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【巻頭言】 |
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【巻頭言】
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ワトソン ワイアット株式会社 |
激震の2005年を終えるタイミングに発刊する本レビューでは、来年以降の企業経営の変化の本質を、できるだけ高い視点から見通してみたいと思う。
経営者が新年という少し時間的余裕を持って、自分の企業の未来を構想するとき、最も深く自問自答すべき課題は何か。このレビューが皆様の思考の触媒として貢献できたらと、多少不遜な志で本号のテーマを選んだ。ではなぜ「ヒト資本主義」なのか。この背景から説明したい。
ここであえて「ヒト」と表現しているのは、「人材」には資源(リソース)という意味合いが重なるし、「人財」はかえって「カネ」価値観で評価される人材イメージを強く感じる。また「HumanCapital」はすでに時代遅れの米国モデルの匂いがする。かえって、無味乾燥な表現「ヒト」が未来志向なのではないかと考えたからである。
今年、日本で顕著になった三つの変化から考察してみよう。第一に人口構成の劇的変化である。高齢化加速と人口減少社会への突入が国民に広く実感された年であった。第二が企業所有構造の流動化、つまりM&Aの常態化である。第三が郵政民営化に象徴される「官」市場のオープン化の加速・拡大である。
三つの変化の経営への意味合いを考えてみる。第一の人口減少社会の到来は、基本的には高齢化市場以外のあらゆる分野の日本のマーケットが縮小していく。今と同じ商品やサービスを提供している限り、企業は国内で成長できない。通常、新市場を開拓できた少数の企業のみが大きく成長し、残りは敗退していく「二極化」が起こる。勝敗の分かれ目は知恵を競う「ヒト」にある。
企業としては、グローバル、特に成長著しいアジアでの事業を拡大できない限り成長が止まってしまう。ここでも、グローバルマーケットでの成長を担う国内外、特にローカルの「ヒト」の確保が既に進出各社の最重要課題になっている。
第二のM&Aにおける「ヒト」の重要さは広く認識されている。例えば、弊社の調査によれば、米国における過去のM&Aの事例の約70%は期待した効果が上がらず、その原因の大半は「ヒト」に起因するものであった。付加価値源泉のヒトの流出をいかに防ぐか。統合後にヒトの意識や活動を融合できるかどうかが、M&A成功の鍵を握る。
そして第三の変化、「官」市場のオープン化は、今後日本が超高速高齢化を乗り越えるために、加速して実現すべき課題である。今までの「カネ」資本主義の世界では、民と官は全く別の生き物であった。しかし、今後は民であろうと、官であろうと、またNPOやNGOであろうが、有限な資源を使い、最大限「ヒト」の知恵を引き出して、より魅力的で持続性のある「地球号」創出に貢献することが求められていく。
今年特に脚光を浴びたのは第二の変化であった。「日本版M&A元年」との強烈な印象を与えた、ライブドア、楽天による大型買収劇の本格化とともに、通称村上ファンドが注目された。
村上氏が「売りに出ている物を買ってどこが悪い」「安く買って高く売るのが私の目的」と言い放つのを見て、多くの方が違和感を抱いたのではなかろうか。
「カネ」資本主義のゲームのルールが実はもうすでに時代遅れになっているのではないだろうか。エンロン、ワールドコムは決して特殊ケースではなく、経済活動の枠組み自体の問題であり、SOX法によって解決できるようなものではない。もっと本質的な「歴史的、地球的要請とのずれ」が生じていると考えるべきだ。
例えば、世界中の自動車会社が競って中国、インド市場でしのぎを削り、市場ニーズにマッチした低価格車を投入し続けたら、石油資源とエコロジーの両観点から見て、地球は持たない。「走れば走るほど空気がきれいになる車を作りたい」という、トヨタ自動車の渡辺社長の願いが実現する、経済活動の新たな枠組みが必要なのである。
一言で言えば、多くのケースで「もう会社は株主のものではない」のではないだろうか。「カネ」よりも「ヒト」の希少性が高く、企業の将来価値を生み出すのは「ヒト」に直結した資産になっている。
すでに「ヒト資本主義の時代」が到来しているのである。「カネ」で企業を所有できても、その企業で価値を生み出す「ヒト」を同時に所有できるわけではない。ワクワク感のない、カネの力ずくのTOBが成功するわけがない。
「ヒト」資本主義時代の企業経営は、従来の「カネ」資本主義時代のものと何が本質的に異なるのかを考えてみたい。今をときめくネット企業を例にとってみよう。
従来の企業経営の発想の順番では、インターネットが世界的に普及することによって、新たな価値を創造できるビジネスモデルは何かと考える。
ポータルから、総合コンテンツサービスへと進化しようとする「ヤフー」、ネット書店から総合オンライン通販企業を目指している「アマゾン・ドット・コム」などは、従来型発想のネット企業である。ビジネスモデルを組織構造に分解し、必要な人材像を定義して、現実の「ヒト」を当てはめる。
特徴はトップの顔はよく見えるが、トップ以外の「ヒト」のイメージが湧いてこない。ビジネスモデルを素早く回して進化させる「人材」主体の企業ではなかろうか。
これに対して、「グーグル」を見てみよう。何しろトップクラスとみんなが認める、検索技術の達人を集める。強い技術志向の価値観を持った「ヒト」が集まって、何か新しくて、挑戦的なものに絶えず取り組む。自由に発想し集うのに最適な環境を提供する。「ヒト」の持つ技術が先で、後からビジネスモデルが付いてくる。
すでに3000人を超える従業員をもつ現在は初期のような「ヒト」資本モデルはすでに違った形に進化している可能性が高いが、他社にはないエッジの利いた価値観DNAは受け継がれているに違いない。例えば、宇宙飛行士気分が味わえる「グーグルアース」を見てみるとよい。ものすごい技術だが、いかに収益を上げるのか全く不明である。
結果として、成長スピード、時価総額などでグーグルが突出したのは、ヒト資本発想の爆発力を示しているのではないだろうか。まさしく、「マネーフォローズ」の世界を実証した。
先日、あるセミナーで、タリーズコーヒージャパンの若き創業経営者、松田公太氏と対談する機会があった。以前からクロスカルチャーの「食」ビジネスをやりたいと考えて、コーヒーショップを始めた。初期の立ち上げ時に、連日の徹夜の中で頑張り続け、ほとんど倒れかけた彼を助けたのが、アルバイトの子たちであった。その体験以来、彼は「人がすべて」との信念を持つようになった。
今もタリーズでは社員でもアルバイトでも、みんな「フェロー」と呼んで、同じ「仲間」だと位置づけている。そして今松田氏は、自分のビジネスの真の目的はコーヒーを売ることではない。日本の若者に、働くことで成長できる、他では得がたい大事な経験ができる「場」を提供したいと考えている。
そしてお客様には、そんな情熱をもったフェローから得られる、最高のホスピタリティを提供する空間を作りたい。また、優れた絵本作家を応援しようと、店内で絵本も売っている。
松田氏はもうすでに、「ヒト」資本発想の経営構想に到達しつつあるように感じられた。つまりどんな「ヒト」とどのような「場」を作りたいかという「ヒト構想」が極めて魅力的なものであれば、コーヒーショップという事業は手段になるのである。逆に言えば、定めた「ヒト構想」が競争力を持つ分野であれば、どんな事業に進出しても成功する可能性が高いのである。
また「ヒト構想」が競争力の源泉であれば、敵対的買収に対しても、極めて強力な対抗手段となる。買収者に融合可能な「ヒト」の哲学と実践がなければ、競争力の源泉がいっせいに流出してしまうからである。
もともと「ヒト」への感度の高い日本から、「ヒト構想」で他を圧倒して、あっという間に世界的な企業に進化するような成功例が、次々と生まれる時代の到来を心から願ってやまない。
以下本レビューでは、我々コンサルタントが「ヒト」資本という概念から発想される、企業の組織とヒトの課題とその解決の方法について、各自の視点から論じている。皆様にとって、新年の自問自答の一助になれば、望外の幸せである。
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