【巻頭言】
ユニバーサルモデルへの挑戦
多様性マネジメントを超えて

1.
組織の多様性を可視化する
日本企業のためのグローバル経営・序章

2.
グローバル・リーダーシップの育成に向けて
アジアでリーダーを育成するためのポイント

3.
多様性のリスクマネジメントとバリュー
LDIがもたらす運用戦略の多様性
日本企業のグローバル経営へのチャレンジ

4.
多様性のマネジメント
日本という方法

5.
多様性を活かす関係マネジメント力の再生

6.
多様性時代、中間管理職の「三観」考

7.
多様性を形作る異質性、普遍性そしてパワー
それを期待される側の立場に立ち

8.
多様化時代の人材開発
動機を育み、満たす機会をどうつくるか

9.
企業は個人のキャリア形成にどう関わるべきか
多様性の時代のプロフェショナル育成

10.
「女性を活かせるカイシャ」考(その2)
多様性の時代の人材マネジメント

11.
製造現場における派遣社員・請負社員の活用
(外部人材=コスト調整弁)という発想からの脱却

12.
行政における多様性マネジメント
調整と取りまとめの復権を目指して

13.
働き方の多様化と年金制度の主体的な設計
年金制度ののメタ世界への展開

14.
昔話に学ぶ多様性活用

【Watson Wyatt Solutions and Technologies】
グローバル・グレーディング・システム
職務を量るグローバルな手法

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多様性のリスクマネジメントとバリュー
日本企業のグローバル経営へのチャレンジ
 

 

片桐 一郎

 日本企業は多様性への対応を迫られつつあるが、現在の対応は経営コストとリスクを高めている可能性がある。多様性の中で統合によって価値を向上させるのは、人材マネジメントの投資をともなうチャレンジであるが、これを行わないと、21世紀の発展は望めないだろう。本稿では日本企業が苦手な多様性のマネジメントについて述べてみたい。特にグローバル化の視点が核になる。

ダイバーシティと経営リスク

 高齢化、少子化、グローバル化の流れの中で、多様な人(より多くの女性や外国人)が組織に加わり、多様な働き方を求めるのは自然な流れである。多様な人材に対し、多様な働き方とその環境を供給するのがダイバーシティマネジメントである。
 伝統的に長期雇用の日本人男性正社員を対象に出来上がってきた日本企業はこのダイバーシティマネジメントの取り組みに遅れ、それが経営リスクを高めている。この経営リスクを要素分けしたのが図1である。

図1/ダイバーシティのもたらす組織・人のリスク

ダイバーシティリスク

 経営リスクをもたらす要因は、組織・人材マネジメント構造、プロセス、人材そのもの、知識不足、変革リスクの五つの面で考えることができる。この五つの面にダイバーシティがどう影響するか見てみよう。

@構造リスク
 構造リスクは組織構造と人事制度構造の二つで構成される「構造」そのものに潜むリスクである。明治時代に生まれた統帥権が天皇に帰属し、内閣が軍をコントロールできなくなり、太平洋戦争の原因の一つになったのは、この組織的な構造リスクの例といえよう。
 また退職金制度による退職債務の増大は人事制度のリスクの一つである。
 ダイバーシティ(多様性)が増すことにより、この構造リスクは高まる。
 まず明らかなのは多様な人材に対応するために多様な組織構造や人事制度が必要になり、構造が複雑化することである。複雑な構造によって、重要性や優先度が曖昧になり、組織や人材マネジメントが制御不能に陥ってしまうことだ。グローバルな例では国ごとに退職債務が異なる人事制度をもち、その債務リスクの増大に気がつかないことも起こってしまう。

Aプロセスリスク
 プロセスには意思決定プロセスと業務プロセスがるが、このプロセスのリスクをダイバーシティは増加させる。意思決定の参加者が多様になるため、日本人男性長期雇用者どうしで慣れ親しんだプロセス運営がうまくいかなくなることがその一例である。具体的には意思決定により時間がかかってしまうとか、業務プロセスに多様な人がかかわることにより、伝達や分担がうまくいかず、プロセスの品質が落ちてしまうことだ。そのためダイバーシティマネジメントでは従来のプロセスを見直さないと問題が出る可能性がある。

B人材リスク
 人材の多様化にともない、人材のリスクも多様化し増大する。人材のリスクは集団的に起こるリスク(ストライキや集団訴訟など)と個人が引き起こす犯罪のようなものがあるが、個人リスクが増大することは確かであろう。
 忠誠心の高い人材だけではなくなるので、会社が放っておいてもきちんとした安全管理や情報制御をやってくれると期待することはできなくなる。工場にも派遣会社の外国人が働いているのが当たり前になってきており、こういう人材に対しても気を配らざるをえない。いわゆる内部統制だけでなく、外部も含めた統制を人に対して行う必要があるということで、人材リスクが高まるだけでなく、その管理コストも増大するであろう。

C知識不足リスク
 これはコンプライアンス(法令遵守)の対応がダイバーシティによって高度化複雑化するのに、対処知識がついていかないことにより発生するリスクである。セクハラやパワハラなどについてのリスク管理の知識を多様な人材で共有しなければならないのだが、それが難しい。世界各国の多様な国籍の人に、共通な知識を持たせるだけでなく、その国独自の社会的規範などを理解した振る舞いをしてもらわなければならない。
 知識は教育で伝えることはできるが、企業にとってこの教育コストの増大が頭痛の種になる。ダイバーシティによって組織が共有化すべきリスク管理上の知識は加速度的に増大している。

D変革リスク
 企業は外部環境に対応するために、組織変革を続ける必要がある。ダイバーシティにはこの変革をやりにくくするリスクがある。ただでさえ、変革を行うには既存の組織・人材の良さを失うリスクと、現状に満足している人のやる気をそぐ心配があるのに、ダイバーシティはそのリスクを複雑化させつつ高める。
 多様な人材が仕事に持つモチベーションは様々で、変革のメッセージが全員を鼓舞するとは限らない。したがって変革を強行してもそれを支持する人が増えていくとは限らない。変革の評価も賛成から反対まで「多様」になるであろう。
 そもそも多様化によって、伝統的日本企業の「一丸となる」強みは失われるリスクが高いと考える。

リスク対応の姿勢

 このようなリスクはグローバル化、そして提携やM&Aなどのパートナーとの協働により複雑化している。こういったリスクに対し、日本企業の対応は鈍いといわざるをえない。特にグローバル化にともなう多様化には、人事担当者はお手上げに近い状態に見える。

自然発生対応か強制統合か

 こうなった背景には、日本企業のグローバル化が事業主導であって人主導ではなかったことが挙げられる。製品の輸出や現地生産が、人材マネジメントより先行し、組織・人材マネジメントの長期展望をもたないまま、海外事業が拡大したとも言える。
 グローバルに複雑化する多様性をそのまま残し、「郷に入りては郷に従え」ということで現地幹部にまかせきりにしたり、逆に日本人幹部が人材マネジメントを含めてすべてを仕切っていたりする形態が続いてきた。
 その結果、事業部の数、事業所の数だけ人事制度が生まれ、その把握すらままならない状態が続いてしまった。こういう状況の中で「構造」「プロセス」「人材」「知識」「変革」の面でリスクが増大しているのは間違いないだろう。
 これからは、それぞれの面についてダイバーシティに対応したマネジメントを確立しなければならない。
 今までの、その場対応の多様性対応を脱却して、ある種の「統合」を実現して体系的な人の兵站(ロジスティックス)を確立する必要がある。

統合へのプロセス

 人材マネジメントの統合をグローバルで考えた場合、問題となるのは等級構造の統合である。我々のクライアントの中でもアメリカ企業は、グローバルな統合を現地の自律性よりも優先することに抵抗がないようだ。一方日本企業は、グローバルの多様性にどう対応するか慎重である。しかし多様性の放任ではリスクが増大するばかりなので、何らかの統合は不可欠であろう。
 図2は自然発生的にグローバルに等級体系が多様化したメーカーが、どの程度まで統合するかを、既存の各国の等級を残すか、それとも一つの等級制度に統合するかの二つのオプションについて比較したものである。

図2/グレード統合のメリット・デメリット


 現在の多様化した等級制度をそのまま残し、読み替える目盛を作るのは、日本企業らしい微妙な修正である。現地の自律性は確かに維持できるが、「読み替え」作業が複雑になる。またそもそも何に向かって統合するかの理念が打ち出せない問題が残る。
 一方、グローバルで一つの等級にするのは、現地の自律性、事業ラインのマネジャーや現地人事のやる気をそぐかもしれないが、多様化のリスクを押さえ、人材の「品質管理」をグローバルに統合した形で実施できるのは大きなメリットである。
 最初から、統合等級でスタートできたなら、話は簡単なのだが、問題は日本の等級が、かなり密度の濃い積み重ねをへて出来上がってきたので、その改定が容易でないということである。
 また、グローバルの統合を進める事務局となるべき日本の本社スタッフが質・量とも不足しているのも、グローバル統合に二の足を踏む原因となる。
 ただし、図2 のメリットを見た上でも、多様化のリスクを減らす観点からも統合の方向に向かわざるをえないだろう。

間接統治か直接統治か

 日本企業がグローバルな統合を進めるときは間接統治になるのは避けられない。間接統治は現地の人材や文化をできるだけそのまま活かして、組織統治の重要なポストやプロセスに本社が関与する方法である。
 歴史的には19 世紀に世界の海を支配したかつての大英帝国が植民地に対して取った方法である。ちなみに大英帝国とはりあったフランスはフランス革命の影響もあって海外植民地にも平等の権利を与えようとしてうまくいかなかったとのことである。
 もちろん植民地と現代のグローバル経営とは違うのだが、人材マネジメントとして参考になる点もある。
 それは、エキスパットとして海外赴任できる日本人の数は限られる上、派遣コストも高くつくところは、大英帝国と同じで間接統治をとらざるをえないところである。
 したがって、多様化対応のグローバルマネジメントは間接統治の構造をとりながら、人材マネジメントの共通構造をもち、多様化統合のプロセスを持つ形となるだろう。

多様化統合のリターン

 多様化のもたらすリスク対応にはコストが発生する。
 従来の典型的な日本のマネジメントは、日本人男性長期雇用者を対象にシングルモードで「標準化」された人材マネジメントであり、そのコストは多様化に対応するよりも効率的であっただろう。ただしこの伝統的な人材マネジメントを維持するコストが今までのように効率的である保障はない。
 多様化は不可避であり、そのリスクに対応するためのコストをかけざるをえない。ただし多様化リスク対応のコストだけではなく、そのコストはリターンを上げるための投資と考えたい。多様化を受け入れるといった場当たり的な対応だと、リスクとコストがかさむだけだからである。
 また、多様化を進めることのメリットとしては、これを進めることで新たな価値が創出されることが挙げられる。多様な個性や文化の創造的な刺激合いでブレークスルーが生まれるのである。これは歴史の教えるところでもある。
 基本的に自分と違う人材と交流し、相互に尊重して、新しい発想につながる刺激を受け合うのは喜びである。そのときには多様化を発散してしまうより、多様化を集約して、そこにエネルギーの集中を起こす、「核反応」を起こすような統合のマネジメントが求められる。

 前にリスクの軸として挙げた「構造」「プロセス」「人材」「知識」「変革」は多様化による新たな価値を生み出す軸でもある。
 日本企業は「統合の意思」をもって、グローバルなダイバーシティマネジメントを行う時期に来ている。これらの軸を多様化をきっかけに刷新して、新たな統合を生み出すことを期待する。

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●片桐一郎 かたぎりいちろう/コマツ、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経てワトソンワイアット株式会社入社。戦略・組織・人材を一体ととらえた21 世紀型企業モデルの実現に向け、海外を含むクライアント企業に対し幅広いコンサルティングを行っている。M&A や企業再生にも参画。研究所活性化のような創造型組織モデルへの変革を持続的に実施。著書『ひらめく人を咲かせる組織』(日本経済新聞社、2003 年12 月)。東京大学工学部卒。スタンフォード大学工学部大学院修士課程修了。