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【巻頭言】 |
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製造現場における派遣社員・請負社員の活用
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古澤 哲也 |
日本のモノづくりの強さは、品質管理や技術管理などの製造現場の強さであり、それを支えているのは高いレベルで均質の取れている労働力だと言われてきた。正社員として長期間雇用されるという前提で、製造業従事者は各職場で必要とされる能力、つまり「職能」を長い間磨き続けた結果である。
しかし、1990年代に製造業全体に不況が訪れると、企業は固定費を削減するために、採用の抑制やリストラを行い、正社員の数を減らすようになった。そして、その代わりの安い労働力として、請負社員などの外部人材の活用を始めた。
その後景気は回復し、再び製造現場の仕事量は増えてきた。しかし、長い不況で苦しんだ企業は、2003年の労働者派遣法の改正によって、製造現場への労働者派遣(※1)が可能になったことなどの外部要因の変化もあり、すぐに正社員を増やすのではなく、よりコストの低い外部人材を拡充することを選んだ。
その結果、今では非常に多くの外部人材が製造現場で働くようになった。2004年の派遣労働者実態調査によれば、製造業における派遣労働者は31.4万人、請負労働者は86.6万人となっており、合計118万人の外部労働者が製造現場で働いている。これに対して内部製造者(正社員のこと)は778.7万人いるとされており、つまり全製造者のうち、約13%の労働者が外部で占められているのである(※2) 。
請負社員・派遣社員などの外部人材は、もはや日本の製造現場にとって「なくてはならない存在」になっているのだ。
「正社員」ではない「外部人材」が製造現場に加わることによって、モノづくりの競争力基盤が揺らぐという指摘もある。経済産業省の行った調査によれば、生産現場への請負・業務委託、派遣労働者などの外部戦力がモノづくり現場の競争力に与える影響として、52.8%の企業が「人材育成(技能継承)という点で中長期的に懸念」、39.0%の企業が「正社員等ではないので生産管理や品質管理上、懸念」と回答している(※3)。
仕事の一部を外部に任せる場合、当然、外に任せるべきものとそうでないものの切り分けを行う。品質を大きく左右するような重要な工程は基本的には内製するし、外注する場合は管理を余程厳しくする。技術伝承についても然りで、企業のコア技術であれば、基本的には外部に任せない。
このような仕事の切り分け・整理さえしっかりできていれば、いくら外部の労働力を活用したとしても、理論的には問題にならないはずである。しかしながら、非常に多くの企業が品質管理や技術伝承に不安を感じている。これはなぜなのか。
これは、仕事の切り分けでは問題が解決されない、あるいは仕事の切り分けという解決法自体が、日本の製造現場にとって望ましくない、ということを示しているのではないだろうか。
日本のモノづくりの現場は、連続する工程同士がお互いの領域に踏み込んで問題点を指摘したり、関連する他部署を巻き込んで組織横断的な問題解決をすることで創造価値を高めてきた。つまり、特定の担当業務を行うと同時に他の工程にも目を配り、製造工程全体のことを考えることが、現場の社員に求められてきたのである。だからこそ、どの企業でも、複数の工程をこなすことのできる「多能工」が高く評価されてきた。日本の製造現場の「質の高さ」とは、このような製造工程全体を俯瞰することのできる人材の数に支えられていたと言っても良いだろう。
仕事を切り分け、難易度が低く責任が軽いと思われる仕事を外部に任せてしまうと、社内(正社員)からその部分の工程が見えにくくなる。これは日本の製造現場がやってきたことと完全に逆行する。いたずらに、仕事の切り分けを進め、外部人材を増やすことは、コスト削減には役立つかもしれないが、もっと大切な「製造現場の強み」を奪うことになりかねない。
製造現場固有の事情も外部人材の活用という問題を難しくする。
まず一つ目の事情は「即戦力になりにくいこと」である。いくら外部人材に任せる仕事だからといって、初日からできるほど簡単なものは現場にはない。同じような工程であっても、各社(場合によっては各工場や各ライン)で、必ず独自のルールや作法があるので、経験者であっても、それを飲み込むまで多少の時間が必要になる。ほとんどの企業で派遣や請負社員の導入段階でOJTを行うが、一通りの仕事ができるようになるには、やはり数カ月はかかるそうである。
二つ目は、「採用市場が限られていること」である。工場は地方にあることが多く、そこで採用できる人材は人数的にもスキル的にも限られる。理屈でいえば、仕事が簡単になる程、対象となる人材は増えるはずなのだが、地域によっては全く逆の場合もある。大都市に拠点を構える本社で外部人材を採用するのとは事情が異なるのである。
製造現場においては、「外部人材とはいえ、そもそも採用が難しく、仮に採れても使えるようになるまで教育コストがかかる」のである。
一方で、外部人材活用を製造戦略の枠組みで考えてみると、そこには大きく二つの方向性があることがわかる。
一つ目は、「派遣・請負はあくまで労働力の調整弁と位置づけ、仕事の切り分けを徹底して行う」というもの。先に述べたような製造工程全体を俯瞰する役割は、社員に漠然と求めるのではなく、随所で多層的にチェック&バランスが機能するように、業務プロセスと社員の役割を構築し直すのである。
二つ目は、「派遣・請負を人材獲得ルートの一つと位置づけ、この層も含めた範囲での育成や人材活用を目指す」ものである。外部人材を正社員の予備軍と考え、教育にもコストをかけるし、安易な人数調整は行わない。さらに、優秀であれば正社員として登用されるキャリアパスを示す。
どちらを選択するかは、日本という製造拠点を自社の製造戦略の中でどう位置づけるかによる。
多くの企業は日本の国内工場を「高度な技能と生産技術を要する製品の製造拠点」、あるいは、「コア技術の先行開発、熟成を図る開発製造拠点」ととらえているようであるが(※4) 、もしこのような方向を目指すのであれば、そこで働く従業員には、各自の役割に留まらず機動的に活動してもらったほうが良い。「個人の役割を定義しチェック&バランスを繰り返す」やり方はあまり望ましくない。この方法でも実現不可能ではないと思うが、様々な意味での管理コストがかかりすぎる気がする。
また、先に述べたように「仕事の切り分けに限界があること」「製造現場においては、外部人材とはいえ、そもそも採用が難しく、仮に採れても使えるようになるまでコストがかかること」を考慮すると、「派遣・請負を人材獲得のルートの一つと位置づけ、この層も含めた範囲での育成や活用を目指す」方が製造業の企業にとっては得策ではないかと思える。正社員と同じように評価し(その結果を給料に直接反映させることはできないが)、フィードバックを与え、可能性と本人のやる気があれば正社員へ登用し、さらなる希望を与えるのである。
製造現場が外部人材を活用し始めたきっかけは、「コストコントロール」だったかもしれないが、企業の置かれている状況を考えると、この発想からいち早く脱却し、優秀な外部人材を囲い込む、あるいは囲い込むルートを作り上げた企業こそが勝ち残るのではないだろうか。
そもそも筆者は、製造現場でやる気に溢れた派遣社員や請負社員を見たことがない(この点に関しては「お前の勉強不足だ」というご意見があればお詫びいたします)。真面目に仕事はしているが、覇気が感じられない。あの人たちはどんなことを考えながら毎日仕事をしているのだろう、といつも思っていた。外部労働者だから、一つの仕事に習熟しても次のステップに進めるわけではない。基本的に毎日同じことの繰り返しだ。とりあえず稼がないといけないので、仕事だけは真面目にやる。とても、将来の希望を持ちながら生き生きと働いているようには思えなかった。
「希望は努力が報われると感じるときに生じ、努力が報われないと感じれば絶望が生じる」。ランドルフ・ネッセという社会心理学者の言葉だそうである(※5) 。努力して真面目に働いてスキルを磨いてもあまり変わらない、という今の外部人材の置かれている状況はまさに「絶望が生じる」状況である。このような状況にある人たちが持てる力を十分発揮できるだろうか。企業は削減した人件費以上に、外部人材の能力発揮の機会を失い、見えないロスを負っているのではないだろうか。
真面目に働いてスキルを高めれば、正社員として安定が保証され、給料の上がり方も変わるし、マネジメントに就くこともできるかもしれない。そういう可能性を示すこと、言い換えれば外部人材が「希望」の持てる職場を作ることが、外部人材の力を引き出すことにつながる。外部人材の活用スタンスを変えることは、経営環境上得策であるだけではないのだ。そして、そのような企業の姿勢は、直接関係ない正社員に対しても、何か目に見えない良い影響を与えるのではないだろうか。
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(※1)業務請負と労働者派遣の違い:業務請負では指揮命令権限は請負会社にあり、請負会社が発注
会社の中で場所を借りて操業しているような形態になる。一方、労働者派遣では指揮命令権限は
ユーザー企業(派遣先)にある。したがって、派遣労働者に対してはユーザー企業が安全衛生法上
の責任を負うが、請負社員に対しては、ユーザー企業ではなく、請負会社が責任を負うことになる。
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(※2)2006年版ものづくり白書、経済産業省、第2章。
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(※3)2004年ものづくり白書、経済産業省、第1章。調査は2004年2月に日本に所在する製造業を対象と
したアンケート調査。対象企業は主要業種別に無作為抽出。有効回答数:413社。
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(※4)2004年ものづくり白書、経済産業省、第2章。
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(※5)山田昌弘『新平等社会』(2006年、文藝春秋)
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