1.
敗者のゲームを超えて
年金新時代
   
2.
ゼロからのリスク・バジェッティング

3.
年金新時代における運用戦略の新機軸
LDIがもたらす運用戦略の多様性
   
4.
なぜダイバーシティか

5.
ダイバーシティの導入
収益性と確実性を両立させた年金運用の実現
   
6.
ダイバーシティ戦略と年金ガバナンス
3者で成し遂げよう、付加価値創造!

7.
「ベータ」と「アルファ」再考
安い「ベータ」と頼れる「アルファ」

基礎講座
多様化するパフォーマンス測定尺度

.

ダイバーシティの導入
収益性と確実性を両立させた年金運用の実現
 

 

五藤 智也

1. はじめに ― 現状の年金運用の課題とダイバーシティ

 今、年金運用に求められている課題は、収益性と確実性を両立させるということであろう。
 では、なぜ、現状の年金運用は、収益性と確実性の両立がうまくできていないのであろうか。
 図1は、現状の運用戦略を示したものである。まず、債務を意識していないため、年金運用が不安定な状態で行われている。そして、年金運用の大部分が、市場リターン、特に株式市場のリターンに依存している。建物で例えるならば、土台となる基礎工事を適切に行わずに、1本の柱だけに頼ったビルとなっているのである。このように、収益性と確実性が両立できていない理由は、債務を意識していない運用であること、そして、株価頼みで市場に振り回されている運用であることである。
 このような状況を解決するには、図2のように、マッチング部分で債務に対するリスクを低減し、リターン追求部分で債務に対するリターンを追求するというLDIとダイバーシティを融合した新しい運用戦略が必要となる。
 ここでは、ダイバーシティという新しい運用戦略に基づいて、どのように収益性と確実性を両立させるのかについて考えていく。

図1/現状の運用戦略     図2/新しい運用戦略:
                      LDI とダイバーシティの融合


2. ダイバーシティとリターン・ドライバー

 現状の年金運用は、取っているリスクが株式に非常に偏っており、リターンが株価頼みであるため、長期的な収益性は高いが、効率性が高いとは言えず、確実性とは程遠い状態である。この状態を改善する方法がダイバーシティという新しい運用戦略である。
 ダイバーシティとは、リスクの取り方の偏りをなくし、リターン・ドライバー(収益源泉)を多様化することにより、収益性と確実性を両立させることである。
 リターン・ドライバーとしては、図3のような五つがある。
 現状の年金運用の市場リスクの中の株式リスクに非常に偏った状態を改善するため、図3のメイン・ドライバーのうち、株式・債券以外の市場リターンとスキルを追求することが必要である。そのためには、図4のように、サブ・ドライバーである流動性、クレジット、長期の時間軸を有効活用することが重要となる。

図3/五つのリターン・ドライバー(収益源泉)


図4/リターンドライバーの多様化



3. ダイバーシティの導入と取り組みやすい分野

「古い井戸を捨てるのはよくない。枯れたらしようがないが、
使いながら新しいのを掘る」
イビチャ・オシム


 図5は、弊社の英国のクライアントのポートフォリオであり、リターン・ドライバーを多様化することによって、収益性と確実性が派生的マンデート両立されており、ダイバーシティを活用した運用戦略の最終目標となるようなポートフォリオである。このような運用には、極めて高いガバナンス・レベルが必要であること等から、現状の運用から一気に移行するのは非常に難しい。

図5/ダイバーシティの追求:英国のクライアントの例

 オシムの言葉のように、現状の運用を一気に変えるのではなく、徐々にダイバーシティを取り入れていけばいいのである。
 では、具体的にはどのような分野から、ダイバーシティを導入すればいいのであろうか。
 実際にダイバーシティを導入する際には、図6にあるような、四つの分野が取り組みやすい分野として考えられる。そして、これらを導入することにより、表1のように、リターン・ドライバーを多様化させることが可能となる。

図6/取り組みやすい四つの分野


表1/取り組みやすい分野の具体例


(A)既存の運用の派生的な分野
 まず、既存の株式・債券運用の延長線上に位置するような分野が取り組みやすいであろう。延長線上にある分野としては、以下の二つが考えられる。

@ 派生的マンデート
 株式・債券への投資であるが、現状とは異なる進化した運用手法を導入する。
 例としては、従来の債券アクティブ運用よりも、付加価値源泉を多様化し、より高いアルファを狙う手法であるハイ・アルファ債券運用、長期絶対リターン株式運用、ノン・プライス株式運用等がある。

A 派生的資産
 株式・債券への投資であるが、現状のとは異なる市場での運用を導入する。例としては、従来の債券運用では投資していない投資不適格の債券市場に投資するハイ・イールド債、発展途上国の債券市場に投資するエマージング債等がある。

(B)新しい分野(オルタナティブ)
 現状の株式・債券以外の新しい資産、一般的にオルタナティブと呼ばれている分野に投資を行うことも、ダイバーシティを導入する一つの方法であるが、新しい資産を導入するのは、スポンサーにとっては難しいことである。その中で、取り組みやすい分野として、以下の二つが考えられる。

@ パッシブで導入可能な分野
 株式・債券以外の新しい投資対象資産は、スキルを主なリターン・ドライバーとする投資対象資産が多く、マネジャーの選定等が非常に難しい。パッシブで導入可能な新しい資産、もしくは、市場リターンがメインのリターン・ドライバーである新しい資産であれば、比較的取り組みやすい。例としては、不動産、コモディティがある。

A パッケージ・プロダクト
 スキルが主なリターン・ドライバーとする投資対象資産の場合には、マネジャーにより、複数の投資対象がパッケージされているプロダクトであれば、取り組みやすいであろう。例としては、ヘッジファンド・オブ・ファンズがある。

 取り組みやすいダイバーシティ導入の具体例として、既存の運用の派生的な分野からは、長期絶対リターン株式運用、ノン・プライス株式運用、新しい分野からはコモディティ、不動産、ヘッジファンド・オブ・ファンズを取り上げる。

4. 長期絶対リターン株式運用

「買うのは企業、株ではない」
ウォーレン・バフェット


 長期絶対リターン株式運用とは、ロングのみで長期での絶対リターンを目標とする株式運用である。既存の株式運用の延長線上に位置する運用手法であり、株式リスク、スキル、長期の時間軸をリターン・ドライバーとして利用している。表2は、一般的な株式アクティブ運用と長期絶対リターン株式運用の特徴を比較したものである。長期絶対リターン株式運用は、一般的な株式アクティブ運用とは異なり、厳選した銘柄を長期保有することによって絶対リターンを狙う運用手法であり、バフェットの言葉のような運用手法である。

表2/一般的な株式アクティブ運用と長期絶対リターン株式運用の比較

長期運用の優位性とは
「株式市場は、短期的には人気投票を行う場であるが、
長期的には企業の真の価値を計る計算機である」
ベンジャミン・グレアム


 グレアムの言葉の通り、株式市場は短期と長期で異なる様相を見せており、図7のように、株式の分析手法には大きく分けて短期の株価変動に着眼したセンチメント(投資家心理)の分析と、長期の企業価値に着眼したファンダメンタル分析の2種類がある。

図7/時間軸と株式の分析手法

 図8は、横軸に時間、縦軸に分析手法をとり、長期絶対リターン株式運用、一般的な株式アクティブ運用、ヘッジファンドを比較したものである。
 一般的な株式アクティブ運用は、四半期、年度といった短中期のパフォーマンスのプレッシャーから、短期志向になりがちであり、その結果、センチメントを意識した運用となる。また、ヘッジファンドも短期志向であるため、センチメントを重視した運用となる。それに対して、長期絶対リターン株式運用は、図8のように、あまり利用されていない長期の時間軸を利用している。2005年度の東証1部の売買代金が約554兆円だったのに対して、同じ時期の東証1部の時価総額(月末値の平均)は約440兆円であった。これは、1年に1回転以上していることになり、市場参加者の平均保有期間が1年未満であることを示している。このような市場参加者の短期志向は、日本だけでなく全世界の株式市場で確認される現象である。このような状況下においては、ゼロサム・ゲームである上に、競争が激化している短期的な運用よりも、あまり利用されていない長期の時間軸を活用した長期絶対リターン運用のチャンスが非常に大きいと言えるであろう。
 そして、長期の時間軸を利用した株式運用には以下のようなメリットがあると考えられる。

図8/長期絶対リターン株式運用の位置付け(イメージ)

@ 取引コストの低減
 短期的な売買を行わず、バイ&ホールドによる低売買回転率により取引コストを低減する。

A ミスプライス機会の利用
 短期的には、センチメントにより、株価はフェア・バリューからのオーバーシュート/アンダーシュートが生じているが、長期的にはフェア・バリューに収束することを利用する。

B 平均回帰の利用
 様々な理由により長期のサイクルを持つ場合、長期的には平均回帰することが多いことを利用する。

C 企業価値の創造
 長期的にマネジメントとのエンゲージメントを高めることにより企業価値を創造する。特に、長期絶対リターン株式運用の一種であるガバナンス・ファンド等が利用している。

絶対リターン運用の優位性とは
 ベンチマークに対する相対リターン運用である一般的なアクティブ運用には、弊害がある。ベンチマークを意識することにより、魅力的でない銘柄であっても、アンダーウェイトでの保有を行うこと、対ベンチマークのパフォーマンスを意識し、短期志向の運用になりがちであることにより、スキルの高いマネジャーのスキルを十分に活用できていないのである。
 絶対リターン運用にすることにより、ベンチマークという制約条件を取り除き、マネジャーのスキルを十分に活用することが可能になる。その結果、よりスキル・リスクを取り、株式リスクへの偏りを減らすことが可能となる。そして、長期絶対リターン株式運用の絶対リスク水準は、一般的なアクティブ運用と同程度か若干低く、債務に対するリスク水準は、一般的なアクティブ運用と変わらないのである。

長期絶対リターン運用の導入
 長期絶対リターン株式運用を株式アクティブ運用の一部に導入することにより、スキルと長期の時間軸を有効活用し、ダイバーシティに貢献するが、導入に際して、気をつけるべき点がいくつかある。
 まず、スキルの差によるパフォーマンスは、一般的なアクティブ運用に比べ、非常に大きいことから、マネジャーの選択が非常に重要である。そして、採用後のモニタリングも重要であり、特にパフォーマンス悪化時の対応等は難しい。
 マネジャーの選択の際には、一貫した投資哲学およびプロセスで投資サイクルを何度も経験しているか、長期的な元本毀損回避のメンタリティを持っているか、運用担当者もファンドに投資しているか、成功報酬により投資家とマネジャーの利益が一致しているか等、一般的なアクティブ運用の選定の際とは異なる視点も必要となる。
 また、国内株式のプロダクトはまだ少なく、外国株式のプロダクトが多い点、日本に進出していないマネジャーが多い点、すでにクローズされているプロダクトが多い点、運用報酬が高い点等についても導入に際して考慮する必要がある。
 さらに、長期絶対リターン株式運用のリターンには、後述するノン・プライス株式運用の一つであるファンダメンタル・ウェイトによって説明できるようなシステマチックな部分があると考えられる。その部分については、ファンダメンタル・ウェイト株式運用を導入することによって取り入れ、長期絶対リターン株式運用には純粋なスキルを追求することが望ましい。そのため、長期絶対リターン株式運用の選定の際には、リターンの大部分が、ファンダメンタル・ウェイト株式運用によって説明できるようなシステマチックなものではなく、純粋なスキルによって得られていることを確認することが重要である。
 このように、長期絶対リターン株式運用の導入には、スポンサーの十分なガバナンス・レベルが不可欠である。

5. ノン・プライス株式運用

「価格とは、何か買う時に支払うもの
価値とは、何か買う時に手に入れるもの」
ウォーレン・バフェット


 ノン・プライス株式運用とは、一般的な時価総額以外のルールに基づいてウェイトを決定する運用手法である。既存の株式運用の延長線上に位置する運用手法であり、株式リスクと長期の時間軸をリターン・ドライバーとして利用している。
 現在、年金運用では、TOPIX、MSCI Kokusai等をベンチマークとしたパッシブ運用が普及している。TOPIX、MSCI Kokusai等は、時価総額ウェイト・インデックスと呼ばれ、各銘柄の時価総額(浮動株比率も考慮)に応じて、ウェイトが決定されている。時価総額ウェイト・インデックスが普及している理由はいくつかあるが、最大の理由は、理論的に効率的であると考えられているからである。
 バフェットの言葉にあるように、「価格=本当の価値」とは限らないのであれば、株価によってウェイトが決定する時価総額ウェイト・インデックスは、必ずしも効率的ではないということになる。株価は、ファンダメンタルだけではなく、センチメントの影響を受けており、その結果、株価は、フェア・バリュー(本質的価値)から乖離することがあると考えられる。
 表3のように、フェア・バリューが100円の株式A、株式Bの2株のみで構成される株式市場があり、現在、センチメントの影響によって、株式Aは120円、株式Bは80円という株価となっているとする。フェア・バリューからの乖離の発生により、時価総額ウェイトではA:B=60:40というウェイトとなる。これは、フェア・バリューによるウェイトであるA:B=50:50に対して、フェア・バリューよりも割高な水準にある株式Aをオーバーウェイトし、割安な水準にある株式Bをアンダーウェイトしていることになる。このように時価総額ウェイトの効率性に対する疑問が生じる。

表3/時価総額ウェイトの効率性に対する疑問

 表4は、株式A、株式Bの2株のみで構成される株式市場を例に、ノン・プライス株式運用が時価総額ウェイトよりも効率的になる仕組みを示している。まず、期初においては、株式A、Bの株価はともにフェア・バリューである150円となっており、ウェイトはA:B=50:50となっている。ここで、フェア・バリューには全く変化はなく、株価がセンチメントの影響によりフェア・バリューから乖離した場合、ウェイトはA:B=67:33となる。ノン・プライス株式運用は、ここでリバランスを行う。その後、株価がフェア・バリューに回帰すると、リバランスを行ったノン・プライス株式運用の方が、時価総額ウェイトを上回る結果となる。
 このように、ノン・プライス株式運用とは、センチメントによる株価変動を利用し、株価以外の有効だと考えられるルールによるウェイトとそれに基づくリバランスによって、時価総額ウェイトよりも効率的となる可能性がある運用手法である。

表4/ノン・プライス株式運用の仕組み

 図9は、横軸に時間、縦軸に分析手法をとり、ノン・プライス株式運用、一般的な株式アクティブ運用、ヘッジファンドを比較したものである。ノン・プライス株式運用は、長期絶対リターン運用と同様に、あまり利用されていない長期の時間軸を利用している。また、センチメントによる株価の変動を利用しているという点においては、ノン・プライス株式運用とヘッジファンドは同じであるが、ヘッジファンドは短期であるため、スキルによってリターンを獲得する必要があるが、ノン・プライス株式運用は、長期の時間軸を利用することにより、ルールに基づくウェイトとリバランスによってリターンを得ている。そして、投資対象は一般的な時価総額ウェイト・インデックスと同じであり、ウェイトが異なるだけであることから、キャパシティが大きい点はノン・プライス株式運用の大きなメリットである。
 具体的なノン・プライス株式運用の手法としては、各銘柄のファンダメンタル指標からウェイトを決定するファンダメンタル・ウェイト(ウェルス・ウェイト)と、数学的な手法によりリスクの観点からウェイトを決定するリスク・ウェイトの2種類がある。

図9/ノン・プライス株式運用の位置づけ(イメージ)

ファンダメンタル・ウェイト(ウェルス・ウェイト)
 ファンダメンタル・ウェイトは、株主資本、キャッシュフロー、純利益、売上高、配当といった各銘柄のファンダメンタル指標を用いてウェイトを決定する。ファンダメンタル指標は、誰でも入手可能な現時点の数値(または過去の平均値)を使用し、予想値等を使用しない点は、クオンツ・アクティブ運用と異なる。
 また、ファンダメンタル・ウェイトの大きな特徴は、FTSEからインデックスが提供されており、このインデックスに基づいたパッシブ運用が可能な点にある。時価総額ウェイト・インデックスに対する付加価値を追求するという点は、一般的なアクティブ運用と同じであるが、それをインデックスとして、通常のアクティブ運用よりも低い運用報酬で提供するという手法は、資産運用ビジネスにおける新しいビジネスモデルである。これはキャパシティが時価総額ウェイトに同程度に非常に大きいことから可能となっている。

リスク・ウェイト
 リスク・ウェイトは、数学的な手法によりリスクの観点からのルールによりウェイトを決定する株式運用である。
 スポンサーが政策アセットミックスを策定する際に、資産仮定を用いて、最適化することによって、効率的な資産配分を決定すると同じような考え方に基づいている。各銘柄のリスクおよび相関係数は過去のデータから予想可能であるという前提に基づき、リスクの観点から最も効率的な各銘柄のウェイトを決定する。
 現在、いくつかのマネジャーから、この考え方に基づいたプロダクトが提供されている。

ノン・プライス株式運用の導入
 以上のように、時価総額ウェイトよりも効率的である可能性があるノン・プライス株式運用は、基本的には、現状の時価総額ウェイトに基づくパッシブ運用部分に導入することにより、ダイバーシティに貢献する。
 ノン・プライス株式運用の導入において重要なことは、過去実績が時価総額ウェイトよりも良好であることを理由とするような短絡的な導入は行わずに、理論的背景、性質をきちんと理解した上で導入することである。特に、長期の時間軸を利用した運用であり、時価総額ウェイトを上回るリターンを安定的に得られるわけではない点等を理解することが重要である。また、リスク・ウェイトは、ファンダメンタル・ウェイトよりも理論的背景を理解するのが難しいことから、導入には、高いガバナンス・レベルが要求される。

6. 現状の運用の派生的分野の導入
   ─ マネジャー・ストラクチャーの進化

 長期絶対リターン株式運用、ノン・プライス株式運用等の現状の運用の派生的分野の導入は、現状の運用のマネジャー・ストラクチャーをリターン・ドライバーの多様化という方向で進化させていったものである。図10のように、株式部分のマネジャー・ストラクチャーは、現状のパッシブが、ルールに基づいた運用であるルール・ドリブンに進化し、時価総額ウェイトだけでなく、ノン・プライス株式運用も含むようになる。アクティブ部分は、効率性を追求し、エンハンスト・インデックス、サテライト、長期絶対リターンで構成され、ベンチマークとして、ファンダメンタル(ウェルス)・ウェイト・インデックスを採用するというケースも出てくるであろう。

図10/株式のマネジャー・ストラクチャーの進化


 そして、債券部分についても、図11のようなよりスキルを追求したハイ・アルファ債券運用、さらに外国債券においては、現状よりも投資対象を拡大し、ハイ・イールド債、エマージング債等を導入することが考えられる。

図11/ハイ・アルファ債券運用

7. コモディティおよび不動産

 インフラストラクチャー、バンク・ローン、カタストロフィ・ボンド、ティンバー、カーボン・トレーディング等、株式・債券以外の様々な新しい投資対象資産が出てきている。これらの新しい投資対象資産を導入することは、ダイバーシティに貢献すると考えられるが、スキルがメインのリターン・ドライバーでありマネジャー選択が非常に難しい、スポンサー独自では導入が難しい、市場がまだ確立していない等、導入には障害がある。
 これらの点を考慮すると、すでに市場が確立しており、パッシブ運用が可能もしくは市場リターンがメインのリターン・ドライバーである新しい資産を導入することが、取り組みやすい方法であり、コモディティと不動産(特にグローバルREIT)が該当するであろう。
 また、導入の際は、市場リターンはシクリカルであることから、好調が続いた新しい資産を導入する場合には、割高な水準で一度に投資することを防ぐため、何度かに分けて導入を行うことや、パッシブ運用ではなく、アクティブ運用を導入するによって、スキルによって、特に割高になっている部分は避ける等の工夫が必要であろう。

8. ヘッジファンド・オブ・ファンズ

 パッケージ・プロダクトは、マネジャーが様々な投資対象をパッケージしていることにより、スポンサーが比較的容易にダイバーシティの効果を得られるというメリットがある。ここでは、すでに導入しているスポンサーが多いヘッジファンド・オブ・ファンズをダイバーシティへの貢献という観点から改めて考える。
 ヘッジファンド・オブ・ファンズのリターンは、純粋なスキル、システマチックなリターンの二つから構成されている。システマチックなリターンとは、株式、債券、それ以外の市場リターンと流動性、クレジット、長期時間軸を利用した純粋なスキル以外によるリターンである。
 ヘッジファンド・オブ・ファンズ導入の主な目的は、純粋なスキルへのアクセス手段であることから、純粋なスキルとシステマチックなリターンを区別し、システマチック・リターンを高い運用報酬を払って、ヘッジファンド・オブ・ファンズにおいて獲得する意味があるかについては、よく検討すべきであろう。
 また、ヘッジファンド・オブ・ファンズは、オルタナティブとしては、最初に導入されるケースが多いため、少額での様々な投資対象へのアクセス手段、スポンサー独自では導入が難しい新しい分野へのアクセス手段という観点も考慮し、マネジャーを選定することが必要であろう。
 さらに、日本のスポンサーが投資しているヘッジファンド・オブ・ファンズは、低リスク/低リターンのコア型プロダクトが多いが、特に、複数のヘッジファンド・オブ・ファンズに委託をする場合には、同じようなコア型のプロダクトに複数委託するのではなく、よりリスクの高いサテライト型のヘッジファンド・オブ・ファンズを組み合わせることにより、よりダイバーシティを追求することを検討するべきであろう。

9. 新しい分野の導入 ― アセット・アロケーションの進化

 コモディティ、不動産、ヘッジファンド・オブ・ファンズのような新しい分野を導入してダイバーシティを追求することは、リターン・ドライバーの多様化によるアセット・アロケーションの進化と位置付けられる。
 新しい資産を導入する際には、まず、資産の特性を理解した上で、政策アセットミックス上の独立した資産として位置付けることが必要である。一般的に、政策アセットミックスは、各資産の資産仮定を用いて、最適化を行うことにより、定量的に決定するが、オルタナティブ投資の場合には定量的にすべてを決定するのは難しいため、ある程度は定性的な判断も必要となるであろう。資産仮定はあくまでも仮定であり、常に正しい資産仮定は存在しないため、資産仮定と異なる状況になった場合のリスク・ヘッジもダイバーシティの重要な意味合いである。オルタナティブ資産内の配分をどうするかについては、ダイバーシティの観点から考えれば、図12のようにリスクが均等配分に近づくように、各資産のリスク水準、他資産との相関等を考慮して決定するといった方法も考えられる。

図12/オルタナティブの配分例

10. おわりに

「新しい考え方は、込み入った形で表現されているが、
極めて単純なものであり、明白なものである。
困難は、新しい考え方にあるのでなく、
同じように教育されて来た人々の心の隅々まで広がっている
古い考え方からの脱却にある。」
J・M・ケインズ


 ダイバーシティという考え方は、ケインズの言葉にあるように、決して難しいものではなく、ある意味当たり前のことである。ただし、長年慣れ親しんだ現状の運用戦略から、脱却することは簡単なことではないであろう。
 古い考え方からの脱却の第一歩として、図13のように取り組みやすい分野からダイバーシティを導入し、ガバナンス・レベルの向上に合わせて、徐々に図5 のようなダイバーシティを活用した運用戦略の最終目標に近づけていくことが重要である。それが、収益性と確実性を両立させた年金運用を成功させる近道である。

図13/ダイバーシティとガバナンスの関係

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●五藤智也 ごとうともや/慶応義塾大学経済学部卒業。明治生命保険相互会社にて、外国株式、外国債券、為替、オルタナティブの管理業務に従事。ワトソンワイアット株式会社入社後は、東京オフィスおよび英国オフィスにおいて、国内および多国籍企業の年金スポンサーに対してのALM 、運用戦略、運用評価等の資産運用コンサルティング業務およびマネジャー・リサーチに従事。併せて、年金スポンサー向け資産運用セミナーの講師も務める。