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【巻頭言】 |
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【巻頭言】
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ワトソン ワイアット株式会社 |
例年、年末発刊のレビューでは、新年を迎えるにあたり、経営者が深く思考をめぐらすべき、本質的経営課題を取り上げてきた。一昨年が「脱・思考停止」、昨年が「ヒト資本経営」であった。
そして今回は、迷わず「多様性を活かす」を取り上げた。この背景から説明したい。
一つのきっかけは新卒マーケットの激変である。長らく続いていた「買い手市場」が昨年の就職活動から様変わりし、本年からは一挙に「売り手市場」となった。復活した金融機関の採用予定人数の大幅増がドミノ倒しのように、全産業分野の「採用難」に拡大した。特に、将来性の高い男性幹部社員候補が足りない。
そして根本的な「潮目の変化」が「人口減少社会」の到来である。要するに、国内のマーケットに依存している限り、今後の成長は見込めないことになる。この結果、「事業のグローバル化」が将来的な夢や目標ではなく、切実な経営課題に浮上した。
そして、グローバル市場での成長を担う「人材のグローバル化」がさらに本質的な経営課題として立ちはだかる。日本人、特に終身雇用型男性正社員に最適化した、あらゆる経営システム、企業文化、業務スタイルが目指すべき将来像への進化・発展を阻害する。
古めかしい「慣習」にとらわれていては、有望な女性や外国人から去っていく。部長以上の管理職に占める女性・外国人比率が、グローバル経営への進化を測る重要な「ユニバーサル」化度指標と考えると、これが数%に満たない日本企業が大半である。
「ヒト資本」が企業の競争力を決定付ける21世紀の経営環境で、地球上の64億人からヒト資本を調達・開発できる企業に、超高速高齢化と絶対数の減少に見舞われる、約6000万人の日本人男性に依存する企業が立ち向かえると考える根拠は何もない。
多様性対応が緊急課題に浮上した原因の一つが中国とインドの急激な勃興にある。日本企業にとっての過去のグローバル化は、主に欧米市場への展開であった。特にメーカーであれば、R&Dは日本が担い、マーケティングと営業からスタートし、生産機能を徐々に海外に拡大する方式を取った。生産技術の移転を除けば、欧米各国の現地法人の経営に、信頼できる現地のパートナーを得られれば、事業の拡大が可能であった。
しかし、アジア市場では、企業経営の歴史の短さゆえ、現地に経営を任せられるローカル人材が希少であった。このため、主に駐在日本人社員が経営を担うことになり、「日本型経営」を持ち込んだ。その結果、日本本社主導の中央集権度の強いモデルとなった。
中国が急激に力を付けていく過程で、日本企業が中国での事業を担うローカル人材の安定的な確保に問題が生じてきた。特に若年層の有能な人材をリテインできない。上海の新卒者の人気ランキングでも、IBM 、P&G 、GE 、マイクロソフトがトップテンに居並ぶのに、現地で歴史あるパナソニック(松下)やソニーでさえ、トップ20 位にも入れない。
現地の駐在員は、「中国には目茶苦茶優秀な若手がたくさんいる」と口を揃える。せっかく入社して育成が終わる頃に、欧米企業に取られてしまう。アジア各国では、日本企業では出世できない「グラスシーリング」があるという評判が定着してしまった。
一方で、グローバル経営では歴史の古い欧米企業は、中国やインドにR&D 機能を含む多様なオペレーションを移転し、大量にローカル人材を吸引していく。もともと「多様性」が前提の経営モデルはそのまま現地に根付き、トップクラスの中国人やインド人を惹きつけている。
日本企業は日本人男性を前提にした「あらゆる仕組み」をできる限り速やかに、誰もが乗れる「ユニバーサルな仕組み」への改革に即刻着手する必要がある。団塊世代が定年を迎え、人口減少が進む「ヒト」環境が変わることはない。放置すればするほど悪化する病と同じである。すぐに処方箋を描き、着実に実行する以外に手立てはない。
まず何から手を付ければよいのであろうか。実行には三つの段階がある。第一は、まずは目の前にある技術的な課題に着手する必要がある。これには、女性社員の戦力化や、定年を迎える社員の活用、さらに企業グループ全体での最適配置のための人材流動化策など、短期的に解決しうる主要課題の解決である。
第二が、組織と人材の可視化である。多様性を扱う上で、そのインフラとなる仕組みが、この「可視化」のメカニズムづくりである。海外法人を含めた、組織全体のどの部門、どの層に、どのような課題があり、どの程度深刻なのか、また解決されつつあるのか、さらに何をすれば改善するのかが「見える」仕組みが必要になる。具体的なメカニズムについては、後章を参照いただきたい。
そして第三段階が「グローバル経営」モデルへの転換である。これは、第二の段階が着実に進行すれば、最終的な形は見えてくる。ただし運用段階に持ち込むまでには、大きな課題が立ちはだかる。一つは、「我が社のグローバル経営とは何か」を深く問い詰め直さなければならない。
多様な背景を持つ人材が、企業の進化・発展にのめり込み、世界への創造にその能力を存分に発揮し、企業とともに歩むことで充実感が溢れるキャリアを重ねられる、そんな姿はどうすれば実現できるのか。
とことん多様性を活かせるためには、強烈な求心力、価値観、信念が必要である。世界、未来に通用する企業の求心力を明確にして、コミュニケートできなければ、「多様性」は絵に描いた餅になる。多くの日本企業には、この求心力になりうる、「誉」とも呼ぶべき価値観が存在する。ただ残念なことに、そこに長く身を置いた日本人社員にしか理解できないものであることが多い。それでは価値がない。
多様なグローバル経営環境では、「作り込みすぎない」ことがコツである。例えば、日本人だけで人事評価の基準を詳細に作り上げてしまうことが多い。日本語で繊細かつ微妙な表現が並ぶ。どんなに内容的に優れていても、この仕組みは「グローバル化」できない。日本人にしか通用しない。その結果、日本でも外国人を活用するバリアーになってしまう。
従来型の日本的チームプレーも典型例である。各メンバーの役割は曖昧であり、常に変化する。互いに深く知り合い、「阿吽の呼吸」がなければ成り立たない。しかも各メンバーに要求される時間のコミットメントには際限がない。これでは、保育園に子供を送り迎えする必要がある社員は、仲間に「後ろめたさ」を持たざるをえないし、会社も歓迎できない。
仕事の進め方、社員のチームワークのあり方、評価報酬、異動や昇格、意思決定メカニズムなど、あらゆるルールやシステムを誰にでも理解できるように、シンプルかつ見えるようにすることが基本原則である。ただし、競争力の源泉に関わる「芯」の部分は、さらにもっと深く磨き込む。これについては、外から簡単に理解できるものである必要はない。この切り分けが成功の鍵である。
最近多くの経営者から、苦渋に満ちた顔で、このような表現で英語の問題を語られることがあった。いまだほとんどの日本企業が社内公用語としては「日本語」を使用している。かなり昔からグローバル経営に踏み込んでいる大手企業でさえ、重要な社内連絡文はまず日本語でつくり、それから翻訳して世界に届けられる。
一方、欧米のグローバル企業は、そのようなコミュニケーションのロスはない。経営会議だろうが、事業部会議であろうが、結果はリアルタイムに英語で作り、即刻全社に発信される。一定レベル以上の英語さえできれば、どこの国籍だろうが、あらゆる経営システムに、入社したその日からアクセスでき参加可能である。
欧米企業はもちろん、サムソン電子のような韓国企業も、すでに公用語は英語である。この点では、日本企業はあっという間に韓国企業に抜かれ、さらに近い将来、中国企業にも抜かれてしまうであろう。本当に、「たかが英語、されど英語」なのである。
以上見てきたように、「多様性」を語ることは、日本企業の今までの基本的な経営の仕組みに変革を迫るものであり、本質的な課題なのである。しかも、残された時間は多くなく、経営者の意思決定を迫るものがほとんどを占める。
経営に関わる皆様が新年の計を立てるにあたり、「多様性」が自問自答すべき重要課題の一つに間違いない、という信念のもと今回のレビューをお届けした次第である。何らかの思考の刺激になれば幸甚である。
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