不確実性を成長に変える意思決定
組織の意思決定スタイル変革(その1)
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河原 索
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不確実性を管理するのが企業運営
そもそも、不確実性を管理する能力がない企業には、市場相手の商売はできない。企業は市場に依存しなければ存続しえないが、その市場は一定のトレンドを持った短期のランダムウォークによって変化し続ける。ゆえに、トレンドなりランダムウォークなりの市場の不確実な変化をとらえて、商売に仕立てる能力の有る無しが企業の盛衰を左右する。
この原則自体は、ほぼすべての企業が理解している。それは「お客様第一主義」「顧客の問題解決」「革新・創造」「迅速対応」等の企業が掲げる言葉によって証明される。その掛け声とは裏腹に、一部の独占企業を除くと市場の不確実性に確信的に対応できている企業は存在しない。そもそも不確実というのは、不明な部分を含んでいるから不確実なのであり、それは至当なことといえる。
しかし、不確実性を仕方ないことと諦観するのは、企業の命運を市場にゆだねるに他ならず、責任放棄の謗(そし)りを免れない。経営者や事業の責任者は、最低限の受動的な注意義務にとどまらず、不確実性を能動的に管理することも期待される。
この不確実性への能動的な対処能力の強化こそが、日本企業の次なる成長に向けた重要な課題であり、これを解決する足がかりとなるのが「組織の意思決定スタイル」ではないかという問題意識に基づき、以下論を進めていく。
確実性と不確実性に対する日本企業の対応
ここ数年の日本企業の回復の原動力は「確実性への対処」が中心であり、「不確実性への対処」の占める割合は決して多くなかったというのが筆者の見立てである。確実なものは有限であるため、確実性への対処を続けると効果が逓減せざるをえないが、不確実性は無尽蔵であり、その効果には限界がない。ゆえに、不確実性への対処能力を向上させていかない限り、日本企業が次の成長の踊り場を超えていくのは難しいのではないかと危惧している。
確実性への対処とは、なかば予定調和の世界、すなわち、結果が予測できる範囲での漸進的な取り組みである。例えば資産効率が低い不動産の売却による財務体質の改善であり、業務改善による非効率の排除であり、製品バージョンアップによる持続的イノベーションである。これらの実行は業績に結びつく確度は高いものの、いずれ伸び代、残り代が少なくなるにつれ、資源投入に見合わない成果しか収められなくなる。
一方、不確実性への対処には、トレンドの変化をとらえることと、ランダムウォークの変化をとらえることの2パターンある。トレンドをとらえるとは、未来を予測しそれに賭けるけること、あるいは、未来自体を作り変えることである。例えば、勝手知らない有望顧客を手に入れるための業態転換であり、業界の商慣例を壊すようなサービスの開発である。一方、ランダムウォークをとらえるとは、機敏な対応による市場の歪みからの鞘取りである。いずれも見えないものを見て、勝負に出ることであり、全くの無駄骨に終わる可能性もあるが、金脈にたどり着けば努力の数十倍の収穫が手に入るかもしれない。
企業の成長には不確実性への対処と確実性への対処の両方が必要であり、これらに優劣はつけがたい。ただし憂慮すべきは、日本企業からの、今こそ必要となっている不確実性への対処が少ないことである。果敢にも、不確実性を摂り込んで成長しているのは買収ファンドや不動産ファンドばかりで、事業会社の多くは防戦に回っているようにも見える(シャープ、東芝、旭硝子、任天堂等、もちろん日本でも不確実性への対処で傑出している企業はある)。
不確実性への対処で明暗を分けた代表的な企業の対比事例としては、ミタル・スチールと新日鉄、アップルとソニー、ノキアとNEC、Googleと電通、シティグループとみずほフィナンシャルグループ等が挙げられる。これらの日本企業は、既得権を失うマイナスの確実性ばかりに目がいってしまい、プラスになる可能性があった不確実性には目が届かなかった。言い換えると、内輪の論理、既存の価値観や、根拠なき楽観的筋書きが優先され、目の前にあった自らの機会さえも他人事としか見ることができなかった。
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図1/確実性への対処と不確実性への対処
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環境変化と合意形成型意思決定の盛衰
ドラッカーは1971年の論文で、日本企業から学ぶべき点として合意形成(コンセンサス)を重視した意思決定を挙げ、決定までには時間がかかるが実行は速いことを高く評価した。当時の状況下では、確かにこれが日本企業の特徴立った強みであった。しかし、これを不朽の金科玉条として今でも崇め、かたくなに守り続けていてはいけない。むしろこれが、日本企業の一段の発展への障害になる危険性に、今こそ気づくタイミングではないだろうか。
なぜならドラッカー当時と、今および将来を比較する際に、注意を要する相違点があるからだ。一つ目が商品やサービスの変化スピードの加速、二つ目が顧客の要求水準の高まり、三つ目が市場のグローバル化の進展である。これら三点を中心に市場の前提が大きく変化したことで、過去に通用したやり方でも、今および将来においては通用しなくなってきている。
もう少し詳しく説明する。ドラッカー当時の日本企業は、賛否が分かれ合意形成が難しい「不確実」については、その場での意思決定は先送りされ、期が熟すまでとりあえずのお蔵入りにされた (※)。時間がたち、市場の変化や競合の成功によって、今こそ「確実」という状況ができると、「お蔵」から引き出され再度検討の俎上に上げられた。しかし、時間の経過とともに、以前とは状況が変わり、今度は「確実」なニーズを基にしているため合意は容易に形成された。
自ら合意した案件には各部門も積極的に協力した。一気呵成に開発を進めるとともに、商品化時点で生じていた遅れは組織展開力と熱意があればすぐに挽回し、さらには先行企業を追い抜くことさえできた。過去において、松下が「マネシタ」とよく揶揄されていたのは、まさにこの典型例である。その頃から、確実性への対処において、日本企業は卓越した組織能力を発揮していた。
ところが、この時間をかける合意形成が、弱みに化けてしまっているのが今の多くの日本企業ではないだろうか。不確実であり、よくわからないと判断を少しばかりでも先送りしている間に、気がつくと周回遅れの差がついてしまう。変化のスピードが速くなったため、差が開くのも早くなったからだ。そして、その差を挽回しようとしても、一朝一夕にはその差を埋められなくなった。求められる専門性のレベルが高くなったからだ。また、グローバル市場を相手とした商売では、自慢の組織的展開もスピードも落ちてしまった。グローバル対応に伴う経営資源の分散化、兵站線の伸長が起きたからだ。程度の差こそあれ、これが合意形成に時間をかけるタイプの日本企業が今直面している、不確実な環境に追いつけない実態ではないだろうか。
合意形成すること自体が問題なのではない。形ばかりの合意形成に固執することで、副作用として意思決定の質・量・スピードが低下し、変化した今の環境に合わなくなるのが問題なのである。具体的には、合意形成にこだわり必要以上の時間をかけてしまうこと、難しい意思決定に正面から立ち向かわず安直に先送りしてしまうこと、あるいは、合意形成が目的化し、当たり障りのない案しか出てこなくなってしまうこと等が挙げられよう。
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図2/市場の前提条件の変化
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外部の環境、競争のルールが変化したのにもかかわらず、企業が変化と同等以上のスピードで進化していけなければ、時間の経過は単なる老化としてしか作用しない。IT業界に「レガシーシステム」という言葉がある。時代遅れのシステムを持ち続けるために、機動的に新しいことができなかったり、追加の負担が必要となったりすることを指す。時間をかける合意形成型の意思決定も、レガシーシステム化していないか、企業の老化を早めるような作用をしていないか、今こそじっくり吟味してみる必要がある。
正しい意思決定を呼び込む構え・スタイル
では、正しい意思決定のあり方だが、「正しい意思決定とは」について考えるのは不毛になりがちである。なぜなら正しさを突き詰めると、最終的には結果論でしか語れないからだ。「勝てば官軍、負ければ賊軍」とは言いえて妙で、最終的な勝者は、勝利と正しさを同時に手に入れることができる。
例えば、バブル時代に不動産で痛手を負わなかった企業(有名なところでは、静岡銀行や大林組等)の意思決定は、結果論として勝利と正しさを手に入れた。しかし、意思決定をした時点においての正解はなく、また、当時から評価された意思決定でもなかった(当時からそれが評価されていれば、そもそもバブルは発生しなかった)。また、これらの企業は意図して中長期のトレンドを読んでいたのか、あるいは手を出せなかったのか、出し損なったのか、説明は事後的にもできるため、本当のところさえ今となってはわからない。
一方で、意思決定の良し悪しを単なる結果論で片づけてはいけない。それは環境、競合の出来・不出来や運等に責任を押しつけて、責任回避する逃げ道を確保することになるからである。本文の冒頭にあるとおり、不確実性を管理する努力を怠っては、企業は存続しえなく、できる限りのことはしなければならない。
最終的な正しさは結果論であろうとも、その結果を手繰り寄せるため、組織として何らかの意思決定の構え・スタイルを備えていたと考えるのが自然である。だからこそ、然るべき状況に置かれたときに然るべき結果が出るように、組織の意思決定のスタイルを備えておくことが極めて重要となる。
例えば野球では、ホームラン狙いかヒット狙いかによって、バットのグリップを握る位置、スイングの構えの大きさ、バッターボックスに立つ位置等を変える。さらに言えば、日頃の練習の時点から、自分に期待されている結果に備えて素振りから変えておかなければならない。企業においても、意図した結果を呼び込める確率を僅かでも高めてゆくには、意思決定の構え・スタイルの段階から備えておくことと、それを時代ごとの環境や企業戦略に合わせて常に更新しておくことが不可欠である。
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図3/構えと成果
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組織の意思決定スタイル変革の必要性
本稿では、不確実性の摂取が成長の糧となること、日本企業の強みであった意思決定スタイルが弱みに変化しつつあること、そして、組織の意思決定のスタイル・構えが潜在的な結果域を決定づけること、の3点を指摘した。
経営はギャンブルではない。闇雲に不確実性に賭けるのは愚作であり、意図を持った不確実性の管理が必要である。企業成長の原動力に不確実性を変換していくためには、周到に組織の意思決定スタイルを最適化していくことが望まれており、それを成しえた企業のみが市場で勝ち続けられる。次なる成長の踊り場を超えていきたい企業にとって、組織の意思決定のスタイルを見直し、修正をかけていくことこそが次の勝負どころとなってくるのではないだろうか。
(外部環境と、それに適した意思決定のスタイルのあり方について、次号以降で引き続き議論を発展させていく予定です。乞うご期待)
(※)もちろん「確実」な案件に対しては、すぐにでも合意形成した。
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●河原索 かわはらさく/私見ですが、組織マネジメントにおける五大テーマは、リーダーシップ、モチベーション、人材育成、チームワーク、意思決定であると思っています。それぞれが暗黒大陸であり、いつまでたっても魅力的なテーマです。中でも意思決定に注目し、今年の自分テーマとして「組織の意思決定スタイル」を糸口としたコンサルティング開発をしたいと考えています。完成にはもう少し時間がかかりますが、ご興味がございましたらぜひともご連絡ください。 ICU 卒、慶大院卒、政府系機関勤務を経てワトソンワイアット株式会社入社。
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