【巻頭言】
「ヒト」資本発想とは何か

1.
ヒト資本主義と国際的M&A
創に向かう異質集団「間」ダイナミズム
   
2.
偉業達成ビジョンが
牽引するM&A

3.
アジアにおける
ヒト資本経営の構築・実践ステップ
人材育成を促進する「ヒト基盤」のあり方
   
4.
ヒト資本時代の年金論

5.
R&Dの「日本・ヒト・未来」型
擦り合わせ型イノベーションを生み出すヒント
   
6.
ベンチャーのヒト活かし方原論
立ち上げエンジンを全開し、さらに継続成長へと転換する

7.
待ったなしの大学改革
経営視点からのヒト資本形成

8.
伝統的日本企業のヒト再生
成長実感を生み出す場への変革

9.
ヒト資本企業経営論

10.
事業進化とヒト進化の繋ぎ方
事業と人材を一体で進化させる経営モデル

11.
ヒト資本視点の経営サイクル革新
場のデザインと信頼の技術

12.
ヒューマン・キャピタル・インキュベーター
現場における「ヒト資本経営」を考える

13.
ヒト資本時代の経営者マネジメント
役員評価・役員報酬を絡めた経営者検証機能のビルトイン

14.
役員最適化から始めるヒト資本経営

15.
ヒト資本への投資の自由度をどう確保するか
人間のエゴイズムから経営を解放する

16.
IT時代のヒト資本経営
ITはヒト資本経営をどのように助けるか

17.
ココロの時代の「感じる」経営

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伝統的日本企業のヒト再生
成長実感を生み出す場への変革
 

 

高橋 克徳

若手社員が育たない

 いつの時代でも、最近の若者はダメだとか、若者は理解できないなどという声はあるものだ。これが彼らの育成を真剣に考えているがゆえの発言であれば問題ない。しかし、その原因を考えることなく、傍観者的な発言だとしたら、それは問題だ。

 まずよく聞く話として、30歳代の社員の中から、リーダーが生まれてこないという話がある。「自分の担当している仕事は真面目にこなすし、それなりに成果は挙げている。しかし、自分からやるべきことを提案したり、自分で仕事を作り出したり、後輩や他部署に自分から働きかけようとはしない。まわりを巻き込んでリードしていく、部下や後輩を指導していく力が足りない。彼らにはリーダーになる資質がないのではないか」

 もう一つよく聞く話は、20歳代が理解できない、賢く振る舞いすぎるという声である。「仕事を頼むと、なぜこの仕事を自分がするのですか。目的は何ですかと言ってくる。いちいち説明しないと、仕事をしない。パソコンやインターネットに精通していることは認めるが、あまりにさっと仕事をこなしてしまう。自分なりに深く考えていない、工夫しようとしない」

 そもそも、30歳代、20歳代と大きく括って語ること自体が問題ではあるが、確かに上記のような社員が増えていることも実際に各種のモラールサーベイで実証されている。しかし、ここで考えてみてほしい。なぜ、こうした社員が増えているのか。その原因は何か。

バブル崩壊以降の時代が創り出した世代

 バブル崩壊後に入社した今の30歳代の社員は、ある意味で不幸な世代、すなわち成長機会を奪われた世代である。
 バブル期までの日本企業は、企業の成長とともに個人の成長を促す機会を様々な形で提供していた。新規事業や提携事業に参画して新たな業務を一から立ち上げる、グループ企業に出向してマネジメントの経験を積む、とりあえず英語ができなくても海外に行けといって現地のマネジメントや取引先との折衝を経験する、あるいはMBAなど海外留学させてもらうといった、一皮むける修羅場経験をすることができた。
 あるいはそこまでの経験ではなくとも、定期ローテーションという形で、突然、別の職場で別の仕事、別の仲間と仕事をするという経験を積まされた。希望しない仕事であったかもしれないし、時に自分に合わない上司の下で働くことを強いられたが、そういった試練を乗り越えながら、異なる環境でも仕事をしていく術を身につけていった。
 ところが、バブル崩壊以降の長い低迷期を余儀なくされた日本企業の多くは、事業のリストラ、業務の合理化、効率化と称して、職場の人員の削減を進めた。その結果、人員の余裕がなくなり、出来る人材ほど各部署が囲い込み、部署間を異動する機会が極端に減少した。しかも雇用抑制から若い人材が配属されない部署も出た。部下が増えることなく、同じ部署で同じ業務をやり続ける人材を数多くつくってしまった。細分化された業務の担当者としての能力は高まったが、仕事の幅は広がらなかった。小さな箱に閉じ込められてしまった。
 また、教育への投資も極端に削られた。最低限の年次研修以外は現場まかせ。OJT中心といいながら、教育にかける時間も減った。
 そういった状況の中でも、一つ一つの仕事に目的意識をもって取り組み、困難な状況を乗り越えながら成長してきた人材もいる。しかし、異動することなく同じ職場で同じ業務を繰り返し、厳しい目標管理のプレッシャーの中で、目の前の業績を上げることだけを強いられてきた人に、いきなりリーダーになれと言われても、困るというのが正直なところではないだろうか。彼らは、人を指導する機会も、異なる特性をもった人と一緒に仕事をする難しさも、十分体験してこなかった。

 また、今の20歳代の社員はさらに厳しい状況にさらされてきた。物心ついたときにはすでに、バブル経済が崩壊し、低迷期を見ながら育った。その中で自分の父親や友人の親がリストラされる話を聞かされ、企業という存在の冷たさと厳しさを知らされた。同時に、ゆとり教育の中で、受験勉強を通じて良い大学、良い就職をすることだけが生き方ではないということを学んだ。本当にやりたいこと、自分がやりたいことを自分で考え、自分の道は自分で切り開くことを教わった。就職試験でその厳しさを実感した。自分が何をしたいのか、何ができるのか問われ、自分が何者であるのかを考えさせられた。
 こうして育った彼らには大きく三つの特徴があるように思う。
 第一に、彼らは自分がやることの意味を真剣に考える。意味のないことをして、自分が損をすることはしたくない。むしろ、自分にとって意味のあることをしたい。そうした納得感を求める。
 第二に、彼らは成長実感を重視する。将来が見えない不安な時代の中でも、自分がどうにかやっていけるという自信を持ちたい。少なくとも、自分が成長しているという実感を持ちたい。
 第三に、自分のキャリアは自分で決めるという意識。会社が自分の希望しない仕事をやれと言われれば、辞める。自分がどういう経験を積むか、自分がどんなキャリアを積むかを、自分で決めたい。

 彼らの中には、自らキャリアを切り拓く強い意志を持ち、起業していく者も増えている。フリーターと呼ばれる人たちの中にも、こうした思考をもっているがゆえに定職に就けないという人もいる。若い優れた起業家が生まれている現実も、フリーターの問題も、彼らが自分のやりたい仕事やキャリアを主張するということも、実は根っこは同じである。彼らは真剣に自分を見つめること、自分を見つけるということを強いられてきた世代なのだ。それを理解せず、単に、「いちいち仕事の理由を聞くな」「仕事は会社が決めるものだ」といっている企業があったら、それはあまりに傲慢ではないだろうか。
 すべての30歳代、20歳代がこういう志向を持っているわけではない。能力や意識が二極化しているという現実もある。ただし、彼らの多くが成長実感を得たいという純粋な気持ちを持っていることを認識すべきである。彼らは、ただ自分自身が何者かを見つけ出したいのだ。

新興成長企業と伝統的日本企業の違い

 実は、ネット系やサービス系などを中心に成長している新興企業の多くは、こうした若者に大きな刺激とチャンスを与え、成長実感を与える魅力的な場になっている。彼らが企業として成長している要因はこうした若い世代の純粋な成長意欲、キャリア意欲を最大限引き出す場としての人材マネジメントを行っているからだ。
 例えば何かと話題になるライブドアだが、単なる儲け主義の経営者が引っ張る特異な集団と理解しているだけでは、若者がなぜ惹きつけられていくのか理解できない。
 会議では「検討します」はダメ。決断を遅らせればそれだけリスクが大きくなる。即断即決。さらに75%の出来でもいいから、200%の速さで仕事を進める。目標がある程度達成できたら、次の目標を掲げる。みんながどんどん背伸びをしていく。自分がやりたいと手を挙げたことは、どんどんチャレンジさせる。チャンスは自分で作る。こうした自分自身でドライブをかけることができる人(セルフスターター)を見つけたら、一本釣りをして採用する。3カ月ごとの査定で給与は増減する厳しさもあるが、社員旅行はプーケットやグアムに数千人が大挙して行く。会社全体で、スピード感、成長感、一体感を共有している。
 こうした新興成長企業だけでなく、若い人たちが惹きつけられていく企業には共通した特性があるように思う。それは、そこでしか得られない「体で感じることができる躍動感、エネルギー、ノリ」があるということだ。自分が生きている、自分が何かにのめり込んでいる、自分が成長しているという実感を得ることができる。

 では、あなたの会社では、こうした成長実感を与えることができているだろうか。少なくとも社員一人ひとりと向き合い、彼らが何を考え、何に不安を感じ、何をしたいと思っているかをしっかりと対話してきただろうか。一人ひとりの成長を本気で考え、彼らが成長できる場を用意してきただろうか。そうした成長実感を共有し、一体になって働く職場を作ることができただろうか。
 あなたの会社はもしかすると、こうした時代が作り出した30歳代、20歳代の特性を理解しないまま、彼らと本気で向き合っていないかもしれない。だとすると、遠からず、優れた若者から見向きされない存在になるかもしれない。そうなったときでは、もう遅い。

確実に来る若者不足の時代

 ここまで来て、会社というところはそういうものではない、組織として利益を挙げ、株主に還元していくためには、企業という生産システム全体を機能させるために個人が働くのは当然だ、若者のために会社はあるのではない、という批判を受けそうだ。だが、次のデータを見てみていただきたい。

図1/年齢別労働力人口の予測

図2/20歳代の就業形態の変化予測


 リクルートワークス研究所による10年後の就労構造のシミュレーション結果である。図1にあるように、2000年の年齢別労働人口は各世代とも1400万人前後となり、拮抗している。この世代別の人口構成のバランスが大きく崩れる。特にインパクトが大きいのは、20歳代の労働人口の減少である。2000年1456万人が2015年には1012万人に減少する。およそ30%の減少である。これに対して、60歳以上の労働人口が激増する。2000年には920万人であったが、2015年には1275万人に達するという。
 こうした就業形態の変化の中でも、企業にとってインパクトが大きいのは、20歳代の就業形態の変化である(図2)。特に正社員は、1997年1069万人から2002年ですでに825万人、さらに2015年には429万人にまで落ち込むことが想定されている。これを20歳代の労働人口に占める割合で見ると、1997年75.7%、2002年65.9%、2015年46.2%と、大きく低下していく。ただでさえ、少子化で若者が減少する中で、さらに正社員で働く人の割合も大きく低下してしまうという予測である。
 加えて、日本で就職しない人も増えるだろう。海外の大学に進み、そのまま海外で就職する人材も特殊事例ではなくなる。また、転職市場は今以上に進展する。人材の流動化は、若者だけでなく、各世代で広がっていくと予測されている。

 こうしたデータは何を意味しているのか。単純に今よりも若手社員が半減するということではない。もしかすると、若手社員を全く採用できない企業になってしまうかもしれないということである。あるいはいったん採用できても、簡単に流出してしまうかもしれないということを意味している。自らの生き方を考え、成長実感を求めて、前向きに仕事に向かっていこうとする人材を惹きつけ、引き止めることができない企業は、衰退の道をたどるかもしれない。

どうすれば成長実感を生み出せるか

 では、どうすればいいか。特に、新卒一括採用をベースに、長期的な雇用を前提に採用し、組織の生産システムの中に人材を組み込み、その中で組織が決めた役割を果たせる人材を創ることだけに集中してきた伝統的な日本企業は、どうすればよいのだろうか。
 答えは、採用戦略を変えることではない。まず、今の社員を再生することである。成長実感を得ることができず、将来への漠然とした不安を感じながらも、現状に甘んじている30歳代、20歳代の社員と真剣に向き合い、彼らがどうすれば仕事に意味を感じ、仕事にのめり込み、自分で仕事を創り出し、キャリアを切り拓くことができるようになるかを考えることである。なぜなら、この先10年、中核になるべき彼らが今のまま自信を持てず、周囲を巻き込むリーダーになれなければ、次の世代の人材を惹きつけることなどままならないからだ。ではどうすればよいか。

 最初にすべきは、社員一人ひとりと向き合う行動原理を創り出すことである。例えば、ビジョン(V)⇒ 計画(P)⇒ 経験(E)⇒ 学習(L)⇒ ビジョン(V)という成長支援サイクルを創り出し、一人ひとりの成長をナビゲートしていく。自分の成長を会社のビジョンにどう重ね合わせるかを議論し、自分の成長ビジョンを見つけさせ、実際にそのために何をすればよいか、どのような経験を積めばよいかを話し合い、計画に落としていく。そして、担当職務の範囲や期待成果レベルを拡大しながら、飛躍するための大きな経験、チャレンジをさせる。あるいは彼らの意志を引き出し、チャレンジを支援する。そうした経験の積み重ねを、キャリアヒストリー、キャリアマップとして作成し、自分の経験を可視化させる。そうすることで、自分の成長を絶えず確認できるようにする。最後に、こうした経験からの学習を手伝う。自分が経験を通じて何を得たのか、それが次の仕事やキャリアにどうつながるのかを一緒に考えていく。そして新しいビジョンを創り出す。
 固定的な仕組みや制度を作ることが重要なのではない。メンターの役割を担う人と社員との間で、どれだけ親身な対話ができるか、それを実際の組織の動きと整合させ、人材のマッチングができるかだ。一人ひとりの社員と向き合ってこなかった企業では特に、一人ひとりの育成を考える取り組みを行ってみていただきたい。それだけで、社員が前向きになれる可能性はある。

 ただし、上記の取り組みである限り、会社が個人に成長実感を与えるという枠を超えられない。より効果的なのは、各人が自律的に成長実感を得ることができる場へと変革することだ。
 例えば、時間軸を変えてみる。ビジネスのスピード感を変えてしまう。それは業績管理を短期間でするということではない。議論し、判断し、実行するスピードを上げ、走りながら考え、修正し、先が見えたらさらにジャンプするようなマネジメント原理を創り出す。そして、その中で、やりたいことを提案した人にはどんどんチャレンジさせる。そして、その動きと成果をみんなで見えるようにする。状況が厳しければみんなで支援する。そうしたオープンな環境の中で、お互いの仕事が見え、お互いがスピード感を持って仕事をしていく環境に組み替えてしまう。
 次に、空間軸を変えてみる。組織の壁、組織の枠を取っ払ってしまう。誰かの提案に共鳴した人は、役職や組織を超えてチームをつくっていく。バーチャルなチームでもかまわない。垣根を越えて仲間をつくり、議論し合い、ビジネスを仕上げていく。ときに開発から生産、販売へ渡り歩きながら、その商品やサービスがお客に届くまでコミットする。働き方を根幹から変えてしまう。
 重要なことは体感する世界を大きく変えることだ。彼らが感じる仕事の時間軸や空間軸を大きく組み替えることで、新たな仕事のプロセスに巻き込まれ、知らず知らずのうちに「のめり込んでいる」状態にしてしまおうという考え方である。自分の殻に閉じこもり、殻を破ってはいけないと自制してきた人たちを解放する。他部署だけでなく、顧客や競合、外の世界に触れさせてみる。その刺激をフィードバックしながら、成長実感の連鎖を起こしていく。

組織のためのヒトではなく、ヒトのための組織へ

 気がつくと仕事にのめり込み、成長実感を得ながら、自分の力が日々高まっていく。そうした成長実感を加速させる場としての企業は、確実に増えてきている。だとすると、伝統的日本企業はどうすればよいか。これからの人口減少社会の中で、自分たちはどういう人材を必要とし、彼らにどう向き合っていくのか。
 ヒトが減少することを前提に業務体系や仕組みを組み替えるのも一つの手である。若者を必要としない、中高年パワーを最大限活用する組織という道もある。ただ確実なのは、今以上に一人ひとりのヒトが持つポテンシャルを最大化するということが必要になるということだ。ヒトの力を最大限引き出す場に変革するには、何が必要なのか。ヒトのための組織という発想の転換をしてみると、具体的な姿が見えてくるはずだ。

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●高橋克徳 たかはしかつのり/野村総合研究所を経て、ワトソンワイアット株式会社入社。人材活力の再生を目指し、戦略構築、組織改革、人材マネジメント革新に関するコンサルティングに一貫して従事。特に、「関係性のマネジメント」をテーマに、主体的なコミットメントを惹き出すための経営機構改革、コミュニケーション改革、自律創造型組織への変革支援などに注力している。一橋大学大学院商学研究科修士課程、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科博士課程修了。多摩大学非常勤講師。