【巻頭言】
ユニバーサルモデルへの挑戦
多様性マネジメントを超えて

1.
組織の多様性を可視化する
日本企業のためのグローバル経営・序章

2.
グローバル・リーダーシップの育成に向けて
アジアでリーダーを育成するためのポイント

3.
多様性のリスクマネジメントとバリュー
LDIがもたらす運用戦略の多様性
日本企業のグローバル経営へのチャレンジ

4.
多様性のマネジメント
日本という方法

5.
多様性を活かす関係マネジメント力の再生

6.
多様性時代、中間管理職の「三観」考

7.
多様性を形作る異質性、普遍性そしてパワー
それを期待される側の立場に立ち

8.
多様化時代の人材開発
動機を育み、満たす機会をどうつくるか

9.
企業は個人のキャリア形成にどう関わるべきか
多様性の時代のプロフェショナル育成

10.
「女性を活かせるカイシャ」考(その2)
多様性の時代の人材マネジメント

11.
製造現場における派遣社員・請負社員の活用
(外部人材=コスト調整弁)という発想からの脱却

12.
行政における多様性マネジメント
調整と取りまとめの復権を目指して

13.
働き方の多様化と年金制度の主体的な設計
年金制度ののメタ世界への展開

14.
昔話に学ぶ多様性活用

【Watson Wyatt Solutions and Technologies】
グローバル・グレーディング・システム
職務を量るグローバルな手法

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【Watson Wyatt Solutions and Technologies】
グローバル・グレーディング・システム
職務を量るグローバルな手法

 

増倉 洋

 グローバル・グレーディング・システムGGSは、ワトソンワイアットが全世界で提供する、職務レベルの評価手法である。
 本稿は、GGSがどのような組織課題を扱うのか、いくつかの例をご紹介する。ついでGGS自体の概要を説明し、最後に、例示した課題がGGSによってどのように解かれるのかを示すこととする。

GGSでできること

 GGSは「ある組織の様々な仕事の相対性(relativity)を、客観的かつ体系的に決定し、1から25のグローバル・グレードとして表示する」手法である。GGSを利用することによって、例として以下のような課題に、解決の糸口を得ることができる。

肩書きのための部署:乱立する部署と肩書き
状況: 貴社は過去、人事異動とともに組織改変を繰り返してきた。
    結果として部門の数は多くなり、その中には部門長を作るためだ
    けの"課"や、逆に、重要な職責を担っているにもかかわらず独立
    した部署となっていないものも多い。
課題: 乱立する部署や役職を整理し、無駄のない組織を作りたい。
    誰もが、「本来なら課長ではない課長職」や「部長の仕事をしてい
    る課長」の存在に気がついているが、それを明確な基準で量るに
    は、どうしたらよいのだろうか。

グローバルキャリア開発:日本の部長に相当する
                他国子会社の職務は?

状況: 貴社は事業を世界の各地で展開している。成長著しい地域では
    競争も厳しく、本社と現地法人の人材を分けることなく登用し活用
    していくことは、経営上の大きな課題である。その第一段階とし
    て、本社でいえば部長クラス以上を対象に、グローバル人材層を
    育成したい。
課題: 日本以外の国における「部長クラス以上」とは、具体的に何を意
    味するのだろうか。米国子会社では? タイの製造拠点では?"マ
    ネジャー"という肩書きがついている人の一部が該当するのは間
    違いないだろうが、いろいろなサイズの"マネジャー"が存在する
    ように思える。さて……?

横串がない:給与肩書き処遇、部門ごとにバラバラ
状況: 貴社はこれまで、採用、給与、処遇などの人事も含めて、事業部
    のトップに多くの権限を委譲してきた。結果として、事業部ごとに
    給与のバラツキは大きく、また、その事業部に独自の肩書きが使
    われている。これらは、時に責任と権限の誤解を招き、部門間の
    軋轢を生む原因となっている。事業に必要なISO認定の取得や、
    労働基準法へのコンプライアンスより、これらの混乱ははっきりと
    したリスクと認識されている。
課題: 社内できちんと横串の通った職務階層の基準を導入する必要が
    あるのだが、具体的にはどうしたらよいのだろうか。

よくわからない世界:"すごい専門家"の存在
状況: 社内に非常に専門性の高い部署があり、その部署の人と他の部
    署のマネジャーと、どうしてもレベル感が良くわからない。聞く限り
    において、その部署には、とある分野で日本有数の専門家がいる
    らしい。
課題: 日本有数の専門家は、他の事業部門と比較して、どのような位置
    に置くのが妥当なのか。何を基準として、どのように考えればよい
    のか。

 これらの課題はいずれも、組織における職務の「相対的な大きさ(relativity) 」に関するものである。それぞれの課題に、GGSはうまく答えることができる。

1から25のグローバル・グレード

 GGSでは職務の「相対的な大きさ」を、1から25までのいずれかの数値として表す。
 グレードは数字が大きくなるほど「相対的に大きな」仕事となる。例として、売り上げ1000億ドル(約12兆円)、従業員規模は20万人以上、全世界において、複数の、本質的に関連性が薄い事業(重電と金融など)を営んでいる企業のトップのグローバル・グレードは、25となる。
 逆に、グローバル・グレード1は、事実上何の知識も専門性も必要としない仕事である。現在の日本において、企業がグローバル・グレード1の職務のためにフルタイムの従業員をアサインすることは、あまり考えにくい。

ビジネスユニットのスコーピング

 ある組織にGGSを実施しようとした場合、まず、その"組織"自体をはっきりと定義する必要がある。GGSは、仕事の組織内における"貢献の質と範囲"を見る。したがって、その土台となる"組織"がどのように認識されるのかは、非常に重要である。GGSでは、認識された組織をビジネスユニットと呼ぶ。一つの会社全体がビジネスユニットとなるかもしれないし、一つの事業部をビジネスユニットと扱う場合もある。グローバルに事業を行う企業では"アジア太平洋地区""ヨーロッパ中東アフリカ"が一つのビジネスユニットかもしれない。GGSにはビジネスユニットの定義があり、ワトソンワイアットのコンサルタントが顧客のビジネスを理解し、ディスカッションを重ねた上で、ビジネスユニットを決定する。

 一度ビジネスユニットが決定できれば、そのビジネスユニットについて(1)売り上げ、(2)従業員数、(3)地理的な広がり(国内のみ/海外拠点がある/グローバルビジネス)、(4)プロセスと製品/サービスの複雑性、の四つを、それぞれ定められた方法で評価、合算する。結果、そのビジネスユニットのトップ(CEO、社長、事業部長、など)のグローバル・グレードが決定する。
 例えば、上記各要素を評価した結果、そのビジネスユニットのトップがグローバル・グレード18であれば、その組織は「グローバル・グレード18のビジネスユニット」と呼ばれ、組織内のすべての職務は、グレード18より下に分布することになる。
 ビジネスユニットのグローバル・グレードは、その組織の内部管理の複雑性を示すものと考えられている。

意思決定バンド

 評価対象としての組織──ビジネスユニット──が決まり、そのトップのグレードが定まれば、後は個別の職務を評価していくことができる。
 この最初のステップとして、"意思決定バンド"(Petterson, 1972) の考えに基づき、まずその職務が組織の中でどのレベルにあるのか、大まかな位置決めを行う。
 Pettersonの意思決定バンドとは「仕事における意思決定の自由度に注目すると、組織は、そのサイズの大小にかかわらず、六つのバンドから構成される」というものである。

Band E: 意思決定は、該当領域の法制度によってのみ拘束される。
Band D: 意思決定は、ポリシーや目的によって束縛される。
Band C: 意思決定は、プログラム(プロジェクトなど、目的を実現するた
      めの施策)によって束縛される。
Band B: 選択行動は求められるが、その内容はBand Dレベルの意思
      決定に束縛される。
Band A: 自動的な(考えて判断することのない)意思決定。
Band 0: 自己裁量のほとんどないレベル。

 GGSでは、図1のような"意思決定ツリー"を用いて、まずその仕事の属する"バンド"を決める。下記の質問に答えていくことによって、その仕事がバンド1からバンド5までのどこに位置づけられるのか──それぞれのバンドは、上記Pettersonの意思決定バンドに大まかに対応している──を決める。

図1/意志決定ツリー


 意思決定ツリーにおける最初の設問「人をマネージする仕事か?」は、「その仕事が、他者を通して組織に貢献する(=人をマネージする)のか、あるいは、自分自身の作業を通して貢献するのか」を問うている。
 意思決定ツリーの左半分は、自分自身ではなく、他者の仕事を通して組織に貢献するタイプの仕事についての質問である。逆に右半分は「自らが作業の主体となる」ことによって組織に貢献する職務向けの質問となっている。
 上の意思決定ツリーから得られるその職務のBandとグローバル・グレードの対応は、図2のような形となっている。

図2/バンドとグローバル・グレード


 例えば、意思決定ツリーにおいて、「人をマネージする仕事か?」→(YES)→「部下に管理職やプロフェッショナルがいるか?」→(NO)ならBand 3となり、図2より「この職務はBand 3であり、グローバル・グレードでいえば、8から12のいずれか」とわかる。

七つの要素によりグローバル・グレードが決まる

 前項の意思決定バンドを用いて、ある仕事が、グローバル・グレードとしてどのレベルにあるのかがわかった。前述の例で言えば、Band 3なら、グローバル・グレード8から12までのいずれかであり、依然としてグレードで五つの開きがある。ここでマニュアルとソフトウェアを参照しながら、以下の七つの要素について、Band 3で決められている選択肢(ぞれぞれ三つずつ程度)から、該当するものを選択することになる。

 業務遂行上の知識
 経営としての視点
 リーダーシップ
 問題解決
 成果の出し方
 成果の範囲
 コミュニケーションスキル

 要素ごとに三つ程度(バンドによって異なる)表示される選択肢は、すべて中立的な言葉で書かれており、評価者は、ワトソンワイアットのコンサルタントとともにこれを読み、該当するものを選択する。この際、ワトソンワイアットのコンサルタントは「なぜその選択をするのか」という理由を確認し、GGSの基準に照らして正しい選択であることを確認していく。
 上記の七つの要素について、すべて選択をし終わると、その職務のグローバル・グレードが、専用のソフトウェアで画面に表示される。

GGSの特徴

 駆け足でGGSを説明してきたが、ここで改めてGGSの特徴について述べる。

評価者に理解しやすいシステム
 弊社の実績では、"職務評価"という言葉をこれまで聞いたことすらないラインマネジャー(人事部門ではない、実際に様々な業務を行っているマネジャー)に30分の説明を行うと、その後に配下の仕事をGGSで評価することができるようになる。
 これは、GGSの最大の特徴である。
 職務等級の導入プロジェクトでは、この特徴を強みとして、ラインマネジャーに直下の部下の職務を評価してもらうことが多い。ラインマネジャーこそ最も信頼できる情報ソースであり、また「(実際にその職務に就いている人のレベルは別として)その職務が本来どのようなレベルであるべきか」を設定する役割は、第一にラインマネジャーに求めるのが妥当、との考えに基づいているからである。
 言うまでもなく、ラインマネジャーによるグレーディングは、そのレベルの妥当性をプロジェクトチームでチェックし、場合によっては調整が必要なこともある。それでも、ラインマネジャーから見れば、自分が部下の職務について一つ一つ考え、コンサルタントのチェックを受けながら、積み上げて出した結果としてのグローバル・グレードである。職務のグレーディング作業を通して、職務等級の仕組みを実感し、自らがそれらを決める一部として関与できることは、後の制度導入と展開の際には非常にプラスに作用する。

等級のレベル感に近い区分けが最初から得られる
 あくまでも目安であるが、4年制の大学を出て、4月にすぐに就ける仕事のグレードは7前後となることが多い。日本の企業でGGSを行うと、多くの場合、グローバル・グレード7から、ビジネスユニットのトップのグレードまで、10から15程度のグレード分布が得られることになる。
 グレーディング作業で得られた結果を、例えばグローバル・グレード二つ(例:10と11)を一つの等級としてまとめてみると、非常に理解しやすい、はっきりとした職務等級を作ることができる。
 GGSは職務サイズの緻密なポイント化は目指さない。その代わり、組織階層の中で目に見える区分けで、職務のレベルをグループ化することができる。

コンサルタントへの依存性は限定的
 上で説明した特徴の結果として、導入が終わった暁には、弊社コンサルタントへの依存性は弱くなる傾向になる。GGSに基づいて設計された職務等級は直截なので、導入時に、「このレベルならこのくらい」というレベル感が確立できれば、新しい職務がどのレベルになるのか、おのずとわかるようになる。結果として弊社コンサルタントがいちいちGGSで職務レベルを評価しなくても運用が可能となる。また、導入した企業が弊社コンサルタントの支援なしに独自にグレーディングを行う仕組みも用意されている。

世界共通の基準
 ビジネスユニットのスコーピングと意思決定ツリーの仕組みによって、得られるグローバル・グレードの意味合いは、世界中どこでも同じである。ある企業のグレード12は、世界中の他の会社のグレード12と同じサイズを持っている。
 これを可能とするために、ワトソンワイアットのGGSコミュニティは国を超えた協力体制を敷いている。弊社東京オフィスもアジア太平洋地区、欧州や米国の社内GGSコミュニティと緊密な連絡の下、共通の基準でコンサルタントのトレーニングやコミュニケーションを行っている。

GGSは冒頭の課題をどう解くのか

 最後に、冒頭の課題がGGSによってどのように解決できるのか、紹介してみよう。

肩書きのための部署:乱立する部署と肩書き
 すべての部門長の仕事をGGSによりグレーディングしてみる。例として図3のような結果を得たとする。

 図3のような結果が出た場合、GGSを実施するコンサルタントは、評価者との間で必ず以下のようなやり取りを行う。
 「営業支援課の課長のグレードが13、営業サポート課の課長が12、営業管理課の課長が12、仕事は同じとお聞きしましたが、どうしてグレードが違うんでしょうか?」
 「営業サポートと営業管理は、昨年昇格した課長のために作った課なので。それまでの課と比べると、少し出来ることも狭いので、低くなっています」
 このやり取りから、次のような問題点がわかる。育成の観点から一つの課を持たせてみることは良い考えだが、場を設けるために部署の職責が分散、希薄化してしまった。これでは育成の意図は果たせないし、逆にモチベーション、組織の効率性の面で問題が多い。
 解決方法は様々だろうが、GGSは入り口の部分で問題をはっきりと描き出すことができる。

図3


グローバルキャリア開発:日本の部長に相当する
                他国子会社の職務は?

 GGSは、この課題に直裁な答えを出すことができる。欧米の子会社では、すでに何らかの等級制度が導入されていることだろう。それらの等級制度の中でいくつかのサンプルポイントを選び、これらの仕事をGGSで評価してみればよい。また、これと同じことを本社でも行う(図4)。

図4/グローバル・キャリア開発


 これらの結果として、世界各国の職務等級制度とGGSの、相互変換テーブルを作ることができる。GGSを「共通言語」として、異なる国/制度間の比較が可能となる。
 仮に「本社における部長クラス」がグローバル・グレード14に相当するなら、他の子会社においても、同等の職務を対象とすればよい。

横串がない:給与肩書き処遇、部門ごとにバラバラ
 力業となるが、このような場合、すべての職務をグレーディングしてみるのがよい。最初のグレーディングの結果は、かなり混乱したものかもしれない。しかしながら、その中でも、何らかの横串をもった秩序を作り上げられる程度には、法則性を見つけ出すことができる可能性が多い。認識できるすべての職務のグレーディングをやってしまえば、結果は恐れていたほど複雑ではなく、いくつかの特異点をつぶしていくことによって、当たり前な結果に落とせることもある。

よくわからない世界:"すごい専門家"の存在
 この職務に、GGSをやってみることをお勧めする。意思決定ツリーの右側、一番下で「その分野のエキスパートか?」をYesとし、Band 4Tとしてレーディングを行う。Band 4TはBand 4と同じように、グローバル・グレード12から15、もしくは16に分布する。この中で七つの要素に答えることによって、この"すごい専門家"が、組織の中でどのような「職務の重さ」を持っているのか、知ることができる。

 どのように優れたツールも、単独では「狼人間を倒す銀の弾丸」とはなりえず、適用する状況とその成果の読み解き方については、慎重さが求められる。その点においてGGSも例外ではない。GGSがその強みを最大限に発揮するのは「組織の中で、多くのマネジャーに関与してもらいながら、職務の秩序を組み立てていく」という領域である。
 GGSは評価者には非常に理解しやすいツールだが、その適用と結果がもたらす世界は、限られたページ数で説明を尽くすことができない。今回はその概要をご説明するに留め、今後も折に触れ、GGSについてのご紹介を続けていきたいと思う。

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●増倉洋 ますくらひろし/マイクロソフト株式会社にて日米で同時進行する製品開発のプログラムマネジャーとして勤務。担当製品の一つは、日本経済新聞社最優秀製品賞を受賞した。その後ワトソンワイアット株式会社に入社し、各種人事制度の設計、導入、サーベイ等に従事。1990年代中盤、ワトソンワイアット株式会社を離れ、シリコンバレーのスタートアップ企業にてドットコム・バブル前夜を過ごす。他社に先駆けてドットコム・バブル崩壊を経験した後、独立コンサルタントとして、製品開発を中心とした各種プロジェクトに従事。2004年よりワトソンワイアット株式会社に復帰。現在はIT部門、データサービス部門を担当している。ワトソンワイアット東京オフィスのGGS Championであり、アジア太平洋地区、欧州、北米のGGSコミュニティとの連携の下、日本におけるGGSの実践と適用を行っている。京都大学理学部卒。