日本代表は、これまで、ヨーロッパ勢の強豪をなぎ倒しながら勝ち上がってきましたが、決勝戦では、夢にまで見た南米の強豪、世界のブラジルに立ち向かいます。日本代表にとっては、ドーハの悲劇から始まり、フランス大会での惨敗、韓国・日本大会でのベスト16を経て、今回、ドイツ大会で初めての決勝戦という大舞台に上ることができました。日本のサッカー界にとって、歴史的な一戦が、今、まさに、幕を開けます。さあ、主審の笛が吹かれました。……
年金資産運用プロセスの一つである「マネジャー・ストラクチャー」は、野球やサッカーのスポーツで説明されることがある。
サッカーは、11人で行うスポーツであるが、そのポジション、役割分担は、守りの要「ゴール・キーパー」から、前線でのゴール・ゲッター「フォワード」まできちんと決められている。
一方で、年金の資産運用では、実際に運用を行う運用機関のポジション、役割分担のことを「マネジャー・ストラクチャー」という。
サッカーでは、ポジション、そのフォーメーションは、対戦相手、戦術、プレーヤーの能力を考慮して監督が決めていくものであるが、年金資産運用の「マネジャー・ストラクチャー」は、市場環境、運用戦略、運用機関の運用能力(スキル)を考慮して、基金自らが構築していくものである。その結果、サッカーでは、「対戦相手を上回る得点を獲得」し、年金資産運用では「市場を上回る超過収益を獲得(いわゆる"運用効率の向上")」することを目的としている。
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2002年6月 第17回ワールドカップ韓国・日本大会
1998年夏に日本監督として招聘されたフィリップ・トルシエ監督の下で、日本代表は、初めてワールドカップ本大会予選突破を果たし、ベスト16位に入った。
就任当初、様々な批判を浴びたトルシエ監督だが、それまで、「根性」「努力」「人気」のある選手を掻き集めてきた日本代表に、ある意味では、サッカーの基本と言われる、個々人に11のポジションの重要性を認識させ、そのポジション、役割分担をきちんとこなし、組織プレー、フォーメーションによる戦術を実践することを教えた。その結果、日本サッカー代表の実力は、着実に向上し、今回の結果を勝ち取ることができた。
しかし、日本代表にサッカーの基本を教えることには成功したものの、中村俊輔選手のように能力は高いが、トルシエ監督の戦術・フォーメーションに適さないという理由のため、代表にも選抜されないという出来事も起きた(※1)。
年金業界では、1996年以降の日本版金融ビッグバンの流れの中で、1997年「5:3:3:2(資産配分)ルール規制撤廃」、1999年「従来運用・拡大運用の区分撤廃」によって、基金は、ほぼ完全に自由な資産運用が許され、自己責任原則が定着する。結果として、それまで、運用機関にすべてをお任せした運用スタイル「お任せ型バランス運用」から、基金独自の運用戦略に基づき、「資産配分」「マネジャー・ストラクチャー」を構築するスタイルに変革を遂げることになる。
90年代後半以降、「マネジャー・ストラクチャー」は、すべての役割を運用機関にお任せする「バランス型」から、役割を構造化し、機能別に役割分担をする「コア・サテライト型」に進化してきた。
このようなストラクチャーの構造化は、急速に進み、お任せ型のバランス型アクティブ運用は減少し、パッシブ運用とアクティブ運用に大きく役割分担が分化したため、特化型パッシブ運用と特化型アクティブ運用の採用は急増した(表1)(図1)。
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表1/委託シェアの変化 |
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図1/構造化 |
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これによって、パッシブ運用報酬の大幅削減、特化型運用による運用専門性の追求が行われた。また、リスクの高い株式資産では、分散効果によるリスク低減効果を目的にスタイル運用(バリュー/グロース)が導入され、結果として、運用報酬削減後の運用効率の向上(リスク低、リターン増)を目指してきたのである。
最近、構造化された「マネジャー・ストラクチャー」下で運用を行う運用機関の運用スタイルが類似化してきている。例えば、株式資産において、リスク分散効果を目的に導入されたスタイル運用では、運用機関が取っている運用リスク(ベンチマークに対するリスク、トラッキング・エラー:TE)が数年来低下してきており、結果として、スタイル別ポートフォリオはベンチマークに近いポートフォリオになっている。また、このような現象は、債券運用機関の運用リスクにおいても顕著に見られる(図2)。
運用スタイルの類似化は、ストラクチャー構築の効果を低下させる。取っているリスクが低下することによって、将来獲得できる期待リターンは同様に低下し、ポートフォリオの類似化によって、分散効果が低下するため、基金全体の運用リスクは増加する可能性が高まる。
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図2/ヒストリカル・インフォメーション・レシオ年率換算 |
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これまでのマネジャー・ストラクチャー構築では、無駄の多い「お任せ型バランス運用」からストラクチャーを構造化する「コア・サテライト型」に移行するだけで、運用効率を向上させることができた。
しかし、最近の運用競争の激化、運用スタイルの類似化に見られる運用環境の変化に対応する中で、さらなる運用効率の向上を目指し、「マネジャー・ストラクチャー」を再考することが必要だと思われる。
2005年6月8日
日本代表チーム ワールドカップドイツ大会アジア予選突破
2002年、トルシエ監督の後を引き継ぎ、ジーコ監督が就任する。ジーコ監督のサッカーは、それまでのトルシエ監督のフォーメーションを中心とした「規律」重視の組織戦術から、選手個人に「自由」を与え「自主性」を尊重する「自由なサッカー」へと変革した。
当初、この変化に対応できない日本人選手(※2)は困惑し、あまり良い結果は出なかったが、徐々にその戦術を理解し始めた。ジーコ監督は、環境の変化(対戦チーム、戦術)を考慮した上で、海外組、Jリーグ出身の区別なく、その試合にベストな選手を送り出し(※3)、選手自らが考え、自らが動く、「自由なサッカー」を実践した。ジーコ監督は、フォーメーションよりも選手個人の能力、その自主性を重視したのである。
「バランス型」から「コア・サテライト型」へのストラクチャーの構造化のみによる運用効率向上には限界がある。更なる運用効率向上には、基金自らが構築する運用戦略、それを反映するストラクチャーの内容にまで踏み込んだ「マネジャー・ストラクチャー」構築が不可欠である。
今後の市場環境を見据えた運用戦略を構築した上で、運用効率の高いストラクチャーを選択し、ストラクチャー構築することができれば、年金資産運用全体の運用効率は向上する。ストラクチャーの運用効率は、それを取り巻く市場環境と実際の運用を行う運用機関の運用スキルで決定する。
市場環境には、付加価値が取りやすい市場と取りにくい市場とが存在し、その決定要因は「情報の非効率性」と言われている。
過去実績によると、付加価値を獲得しやすい市場は、米国ハイイールド債券、エマージング債券、米国小型株式、米国エンハンストの順になっている(図2)。
また、ストラクチャーの運用効率決定要因には、市場における「情報の非効率性」以外に、実際の運用者である運用機関の運用スキルが重要である。「情報の非効率性」が低い市場において、運用スキルの低い運用機関では、運用効率向上は見込み難い。当然のことだが、「情報の非効率性」が高い市場において、運用スキルの高い運用機関を配置できれば、運用効率獲得の可能性が最も高くなる(図3)。
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図3 |
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市場は、常に変化し、運用機関の運用スキルは一定ではない。様々なストラクチャーが存在する中で、さらなる運用効率の向上を目指すには、今後の市場環境、運用機関の運用スキルを考慮しながら、基金独自の運用戦略を構築し、それを実行できる高い運用スキルを持つ運用機関を選択することが重要である。そして、一度構築した「マネジャー・ストラクチャー」は、変貌する市場環境、運用スキルを判断しながら、常に、ベストなストラクチャーに進化していく必要がある。
これまで、運用機関にお任せをしていた基金もしくは構造化のみを目的としていた基金では、このように基金の判断によって、独自の運用戦略を考え、独自の「マネジャー・ストラクチャー」を構築していくことは容易ではない。弊社では、以前から、「マネジャー・ストラクチャー」の高度化、さらなる運用効率の向上には、基金の意思決定プロセスの強化が必要であると説いている。いわゆる、「年金ガバナンス」の向上である。(ワトソンワイアット・レビュー資産運用特集号「ペンション・ルネッサンス」の保母和也、小笠原真由美「パフォーマンスはガバナンスで決まる」参照)
これまで、株式資産のストラクチャーは、運用スタイル(バリュー/グロース、大型/小型)を分散する手法が一般的であったが、今後は、運用リスクの分散を考慮した上で、市場環境にあまり左右されずに、運用機関の高い運用スキルによって、付加価値を追求するストラクチャーを考えていく必要がある。
そして、それらの代表的ストラクチャーとして下記を考えている(図4)。
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図4 |
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エンハンスト・インデックス:相当程度の銘柄数(数百銘柄)を保有
し、個別の銘柄選択によって、全保有銘柄の相対ポジションから少額
の付加価値を積み上げる運用スタイル
ガバナンス・ファンド:企業のガバナンス構造、ビジネス戦略、資本構
成の変革に着目したアクティビスト活動を付加価値源泉とする運用ス
タイル
ロング/ショート戦略:ヘッジファンドの戦略の一つ。ロングだけでな
く、ショート・サイドにも着目した相対価値戦略であり、市場リスクを相
殺した絶対収益型運用
ロングターム・エクイティ:超長期(5〜10年間)のタイム・ホライズンに
よる株式投資であり、市場ベンチマークを持たずに、CPI+α%の絶対
収益型運用
弊社では、ここ数年間、サープラスリスク・マネジメントによるダイナミックALM分析を薦めているが、このアプローチに「マネジャー・ストラクチャー」構築プロセスを融合する作業を進めている。これまで、資産配分は「ダイナミックALM」、マネジャー・ストラクチャーは「リスク・バジェティング」ツールに分断されていたプロセスを融合する。
これによって、下記のようなメリットを期待している。
@ これまでは分断されていた資産配分戦略とマネジャー・ストラクチャ
ー戦略との融合によって、より効率的かつ統合的な運用戦略、リスク
管理が可能となる。
A これまでの「マネジャー・ストラクチャー」は、市場に関わるβ戦略と
運用機関に関わるα戦略とに分解されていたが、今後は、債務との
マッチング、サープラス・リスクを考慮した「マネジャー・ストラクチャ
ー」の構築が可能となる。
(本特集号、川辺純「ゼロからの年金ALM」参照)
1990年代後半の金融ビッグバンに始まった第一次年金改革から、現在は、制度変更、代行返上、サープラスリスク・マネジメントなど、第二次年金変革の時代に突入したと言える。「マネジャー・ストラクチャー」においても、これまでの常識を再考し、新たなストラクチャーへの進化のタイミングだと思われる。
基金は、トルシエからジーコへ進化できるのか。そして、日本代表の将来は……(続く)
2006年7月9日 ワールドカップドイツ大会 決勝戦
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(※1)中村俊輔選手のキックの精度は日本一という評判であったが、一方で、フィジカル(選手間接触に
対する強度)が弱く、プレーヤーの要で最もフィジカルを要求される中盤のポジションをこなすこと
が難しいという見方であったようだ。
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(※2)ブラジルから日本に帰化した三都主アレサンドロ選手と海外リーグでの経験の長い中田英選手以
外の日本人選手はこの戦術の意味をなかなか理解できなかったと言われている。
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(※3)ジーコ監督は、能力が高く海外リーグに移籍した選手でも、最近の試合経験が少なく、試合当日の
コンディションがベストではない選手は使わなかった。この頃から、選手は、海外へ移籍する場合で
も、いかにしてプレーヤーとして、試合に出ながら、ベストなコンディションを維持するかということを
意識するようになる。
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