果たして本当にその研修でよいのか?
能力発揮のボトルネックを探せ
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坂本 健
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営業強化、マネジメント強化など、研修のお問い合わせが増えている。特に、営業であれば提案力の強化とか、マネジメントであれば戦略立案や問題解決など、いかに論理的・分析的に考え、発信するかという、アウトプット力の強化を志向したオーダーが多い。
しかし、である。相談を受けた筆者としては、素直にその内容で研修を設計し、実施する気になれないことが多い。話を聞けば聞くほど、「果たして本当にその研修でよいのか」と首を傾げてしまうのである。能力開発上のボトルネックに着目すると、そこに手をつけても効果が出ないことがわかるからだ。
ボトルネックとは何か
ボトルネックとは、生産性を向上させるための現状分析の切り口の一つだ。生産現場に携わる方はともかくとして、営業など事務系の方は、あまり日常的に使う言葉ではないかもしれない。
例えば、A、B、Cという三つのプロセスからなる作業があるとする。1時間当たりの処理能力が、それぞれAが80、Bが40、Cが90であった場合、A⇒B⇒Cの全体工程が生み出すアウトプットはいくらになるか。この問題を解くための視点が「ボトルネックを探す」という考え方だ。
結論から言えば、答えは40である。これを間違えて、80とか90とか、または70(A〜Cの平均値)と考えてしまうと、大変なことになる。例えばこれが工場の話だとすると、全体処理量を80だと勘違いした工場長は、80の原料を仕入れて工場に投入する。そうすると何が起きるか。Aは問題なく80を消化するが、Bは40しか消化できない。そうするとBのところで1時間ごとに40の処理待ち(=仕掛かり在庫)が発生する。2時間たつと80、3時間たつと120と、処理待ちが増えることはあっても、減ることはない。Bの工程の人はどんどん疲弊していく。逆にBからは40しか流れてこないので、Cは90の処理能力を半分も使うことができず、のんびり仕事をすることになる。Bから流れてくる量が40なのだから、Cのアウトプットが40を超えることは絶対にない。つまり、この工場の生産能力はどんなにたくさん原料を投入しても、時間当たり40を超えることはないのである。
ボトルネックとは「ひょうたんの首」だ。真ん中のくびれた部分。全体の処理量が上がらない原因。上記の例で言えば、全体の処理量を40から引き上げたければ、Bの改善に手をつけてBの処理量を上げなければならない。また、Bの処理量が上がらないのが労働力によるものであれば、AやCから人をBに移して、A⇒B⇒Cのそれぞれのプロセスの人員数を平準化することで、全体処理量を上げることができる。
この考え方、実は工場だけでなく、営業やマネジメントなど、人材マネジメント上の課題を整理する上でも重要な視点なのだ。
例えば営業力が上がらない場合
冒頭紹介したように、営業に関わる研修の依頼で圧倒的に多いのは、提案力を高めたいという課題意識だ。「うちの社員は御用聞き営業ばかりで提案力がない。だから最近、他社に後れをとっている」といった背景が語られる。そして、その提案力を高めるためには論理的・分析的な問題解決力が不可欠であると考えている。なぜなら、「これからの営業には顧客の問題を解決するソリューション力が必要だから」だ。
これは本当だろうか。例えば、営業担当者が顧客に対してソリューションを提供し、売り上げを計上するまでの一連のプロセスを、能力発揮という視点から考えてみよう。
まず『関係創造』というプロセスがある。とりあえず会って、話ができる状況を作るというプロセスだ。続いて、『情報入手』というプロセス。入手すべき情報は二つあって、顧客に関わる情報と、自社の製品やサービスに関わる情報(いわゆる商品知識)である。
その後、『企画立案』がある。思考力や提案力が求められると言われるプロセスだ。顧客から得た情報からニーズや課題を抽出し、それを解決するような商品やサービスを社内外の商品群の中から組み合わせていく。
それが出来上がるとプレゼンがあり、契約条件の交渉があり、納品があって、決済し、メンテナンスサービスに入る。
このように全体プロセスをイメージした上で、さて、どこがこの企業のボトルネックになっているのか、と考える。もし、『関係創造』も『情報収集』も十分にできているのに、論理的・分析的な思考力がないから提案ができず、後のプロセスに続かないということだったら、ボトルネックは『企画提案』のプロセスで間違いない。
それであれば、企画提案の力を高めるために研修をしたい、という狙いは全く違和感のないものだと言えよう。
だが、実際、営業分析をしていくと、ボトルネックは別のところにあることが多い。中でも多いのは、以下の二つである。
@ それより前のプロセスにボトルネックがある場合。つまり、顧客に会えていないし、顧客の話を 聞けていない。また、自分が担当するごく一部の商品やサービスしか把握していない。顧客の 話を聞かず、自分の担当商品を売りつけることしか考えていない。 つまり、そもそも提案営業をしようという気がない。もっと言えば、御用聞き営業すらできていな い。
A それより後のプロセスにボトルネックがある場合。つまり、契約や納品ができない。情報も取れ ているし、顧客にどのようなソリューションを提供すればよいかもわかっている。だが、そのため に必要な他部署の協力や上司の承認を得られなかったり、商品の在庫が切れていたり、生産 力が確保できていなかったりする。または、そもそも顧客の問題を解決できる商品が自社にな いという場合もある。
また、上述の『情報収集』や『契約・納品』のプロセスがしっかりできていれば、実は『企画提案』の部分で論理的・分析的思考力が求められることが意外と少ない。顧客の情報が入手でき、自社の商品を知悉していると、「じゃあ、あの部署のあのサービスを提案すれば、顧客が喜ぶな」ということがすんなり出てきて、論理的思考というよりは、直接的な紐付けができれば、顧客が満足できる企画内容となる。また、その商品やサービスを提供するための、社内の協力体制が十分に整っていれば、営業が頭を使って社内を納得させるための論理を構築したり、分析資料を山ほど作ったりする必要もない。
つまり、企画提案力や論理的・分析的思考力は主要なボトルネックではないケースが多いのだ。冒頭のA、B、Cの例にたとえるならば、手をつけるべきBに手をつけず、有り余る処理能力を有しているAやCのプロセスを増強しようとしていることに他ならないのである。それでは効果は期待できない。
人材に関わる共通のボトルネック
部下の育成、評価などの組織マネジメントの問題、部署間の連携や情報共有など組織間マネジメントの問題など、様々なテーマについて研修やコンサルティングのご相談をいただくが、その都度、上記の営業の例のごとく、能力発揮のプロセスを思い描き、何がボトルネックになっているのかを考えている。すると、どのようなテーマにも共通するボトルネックが、けっこう上流のプロセスに存在していることが見えてくる。
人の話を聞かない
営業の場合、上述の通り、顧客の話を聞かない、または、聞いてはいるが、顧客がどんな問題意識を持ち出してこようが、それに真正面から応えてあげようという気はさらさらなく、なんとかこじつけてでも、自分の担当する商品を提案しようとする。たいていの場合、提案内容がまずいのは、思考力がないからではなく、顧客の問題を解決するよりも自分の利益を第一に考えて、無理やりこじつけた提案書になっているからである。当然、論理的に無理がある。繰り返すが、これは論理的思考力の不足に起因するものではない。
また、本当に顧客の利益を考えたときに、自分の部署で扱っている商品だけで提案するよりも、他部署の商品と組み合わせて、または他部署の商品だけで提案したほうが理にかなっていることも多い。下手をすると、他社の商品と組み合わせないと、自社の商品だけでは顧客の問題を解決できない場合もある。その場合、今度は上司や関係部署が障害になる。顧客との打ち合わせよりも社内調整に使っている時間のほうが多いという企業が散見されるが、たいていの場合、本人ではなく社内体制のほうがボトルネックだ。そういう社内の上司や関係部署を説得するのに論理的思考力が必要だと言う方もいるが、その場合は、営業研修というよりは社内政治研修ということになろう。
部下の育成や評価の場合も同様。評価の考え方や、「寛大化傾向」「中心化傾向」などという話を必要とする以前に、そもそも評価の根拠となる部下に関わる情報をほとんど持っていないほうが多い。情報がないのに適切な評価ができるわけがない。また、部下がミスをすると、部下の話を聞かず、自らの経験だけで「きっとこいつはこんなことを考えて、こんなミスをしたに違いない」と独り合点して、育成のためと称した自己満足のためだけのフィードバックを行う上司も多い。実際、研修のロールプレイで部下に行動を促すための働きかけを実践してもらうとよくわかる。とにかく人の話を聞かない。聞こうとしない。事前の準備で一生懸命「仮説」を立てて、それを一方的に押しつける。これでは部下が受け入れるわけがない。
顧客のニーズや問題は、顧客自身が一番よく知っている。部下の失敗も、それを一番気にしているのはその部下本人である。しかし、基本的に人間は、他者から自分の悪いところを指摘されて気分が良くなるようにはできていない。どちらかと言えば、他者から指摘されることで、自分の問題やミスを否定したり、正当化したり、相手のせいにしたりと、悪いほうに変化する。
問題を抱えた人々は、自分たちの悩みや問題を自分の口で説明し、誰かに聞いてもらうことで、問題の重要性を再認識したり、相手に対する信頼感を高めたりする傾向のほうが強い。だからこそ、ファーストアプローチはとにかく「人の話を聞くこと」が重要なのである。これができていないのであれば、とにかくまず手をつけるべきは「人の話を聞く」トレーニングだ。
相手の利益を考えない
その「人の話を聞く」のが苦手な人たちがいる。主語が「私は」の人々。コーチングや聞く技術といったことをテーマにした書籍が売れているが、根本的に目的を間違えているので、そういうのを読んでもモノにならない。
相手をなんとか自分が好ましいと考える結論に誘導しようとする。相手を思いのままに動かすことを目的として「聞く技術」を身につけたいと思っている。そういう人が、コーチング的なものを身につけるのは非常に難しい。
話を聞くのは、相手についての情報が欲しいから話を聞くのである。相手が何を考え、どうしたいのか、何をしているのか、相手に関わる情報が欲しいのだ。相手に関心を持ち、相手と仕事をしたいから、話を聞く。そうすると、相手が何を望んでいるのかがわかる。これが重要。営業であれ、マネジメントであれ、相手の望みを聞けば、何をしてあげればよいのかがわかる。相手に付加価値を提供するために話を聞くのだ。
逆に、相手に何かしてほしい、つまり、相手に自分が求めている行動を起こしてほしいときには、どうすれば相手がそれをしたくなるかを考えることが重要だ。これはコーチングや聞く技術の出番ではない。こちらから提案すべきことである。基本的には、それをやると相手にとってどういうメリットがあるのかを考え、それを相手に伝えていく。そのためにも、「相手が何に関心を持ち、何が行動パワーの源泉にあるのか」を理解している必要がある。それを知りたいと思う、他者への興味・関心が不可欠だ。
提案営業は顧客のために提案するのである。部下の育成やマネジメントは、部下の成功を支援する活動である。自分の利益を第一に考えて、そのために顧客や部下を利用しようとする限り、どんな研修をしても営業力もマネジメント力も身につかない。
この辺がボトルネックになっている場合には、「人の話を聞く」のとセットで、「相手が何を望んでいるか」「それをかなえてあげるためには、何を提供すればよいか」を考えるトレーニングを行う。同時に、相手に何かをしてほしいという場面で、「どうすれば相手がそれをしたくなるか」を考えるトレーニングを施す。
ボトルネックは成長し、移動する
営業を中心に事例を加えながら、人材開発におけるボトルネックの視点を説明してきた。ボトルネックに着目して人材開発上の施策を立案・実施すると、例えば「人の話を聞き、相手の利益を考えて提案できるようになった」というように手ごたえを感じるだけでなく、「より高度な提案をお客さんから求められるようになったので、やはり提案力を高める研修をお願いしたい」というように、次の施策が出てくる。
ボトルネックは、「全工程中の最低部分」なので、一つの最低部分を改善すると、別の部分が「最低」になる。冒頭の例で言えば、Bの処理能力が90まで引き上げられると、A=80、B=90、C=90となり、ボトルネックはAに移る。次は、Aを90に引き上げることが課題となる。
このように、ボトルネックを解決すると、その成果がダイレクトに全体の成果に影響を与えるが、同時に、もう一歩上を目指すための次なるボトルネックを生み出す。ボトルネックに着目した課題解決アプローチはその難易度を高め、移動しながら、常に次の課題を提示し続ける。
人事の課題は人に関わるだけに、成果を実感させることが改革に弾みをつける上で欠かせない。特に研修は、受けたことで明日からの仕事の仕方が変わり、成果が変わるという実感が「次も受講したい」という前向きなドライブにつながっていく。ボトルネックに着目するということは、常に実施したことの成果を体感しつつ、次の取り組みに弾みをつけていくという行動をパターン化することができるので、人材マネジメントとの相性が良い。
研修を企画するにあたっては、ぜひこの視点で自社の課題を分析してみてほしい。
●坂本健 さかもとけん/総合商社、外資系コンサルティングファームを経てワトソンワイアット株式会社入社。オペレーションフローの設計・導入や中間管理職層を対象とした意識改革・マネジメントスキル向上支援等、オペレーション、現場マネジメントに関わるコンサルティング経験が豊富。入社後は「個の開発」を志向した組織・人材マネジメントシステムの設計・導入支援を行う。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。
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