
|
【巻頭言】 |
. |
事業進化とヒト進化の繋ぎ方
|
||||||||||
![]() |
中島 正樹 |
「良い人材が採用できない」という経営者の悩みが深くなってきた。新規事業を立ち上げるために必要な人材ではない。これまで会社が軸足を置いてきた「本業」を一層強化したいと思ったとき、それをリードできる中核人材が圧倒的に不足しているのだ。
「2007年問題」と言われる団塊世代の引退は、製造業でシステム化や形式知化が難しい技術をどうやって伝承・維持するかという観点から問題視されている。
しかし、それに勝るとも劣らないのが、今後の企業経営を担うマネジメント人材の不足である。「失われた10年」に継続された採用の抑制と人件費関連のコスト削減のなかで、マネジメント候補であった世代には、マネジメント経験の蓄積もトレーニングも構造的に不足してきた。
構造問題であるがゆえに、外部からの採用も容易ではない。そもそも自社が求める人材のスペックも以前より高くなっている。また、自社と同様に他社でも、報酬制度を変えてでも優れた人材を維持しようとしている。一方、高額の報酬でうまく引き抜いても、「報酬だけで動く人材には、会社への長期的な忠誠心を期待するのは難しい」という先入観が払拭しきれず、腰の入った育成ができないケースも多い。
カネ・モノ・情報の調達が格段に容易となった現在、ヒトは成長のカギを握る唯一の「希少資源」となった。今や「優れた人材は外からは採れない」と割り切り、事業を成長させるため「優れた人材をいかに早く内部育成できるか」と課題を設定し直すことが求められている。優秀な人材を早期に育成できる企業が競合優位を握るのだ。
しかし、この「課題の再設定」は意外と難しい。それは、多くの企業で「事業の推進」と「人材の育成」が切り離され、「ゼロサムゲーム」に陥っているからだ。
例えば、急拡大する市場に対応しようと積極的な成長戦略を打ち出したある企業では、業務の効率性を最優先とし、業務を細分化して、専任者が同じ業務をできるだけ多く処理する体制をとってきた。その結果、業務の効率化は進んだが、人材の「多能工化」が進まない、業務全般を視野に入れたマネジメントができる人材がいない、などの問題が、日々成長のボトルネックとして顕在化してきている。
このような場合、解決策として「ローテーション」が検討されることが多い。確かにローテーションは、実施できれば有効な手段となる。しかし、ほんとうにギリギリの人員で仕事を回しているときには、現場のマネジャーは人材育成よりも業務処理のほうに目が行ってしまい、少なくとも短期的には確実に効率性を下げる決断ができないことが多い。結果として、特定業務の専門性が高い人材は揃うが、マネジメント人材は出てこない構造が出来上がることになる。
一方、この構造を防ぐために、マネジメント人材の育成については、部門人事ではなく全社の人事部が担当しようとする例は多い。
しかし、人事部が用意する全社共通の「マネジメント研修」は、事業部門の課題に合わせてテーマを絞り込み、実践的な内容となるように設計しない限り、基礎スキルのおさらい以上の効果を出すことは難しい。研修効果の検証が行われていないケースも多く、メニューばかりが充実しても質の伴わない「研修」に対し、事業部門が「人事部の研修は時間の無駄だ」「人事部は事業部門のことをわかっていない」と対立する構図も少なくない。
このように事業部門が人事部と対立し、「事業推進」と「人材育成」が「ゼロサム」となる構造のなかでは、「事業の成長を生み出す人材育成」と課題設定しても、実質的な取り組みはなかなか進まないのが現状だ。
グローバルな大企業の中には、マネジメント人材の育成を事業の推進からあえて切り離し、人材育成の効率を上げスピードを加速させるプログラムを継続的に実施している例もある。
GEが経営幹部育成の体系的なプログラムを持ち、企業内大学での座学から「育成ポスト」でのアクションラーニングまで、世界規模で展開していることはよく知られている。そのような企業の経営幹部は内部からの登用がほとんどであり、他の企業に対する人材輩出機関ともなっていること、企業業績の成長率も高いことから、マネジメント人材育成の成功例と見ることもできる。
しかし、このようなプログラムは、一定以上の事業規模と人員数があって初めて成立するものでもあり、すべての企業が一朝一夕に導入できるものではない。
別のアプローチはないのだろうか。
ここでは、米国式の経営ツールやシステムを日本流にカスタマイズするアプローチや、「人材進化」を「事業進化」と切り離して進めるアプローチではなく、より多くの日本企業にとって意味があると思われる「事業の進化する起点が人材の進化の起点ともなり、事業の進化と人材の進化とが一体となって促進されるようなアプローチ」について論じることにしたい。
(1)「コアプロセスの革新」による事業と人材の一体進化
「コアプロセスの革新」を基軸とし、事業の進化と人材の進化を一体的に達成しようとするマネジメントはそのオプションの一つである。
「コアプロセス」とは「企業内の業務プロセス全体のうち、顧客に対する価値創造を最大化する上で核となるプロセス」である。企業は、コアプロセスの「再定義・磨き込み」「組み換え」「全体最適化」によって進化をドライブすることができる(※1)。
このコアプロセスの革新は、事業の進化と同時に人材の進化のドライバーともなる。(図1)
|
図1/「コアプロセスの革新」による事業と人材の一体進化 |
![]() |
第一フェーズの「コアプロセスの再定義・磨き込み」への取り組みは、現場担当者および現場リーダー人材の能力を高める。このフェーズでは、各プロセスの中で業務の再定義と標準化、業務マニュアルの作成や進捗管理のルールなどが設定される。業務の範囲と期待成果が明示されることによって、それぞれの業務に求められるスキルが明らかになり、それが担当者のスキルを引き上げるように働く。また、業務の管理や問題解決への指導方法も標準化していくため、現場マネジャーのスキルも高められる。
第二フェーズの「コアプロセスの組み換え」への取り組みは、各部門リーダーに部門横断的な視点を獲得させ、部門間連携によって顧客価値を高めるスキルを向上させていく。このフェーズでは、成果の質と量を飛躍的に拡大するため、既存の業務プロセスの流れをいったん崩し、プロセス間のインターフェイスを再構築することが必要となる。そのため、部門リーダーが「顧客価値」の視点から社内の部門の壁を越え、他部門の活動を踏まえた自部門のマネジメントを行い、他部門と協力・連携する行動が強化されていく。
第三フェーズの「全体最適化」を実現しようとする動きは、トップマネジメントメンバーの全社マネジメント能力を向上させる。このフェーズでは、中長期的な市場動向や技術開発スピードなどの成長の制約条件をにらみながら、コアプロセスのどこにリソースを優先的に投入すべきか、外部のプレーヤーをどのように使うべきか、などが柔軟に意思決定される必要がある。そのため、トップマネジメントメンバーが、全社的かつ中長期的な経営視点から意思決定を行い、目標を確実に達成するための組織マネジメント能力をバージョンアップするよう力が働く。
このように、現場担当者・マネジャー、各部門リーダー、トップマネジメントメンバーの各層が、事業のコアプロセスを次フェーズへ革新しようとする取り組みが、人材も進化へとドライブしていくというコンセプトである。
(2)一体進化を実現する〈場〉の設計と三つの規律による運営
@マネジメントプロセスそのものとなる〈会議〉の設計
このコンセプトを実現するカギになるのは、マネジメントプロセスそのものとして機能する新たな〈会議〉の設計である。すなわち、計画を議論して決定し(Plan)、実行(Do)後の検証(Check)と改善提案(Action)を議論して決定する、という全社的なマネジメントサイクルを回す〈会議〉として設定する。
具体的には、トップマネジメントによる経営計画を部門レベル・現場レベルの計画に展開し、実行した上で、検証結果・改善提案を現場から部門、部門からトップマネジメントレベルへと上げていく、という経営と現場の間のPDCAサイクルをダイナミックに回していく一連のプロセスを、次から次へと進める〈会議〉である。
各層での〈会議〉は、参加メンバーが異なること以外は、基本的に同一のものとして設計する。例えば、議論の進め方は、( 1)これまでの実施の成果の検証、( 2)さらに成果を出すための課題、( 3)その解決策と実行計画、であり、発表者がまずプレゼンテーションを行い、参加者が議論を行い、意思決定で終わる、というやり方である。これをトップマネジメント、部門、現場の各層の〈会議〉で共通に行うのである。
〈会議〉の実施頻度は、現場〈会議〉は毎日から週1回、部門〈会議〉は毎週から隔週、トップマネジメント〈会議〉は毎週から四半期に1回などと、課題種類とレベルに応じ、必要なマネジメントサイクルを回す頻度に合わせて設定する。
A三つの規律による〈会議〉運営:オープン化が人材を進化させる
このシンプルな〈会議〉を事業と人材の一体進化に確実に結びつけるためには、以下の三つのポイントを規律(ディシプリン)として運営することが重要である。
一つめのポイントは、「関係者の全員参加」である。コアプロセス革新の最大の障害となるのは、「既存のものの見方・やり方」と社内でのそのバラつきである。関係者全員の情報を集約し、特定の立場からの偏った見方を排して真の課題を特定し、最も効果的な解決策を検討する。実行計画については、関係者全員がその場でコミットすることにより、実行の足並みをそろえ、スピードと確度を高める。ここまでやっておけば、次の検証段階での課題の発見もより早くできるようになる。そのために「関係者の全員参加」が必要なのである。
二つめのポイントは、「必決(必ず結論を出す)」である。事前の情報共有に加え、議論の進め方を効率化することが「必ず結論を出す」という規律を働きやすくする。このため、説明資料のフォーマットだけでなく、思考のフレームワークも全社的に共有することが有効である。例えば、解決策と実行計画を「戦略+プロセス+システム+人材」というシンプルなフレームワークに落として提示し、必ずこれに沿って議論するなどのやり方がある。このようなフレームワークを持って議論している企業では、会議の生産性が高まるだけでなく、例えば部門リーダーの視野が拡大し問題解決の質が上がってきたなど、人材のレベルアップが見られている。
三つめのポイントは、「オープン」である。関係者の情報とインプットを集約し、意思決定の精度と現場での実行確度を高めることに加え、〈会議〉の「場」のダイナミクスを活用し、人材のレベルアップを図ることがそのキモである。
この〈会議〉は人材の能力が見え、気づきを与える場となる。発表者にとっては認知と評価の場になる。また、議論するメンバーにとっては、他の参加者メンバーからマネジメントとしての資質を評価される場となる。さらに、その他の参加者にとっては刺激を受け、気づきと次の行動を計画する場となる。
例えば、優れた提案をし、質の高い議論を展開した発表者は即座にリーダーとして認知され、他の人材の目標になる。またトップマネジメントメンバーや部門リーダーにとっては、例えば、自部門の業務が関連するのに発言しなかったり、発表者の提案を丸呑みしたりした場合、また最終的な意思決定ができなかった場合には、〈会議〉に参加しているマネジメントの同僚や部下からも、資質が足りないことが明白になる。逆に、提案に対して方向性のズレを明確に示し、真の課題を迅速にとらえ、解決策実行への支援と意思決定を示したマネジメントは、同僚のみならず、マネジメント候補者のロールモデルとなるのである。(図2)
|
図2/「場」のダイナミクスの活用 |
![]() |
このように〈会議〉をオープンにすることにより、「場」のダイナミクスを事業の進化と人材の進化の両方に働かせることができる。
このような形でこの新たな〈会議〉を回していこうと考えると、現在、社内で行われている報告会や情報共有のミーティングのほとんどが重複すると気づく方が多いのではないだろうか。個人の業績評価面談などを除けば、業務運営に関するミーティングはほとんどすべてこの〈会議〉に統合できる可能性が高い。もしそうであれば、既存の会議を順次新たな〈会議〉に統合していけばよい。この〈会議〉での議論と決定事項の実行に集中すればよいのである。
この新たな〈会議〉を定常的なマネジメントの仕組みとして全社的に運営していくことができれば、コアプロセス革新による事業と人材の一体進化に向けて、社内のエネルギーをさらに集約することができる。
本来、事業の成長と人材の成長は一体だったはずである。事業の拡大とともに課題も高度化し、その解決に取り組んだ人材は成長して事業の成長も実現してきた。「会社と自分が共に成長する実感」が自然に感じられた時代があった。
その後、事業の拡大と高度化によって効率性を追求する様々な経営ツールやシステムが導入された。その本質は「分化」であり、部分最適のベクトルが働くことになった。これが部門や階層間に様々な断絶を生み出し、人材の育成も事業の成長とは切り離して考えられるようになった。「事業は人なり」に異論はないが、実際の取り扱いはその他の経営課題に劣後した。
現在の日本企業が不幸だと思われるのは、切り離したものを単純につなぎ直すことで問題が解決するような世界からは、はるかに遠くへ来てしまったことである。「成果主義導入」の嵐を経て、会社と個人との関係や個人の働くことに対する価値観は多様化が進んだ。もはやどんなにうまくつなぎ直しても「全社一丸」や「会社が人生」といった一体感は取り戻せるとは思えない。
だからこそ、別の形で一体感を再構築する必要がある。
そのコンセプトの一つになると考えられるのが〈交響〉である。「コアプロセスの革新」は、事業と人材が〈交響〉して進化するための「主題」であり、オープンな〈会議〉での議論と「場」のダイナミクスはこの「主題」を「展開」し、組織に響かせる「和音」となる。
よく〈交響〉する組織は、事業も人も進化する組織となるのではないだろうか。〈交響〉によって、事業と人材の新たな一体感を生み出す組織を創り出せる企業が、人材の進化によるフルポテンシャルを事業の進化につなげられるように思われる。
| トップへ戻る ▲ |
(※1)詳細は拙著「『進化』をデザインする経営モデル」(2004年8月、ワトソンワイアットレビュー29号)を
参照
▲本文に戻る