【巻頭言】
コンピテンシーとは何だったのか

1.
コンピテンシーからコラボレーションへ
個人の競争力から共創力へ
   
2.
ポテンシャルを解放せよ
これからのハイパフォーマンス・オーガニゼーション

3.
タクミン(匠民)とジプロン(Gプロデューサー)
個人が国際的ネットワークを作る力
   
4.
アジアでのリーダー人材育成を考える
コンピテンシーと組織影響力からのリーダー育成

5.
組織のリズム・個の交響
ワールドカップに見た個と組織のマネジメント
   
6.
寄る辺なき若者への居場所マネジメント
大人だからこそ、気にかけてあげたい若者の心

7.
人生100 年。のキャリアコントロール
Web世界に学ぶ成果主義のゆくえ

8.
信じる姿勢
「あとは何とかする力」の高め方

9.
「レベル3人材」の評価と「レベル4人材」の発掘
コンピテンシーの限界と知的好奇心への着目

10.
現場感覚のあるR&D
自分は何でメシを食わせてもらっているのか

11.
人を丁寧に扱う人になる
必要な想像力はそこから始まる

【巻末言】
グリーンパワーの時代

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ポテンシャルを解放せよ
これからのハイパフォーマンス・オーガニゼーション
 

 

永田 稔

 僕がスケートを続ける理由は、メダルを取りたいとか、他人に勝ちたいとかそういうものではないのです。……自分自身への探求心というか極めたい気持ちというかそのような気持ちで続けているのです……。

 スピードスケートの清水選手は、自らがスケート選手を続ける理由をこのように述べている。金メダルを取った後も、競技を続ける理由は自らの内に湧き出る探求心、チャレンジ心がその源であると。いかに自らの限界を超えていくのか、その一点に彼の取り組みは絞られている。そのために、自らの肉体を知り、トレーニング方法を研究し、氷や競技環境を知り、というように「自らを超えたい」という思いを原動力に彼は動き、能力は絶え間なく高められている。その様子は能力を常に高めるエンジンを内に持っているようである。この内に持つ能力革新エンジンこそ、彼の本質部分ではないだろうか。これは、清水選手だけでなく、イチロー選手や松井選手のような一流のアスリートに共通する「エンジン」である。彼らにとって、能力とは決して固定的なものでなく、常に革新の対象であり、実際に革新し続けるものである。彼らから観察できるのは、一般に言われるようなやる気やモチベーションというレベルのものではない。もっと深い人間の根源的な欲求や本能レベルのものであり、生そのものである。彼らは「ストイック」に見えるものの、それは決して「辛そう」ではない。ストイックに追求をしながらも、その過程を楽しみ、そのような自分を愛している様子が窺える。その様子は、「生」の喜びを強烈に感じさせるものである。

 これは企業経営や人事にも示唆を与える。大切なことは、必要な能力を示すことではなく、能力を高めるエンジンを会社や従業員の内に持つことであろう。

 革新し続ける企業とは、組織と個が相互に能力革新エンジンを持ち、好循環となっている企業である。企業は、個に対し、能力を高める意欲をかき立て、能力開発の環境を整備し、開発の手助けを行う。一方、個人は、企業に参加することで、その能力発揮の機会を得、その能力を試し、自らの能力を探求してゆく。その個人の探求の集積が、企業の能力開発環境そのものを構築していく。

 このエンジンを会社として持つことは、今後企業が人材を引きつける上で重要な要素である。現在、企業と個人の関係は劇的に変化をしている。個人へのパワーシフトはネットという情報インフラの進展や経済の成熟化、仕事への価値観の変化により、個人が企業を選ぶ行為や基準が変化をしている。従来、一部のハイパフォーマーやタレント人材に限られていた「企業が選ばれる」傾向は、今後ますます拡大をしていく。それでは、「選ばれる」「能力革新エンジン」を持った企業とは、どのような企業であろうか。

能力革新エンジンの核

「意義」の大切さ
 個人を引きつけ、その能力を主体的に引き出すためには、「なぜこの企業に勤めるのか、なぜこの仕事をするのか」についての深い共鳴がなければならない。社会との接点が多様化し、働き方の選択肢が増え、その情報が共有されるにつれて、個人は自らが属するコミュニティへの「意義」を求めてくる。従来は、会社コミュニティが中心であったが、多様なコミュニティに参加する機会が増えたことにより、なぜこの会社なのか、なぜこの仕事なのか、自分はどの程度これらにかけていくのかの自問自答が個人の内で起こってくる。この個人への期待に応えるためには、企業は自らの存在する理由を明示し伝えなければならない。「自分たちは何者で、どこに向かうのか」、企業の存在意義を理解してもらう努力が今ほど必要な時期はないだろう。この存在意義の存在により、共鳴する個人が集い、各人は自らの限界を超えて挑戦しようとする。「自分がここでとどまれば、存在する理由がなくなる」、その思いが最後の一頑張りにつながっていくのではないだろうか。
 企業の存在意義は、社史や壁の張り紙にとどめるものではない。それは、日常のマネジメントの随所に現れているものでなければならない。顧客のクレームに対する態度や取引先への交渉の仕方ひとつをとっても、存在意義と反しないかをチェックしていく必要がある。その浸透により、個人は、その企業に参加することを誇りに思い、意義実現のために力を傾け、その能力を革新していくのである。

「ポテンシャルの発掘、発見」
 能力革新エンジンの第二の核は、個人の潜在能力の発掘環境の整備である。従来までの人の能力に対する企業の態度は「評価をする」という態度であった。特にここ数年、企業は求める能力を提示し、それを満たしたかどうかという一方向に流れていた観がある。一方、冒頭に述べた一流の選手たちは、一様に「ポテンシャル」という言葉を使う。彼らは、いかに自分の潜在能力を最大限に引き出すかということに強い関心を持っている。清水選手に至っては、肉体のポテンシャルを最大限に発揮するためには、脳に対する働きかけを行うという段階にまで至っている。ここまでには至らなくとも、企業は各個人の潜在能力を本当に引き出しているのかどうか、今一度確認をする必要があるだろう。場合によっては、企業の環境そのものが、個人の潜在能力を発揮する上での制約になっている可能性もあるだろう。そのような企業に個人は集まらない。個人は企業に参加することで、自らも気づかなかった潜在能力を発見され、開発機会を得ることにより、その企業への参画意識は高まるはずである。「押しつけの評価」でなく、個人個人を見据えたポテンシャルの発掘、発見の手助けが人材を集め、人材の能力を革新していくのである。
 企業は、このような発掘、発見の経験が集積する場である。多様な人材が集い、その能力を発揮する中で、企業内にはこの人はこのような能力を備えているのではないかという「人の目利き」力が経験知として蓄積しているはずである。この経験知を最大限活かし、人のポテンシャルを発見することは人への関心が高かった日本企業の強みであろう。「行動を確認し、ポテンシャルを推測し、発現の機会を与え、確認をする」という一連の能力革新のサイクルが機能しているかどうかを再確認する必要がある。

「出会いのデザイン」
 第三のエンジンは「出会いのデザイン」である。人の能力の開発は、他の人や場との出会いが大きな影響を持つ。他の人と出会うこと自体が経験として蓄積されると同時に、出会うことで他の人が持っている経験知や思考から刺激を受け、学ぶことができる。ある会社では、ハイパフォーマーが成果を出す様子をビデオに収め、マネジャーの研修に利用している。そのビデオの中で、ハイパフォーマーは物事の考え方や見方、実現に至るまでの行動をつまびらかにしている。このビデオを見たマネジャーの反応は、興味あるものであった。「初めて、成果をだす行動というものがわかりました。……今まで隠されていたものが明らかになった感じです」ということであった。このマネジャーはこのビデオを通じて、出会い、刺激を受け、学んだのである。これは一つの簡単な出会いの例であるが、企業は企業自体が持つ出会いのポテンシャルを活かしきれていない。従来までの出会いは、偶然であり、制約をされていた。「誰が上司になるかが問題だよな」はまさに核心をつく言葉である。この制約を外すことにより、企業は個人の能力革新を促すことができる。企業の中の人が深いレベルで出会い、刺激を受けることは、他のコミュニティではなしえない企業コミュニティ独自の強みである。人の能力開発に影響を与えるような「出会い」を意図的にデザインすることが今後の企業には求められるのである。

 「意義づけ」「ポテンシャルの発見」「出会いのデザイン」。これらが能力革新エンジンの核である。これらがつながり合いながら、個人と企業双方がその能力を高めていくのである。

 ここまで書いて気がついた。

 これらの一連の能力革新エンジンの構築を行うことは、企業自身のポテンシャルの再確認ではなかろうか。

 企業とは何か。そのポテンシャルとは何か。そこには従来の企業とは異なる可能性が存在しないか。

 「ポテンシャルを解放せよ」

 この言葉は、個人よりも、まず先に、企業に向けられるべきものかもしれない。

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●永田稔 ながたみのる/松下電器産業、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経てワトソンワイアット株式会社に入社。ビジネスモデル、組織モデル、人材マネジメントモデルを一体としたコンサルティングに従事。一橋大学社会学部卒、カリフォルニア大学ロサンゼルス校にてMBA を取得。