
|
【巻頭言】 |
. |
【基礎講座 2】
|
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
![]() |
保母 和也 |
「当社の国内株式グロース型プロダクトは、バリュー型優位の市場環境の中、過去3年間において年率3%の超過収益率を獲得することができました。特に2004年度の超過収益率は4%台と非常に高く、今後も市場環境に関係なく、高い超過収益率を獲得することができると確信しており……」運用機関 A 社がセールスにやってきた。「確かに、パフォーマンスは良さそうだが、コンサルタントに言わせると、過去のパフォーマンスは当てにならないらしい。どう判断したら良いだろうか」
本稿では、そのような疑問に答えるべく、「過去のデータからどう定量分析を進めれば良いのか」、「そこから何が読み取れるのか」について実際のファンドデータを用いて論じたい。
A 社に依頼すれば、プロダクトに関する過去の運用データは入手できる。これらの過去データを用いて「定量分析」を開始してみよう。基本的な流れは以下の通りである。
@ 市場環境の特性を理解する
図1、図2 は、それぞれ国内株式のスタイル別・規模別インデックスのリターンを比較したグラフである。周知のことではあるが、最近はバリュー型優位・小型株優位の市場環境が続いていることが改めて確認できる。
|
図1/「バリュー」−「グロース」 |
![]() |
|
図2/「大型」−「小型」 |
![]() |
A ユニバース比較
グロース型ファンドの中での相対比較をするために、ユニバース内でのリターン比較をしてみる。図3 を見ると、意外にグロース型でも高いリターンを残しているものが多いことがわかる。A 社のプロダクトは、2004年度のリターンは高いが、過去3年で見ると、中央値を上回ってはいるものの、第1四分位には届いていない。2002年度、2003年度のリターンは平均もしくはそれ以下であったのだろう。
|
図3/累積収益率(アクティブリターンベース) |
![]() |
B スタイルマップ
グロース型といっても、そのスタイル特性はファンドによって大きく異なる。A 社のファンドのスタイル特性を調べるためにスタイルマップを使ってみる。図4 がそれであるが、丸印が右(左)にいくほどグロース型(バリュー型)の特性があり、上(下)にいくほど大型株特性(小型株特性)があることを意味する。また、丸印の小さいものほど過去のスタイル特性を表し、データが新しくなるにつれ丸印が大きくなっていく。色塗りの丸印が直近のスタイル特性を表す。図4 によると確かに、強いグロース特性は維持されているものの、最近になって徐々に小型株特性が強くなっていることが確認できる。これだけでスタイルドドリフトを起こしているとは言い切れないが、スタイル特性が過去と異なる点は注意すべきである。
|
図4/スタイル推移マップ(対ベンチマーク) |
![]() |
C 規模別組入比率
スタイル特性の変化が気になったので、直近2年間の銘柄数と規模別組入比率のデータをA社から取り寄せ、推移表を作成してみた(表1)。大型株の組入比率が減少している一方で、特にこの1年で中小型株の組入比率が急増している。
|
表1 |
![]() |
D 仮説の構築
A 社のプロダクトは、特にこの1年のパフォーマンスが良いが、それと同時にスタイル特性・規模別組み入れ比率も大きく変化している。最近の市場環境を考えると、この中小型の組み入れがパフォーマンスに大きく貢献していることが考えられるが、この中小型銘柄の組み入れは本当にディシプリンのあるプロセスに基づくものだろうか。以下の仮説が成り立つ。
仮説A: 好調なパフォーマンスは中小型の組み入れに起因するところ
が大きいと思われるが、単に市場の後追いになっているだけではない
だろうか。
一方、このような見方もできる。
仮説B: 中小型の組み入れはあくまで銘柄選択の結果であって、市場
を後追いしているわけではない。A 社の高いリサーチ能力に基づくも
のである。
仮説Aが正しければ、市場環境が反転したときにパフォーマンスは劣後するだろう。仮説Bが正しければ、市場環境が反転してもパフォーマンスは維持できるだろう。
ここから応用編に移る。B社とC社が相次いでセールスにやってきた。「当社の国内株式バリュー型プロダクトは、2002年度から2004年度の 3年間において年率4%台の高い超過収益率を獲得することができました。他社のバリュー型プロダクトと比べてもリターンは高く、今後も当社の高い銘柄選択能力を生かして……」 2社とも全く同じセールストークである。最近のバリュー型プロダクトはどれもパフォーマンスが良いことに加え、同じ様な特性のプロダクトが多いため、プロダクトの良し悪しを判断するのは非常に難しい。B 社も C 社も「アナリストの徹底した企業リサーチが強み」「超過収益源泉は銘柄選択100%」「完全ボトムアップ型プロダクト」との説明である。
これだけの情報では何も判断できない。同様に定量分析を開始してみよう。
@ ユニバース比較
図5 がバリュー型の中でのリターンのユニバース比較である。直近1年で見ると C 社は中央値を劣後しているが、過去3年で見れば2社とも第1四分位に位置している。確かにバリュー型の中でもリターンは高いようだ。
|
図5/累積収益率(アクティブリターンベース) |
![]() |
A スタイルマップ
図6 がスタイルマップである。2社ともバリュー特性に変化は見られないし、小型株特性があるわけでもない。スタイル面での格差はなさそうである。
|
図6/スタイル推移マップ(対ベンチマーク) |
![]() |
B リスクモデル(詳細分析)
ここまでの定量分析では2社の差がはっきりしなかったため、リスクモデル(大和POETやBARRAが一般的に使用されている。本稿では大和POETを使用)を使用してファンド特性をさらに詳細に調べてみることにする。リスクモデルには馴染みのない方も多いと思うので、指標の見方や用語の解説(表2-1、2-2は簡単な用語集である)を交えながら進めていきたい。なお、ここでは、過去2年間(2003年度〜2004年度)の実際のファンドデータを分析の対象としている。
|
表2-1/リスクモデルに関する基本用語集@ |
![]() |
|
表2-2/リスクモデルに関する基本用語集A |
![]() |
(i)レーダーチャート
様々なリスク指標に関して、ファンドがどのような特性(リスク感応度)を持っているかを示すチャートである。例えば、「企業規模」の指標の場合、この値が 0 であれば TOPIX と全く同じ企業規模の特性を持つということであり、プラス(マイナス)の値の場合、TOPIX と比較して大型株特性(小型株特性)が強いことを意味する。「収益対株価」「自己資本対株価」「配当利回り」の指標はそれぞれ PER、PBR、配当利回りの観点からファンドに組み入れられた銘柄の割安度を示すものである。これらは割安指標とも言われ、バリュー型ファンドの場合、これらの値が通常はプラスの値となる。「予想成長性」指標はその名の通り、銘柄の予想成長度を表すものであり、グロース型ファンドの場合この値が通常はプラスとなる。
図7 は2005年3月末時点でのレーダーチャートであるが、2社ともバリュー型であるため、割安指標である「収益対株価」「自己資本対株価」「配当利回り」の指標の値がプラスになっている点が確認できる。特に「収益対株価」指標において、B 社のほうがプラスの値が大きくなっているが(B 社のほうがPERでの割安度が強い)、特段大きな違いは見られない。
|
図7 |
![]() |
(ii)超過収益率の要因分解
表3 はリスクモデルを用いて2社の過去2年間の超過収益率を要因分解したものである。まず用語の「一般的」な意味を解説する。
|
表3/2003年度〜2004年度の超過収益率要因分解 |
![]() |
・β効果
ファンドのβ値(市場感応度)と市場環境との関係によって説明される
部分。
β値がプラスの場合、TOPIX が上昇するときにプラスの値とな
る。
・ファクター効果
ファンドのリスク特性と市場環境との関係によって説明される部分。
バリュー型特性(レーダーチャートの「収益対株価」「自己資本対株
価」「配当利回り」の指標がプラスの値)の場合、バリュー型優位の
市場環境のときにプラスの値となる。
・スペシフィック効果
β効果とファクター効果以外の部分。市場環境に影響されることなく
どれだけリターンを出しているかを表す。β効果・ファクター効果が市
場環境の影響によって変動するのに対し、市場環境に影響されない
という点から運用機関の実力を表す部分とも言われる。
さて、ここまでの定量分析から仮説を構築してみよう。人によって、様々な仮説ができるのではないだろうか。例えば以下の通り。
仮説A: 超過収益率は C 社のほうが良いが、スペシフィック効果を見
ると、C 社がマイナスなのに対し、 B 社はプラスになっている。よって
B社のほうが実力がある。
仮説B: 2社の超過収益率のほとんどはファクター効果によって説明で
きる。つまり2社の超過収益率はバリュー型優位の市場環境によっても
たらされたものであり、実力によるものとは言えない。
読者の皆さんはどちらの仮説を支持するだろうか。
仮説B の指摘にあるように、2社の超過収益率のほとんどはファクター効果によって説明される。このファクター効果の大きさはどう解釈すれば良いだろうか。まずはファクター効果の詳細を調べる必要がありそうだ。
図8 は B 社と C 社のファクター効果をそれぞれのリスク指標(レーダーチャートのリスク指標)について分解したグラフである。まずは用語とグラフの見方を解説する。
|
図8 |
![]() |
・平均ファクターエクスポージャーレーダー
チャートと同様に、ファンドのリスク特性を表す。ただし、こちらは計測
期間(過去2年間)の平均値で表される。ある指標に関して TOPIX と
全く同じ特性であれば、その指標の数値が0となり、TOPIX より特性
が強ければプラスの値となる。
・累積市場ファクターリターン
市場(TOPIX)自体のリターン特性に関するのもので、どのようなリス
ク特性を持つ銘柄が市場(TOPIX)のリターンにどれだけ影響したか
を表す。図9は過去2年間の累積ファクターリターンを表したものであ
るが、「収益対株価」「自己資本対株価」の値が大きなプラスの値とな
っていることから、PER や PBR の観点から割安な銘柄が市場
(TOPIX)のリターンに大きく貢献したことがファクターリターンの観点
からも確認できる。
・ファクター寄与度
ファクター効果を細分化して、それぞれのリスク指標からの寄与度を
表したもの。バリュー型ファンドの場合、割安指標のファクター寄与度
がプラスの値となる。
|
図9 |
![]() |
2社のファクター効果全体の大きさはほとんど同じ(5%台)であるが、B 社と C 社のファクター分解グラフ(図8)を比較してみると、B 社のファクター効果の大半は「収益対株価」で説明されるのに対し、C 社は「収益対株価」の寄与度は大きいものの比較的各リスク指標に寄与度が分散されていることが確認できる。同じバリュー型ファンドでも過去2年間の市場環境の影響は異なるようだ。
そこで、「収益対株価」指標のファクターエクスポージャーの推移を調べてみたところ興味深い結果が出た。図10 は2社の「収益対株価」指標のファクターエクスポージャーと市場ファクターリターンの推移を示したものである。B 社は市場ファクターリターンが上昇するにつれてファクターエクスポージャーも大きくなっていくのに対し、C 社は比較的一定である。B 社、C 社とも「超過収益源泉は銘柄選択100%」の「ボトムアップ型」運用機関と謳っているが、B 社はいわゆる PER 相場(PER で見て割安な銘柄が買われやすい相場)が続く中で、市場の後追い的に PER で見て割安な銘柄の組み入れを増やしているという見方もできる。バリュー型優位が続く最近の市場環境では、定量モデルなどによるスクリーニングで引っかかってくる PER で見て割安な銘柄をそのまま組み入れているだけでも結果的には市場をアウトパフォームすることができた。一方、C 社のリスク特性は変化していない。あくまでボトムアップの銘柄分析の結果、PER で見て割安度の高い銘柄が組み入れられているのであって、その銘柄選択は市場環境の影響を受けているわけではないという見方ができる。そうであれば、保有銘柄のリスク特性からリスクモデル上はファクター効果に分類されてしまう数値にも、本当は C 社の銘柄分析能力に起因するものが含まれているのかもしれない。ここでまた新たな仮説が生まれる。
仮説C: B 社は市場の後追い的に PER で見た割安度を高めている
のであって、超過収益率はやはりファクター効果(市場環境要因)によ
るところが大きい。C 社のファクター効果には、C 社の銘柄分析能力
(実力)に起因するものも含まれている。
|
図10/ファクターエクスポージャーと市場ファクターリターンの推移(収益対株価) |
![]() |
「さっきから仮説ばかりじゃないか」。ご指摘の通り、一口に定量分析と言っても少し切り口を変えるだけで様々な仮説が生まれる。したがって、これだけでは仮説に対する確信度を高めることはできない。
定量分析(リスクモデル)に表れる指標からは、どのような特性を持つ銘柄を保有しているか(売買したか)という「投資結果」を確認することはできるが、その背景にある「投資プロセス」までは確認することができない。リスクモデルによれば、ファクター効果は市場環境によるものであり、スペシフィック効果が実力によるものとなるが、前述のようなケースの場合に、これらの効果を明確に区分して良いだろうか。さらに、最近では、鉄鋼株( PER で見た割安度が強い)を継続保有していれば、この銘柄に起因するリターンはリスクモデル上はどうしてもファクター効果に出てしまうが、この銘柄に注目したきっかけや、どういうリサーチをして、どういうタイミングで売買したかといった「投資プロセス」については判断することができない。ここに定量分析の限界がある。
だからと言って、定量分析を否定する必要はない。定量分析から得られた情報に基づいて「定性分析」を行うことで、定量分析から生まれた仮説を検証(投資プロセスに対する評価)することができる。
ここでイメージを具体化するために、定性分析の例を一つ挙げておきたい。表4、図11 は B 社と C 社の直近のパフォーマンスに最も貢献した鉄鋼株に関する投資行動について定性分析した内容を比較したものである。B 社は、定量モデルによるスクリーニングに引っかかってきたのをきっかけにこの銘柄のリサーチを開始しており、銘柄分析の内容も比較的表面的なものに留まっている。投資行動がどうも市場の後追い的になっており、(結果的には、PER で見て割安な鉄鋼株を組み入れていれば市場をアウトパフォームすることはできたが)ボトムアップの銘柄分析能力が高いとはとても感じられない。一方 C 社の場合、数年前の鉄鋼業界再編以降この銘柄に注目している点や @同業他社情報の活用、A取引先・顧客情報の活用、B他業界セクターアナリストとの協同、C製品別売上高・コストなどのセグメント情報に対する理解、などの観点から銘柄分析におけるクオリティについて優位性を感じることができる。
|
表4/鉄鋼株に関する定性評価例 |
![]() |
|
図11/鉄鋼株Yの株価推移 |
![]() |
これは鉄鋼株に関する一例でしかないが、このような定性分析を繰り返すことによって仮説 C に対する確信度を高めることができれば、B 社の超過収益率はやはりファクター効果(市場要因=まぐれ)によるものであって、C 社の超過収益率はリスクモデル上はファクター効果に分類されるものであるが、究極的には C 社の銘柄選択能力に起因するもの(実力)と判断できるのである。
これまで実際のファンドデータを具体例に定量分析と定性分析の内容について論じた。過去のパフォーマンスを分析する上で重要なことは、定量分析の意義(これがないとそもそも仮説が構築できない)と限界(これだけでは仮説の検証ができない)をまず理解した上で、そこから得られたものをいかに定性分析に結びつけるかということである。どれだけ高度なリスクモデルを使用したとしても、そこに表れる数値から「投資プロセス」を確認することはできない。定量分析と定性分析を融合させることが不可欠なのである。
定量分析と定性分析の融合といっても、単純にそれぞれの分析結果の平均点を取ればいいわけではない。これらは互いに不可分なものであり、一連の評価プロセスを構成する柱であると考える。図12が定量分析と定性分析が融合した運用機関の評価プロセスの概念図である。定量分析によって、様々な仮説を構築することができ、その仮説を定性分析によって検証することで、このパフォーマンスは運用機関の実力(あるいはまぐれ)によるものであるという確信度を向上させることができるのである。過去のパフォーマンス(定量分析)は、将来のパフォーマンスを判断する上での一つのヒントを与えてくれるにすぎない。定量分析から定性分析へ展開する一連のプロセスを経て初めて、運用機関の正しい評価ができるのである。
|
図12/運用機関の評価プロセスの概念図 |
![]() |
| トップへ戻る ▲ |