【巻頭言】
コンピテンシーとは何だったのか

1.
コンピテンシーからコラボレーションへ
個人の競争力から共創力へ
   
2.
ポテンシャルを解放せよ
これからのハイパフォーマンス・オーガニゼーション

3.
タクミン(匠民)とジプロン(Gプロデューサー)
個人が国際的ネットワークを作る力
   
4.
アジアでのリーダー人材育成を考える
コンピテンシーと組織影響力からのリーダー育成

5.
組織のリズム・個の交響
ワールドカップに見た個と組織のマネジメント
   
6.
寄る辺なき若者への居場所マネジメント
大人だからこそ、気にかけてあげたい若者の心

7.
人生100 年。のキャリアコントロール
Web世界に学ぶ成果主義のゆくえ

8.
信じる姿勢
「あとは何とかする力」の高め方

9.
「レベル3人材」の評価と「レベル4人材」の発掘
コンピテンシーの限界と知的好奇心への着目

10.
現場感覚のあるR&D
自分は何でメシを食わせてもらっているのか

11.
人を丁寧に扱う人になる
必要な想像力はそこから始まる

【巻末言】
グリーンパワーの時代

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【巻末言】
グリーンパワーの時代
 

 

ワトソン ワイアット株式会社
代表取締役社長
淡輪 敬三

 ある20歳代のITベンチャー企業の経営者は、「IPOには全く興味がない。ベンチャーキャピタルからの出資の申し出も多いがすべて断っている。銀行とも付き合わない」と言う。きわめて革新性の高い製品やサービスを次々と開発し「グーグルはダサい」と言い放つ。そして「アキバ系」と言われることに胸を張る。
 給与レベルは魅力的とは言いがたいが、個性の強い若者が吸い寄せられるように集まってくる。独自のデジタル技術をベースとした、様々なアートとビジネスのプロジェクトに100人あまりのメンバーが渾然一体となって猛烈に働く。何の規制も思考の妨げもない。自然体で自由でエレガントな若い組織である。
 一方で、長い歴史を持つ、伝統的な日本企業の経営者が事業のグローバル化に取り組んでいる。自身も海外拠点の経営に長年関わってきたトップから見た、自社の最大の課題は次世代リーダーの開発である。しかも開発の主眼は「人間力」と言い切る。
 ハーバード大学のビジネススクールにODYSSEYプログラムという研修がある。主にハーバード出身のバリバリな経営者のための「第二の人生」設計をサポートするプログラムである。主要なテーマは「The“I am”Activity」と呼ばれる、「自分は何者か」を再発見するプログラムである。「自分はどのような人間なのか」「自分は何をしたいのか」「自分はどこへ行こうとしているか」について自ら答えを捻り出すことを徹底的に求められる。
 この三つの事例はなんら相互に関係のないもののように見える。しかし、根底に流れる「潮流」の変化は明確なのではないだろうか。先端的な知的価値創出の競争では、従来型の資本主義の成功パターンでは勝てなくなっている。今、先進的なマーケットでは「経営」の原理原則そのものが大きく変化し始めているのである。

組織・人材モデルの「第三フェーズ」

 第一フェーズは多くの物質的豊かさを求める人材と、その消費市場の拡大に合わせ供給力を増大する企業群からなるモデルである。まさに高度成長期の日本の姿であり、今の中国や多くのアジア諸国、BRICsの経済圏がこの段階にある。また、アメリカの成長エネルギーの源泉もメキシコ国境を越えて流入するヒスパニックや、中国、インドから集まってくる「第一フェーズ」人材が主役である。「アメリカンドリーム」は貧しさの裏返しなのである。
 第二フェーズの組織・人材モデルは、プロ型モデルと言われるものである。多くの日本企業が属しているフェーズである。個々人の自律性が向上し、企業との関係がより対等になっていく。このため、個々人のキャリア形成が重視される。企業は、求める人材像を明確にし、その目標に向かって力量を開発する場の提供を約束する。個人は、自らコンピテンシーを開発し市場価値を高めることにコミットする。
 年功的な従来の人材モデルから、この第二フェーズモデルへの変革を試みている状況が、日本企業の「成果主義」の時代である。企業サイドが主導する、自律した「個」の開発を目指した試みである。イノベーションか、縮小均衡かを迫られた企業の生き残りをかけた変革である。
 しかし、豊かな環境で育った20代の人材の多くが、キャリアや市場価値といった言葉に反応しない。その概念から、「貧しい」第一フェーズの匂いを嗅ぎ取るからである。ピンとこないのである。キャリア志向は、基本的に多くの働く人が未だ満たされない時代に、安定して高い社会的認知を得て、経済的な見返りも大きな道筋を提示しているにすぎない。豊かな世代に決して「格好いい」ものには見えない。
 そこに必然的に生まれてくる組織・人材モデルが「第三フェーズ」である。“ヒト3.0”の経営モデルである。個々人が「格好いい」「大好きである」「ワクワクしてハマって時間を忘れてしまう」「互いに刺激して楽しい仲間がいる」状況を作り出し、「業績」と「エキサイトメント」を高いレベルで両立させる経営である。

「ブルーパワー」と「グリーンパワー」

 第二フェーズの人材マネジメントの主役は「コンピテンシー」である。私は、コンピテンシーで測れる価値創出力を「ブルーパワー」と呼んでいる。「ハード」なイメージが強く、競争力を高めるために「研ぎ澄ましていく」性質が強い。場合によっては「非人間的」な要素が高い成果を生み出す源泉になることもある。
 一方の「グリーンパワー」は、「人間力」「器(うつわ)」「魅力」といった言葉で表現されるものである。そのベースには、歴史観、地球観、宗教観、哲学や文学、人間への深い洞察など、多様な知識と知恵が必要である。自分の信念を自分の言葉で語り、どんな状況でも軸がぶれない。一種の人間としての「成熟レベル」に到達しないと得られないパワーである。特に、地球環境への洞察力が求められ、多様な人間への深い共感が重要な要件となることから、「グリーン」をイメージカラーとして選んだ。
 前述したように、第二フェーズでのリーダーに求められる要件は、ブルーパワーである。しかも、その人独自の競争力をもつ、コンピテンシーレベルでいえば「レベル4」の人材であることが必要条件である。組織ビジョンを定め、戦略方向を示し、望む人材像を提示し、高いレベルの成果行動をとるように動機付けていく。自律した個人を求めるものの、あくまでも「組織が主体」の変革モデルである。
 これに比べ、第三フェーズの組織・人材モデルに求められるリーダーの要件は「グリーンパワー」である。ただし、その前提として「ブルーパワー」のレベルは当然高い。両パワーを高いレベルで発揮できて初めて第三フェーズのリーダーの必要十分条件を満たすことになる。

なぜ「グリーンパワー」が決め手なのか

 第三フェーズのモデルは、インターネットインフラと相まって、やすやすと国境を越えていく。個人の「好み」も常に変化し進化していく。放っておけば、非公式なサークルやコミュニティに分化したり、消えてまた生まれるような「流動化」が進む。それでは、「ワクワク感」は得られても、一定の安定感のある「業績」との両立は不可能である。
 したがって、リーダーに求められるものは多様な国籍の個性豊かな人材を共有可能な価値観で結び、一定の方向へとベクトルを合わせられる、「求心力」の創出である。グリーンパワーによって、「人間」の本質を理解しがっちりつかめるからこそ、中国人もインド人もユダヤ人も仲間として包含し、突出した能力の発揮の場を作り出せるのである。

 未だにこの第三フェーズのモデルを極めた組織は見当たらない。初期のグーグルはこのモデルに近かった可能性が高い。しかし、今のグーグルは明らかに違うモデルである。また小規模なIT ベンチャーにこのモデルの原型が見られることがあるが、サイズが大きくなると維持できなくなる。
 私は、「豊かな日本」が真っ先にこの第三フェーズ組織の完成版を生み出す可能性が高いと考えている。私自身もこの新たなモデルの創造に貢献したいと願っている。

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●淡輪敬三 たんなわけいぞう/ワトソンワイアット株式会社代表取締役社長。NKK、マッキンゼー・アンド・カンパニーのパートナーを経て、1997年より現職。戦略、組織、人材を一体で改革する変革マネジメントが専門。東京大学工学部航空学科修士課程修了、スタンフォード大学修士課程修了。