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【巻頭言】 |
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グローバル・リーダーシップの育成に向けて
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鈴木 康司 |
現在、各企業において、急速な海外展開が進んでおり、グローバル化の流れは加速しつつある。企業によっては、海外での売り上げや利益が国内を上回る企業も出てきており、企業の成長戦略を考える上で、グローバル化は避けて通れない課題になっている。
これまでの「海外展開」は、どちらかといえば、「国内で売れたものを海外にも売っていく」スタンスが強かったといえる。(図1)
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図1 |
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しかし、これからの時代において、そのようなスピード感では競争優位性を失ってしまうおそれがある。
韓国のサムソン、LG電子、あるいは、北欧フィンランドのノキアなどは、エレクトロニクスや携帯電話などで世界規模でのシェアを獲得しているが、これらの企業は初めから「世界市場を想定して開発し売っていく」姿勢を貫いている。
ポテンシャルがあり、マーケットサイズとしても巨大な日本国内市場とは異なり、韓国市場や北欧の市場は相対的に小さい。そのため、韓国企業や北欧企業の場合は、初めから「世界」を相手にビジネスを考えないといけない状況にあったからだ、ともとらえることができよう。
日本市場の魅力はこれからも存在するであろうが、一方で、初めから「世界市場」を念頭に置いたビジネス展開を考えていく必要がある。
そして、世界市場を念頭に置いたビジネスを進めていく上で欠かせないのは、各地域・各国におけるローカル社員の存在である。
どんなに駐在員が優秀であったとしても、現地の「テイスト」を理解するのは難しい。また、真に、現地に根ざしたビジネスを展開していくためには、現地に精通した人材は不可欠である。
確かに、日本企業は、中国やアジアにおいて、日常のオペレーションを確実に遂行していくために必要な人材を、しっかりと育成してきているといえる。結果として、中国やアジアにおいて高品質かつ安定的な生産・サービスを実現できているといえる。
しかし、その一方で、各企業の経営・マネジメントは、駐在員がメインであるケースが大多数である。駐在員とは、「日本人・大卒・男性・正社員」を中心とする集団とも言い換えることができるが、経営は相変わらず、その「日本人・大卒・男性・正社員」が担っており、そこに現地のスタッフはなかなか入り込めていないのが実態である。
しかし、先述の通り、「世界市場」で戦っていくためには、「日本人・大卒・男性・正社員」の人材集団だけでなく、グローバルレベルで、リーダーになりうる人材を調達し、彼らの「力」も結集していく必要がある。
だからと言って、安易に、経営陣として現地スタッフを登用するのは危険である。十分にリーダーとして育っていない状態の中で、登用したとしてもその役割を担うことは期待できず、結局は駐在員がその尻拭いをしなければならないのがおちであろう。
それよりも、当面は駐在員が経営を担っていくとしても、3〜5年先を見据えて、今のうちからリーダーシップの育成を図ることに注力するほうが賢明であると私は考えている。
中国やアジアにおいて、グローバルに通用するリーダーの育成を考える前に、これからの時代の人材マネジメントのキーワードを確認しておきたい。言葉を換えれば、これからの「ユニバーサル型人材マネジメント」を考える際のキーワードとも言い換えることができると考えている。(図2)
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図2/ユニバーサル成果主義でのキーワード |
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1. グローバル(Global)
まずは、グローバル化である。先述の通り、まずはビジネスを考えるとグローバル化が先行している以上、遅かれ早かれ、次は、「人事」の世界でも、グローバル化の取り組みを開始せざるをえない。
つまり、日本本社と海外の現地法人とを切り分けて、別々のものとして考えるのではなく、「ユニバーサル」レベルで整合性・統一感のある仕組みを考える時期にきていると言える。
ただし、これは、人事制度や等級基準などを共通のものとすべきだと、言っているのではなく、将来に向けてのリーダー候補人材の育成や活用を目的とした上で、必要な制度や仕組みを整備していくことを指している。
2. 多様性(Diversity)
次に多様性である。
「日本人・大卒・男性・正社員」をコアメンバーとするモデルからいかに脱却できるのか、がカギとなる。
日本本社の社員、現地法人のローカル社員、という垣根を捨て去り、「同じ企業に勤める仲間」としての意識を高めることが必要であり、そのためには、ユニバーサルレベルで通用するリーダーと、その育成が不可欠になる。
つまり、これからは、「日本人・大卒・男性・正社員」だけに通用する「馴れ合いのコミュニケーション」(=ハイ・コンテクスト)ではなく、論理的かつ明確に伝達するコミュニケーション(=ハイ・コンテンツ)が不可欠になるだろう。
また、「若いうちは汗をかくべきだと言って、無理やり仕事をやらせる」などといった、不条理さや理不尽さも見直すべきであろう。(図3・4)
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図3/不条理・理不尽さの例 |
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図4/馴れ合いのコミュニケーションからの脱却 |
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一見すると不条理であり、理不尽に見えるかもしれないが、その背後に、そうしている理由なり経緯が明確にある場合は、その理由・背景をしっかりと伝えればよい。しかし、理由が明確でないままに、何となくやっているのであれば、そのような不条理さは排除すべきであろう。
「日本人・大卒・男性・正社員」の世界であれば、多少の不条理さがあったとしても、「上司が異動するまでの辛抱だ」として我慢してしまうケースがほとんどである。むしろ、コアメンバーに入っていることで、(長期雇用も、ある程度は保障されているがために)理不尽さにも我慢できる、ということもできる。
しかし、ユニバーサルの視点で考えた場合、不条理さや理不尽さがあっても我慢しろ、というハイ・コンテクストに基づくロジックは通用しない。
多様性のマネジメントに向けては、これまで各企業で培ってきた価値観や考え方を論理的かつ明確に言語化することもさることながら、馴れ合いの中で見過ごしてきた「不条理さや理不尽さ」の見直し、是正を図ることも非常に重要である。そして、「これまでがそうであったから」という前例踏襲的な考え方でなく、現実をしっかりと見極め、時代に応じて柔軟に変えていくことのできるリーダーが求められるといえる。
3.エンゲージメント(Engagement)
最後にエンゲージメントである。
エンゲージメントとは、本来、約束、婚約する意味であるが、ここで言うエンゲージメントとは、「仕事を楽しみながら、没頭し、取り組む」ことを指す。
近年の成果主義では、成果を達成することが求められ、コミットメント(Commitment)が強調されてきた。とりわけ、「金」主体成果主義では、それがキーワードになっていたといえる。(図5)
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図5/ユニバーサル成果主義に向けて |
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しかし、その結果として、企業の中には、数値至上主義が蔓延したり、あるいは、ノルマ管理が強化されすぎてきたきらいがある。そして社内には、疲労感が広がり、組織全体のモチベーションが低下してきた企業も多く散見される。このような状態を放置していては、長期的な成長を見込むことは難しい。
一方で、社員の中には、困難な状況であっても、それをむしろチャンスとしてとらえ、果敢に取り組んでいる人もいる。あるいは、自分の仕事を通じて、世の中に貢献していこう、あるいは、よりよいものを提供していこうとして、意欲的に取り組んでいる社員もいる。これらの社員こそが、まさに自己実現の視点、エンゲージメントの視点で働いている社員であるといえる。
つまり、コミットメントの視点で働いている場合は、常に、「期限までに、これをしなければならない」「これだけはクリアしなければならない」ということがベースとなるため、義務感が強調されすぎてしまう。結果として、短期的な成果は期待できたとしても、中長期的な成長・発展は難しい可能性が高い。
一方で、エンゲージメントの視点の場合は、「これはおもしろそうだからやってみたい」「会社だけでなく、社会のためにもなるので、これを実現してみたい」という明確な目的意識や熱意が行動の源泉になっており、仮に問題に直面した場合には「どうしたら今の状況から突破できるのか」と、ポジティブにとらえる傾向にある。
そして、エンゲージメントによって、仕事でワクワク感を感じた人は、また別の仕事でも、そのようなワクワク感を得ようとする。基本的には、明確な目的意識や熱意がベースになっているため、中長期的な成長のための原動力になるといえる。さらに、このようなポジティブで前向きなパワーを持った人材は、周囲にも影響力を与え、組織全体として、エンゲージする状態を作り出すことができるのである。
そして、当初は上司にリードされるような形で、仕事でワクワク感を感じた部下は、また他の仕事でチャレンジしてみようとする確率は高まる。
確かに、コミットメントという観点でしっかりと成果を生み出すことを求めることは必要であるが、成果を創出できる人間に対して、コミットメントを強調しすぎると前述のようにむしろ弊害を与えるリスクもある。成果主義の導入によって、コミットメントの意識が定着したのであれば、その状態を放置するのではなく、エンゲージメント的な視点でリーダーの育成・登用を考える必要がある。特に、駐在員にとっては、コミットメントだけで現地スタッフに接するだけでなく、エンゲージメントの視点で仕事を任せていくことが肝要であろう。
では、視点を変えて、ユニバーサル人材マネジメントの実現に向けて、企業レベルで取り組むべきことと、リーダーに求められること(リーダー育成で必要なこと)とに分けて考えてみたい。
企業に求められること(検討のポイント)
リーダーに期待されること
(これからのグローバル・リーダー育成で重要になるポイント)
上記のポイントは日本国内だけではなく、中国やアジアでも求められるポイントである。
とりわけ、駐在員においては、上記の「不条理さ・理不尽さの排除」と「エンゲージメント的な視点」は社員の繋ぎ止めのためにも重要なポイントである。
そして、アジアにおいて、リーダーシップがまだ十分には育っていない場合は、駐在員が「お手本」になる必要がある。そのためにも、アジアの人材育成を進めるためには、駐在員のレベルアップ、人材育成も同時並行して進める必要がある。
このように、ビジネス面での急速なグローバル化を支えていくためにも、人材マネジメント面でのグローバル化は急務となっている。これらの取り組みを同時並行していく必要があるが、その一方で、注意すべき、難しい問題もある。
前回のワトソンワイアットレビューでも簡単に触れたが、現地スタッフ(マネジャークラス)の中で、「部下をしっかりとマネージはしているが、旧来型のビジネスモデルに安住し、変化に抵抗を示す」お山の大将の存在である。
彼らは、安定的なオペレーションの遂行を担ってくれるかどうか、という観点で見れば、「優秀」な人材であり、これまでのビジネスを支えてくれた人材である。しかし、現在のビジネス面でのグローバル化は、「海外での効率的・安定的な生産、サービス提供」だけでなく、「世界市場での成長」そのものを目指しており、旧来型の人材では十分にその変化に対応しきれない可能性がある。アジアにおいても、従来の人材モデルだけでなく、より多様な人材が求められているのである。
しかし、このような、現地で「お山の大将」になってしまった人材を無視するわけにはいかない。日常のオペレーションを回していくためには彼らは貴重な存在であり、ここに企業の「強さ」の源泉があることも少なからずある。
とは言いつつも、彼らが「変化への抵抗勢力」になっているとすれば、その理由をしっかりと見極める必要がある。
「合理的な理由で反対しているのか」、あるいは「自分にはできないから」あるいは「単に面倒だから反対しているのか」というあたりである。
経営トップとしても気をつけなければならないことは、「評価の連続性」である。現地法人のトップが交代すると、現地スタッフ(マネジャークラス)の評価が180度変わることもある。人が人を評価する以上、評価が変わることはありうる話ではあるが、評価を一変させるような場合には注意が必要である。
彼らのモチベーションを下げるだけでなく、彼らの部下を巻き込んで、経営陣に対して抵抗を示すケースも現実には発生しているのである。とりわけ、日本本社と異なり、現地スタッフの場合、社内の異動はほとんどない(代替人材がいないため、異動させたくても異動できない)ため、経営トップから厳しい評価を受けたとしても、彼らには逃げ場がない。少なくとも、経営トップが日本に帰任するまでは、じっと我慢するしかない。
そして、現地スタッフがそのような状態で、心を閉ざしたままでは、世界市場での成長を目指そうとしても、なかなか進展しないのは自明であろう。
ここで、前任者の評価は変えてはならない、と言っているのではない。前任者の評価が違っていることも現実問題として、十分にありうる話である。
しかし、それを全面的に認めてしまうと、社員にとっては、企業に対する信頼感を損ねることにもなりかねない。
経営トップの評価は非常にインパクトが強いため、個人の評価結果を大きく変更する際には、十分に理由と根拠を伝える必要がある。同時に、何をしてほしいのか、という期待も伝えることで、挽回のチャンスを与えることも忘れてはならない。ここでもハイ・コンテンツなコミュニケーションと、エンゲージメントの視点は欠かすことはできない。
時代の変化に応じて、現地スタッフへの期待も進化していかざるをえない。しかし、その際には、これから強化すべき領域を担う人材だけでなく、これまで一貫して企業の「強み」を担っている人材の双方をマネージする必要がある。
中国・アジアの現地法人の中を見ると、すでに各拠点においても多様な人材が存在しており、これからはますます多様化することが予想される。
社員の多様性を認知・尊重した上で、先述のユニバーサル人材マネジメントを構築していくことが、今、日本企業に求められているのではないだろうか。
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