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【巻頭言】 |
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組織の多様性を可視化する
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中島 正樹 |
「グローバルに社員の意識調査をしたい」という国内企業からの問い合わせが増えている。
グローバル戦略を本格的に展開し始めた日本企業の足元で、意外なボトルネックが現れつつある。それは、本社が「グローバル戦略」の旗を振っても実行する現地の組織が思った以上に動かないことである。
実は、問題は海外の拠点だけではない。翻って足元を見ると国内の組織も動きが鈍く、「目標必達」のかけ声もいま一つ伝わっている感じがしない。
「社員は会社のことをどう思っているのか」「自分が見えないところでどんな問題が出ているのか」。そんな経営者の思いが、グローバル社員意識調査へのニーズの背後に見え隠れしている。
(1)「組織とはそもそも見えないもの」:欧米企業
J&JやIBMなど伝統的な欧米のグローバル企業では、全社員に対する意識調査を必ず定期的に行っている。
人種も、バックグラウンドも、採用のタイミングも異なる多様な人材の集合体である欧米企業では、経営者にとって、「組織とはそもそも見えないもの」である。そのため、社員意識調査を行って、自分が直接コミュニケーションしている管理職層からは出てこない組織内の課題を早期に発見したり、会社のビジョンの浸透度を測り、組織全体のベクトルを合わせる対策を打つなどしてきた。
欧米企業にとってグローバルな社員意識調査は、組織の状態をグローバルに見えるようにし、戦略実行のボトルネックとなる課題を発見すると同時に、打ち手の効果も検証するグローバル経営のプラットフォームの一部となっている。
(2)「組織は我が家」:日本企業
一方、多くの日本企業の経営者にとって、「組織」とは「我が家のようなもの」と感じられてきた。
伝統的な日本企業の組織は、同時期に同じような学校から採用された日本人男性が、年功序列のもと、長期にわたる雇用期間中絶えず時間を共にすることが基盤となって形成されている。「根回し」「すり合わせ」など、内々での暗黙の意思疎通が「阿吽の呼吸」で効率的に機能してきた環境では、「同じ釜の飯を食ってきた仲間」のことは「わかっている」と考える傾向が強くなる。別の部署であっても元同僚がいれば、「あいつがいるからだいじょうぶ」などと考えてしまいがちだ。
このような環境の中では「うちの会社にはアメリカの会社のような調査は必要ない」(東証一部上場メーカーの創業社長)と断定するのも無理はない。「会社と自分は一心同体」であり、「組織は我が家」だったのである。
(3)「今や組織は暗黒大陸となった」
しかし、グローバル化が進むと同時に仕事への価値観が多様化した環境の中では、従来の暗黙的な日本型組織マネジメントは機能せず、かえって組織の全体を不透明にし、経営のボトルネックを生んでしまう。
「海外拠点の状況が見えないのは、現地に派遣している日本人社員のマネジメント能力が不十分だから」(東証一部上場企業の海外人事部長)という要因も確かに大きい。
しかし、課題の本質として直視すべきなのは、グローバル化を目指してきた日本企業の多くが、過去10年間は国内の建て直しを優先して海外を劣後させたため、グローバル化に耐える経営基盤の構築が後回しになってきたことである。
この課題は、海外拠点のマネジメントにとどまらず、日本型組織マネジメントの構造的な課題を浮き彫りにしている。
「ビジョンを熱く語っても、いま一つ伝わった実感がない」。「笛吹けど踊らず」は、最近、日本企業の経営者の多くが必ず指摘する組織マネジメントの悩みである。自分の家のようにどこに何があるか、誰が動いてくれるのかわかると思っていた国内の組織の動きが鈍い。しかも、その原因がはっきりと見えないのだ。ある企業では、やむなく業績管理を強化する方針を打ち出したところ、現場から「経営は何もわかっていない」という不満が噴出し、疲弊感がいっそう増したという。
この国内の「経営と現場の断絶」の構造は、海外での「本社と海外の断絶」と相似形である。
さらに、社員個々人のレベルで考えると「失われた15年」の間に個人が持つ会社との距離感、仕事に対する価値観に驚くほどの多様化が進んだ。20〜30代の社員に「会社と一心同体」を求めるのは、もはや望まない見合い結婚を子供に強制するのに近い。
今や均質性のマネジメントの賞味期限はとうに過ぎ去り、多様性のマネジメントが必要だ。グローバル化によって成長を目指す日本企業の経営者は、「会社のための残業よりも自己実現を」と早々に退職する日本人社員と「残業時間が少ない」と不満を爆発させストライキを決行する中国人現地工員を同時にマネジメントすることが求められている。
しかし、そのために必要な経営のプラットフォームが未構築なまま、「見えている」と思っていた自社の組織が「暗黒大陸」となって足元から現れた……。これがグローバル化を進めている多くの日本企業の現状のように見える。
グローバル化を目指す日本企業にとってまず必要なのは、この「暗黒大陸」を可視化することである。
ワトソンワイアットでは「組織バロメーター」と呼ぶサーベイを開発し、「暗黒大陸」となった組織を可視化してきた。
組織バロメーターの特長
「組織バロメーター」は、「個人(成長実感など)」「仕事」「会社」に対する社員個人の認知を把握することにより、組織課題を生み出すマネジメント上の問題点を特定し、同時に解決の方向性を抽出するものである(図1)。
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図1/「組織バロメーター」のフレームワーク |
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「組織バロメーター」は以下の点で、これまでの社員満足度調査やモチベーションサーベイとは異なる特長を持つよう設計されている。
@「個人」「会社」「仕事」のリンクを明らかにする
一つめの特長は、「個人」の成長実感や仕事へのエンゲージメント(例えば、ワクワク感など)と「仕事」「会社」とのリンクを明らかにできることである。
欧米企業のグローバル社員意識調査を含む従来の社員意識調査では、「上司のマネジメントや人事制度の整備状況など、会社のマネジメントや制度が整えば、社員のモチベーションや満足度は上がるはずだ」という前提に立って設計されてきた。
しかし、前述の通り、個人の仕事に対する価値観や会社への距離感が多様化すると同時に、グローバル化した環境下では、グローバルに社員全員が満足できる「正しいマネジメントや制度」があるはずはない。むしろ、それぞれ固有の期待・価値観をもつ個人がどのような仕事や会社のマネジメントを評価するのかを把握し、個人・仕事・会社の関係がバランスするようなマネジメントが求められる。
「組織バロメーター」は、この個人・仕事・会社の間の関係を測定し、課題の所在を特定できる。
A課題発生の構造をマネジメントのコア部分にまで遡って抽出する
二つめの特長は、現在の個人・仕事・会社のリンクを形成したマネジメントのコア部分(経営戦略や人への理念・思想など)にまで遡って課題を構造的に抽出することである(図2)。
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図2/組織課題の構造と「組織バロメーター」の位置づけ |
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これまでのモチベーションサーベイなどは、個人の満足度について測定しても、「発見された課題を根本から解決するには、いったいどのようなマネジメントの変革が必要なのか」にまで掘り下げて経営上の課題を特定するものではなかった。
このため、多くの会社では発見された課題を各部門長や課長個人の目標設定に落とし込み、個別に解決を図らせるような運用にしかなっていないのが現状である。
「組織バロメーター」は課題の発生要因を全社のマネジメントの構造部分にまで掘り下げて抽出するとともに、詳細分析により解決の方向性までを提示することができる。
この「組織バロメーター」から出てくる結果は、企業の生い立ちや成長過程がそれぞれ異なるように非常に多様である。
ここでその詳細に立ち入ることはできないが、グローバル化を進めようとする日本企業にとって参考となる三つのポイントを紹介しよう。
(1)自社のなかの「外資」「他社」を肌で感じる
「組織バロメーター」は、定量的な数値で結果を把握するため、全社そして部門や拠点別に単純集計するだけでも、全体の傾向が一目瞭然となる。
例えば、業界トップクラスの会社では、全体として「会社」に対する意識・満足度が「仕事」や「個人(成長実感等)」の意識・満足度よりも高く出る傾向がある。一方、外資系企業では「個人」と「仕事」への意識が高く、「会社」に対する意識が相対的に低い結果が出る傾向がある。
しかし、グローバル化を進める企業で部門・拠点別集計を行ってみると、例えば、自社の海外拠点が、「個人」と「仕事」に対してより意識が高く「会社」に対する意識の低い「外資」的な組織となっていることを発見したり、「非主流」と見られている部門が「主流」よりも高い「仕事」への意識を持つ組織であることが明らかになったりする。
戦略上の重要拠点とされていた海外拠点で「会社」に対する意識が驚くほど低い結果が出たある大手企業では、海外担当役員をすぐに海外拠点に出張させ、実態を詳細に把握しようと乗り出したが、自社のなかにある「他社」「外資」を肌で感じることは、グローバル経営の前提条件である。
(2)組織の複雑さを安易に単純化しない
組織は複雑である。個人も合理的な意思決定だけで割り切れない複雑な存在であるが、その集合体である組織はもっと複雑で多様な存在であると肝に銘じるべきだ。これを忘れて課題を単純化してしまうと効果的な組織マネジメントにはならず、打ち手が効果を挙げないばかりか副作用が出ることすらある。
例えば、特定の部門で人材流出が課題となっていた企業では、管理職以下の層での恒常的な長時間労働がその原因だと見て、残業対策も含めた打ち手を検討していた。しかし、「組織バロメーター」の結果を詳細分析してわかったことは、@部門内は回答の傾向によって10ものグループに分かれていたこと、A長時間労働を苦にしていないグループの7割が実は管理職以下であったなど、職位などの単純な属性による明確な差は認められなかった。
この結果は、職位や部門に向けた単純な打ち手には限界があり、もっと人材マネジメントの根本に踏み込んだ解決策が必要であることを示している。
グローバルな組織マネジメントでは、事業経営の単位である国・部門・職位などの単位で解決策を検討し、実行すれば十分と考えてしまいがちだ。しかし、突っ込んで実態を把握するならば、組織は実際には、国・部門・職位を超えたタイプの異なる「人材グループ」の集合体である。
グローバルな組織マネジメントでは、それらを可視化して把握し、それぞれの多様性を踏まえた根本的な解決策を検討することが求められるのである。
(3)ビジョン・共有価値観を機軸に
個人・仕事・会社の間の「3WIN」サイクルを作る
それでは、組織の多様性を踏まえた根本的な解決策とはどのようなものなのだろうか。
その一つと考えられるのは、会社のビジョン・共有価値観を機軸とし、「個人」「仕事」「会社」の間の好循環を作るグローバルな組織マネジメントである。
伝統的な日本企業のように滅私奉公する「個人」を犠牲することを前提に「仕事(顧客)」と「会社」の間のWIN-WIN を満足させるという構造は、グローバルでも長期的には続かない。一方、「個人」の満足を追求する「仕事」ばかりでは、顧客は喜んでも「会社」の存続が難しくなる。また、「個人」と「会社」の間のWIN-WINも「仕事」の質が犠牲になれば、価値を求める顧客と成長と充実を求める個人は離れていく。
つまり、どれか二者ではなく、「個人」「仕事(顧客)」「会社」の三者が「3WIN」となるようなマネジメントを実現することが持続的な成長のカギを握るのである。
この三者の均衡点を決め、組織を束ねる機軸となり得るのは、会社のビジョン、そして共有価値観である。そのビジョン・共有価値観を人材・オペレーション(仕事)・全社のマネジメントに一貫して埋め込むことによって、@会社は独自の価値提供を行うような仕事ができ、A顧客はその価値を届けた個人を信頼し、B個人はそのような仕事の機会を与えてくれる会社に忠誠を尽くし貢献する、という個人と仕事・会社の間の「3WINサイクル」が生まれてくる(図3)。
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図3/「3WINサイクル」を生む組織マネジメント(例) |
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この「3WINサイクル」を実現するには、まずグローバルに共有できるビジョンを明確に定義すること、そして、それを全社で社内の会議室に掲げるだけではなく、グローバルなマネジメントの個々の仕組みに貫徹させることが必要だ。これが多様性を束ね、持続的な成長を生むグローバル経営の基盤となるのである。
「この世を生き延びられるのは、最も強い種でもなく最も賢い種でもない、変化に最もよく適応できる種である──It is not the strongest of the species that survive, nor the most intelligent, but the most responsive to change」というチャールズ・ダーウィンのコメントはよく知られている。
グローバル経済の中で生き残る企業も同じではないだろうか。変化が加速し、競争が激化する世界で生き延びるのは、今優れた「人材」や「戦略」を持つ企業ではなく、グローバルな環境変化に最もよく適応できる「組織」を持った企業であろう。
それでは、「よく適応できる」企業になるため日本企業の経営者がすべきこととは何だろうか。
それは、哺乳類が聴覚器官や子宮など自分の体を内部から進化させて恐竜時代を生き延びたように、自社の「組織」自体を進化させることである。
そのために取るべきステップは、@まず自社の組織を見据え、その特徴をその長所と課題の両方の面から明確に把握すること、Aその上でグローバルな多様性を束ねて活かせるよう現在の組織・人材マネジメントを根本的に変革すること、となるだろう。
日本企業がグローバルな「適者」となって生存できるかは、「暗黒大陸」となって現れた自社の組織を可視化できるかどうかにかかっている。
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