【巻頭言】
正々堂々 恥じず媚びず誇らしく
楽顔・美顔・誇顔 溢れるカイシャ

1.
世界中で「本気」が飛び交うカイシャ
異文化の壁をよじ登る人たち
   
2.
矛盾のマネジメント
生きる力を引き出す

3.
笑えるカイシャ
笑う門に福来る
   
4.
「女性を活かせるカイシャ」考
女性の多様性と向き合う

5.
良いヤクショ
職員の条件と人材マネジメント
   
6.
IT企業で働く人たちの喜びのツボ
どこにあり、どう押すか

7.
心に火が点くR&Dマネジメント
技術者と会社の協働キャリアづくり

8.
〈良い組織〉を作れ
個の力を組織に展開するマネジメントプロセスの革新

9.
「握り」が引き上げるM&Aの期待成果
仏に魂を入れる組織能力の開発

10.
アジア人材を育成する「良いカイシャ」に

11.
中国・アジアにおける「日本企業ブランド」を考える
アジアの人材をひきつける日本発の人材マネジメントのあり方

12.
社員にとってホントに良い報酬
愛のあるお金の流れを作り出せ

13.
報酬における経営者満足は「良いカイシャ」につながるのか

14.
飽きないカイシャの見えない仕組み
これからの日本型「良いカイシャ」の条件

15.
年金設計に込める「良いカイシャ」と言われるための思い

【心理学ゼミナール】
人材論が根本から変わる

【巻末言】
「良いカイシャ」原論
日本企業は特異点を目指すのか
   

.

中国・アジアにおける
「日本企業ブランド」を考える
アジアの人材をひきつける日本発の人材マネジメントのあり方

 

鈴木 康司

1. 採用の視点から見た「日本企業ブランド」

 中国・アジアに展開する日本企業にとって、採用は実に頭の痛い問題である。
 マーケティングやITのような専門性や知識・経験が求められる職種については、募集をかけても、なかなか人材が集まらないし、処遇(給与)面で折り合いがつかずに採用できないケースも多い。

 また、マネジャー(課長)クラスについても、同様の問題がある。仮に採用したとしても、日本企業の価値観や仕事の進め方等になじめず、すぐに辞めてしまうケースも多い。
 中国・アジアにおける、エグゼクティブ・サーチ(エグゼクティブクラスの人材紹介会社)にヒアリングをすると、「日本企業への就職を希望する人材は少ない」と、きっぱりと言われてしまう。
 日本企業の場合、処遇(給与や福利厚生)面で、欧米系に比べて見劣りすることも大きな要因だが、それ以上に、「日本企業に勤めても、結局は日本人駐在員がトップにいるため、頭打ちになってしまう」と思われているからである。

 これらの状況を見る限り、人材の採用面において、日本企業は「トップブランド」ではないと言わざるをえない。
 欧米での留学経験を持ち、英語が堪能な人材は、こぞって、欧米系企業での就職を目指す。
 中国・アジアの人材は、自分の腕を磨いていきたい、という意識が強い。それをプロ意識と呼ぶかどうかについては、議論が分かれるところだが、少なくとも、「有名な大手企業に長期間勤めたい」という意識は希薄である。その意味で、「就職」意識が強く、かつての日本の人材市場のように、「就社」意識を持つ人材は少数派であろう。

 ただ、大学を卒業して間もない、まだ経験がない人材(新卒レベル)であれば、日本企業に勤めたい、という人材も相当数いる。しかしながら、一定期間、日本企業で働いたら、そこで培った経験を武器にして、欧米系企業に転職しようとする人材も、残念ながら多いのも事実である。

 現時点では、日本企業は、マネジャークラスの人材マーケットから見れば「トップブランド」ではないし、若手社員(新卒)レベルから見れば、「欧米系企業に転職するまでの、教育機関」という位置づけになっているといえよう。

2. 日本企業は「ブランド」ではないのか

 しかし、初めから、日本企業は、そのように見られていたのだろうか。
 日本企業の製造業が中国・アジアに進出した当初の目的は、「アウトソーシング」であった。人件費の安いアジアの国々で生産を行うのが主な目的であった。
 しかし、アウトソーシングが目的であったとしても、商品の輸出先は日本や欧米がメインであり、「品質」を落とすわけにはいかない。そこで、日本から様々な技術移転がなされ、ローカル人材の育成が図られた。
 また、家庭の事情によって、高等教育を受けられず、オペレーターとして入社した人材であっても、その人の実力が認められれば、上位役職に登用されていった。
 日本人にとっては、「当たり前」のことかもしれないが、日本以上に階層による「差」が大きい「アジア」においては、画期的なことであったといえよう。その意味で、日本企業が、アジア各国において、社会階層の変化(下から上への上昇)を促す役割を果たしていたといっても過言ではない。
 日本企業に勤めれば、生活の保障がされるばかりではなく、実力があれば、管理職になることも夢ではない、という、「日本企業ドリーム」があったはずである。
 まさしく、日本企業が「ブランド」として認知されていたのである。

 しかし、1990年代、そして2000年代になり、企業の国際化・グローバル化の流れが進むにつれ、日本企業は「採用」面でのブランド力を失っていってしまう。

 日本企業のビジネスモデルにおいて、「海外」の重要性は高まり、特に中国・アジアは、これからの成長を考える上で、無視することのできない、重要なマーケットになった。
 「B to C」ビジネスの場合は、中国・アジア市場に対して直接営業・販売していくために、物流・営業・マーケティング・販売体制を整備しなければならなくなった。また、中国・アジアの消費者に受け入れられるための「商品開発」も重要になった。
 これまで、「生産」をメインの役割としていた現地法人が、短期間のうちに、開発・生産・営業・物流等の一連の機能を持たなければならなくなったのである。
 それは、「B to B」をメインとする企業にも影響を及ぼす。顧客である「B」が、その機能を大きく変化させていくことに合わせて、提供する商品・サービスも変わらざるをえない。

 こうした変化に伴い、工場における「生産」を担う人材だけでなく、その他の機能を担う人材が必要になるにつれ、日本企業にとって、「採用」がボトルネックになり、今に至っているといえる。

 ただし、実際、今でも、工場におけるオペレータークラスについては、相対的に、人材の確保・調達がそれほど困難ではない状態である。そして、オペレータークラスにとっては、日本企業に勤め、そこで昇格していくことに喜びを感じている人材も少なからずいる。
 日本企業が果たしてきた、「社会階層の変化の促進」という役割は今でも健在である。

 したがい、これからは、「生産」機能を中心として、日本企業が培ってきた「強さ・経験」は引き続き維持していく必要がある中で、「生産」以外の機能を担う人材(マーケティング・研究開発等)に対する「ブランド」を構築していかなければならない、という問題に直面しているといえる。
 つまり、地道に技術・経験を積み重ねていく人材をマネージする仕組みと、プロ型の人材(就職意識を持つ人材)をマネージする仕組みの両方を考える必要がある。この場合、どちらか一方だけを見て仕組みを考えてはビジネスそのものが混乱してしまうため、両者のバランスを取ることがカギであるといえよう。

3. 日本企業の「良さ」を再定義する

 では、ブランドを再構築するために、中国・アジアに進出する日本企業は何をすればいいのだろうか。

 少なくとも、職務分析・調査をしてみたり、業績評価の仕組みを変える、というように、「人事制度」だけを変えることでは解決できないことは、おわかりいただけるかと思う。

 ブランドの再構築のためには、二つの視点から、取り組む必要があると考えている。

(1)人材へのコミットと価値観の徹底
 中国・アジアに進出する日本企業に対して、ローカルスタッフから、「今、勤めている日本企業は、本当に、この国で、真剣に取り組んでいこうとしているのか」という声を耳にすることがある。
 日本本社では中長期的な雇用を前提として正社員が採用され、教育・研修等の様々な「場」や「機会」が提供されていることは、ローカル社員であればほとんどの人が知っている。しかし、ローカル社員にとってみれば、「自分たちは、そのような機会が提供されていない」と思い、「結局、日本企業は、日本人優先である」と限界を感じてしまう。

 駐在員の中には、熱意を持ってローカル社員と直接触れ合い、真剣に人材育成を行っている人も多いが、残念ながら、個人レベルでの活動には限界がある。
 「企業にとって、ヒトこそが資産である」という価値観は、どの日本企業にも通じる価値観であるが、それが中国・アジアのローカル社員に伝わっていないのが実態であり、駐在員個人の力量に依存するのではなく、企業として「仕組み」を構築する必要性があると考えている。

 海外のローカル社員を対象とした研修や教育の機会を設けるのは一つの方法であろうし、これからは、ローカルレベルだけではなく、リージョン(地域)レベルでの人材活用の方法も考える必要があろう。
 同時に、その企業が持つ、哲学・価値観を言語化して浸透させていくことも重要になる。
 いくら、経験や技術をもっていたとしても、その企業の根幹である哲学・価値観をしっかり浸透・徹底させていかないと、「現地化」を進めることは難しい。

 日本企業に勤める社員は国籍を問わず、同じ仲間である、という姿勢を明らかにしていくためにも、中国・アジアの「人材」に対してコミットしていくことが求められている。

(2)中長期的な視点からの業務プロセス・人員体制の見直し
 同時に、ビジネスモデルの変化に応じて、これまでの業務プロセス・役割、あるいは、人員体制も変化させていく必要がある。
 とりわけ、駐在員の役割の見直しが重要である。
 日本国内であれば、ミドル(課長・主任クラス)の人材の「層」が厚く、彼らがロールモデル(手本)となって、周囲をリードし、育成する役割を果たしている。中国・アジアでは、ミドルの人材の「層」は相対的にあまり厚くないのが実態であり、人材育成のカギは、ロールモデルとなる駐在員の存在にかかっているといっても過言ではない。

 しかし、日本本社においても、海外駐在の要員数が潤沢でないケースが多く、実際には、マネジメント経験のない人材を駐在員として派遣したり、あるいは、日本人社員の育成目的で駐在員として派遣するケースもある。
 一方で、ビジネスは変化のスピードが激しく、日常のビジネスも高度化しているのが、今の中国・アジアの実態であり、少なくとも、日常のビジネスはローカル社員のほうがはるかに精通している。
 そのような状況において、経験が十分ではない駐在員が派遣されても、(駐在員本人にとっては良い経験になるかもしれないが)ローカル社員から見れば、メリット(得るもの)は少なく、時として、ローカル社員を混乱させることにもなる。

図1

 日本本社との「窓口」としての駐在員の役割は今後も残るだろうが、駐在員そのものの果たすべき役割を見直す時期がきている。「これまでも、このポジションは駐在員が担ってきたから」という理由だけで、駐在員を派遣し続けることは、そろそろ見直すべきであると考える。

 駐在員の派遣についても、選択と集中を推進していくべきであろう。図1に示したように、各企業において、コアビジネスをリードしていく領域に対して駐在員を重点的に配置していくべきであり、ビジネスとしてある程度、「回っている」部分については、ローカル社員にまかせていく、というように、「腹をくくる」ことも、これからの企業運営・経営においては、避けては通れない問題になっているといえる。

4. 最後に(多様性をマネジメントするためのポイント)

 以上のような観点から検討を行った後はどうするのか。実は、上記に述べたポイントは、ブランドを構築していくための基盤整備をすることにほかならず、「ヒト」の面でのブランド力を高めるには、それだけでは不十分である。(図2)

図2

 次に検討すべきことは、その企業で働くことを通じて、「どれだけワクワク感を持てるか」、「会社の成長とともに、個人がどれだけ成長できるか」という「キャリア面での夢・期待」であろう。

 自分たちが取り組んでいるビジネスが持つ社会的意義(貢献)を明確化すると同時に、それに取り組むことが、社員個人のキャリアにおいて、どのような意味があるのか、ということも伝えていくことが求められよう。
 これは中国・アジアだけの問題ではなく、日本国内でも共通する問題であろうが、就社意識よりも、就職意識の強い人材をつなぎ止め、育成していくためには、避けて通れない重要な問題である。
 これから、日本では、少子高齢化・人口減少という、これまでに経験したことのない時代を迎えようとしている。
 「日本企業=日本人、正社員、新卒」という図式だけでは、もはや成長・拡大を続けるのが困難になるのは自明であり、「日本人に、とらわれず、様々な国籍の人々」「正社員だけでなく、様々な雇用形態の社員」「新卒だけにとらわれない人々」をマネージしていくチャレンジを受けようとしている。
 「多様性のマネジメント」こそが、これからの日本企業に課せられたキーワードになるであろう。

 そのためには、ブランド構築のための基盤整備を行い、「価値観」を共有すると同時に、多様な人々と「ワクワク感」を共有し、同じゴールに向けて共に進み続けることこそが、多様性のマネジメントのための第一歩ではないかと考えている。

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●鈴木康司 すずきこうじ/東京大学法学部卒業後、住友商事(人事部)を経てワトソンワイアット株式会社入社。日本における人材マネジメントシステムの設計、導入支援に関するコンサルティング業務を経て、2001年より、中国・アジアに展開する日系企業の組織・人材面でのコンサルティングに従事。2004年からは、ワトソンワイアット・ジャパンデスクを中国(上海)・タイ(バンコク)・に開設し、同社コンサルタントのキャメルヤマモト、森田純夫らとともに本格的に中国・アジアにおけるコンサルティング活動を展開。ジャパンデスクとして「グローバルにおける日本企業の勝ち方」を研究・模索中。現在、日本(東京)、タイ(バンコク)、中国(上海)、フィリピン(マニラ)等の複数拠点をベースにしつつ、アジア各国での活動を拡大している。著書に『中国・アジア進出企業のための人材マネジメント』(日本経済新聞社、2005年8月)、「目標管理制度のための面談の進め方」(監修、日経ビデオ)。