ミドルマネジメントの開発
グローバルに通用するミドル人材資本の整備
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片桐 一郎
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現場から適切な情報が上がってこないため、必要な手を打てずに業績を悪化させ責任をとらされた事業部長。
マネジャーから突然大幅な売り上げ予想の減少を報告されて、業績下方修正を余儀なくされた経営者。
最近各社で続いた品質問題もそうであるが、トップと現場をつなぐ機能に問題が出ている事例を耳にするようになった。この根っこにはミドルマネジャーの弱体化という問題があるようだ。
前々から日本企業のホワイトカラーの生産性は低いと言われてきたが、ミドルクラスが特に深刻と感じる。グローバルな成長を考えなくてはならない現在、ミドルの弱体化は大きな問題である。本稿では、どのようにミドルとして世界で活躍できるマネジャーを開発するかについて述べてみたい。
成果主義とミドルの弱体化
ここ10年間、成果主義人事制度を導入する企業が増えた。その際成果主義を間違って運営すると、ミドルの荒廃が起こるようだ。例えば目標管理を厳密に適用すると、自分の成果につながらない他者の支援をしない、つまり部下を支援する余裕のないミドルになってしまう。
ミドル自身もプレイイングマネジャーであり、物理的に部下を見る時間が減っているのも問題である。
これを補うため、ミドルの評価項目に部下指導とか人材育成とか入れても、実態は掛け声だけの有名無実になってしまう。こういう状態が90年代の成果主義導入ブームの裏側で同時進行したため、ミドルが徐々に疲弊、弱体化したのである。
日本企業は他国の企業に比べて伝統的にOJT(On The Job Training)主体で、OFFJT (Off The Job Training)の比率が低かった。ミドルが弱体化し、このOJTがうまく機能しなくなって、次のミドルも育たない構造に陥ったのである。
OFFJTの課題
OJTが機能しにくくなっただけでなく、OFFJTも問題を抱えている。もともとOFFJTは専門分野での知識や知見を深めるためには有効であるが、マネジメント(経営者)を育成するようにできていないからだ。
マネジメントには、多様な状況の中から解を見出してリードするという総合能力の発揮が求められるので、普通のOFFJTではこの「多様性」を実感することは難しい。
MBAのようにケーススタディを通じて、経営の多様性をヴァーチャルに体験しようというOFFJTは、経営の定跡を学ぶという点で効果はあるが、他人の過去の経験から学ぶことには限界がある。他者のケーススタディでは自分が当事者にはなりきれない、したがって主体的に考え体験することで到達できる「一皮むけた」成長には結びつかない。
また専門性中心のOFFJTといっても、いまや知識はインターネットなどからいろいろ入手できるので、OFFJTであっても、知識の伝達より、知識をどう使うかに力点をおかないと、研修の価値は少ないだろう。実際OFFJTの受講者もそれを望んでいて、弊社のOFFJT研修も知識を使う演習中心である。
OJTもOFFJTも今までのやり方では限界がある。かといって目先の仕事に没頭していても現場の核となる人材は育たない。OJTを過去のように悠長にやっている余裕がない中で、OFFJTにも見直しが必要である。
グローバルなミドルマネジメント開発の課題
さらにミドルの開発は「日本人」だけで済む時代ではない。世界各地のホワイトカラーをしっかりしたミドルマネジメントに開発することが、世界の市場に進出している日本企業には求められる。
しかし実態は、グローバルミドルマネジャーの開発のインフラさえない企業がほとんどである。
日本企業のグローバルマネジメント構造は、「人」については海外進出した事業部の自律性を尊重し、また各地の人事諸制度については各地に合わせたものを導入しているため、進出した国の数だけ多様な人事制度が存在するのがほとんどである。今後グローバルで連結した人材マネジメントが必要になるのに、ほとんど手がつけられていない。
内部統制の面からも、グローバルな人材マネジメントがどうなっているかを把握して、統一すべきもの、各国固有のものとして残すものを明らかにして、多様性の統合を進めなくてはならない。
こうしてグローバル人材マネジメントの土台を作りつつ、全世界のミドルマネジャーの開発に着手すべきである。
マネジメント開発の要素
こういった課題認識に基づき、これからミドルマネジメントの開発を見直すとして、どんなことを考えるべきだろうか。
見直しの要素としては、どんな対象に、どんな内容を、どんな伝え手が、どんな場で伝えるか、という四つをリデザインすべきであろう。
この要素を念頭において、ミドルマネジメント開発の体系を再検討してみる(図)。これは人事部や上位経営者がミドル開発の新しい仕組みを検討する三つの分野でまとめてある。したがって個人主体の自己啓発やe-Learningは除外してある。以下にミドル開発プログラムを説明する。
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図/Watson Wyatt のグローバルマネジメント開発のサービス(2007年4月時点)
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@ OJTの支援
OJTを再活性化するには、実際のマネジメントプロセスに活を入れるべきである。そのためにミドルのビジネスプランを支援するのが有効である。目標管理が矮小化されないよう、グローバルな視野と戦略的な見方をコーチするのが望ましい。このビジネスプラン作成支援は実際の全社戦略を反映したものとなる。
ビジネスプランは仕事面での支援だが、ヒトのマネジメントの支援も必要である。その際には行動事実をもとにした人材観察(アセスメント)が、ミドルの人間管理力の強化に有効と考える。
アセスメントは基本的にはコンピテンシーモデルと、それを表現する語彙をもとに人の判断の確度を高め、共通認識を形成することがポイントとなる。アセスメントをする過程でマネジャーの「目利き」度合いが向上することが期待できる。
最後のエグゼクティブコーチングとは、個人アドバイザーをつけることである。開発の費用対効果を考えると、役員直前の人材や役員が対象となる。対象人材が目指す姿をコーチと共有し、現在とのギャップを把握し、そのギャップを埋めるアクションプランをコーチと立案する。そしてこのアクションプランの進捗を見ながら、着実に目指す姿に近づけていくのである。
A OFFJTの支援
OFFJTはミドル育成の観点から、マネジャーの基礎を実践的に身につける総合コースと、ヒト系と仕事系の専門研修に分かれる。専門研修は先端知識の吸収のもの以外は、各社のミドル開発のニーズに従ってデザインするのがよいだろう。
総合コースは短期にマネジメントの基礎を鍛錬するコースと、長期に研修を受けるコースに分かれる。短期は2日から3日の集中コースでマネジメントの基礎を学ぶものである。
もともとOFFJTでは知識とその活用を実践的に学ぶべきなので、短期集中コースは2〜3日で集中して行うべきである。この短期コースは、海外に赴任する日本人若手スタッフへの幹部教育としても有効であった。かつては課長研修として1週間くらいのOFFJTを行うこともあったようだが、2〜3日で十分である。
長期コースは、業務の合間に効率的にマネジャーの基礎を身につけることを主眼とし、講義だけでなく演習やアクションラーニングと組み合わせて、実践的な効果を狙うべきである。
専門コースはヒトと仕事のマネジメントを深く掘り下げるもので、内容、講師とも社内にこだわらず、その分野で最も知見の深いものを選ぶべきである。
専門コースは各社のニーズに合わせたものにカスタムメードすべきで、例えば技術ソフトの開発・販売を行っている会社では、ミドルのチームマネジメント力の弱体化が目立ったので、人間理解とチームマネジメントに焦点を当てた研修を実施した。受講者は技術系の人間で、管理職直前・なりたての人ほど価値があったというフィードバックが得られた。
また、信頼と協力再構築研修という耳慣れない研修も、成果主義によって個人主義が蔓延し、皆が疲弊した組織を再生するために、ソフト面に焦点を絞ってカスタマイズしたものである。
OFFJTのうち、総合型の短期コースや専門型は英語で行うことで、ミドルマネジメントがグローバル対応を学ぶことができる。
B アクションラーニングの支援
日々の仕事とは異なる視点で、会社の問題について解決策を考えるのがアクションラーニングである。OJTとOFFJTの中間にあるアプローチで、うまく運用すれば育成効率が高い。チームを組んで問題解決にあたり、それを経営トップに提言し、Goであれば実行する。
グローバルなマネジメントの開発では、各国のメンバーが協力して問題解決にあたれるような協力関係を作るのが理想である。
GEでは世界各国の若手スタッフが内部監査チームを形成し、世界の拠点を精査する仕事を行っているが、こういう仕事に若手を一時的にアサインすることは、効果的なアクションラーニングになるであろう。
またグローバルな経営課題を各国から選抜された若手がチームになって検討できれば、優れた教育機会になるだけでなく、その報告を聞く経営者にとっては問題発見の新たなチャネルになるだろう。
アクションラーニングでは、きれいごとでない重要なテーマをチームに与え、検討結果が妥当であれば実行に移す覚悟が会社には必要である。
アクションラーニングの支援は支援者もチームの一員になって一緒に問題解決を行うものと、チームに対するコーチとして様々な助言をするものと二通りの支援がある。いずれにしろコーチは、チームが評論家や落としどころが決まっている諮問委員会のような運営にならないように、刺激づけ、方向づけることが重要である。
以上の三つの分野はそれぞれメリット・デメリットがあるので、これらを組み合わせてデザインするとよいだろう。このデザインは日本人ミドル再開発に適用してから、グローバルに拡張していくことも可能である(ただし、すでに世界展開している企業では世界同時開発が望ましい)。
開発対象がグローバルになった場合は、セグメントごとに人材の成長とその人材の担当する事業がグローバルで連動する状況を、グローバル人事がモニターするのが理想である。
また、グローバルマネジメントの開発対象者に選ばれた人材については、その後の人事権をグローバル人事部に移すことが重要である。早期選抜、社内大学と言いながら、研修期間が終わるともとの職場の秩序に組み込まれてしまうとなると、せっかくの投資が活かされず埋没してしまう。
理念の共感から始める
以上、ミドルマネジメントの開発を日本だけにとどまらず、グローバルな観点から行うものとして、OJT、OFFJT、Action Learningについて述べてきた。
これらの内容は重要ではあるが、知識や知恵の活用などを学ぶだけでは本当のグローバルマネジメント開発にはならない。最後に強調したいのは、企業理念の浸透が必要だということである。これには経営トップが時間を割いて説明しなくてはならない。
印象的な話がある。ある企業の社長がアジアを訪問した。彼は創業者の子息で大きく事業を成長させ、次に世界展開を考えアジア各国を歴訪したのである。
そのとき中国で彼の通訳を務めた中国人が、何度も彼の経営理念を聞き、人に伝えることにより、自分も大きな感銘を受けたのである。それまで彼は中国の大学で日本語を教える先生であったが、その職を捨ててその会社に入社した。現在中国拠点経営の幹部になりたいと思って、難しい経営課題を担当し、日本人のOJTを受けながら成長している。面白いことにこの経営者がモンゴルに行くと、今度はモンゴル人の通訳が入社を希望したそうである。
この例が示すことは、しっかりした経営理念は多様な人を惹きつけるという点である。確かにスキルを身につけて転職してしまう人はいるが、理念に共鳴している人材は自分が成長することだけでなく、その会社に居続けて、理念を実現する同志(アソシエイト)になるだろう。
したがって、グローバルなミドル開発の核として企業理念の共有化は特に重要である。この理念が核にあれば、ミドルへの様々な開発手法が効果をあげて、世界で発展する人材資本が充実するであろう。
●片桐一郎 かたぎりいちろう/コマツ、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経てワトソンワイアット株式会社入社。戦略・組織・人材を一体ととらえた21世紀型企業モデルの実現に向け、海外を含むクライアント企業に対し幅広いコンサルティングを行っている。M&Aや企業再生にも参画。研究所活性化のような創造型組織モデルへの変革を持続的に実施。著書『ひらめく人を咲かせる組織』(日本経済新聞社、2003年12月)。東京大学工学部卒。スタンフォード大学工学部大学院修士課程修了。
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